【背景・課題、目的・目標】
本市は多くの地方都市と同様、人口減少、少子化、超高齢化、施設老朽化等による財政悪化、グローバル経済下での円高デフレ等による需要縮小、原材料高騰など地域産業にとって厳しい経営環境が続き、多くの課題が顕在化・現実化してきている。2008年には、原油・金属等の資材高騰、円高デフレなどで近隣市の大手電機工場が3社撤退し、約1500人の雇用機会が失われていた。このため「このまま何もしなければ衰退の一途である」という危機感を行政も企業も市民もそれぞれが抱えていた。このような状況の中、本市を支える焼酎・さつま揚げ産業等が集積している西薩中核工業団地の小企業経営者達が 平成 22 年度から官民共働で「日本一環境負荷の少ない薩州自然エネルギー工業団地構想」に取組むことなった。
具体的には人口3万人の小規模地方自治体と地場産業が生き残っていくため、再生可能エネルギー等を活用し、ヒト・モネ・カネなどの地域資源を繋ぎ合せ、“食”と“エネルギー”の融合による持続可能な地方都市へと質的転換を目指す。そのため次世代エネルギーを基軸に、地場食品産業振興・交流人口拡大・特定規模電力事業・災害包括連携協定などに官民が連携し、地域の課題を解決しながら持続可能な地域への転換を図る「環境維新のまちづくり」を行い、再生可能エネルギーには地域のポテンシャルを引き出す力があることを実証し、地方都市版「スマートコミュニティ」のモデル都市を築く。
【取組内容】
①「薩州自然エネルギー工業団地構想」FS調査等を実施
NEDO補助金を活用し、平成22,23年度で事業採算性や工業団地全体のスマートグリッド化に向けた調査を行い、事業の見通しをつけた。
②合同会社薩摩自然エネルギーを設立
地場中小企業・市・学校法人など14団体の共同出資と市民ファンドにより、「合同会社さつま自然エネルギー」を平成24年4月に設立。
③FITを利用してメガソーラー事業を開始、市民ファンドを募集
補助金に頼らず出資企業の屋根に太陽光パネル3,000kWを設置するまちづくりメガソーラー事業を実施。住民からは市民ファンドを募り、配当として現金と地元特産品を選択制にし、地域外の参加者がいちき串木野ファンとなる仕組みを設けた。
④住宅用太陽光パネル活用、バイオマス熱供給事業など環境施策を展開
柱となる事業主体ができたことで、工業団地への太陽光パネルの設置に留まらず、住宅用太陽光パネル共同購入制度、バイオマスによる面的な熱供給の検討、次世代エネルギーパーク認定による交流人口拡大、PPS事業者への登録等環境を課題解決のカギとする施策を次々展開している。
【成功要因】
①関係者の危機意識の共有による将来に向けた合意形成
経営者や行政等関係者が危機意識を共有、「次世代を担う子供達のために故郷を残す」との強い思いで、「まちの将来のために今自分たちができることをする」と合意、活動を起こす。
②FIT制度の収入による経営収支の安定確保
14団体の屋根に設置した太陽光パネルは概ね12年で投資回収したのち、各社が売電収入で経営安定に繋げる、という長期的視点も含めた事業。
③民間のスピード感と行動力での事業実施と「産学金官」の連携
行政の関与による信用供与、まちづくりに対する住民の協力、FIT制度の事業採算性を踏まえた金融機関の支援など、「産学金官」が連携し事業化。
④合同会社薩摩自然エネルギーの設立による事業責任の明確化
FIT事業の事業性を踏まえ合同会社薩摩自然エネルギーを設立、代表会社を決定、責任を明確化し事業を実施。新たな事業も実施体制も整う。
【成果】
①『食とエネルギーのまちづくり』に官民連携で取組むことによる持続可能な地域の形成
行政:企業と連携して『食とエネルギーのまちづくり』に取組むことで、次世代エネルギーパークの認定や交流人口の増加による地域活性化への可能性を高めることができた。
企業:再生可能エネルギーを活用した生産体制への転換により、エネルギーコスト削減や環境付加価値の向上によるPR効果が生まれ、『食とエネルギーのまちづくり』に取組むことで、持続可能な地場産業の道筋が見えてきた。
住民:新聞、テレビ等で繰り返し「環境維新のまちづくり」が取り上げられ、自分たちの街が次世代に向けた前向きな取組みを始めたことで関心と期待を持つようになった。
②市内企業の工場増設や撤退の解消等雇用の維持・増大
市内食品企業2社の増設立地が決定、約50人の雇用機会の確保が図られた。また、撤退の話が合あった企業もそのままとどまることを決定した。
