【背景・課題、目的・目標】
呉市の国民健康保険の1人あたり医療費は増加傾向にあり、かつ平成21年度の1人あたり年間医療費は39万6千円と、全国平均(28万9千円)の約1.4倍の水準となっていた。
このような状況に鑑み、国民健康保険の健全運営(医療費削減)と市民(被保険者)の健康寿命の延伸を目標に、レセプトの電子データ化を行う「健康管理増進システム」を市長の強いリーダーシップにより導入した。レセプトをデータベース化することにより、ジェネリック医薬品との照合を可能とする「ジェネリック医薬品促進通知サービス」で差額通知を被保険者に送付、ジェネリック医薬品への切替を求めることで、医療費の削減・適正化を進めたほか、レセプトデータを最大限活用し、市民の健康増進に繋げている。
【具体的な取組】
レセプトのデータベース作成を出発点とするレセプトデータベースを活用した「健康管理増進システム」は、当初の①差額通知書によるジェネリック医薬品の使用促進、②レセプト点検の効率化、からデータベース化により多くの取組が可能となった③保健事業推進による健康寿命の延伸 から成っている。特に保険事業の推進では、一人当たり医療費の多寡を傷病ごとに分析する、レセプトデータを活用してハイリスク患者を特定するなどし、これらの患者のQOL改善に取組んでいる。
①差額通知書によるジェネリック医薬品使用の促進
平成20年7月より実施した差額通知は、ジェネリック医薬品を使用した場合に先発医薬品との差額が大きい上位3,000名を対象として実施。
通知についても市医師会等と調整を行いながら表記方法を検討・工夫している。
差額通知事業は問合せ先等も含め民間事業者へ委託し運営している。質問や要望などは委託先でデータベース化、呉市にフィードバックしている。
②レセプト点検の充実・効率化
レセプト点検についてはレセプトのチェックポイントをシステム化して問題のあるレセプトを抽出するなど人による審査以前の段階でコンピュータ審査を取り入れ、点検を効率的に実施している。この結果、再審査請求額は年々高まっている。
③保健事業の推進による健康寿命の延伸
ア.重複・頻回受診者及び重複服薬の保健指導の実施
イ.併用禁忌・回避医薬品の情報提供
ウ.生活習慣病放置者フォロー事業
エ.糖尿病性腎症等重症化予防事業
オ.CKD(慢性腎臓病)重症化予防事業
カ.地域総合チーム医療の推進-多職種の連携による疾病管理・保健事業の実施、情報収集・共有により健康寿命延伸を図る
【成功要因】
①呉市医師会等との事前の十分な協議・連携による信頼の醸成
国民健康保険の安定的運営が医師会・患者の利益につながる。このことで医師会は患者のQOL向上に繋がるものに協力するスタンスをとる。呉市は医師会等への事前説明などを丁寧に実施している。ジェネリック医薬品の使用促進については、医師の処方箋の侵害にならないよう事前に話し合いを行ったほか、会員への説明会開催などを実施するなど医師会・市の相互理解・信頼関係を構築してきた。糖尿病性腎症等重症化予防事業では、事前に医師会会員へのアンケートを行い理解を求めるとともに、協力医療機関を募集する形で実行している。
②被保険者への十分な説明、指導(抽出した対象者への書面通知や保健婦による訪問指導等)
重複・頻回受診者への保健師による訪問指導、ハイリスク患者を特定しての直接指導などそれぞれの態様に応じて、医師と連携しての訪問指導などにより被保険者の納得性の高い形で事業を進めてきている。
③広島大学医歯薬保健学研究院との連携による研究・事業の実施
広島大学医歯薬保健学研究院では生活習慣病等の自己管理プログラムを作成、研究フィールドを呉市が提供、呉市国保(保険者)はそのノウハウを活用し、事業に取組むことで質を高めることができた
④レセプトの安価でのデータベース化及びこれを用いた医療費分析による効果的な保健事業への取組
【成果】
①ジェネリック医薬品の使用通知に伴う効果
平成25年度には通知した被保険者の8割がジェネリックに切り替えている。この切替えによる費用削減効果額は1億4730万円となる。
②重複・頻回受診者、重複服薬訪問指導
同一疾患で3以上の医療機関に3か月以上かかっている被保険者が対象。平成23年度は10名を訪問指導、うち8名が削減、約1,700千円の削減効果。同一医療機関に月15日以上の受診者を対象とする頻回受診者訪問事業では155名を訪問指導、うち94名に削減効果、約2300万円の削減効果。
③併用禁忌・回避医薬品情報提供事業
医療機関への情報提供件数 禁忌1件、回避34件(平成24年度)
④生活習慣病放置者フォロー事業
生活習慣病の治療を3か月以上放置している被保険者に対し受診勧奨を行う生活習慣病放置者フォロー事業では279名に文書通知、79名を訪問指導した。医療費は短期的には増えるが、長期的視点でみれば被保険者のQOLの向上に繋がることが期待できる。
⑤糖尿病性腎症等重症化予防事業-50名を超える者を指導。人工透析への移行者はほとんどなく、重症化を防ぎ、対象者のQOLを維持かつ医療費の高額化を防いでいる。
【今後の課題・方向等】
①重症化予防事業への参加者の一層の増加
②脳卒中再発予防等保健指導による予防事業の更なる実施-再発性の高い疾病等を対象に指導事業を実施していくことが必要
重症化しやすい患者の特性などが明確になれば、効率的な指導事業が可能となる。知見を持つ地域総合チーム医療推進部会や広島大学との連携を深め、研究やフィールドサーベイを連携して進め、効率的な指導が可能となるようにしていく。
呉市は高齢化率の上昇を背景に、国民健康保険の1人あたり医療費は増加傾向にあり、後期高齢者医療開始後の平成21年度でも1人あたり年間医療費は39万6千円と、全国平均(28万9千円)の約1.4倍の水準となっていた。病院・診療所が多いこともあり以前より医療費支出は全国を大きく上回る水準にあり、このままでは市の財政が破綻するとの危機感があった。医療費支出の見直しは呉市にとって必然のことであったが、中でも支出の7割を超える保険給付費の削減は不可欠であった。このため適正な水準への支出とする一手段として、全国に先駆けてジェネリック医薬品の普及促進に乗り出した。
被保険者の健康保持・増進、被保