③他地域での環境維新の事業推進
新聞・テレビ等で取り上げられたことから全国から視察・問合せがある。この事業はどこでも実施可能な事業であり、ノウハウはいくらでも提供することを伝えている。また、合同会社さつま自然エネルギーの代表社員 ㈱パスポートが主体となり、宮城県登米市等において合同会社設立など横展開を図っている。
温暖な気候と海に面した土地柄から、古くから農林水産業が盛んで、全国的にも有名な“さつま揚げ”発祥の地でもあるいちき串木野市は、またマグロ遠洋漁業や6 社8 蔵の焼酎造り、豊富な柑橘類などの食品産業を中心とした『食のまち』として発展してきた。
いちき串木野市は多くの地方都市と同様、人口減少、少子超高齢化、施設老朽化等による財政悪化、グローバル経済下での円高デフレ等による需要縮小、原材料高騰など地域産業にとって厳しい経営環境が続き、地元企業の弱体化等から地域全体に活力が失われ、将来にわたり安心して暮らせるための多くの課題が顕在化・現実化してきていた。2008年には、原油・金属等の資材高騰、円高デフレなどで近隣市の大手電機工場が3社撤退し、約1500人の雇用機会が失われていた。このため「このまま何もしなければ衰退の一途である」という危機感を行政も企業も市民もそれぞれが抱えていた。
こうした状況のなか、市を支える焼酎・さつま揚げ産業等が集積している西薩中核工業団地の小企業経営者達が、エネルギーフェスタな どの各種イベントを通じて協力しあう中で、「企業個々が経営努力するだけではなく、力を合せて先進的な環境対策や再生可能エネルギーなど負荷の少い次世代に向けた経営に転換することが、それぞれが抱える課題を解決し、雇用創出や企業競争力の強化や地域再生につながるのではないか」との意識から平成 22 年度から官民共働で「日本一環境負荷の少ない薩州自然エネルギー工業団地構想」に取組むことなった。
人口3万人の小規模地方自治体と地場産業が生き残っていくため、再生可能エネルギー等を活用し、ヒト・モネ・カネなどの地域資源を繋ぎ合せ、“食”と“エネルギー”の融合による持続可能な地方都市へと質的転換を目指す。再生可能エネルギーには地域のポテンシャルを引き出す力があることを実証し、他地域への横展開可能な地方都市版「スマートコミュニティ」のモデル都市を築く。そのため次世代エネルギーを基軸に、地場食品産業振興・交流人口拡大・特定規模電力事業・災害包括連携協定などに官民が連携し、地域の課題を解決しながら持続可能な地域への転換を図る「環境維新のまちづくり」を行っていくこととした。
2008年の北京オリンピック時に、原油・金属等の資材高騰、円高デフレなどで近隣市の大手電機工場が3社撤退し、約1500人の雇用機会が失われ、地域経済の危機感が高まった。本市経済を支える焼酎・さつま揚げ等の食品加工業においても少子高齢化等で消費のパイが縮小するなか、厳しいコスト削減が要求されている現状があった。
これを踏まえ、単に燃料費補助などの一時的な対処では根本的な解決にならないため、工業団地全体を質的に転換し、長い歴史を持つ特産品産業が持続的に経営を続けられるように、「事業コスト削減」+「製品の環境付加価値向上」=「市内産業の基礎体力向上」⇒「地域雇用の維持」を図ることが行政の役割と考え、各社が協働で取り組む本プロジェクトを提案した。
規制は特にない
-
平成22年度 新エネ・省エネビジョン策定事業(NEDO)
「西薩団地をフィールドとして行う薩州自然エネルギー工業団地構想FS調査」
平成23年度 スマートコミュニティ構想普及支援事業(NEDO)
「いちき串木野市西薩中核工業団地中心とするスマートコミュニティ構想事業FS調査」
平成24年度 新エネルギー等共通基盤整備促進事業(資源エネルギー庁)
「次世代エネルギーによる体験型・交流型ニューツーリズム創出促進事業FS調査」
平成25年度 企業支援型雇用創造事業(鹿児島県)
「次世代エネルギーを活用したニューツーリズム促進事業」
-
プロジェクトの策定委員に工業団地企業6社が参加。最終的に市を始め14団体が出資して合同会社さつま自然エネルギーを設立した。
㈱三菱総合研究所の構想を基に、㈱パスポートが中心となって積極的に事業化を働きかけ、鹿児島信用金庫は公共事業並みの融資を、九州電力は平成24年7月1日のFIT制度開始日までに送電開始ができるように迅速な社内手続きを進めた。また、資源エネルギー庁・国土交通省・九州経済産業局などと良い協力関係を築くことで円滑に事業を推進することができた。
さらに事業採算性の要となる太陽光パネルにおいても、京セラ株式会社から好条件で入札に参加して頂いた。このような協力支援を得て、事業は円滑に実施された。
策定委員会の座長を鹿児島大学TLOに継続して依頼し、産学連携を図った。
①「薩州自然エネルギー工業団地構想」FS調査等を実施
平成22年度にNEDO補助金を活用し「薩州自然エネルギー工業団地構想FS調査」で事業採算性を把握、平成23年度には「スマートコミュニティ構築事業FS調査」で工業団地全体のスマートグリッド化に向けた調査を行い、事業の見通しをつけた。
②合同会社薩摩自然エネルギーを設立
「100%再生可能エネルギーを活用する薩州自然エネルギー工業団地」構想に取組み、地場中小企業・市・学校法人など14団体の共同出資と市民ファンドにより、環境維新のまちづくりを実行する母体として「合同会社さつま自然エネルギー」を平成24年4月に設立。
③FITを利用してメガソーラー事業を開始、市民ファンドを募集
補助金に頼らず出資企業の屋根に太陽光パネル3,000kWを設置するまちづくりメガソーラー事業を実施。平成24年7月1日のFIT制度開始日に一部売電を開始。住民からは市民ファンドを募るとともに、配当として現金と地元特産品を選択制にし、環境にやさしい取組を行う地場産業の製品が全国に広がることで環境に関心がある地域外の参加者がいちき串木野ファンとなる仕組みを設けた。
④住宅用太陽光パネル共同購入事業、バイオマス熱供給事業などの環境施策のさらなる展開
柱となる事業主体(合同会社さつま自然エネルギー)ができたことで、工業団地への太陽光パネルの設置に留まらず、住宅用太陽光パネル共同購入制度、重油使用量削減を意図したバイオマスによる面的な熱供給の検討、次世代エネルギーパーク認定による交流人口の拡大、環境維新のまちづくり包括連携協定、PPS事業者への登録、災害時連携型の市民オーナー発電所設置(50kW×10か所)、売電収入の一部をニューツーリズム基金として還元するなど、環境を課題解決のカギとする施策を次々検討・展開している。
平成22~23年度 新エネ・省エネビジョン、スマートコミュニティ構想等FS調査の実施
平成24年4月 市および工業団地企業等14団体が出資「合同会社さつま自然エネルギー」設立
工場の屋根等に2,700kWの太陽光パネルを設置。7月FIT制度を活用した売電を一部開始。
平成25年度 市とさつま自然エネルギー「環境維新のまちづくり包括連携協定」を締結。市民オーナー発電所説明会を実施
環境省「風力発電等環境アセスメント基礎情報整備モデル事業」に採択され、洋上風力発電に向けたアセスメント情報の調査を実施。
新エネ財団が主催する平成25年度新エネ大賞において、最高賞の「経済産業大臣賞」を受賞。
平成26年度 分散型エネルギープロジェクト・マスタープラン策定事業(総務省)
「環境維新のまちづくり~100%再生可能エネルギーの活用による日本一環境負荷の少ない工業団地へのステップアップ」をテーマに事業実施に向けプランを策定中。
平成24年度:工業団地等の屋根に約3000kwの太陽光パネルを設置。事業費約10億円
(FIT制度を活用。補助金なし)
-
①地元中小企業、市、市民ファンド、学校法人の出資により『環境維新のまちづくり』の事業主体として合同会社薩摩自然エネルギーを設立。
②代表社員の㈱パスポートが事務局としてメンテナンスを行い、市と連携してFIT制度を活用した課題解決の手法を検討。新たな事業にも取組む。
①関係者の危機意識の共有による将来に向けた合意形成
西薩中核工業団地の小企業経営者達が、エネルギーフェスタな どの各種イベントを通じて協力しあう中で、関係者が今だけでなく、「次世代を担う子供達のために故郷を残したい」という思いを共有し、「まちの将来のために今自分たちができることをする」との強い思いで活動を開始、力を合せて先進的な環境対策や再生可能エネルギーなど負荷の少い次世代に向けた経営に転換することが必要との共通認識を得た。
②FS調査での徹底した採算性の検討と事業への参画
3年間実施した各種FS調査において鹿児島大学および鹿児島大学TLO(産学官連携推進センター)や地元企業・観光関係者・住民代表等を委員に加え、地域の特性にマッチした事業の検討および事業採算性の徹底した検討を行い、事業化した。また、事業実施に当たり、太陽光パネルの一括購入によるコスト削減に努めたほか、パネル設置者(屋根を貸す人)はkWあたり2万円を出資する等多くの人が参加する事業の仕組みを整えた。
③FIT制度の収入による経営収支の安定確保
14団体の屋根に設置した太陽光パネルは概ね12年で投資回収したのち、各社に設備を譲渡、各社が売電収入を得ることで経営安定に繋げる、という長期的視点も含めた事業を実施している。
④民間のスピード感と行動力での事業実施と「産学金官」の連携
行政が関与することでの信用供与、社会的ニーズに即したまちづくりに対する住民の期待と協力、FIT制度の事業採算性を踏まえた金融機関の支援など「産学金官」が連携、それぞれの持つ強みをうまく出し合い、事業化を進めた。
⑤合同会社薩摩自然エネルギーの設立による事業実施体制の確立
FIT事業の事業性を踏まえ、市および中小事業者等14団体が出資して合同会社薩摩自然エネルギーを設立、代表会社を決定、責任を明確化し事業を実施している。また、事業会社ができたことで、市内全域への展開など新たな事業が実施できる体制が整った。
①『食とエネルギーのまちづくり』に官民連携で取組むことによる持続可能な地域の形成
行政:企業と連携して『食とエネルギーのまちづくり』に取組むことで、次世代エネルギーパークの認定や交流人口の増加による地域活性化への可能性を高めることができた。
企業:再生可能エネルギーを活用した生産体制への転換により、エネルギーコスト削減や環境付加価値の向上によるPR効果が生まれ、『食とエネルギーのまちづくり』に取組むことで、持続可能な地場産業の道筋が見えてきた。
住民:新聞、テレビ等で繰り返し「環境維新のまちづくり」が取り上げられ、自分たちの街が次世代に向けた前向きな取組みを始めたことで関心と期待を持つようになった。
②市内企業の工場増設や撤退の解消等雇用の維持・増大
市内食品企業2社の増設立地が決定、約50人の雇用機会の確保が図られた。また、撤退の話が合あった企業もそのままとどまることを決定した。
③他地域での環境維新の事業推進
新聞・テレビ等で取り上げられたことから全国から視察・問合せがある。この事業はどこでも実施可能な事業であり、ノウハウはいくらでも提供することを伝えている。また、合同会社さつま自然エネルギーの代表社員 ㈱パスポートが主体となり、宮城県登米市等において合同会社設立など横展開を図っている。
取組は企業・行政等関係者に持続可能な地域づくりへの自信を産み付けている一方で、イベント時に実施したアンケートによれば、再生可能エネルギーに期待することとして、環境負荷の低減、燃料費削減、災害時の緊急電源への活用などに市民あは高い関心を示しているものの工業団地を中心としたプロジェクトでは、幅広い市民の理解や参加にまでは至っていない。
今後はさらに新たなステージを見据えた次世代エネルギーを活用した地域・産業活性化へ取組む
①次のステージとして「まとめてPPS事業」、「まとめてESCO事業」、「まとめてFEMS事業」などを検討しながら、洋上風力発電および専焼バイオマス発電事業の誘致によるコージュネレーション(熱電併給)で、『100%再生可能エネルギーによる日本一環境負荷の少ない工業団地』の実現を目指し、市民への参画を促しながら環境を基軸として様々な取組を実施していく。
②住宅への太陽光パネル設置など市民参加を促す事業に取り組みたい。これら事業により地場産業の経営安定、雇用機会の創出、地域住民への災害対応型インフラの提供等により、安心して末永く暮らせる持続可能な地域を創出していく。
①平成26年度の総務省分散型エネルギーインフラプロジェクト・マスタープラン策定事業を活用し、次世代エネルギー活用の具体的な事業を検討する。
②分散エネルギーのボリュームを増やすことで、災害に強く、地域活性化につながる事業を創出することが主旨であるが、単にエネルギー施設を導入するだけにとどまらず、雇用創出により少子高齢化や人口減少などの課題解決につながる地方総合戦略のパーツを構成していく。
③そのために、「地域PPS事業+スマートメーターによる高齢者見守りサービス」のように、地域資源を活用して得た資金で地域の課題解決を行うコミュニティビジネスを創出する。同様に「木質バイオマス熱供給+森林活用による雇用確保」、「EVバイク普及でのガソリンスタンド閉鎖対策+災害時活用」など分散型エネルギーによる課題解決を事業化していく。
④最終的には、米国オレゴン州ポートランドのように環境配慮型のソフト産業での雇用確保や住民共助による生活インフラ形成等で魅力ある地域を形成し、転入超過で消滅しない地方都市につなげていきたい。
-
-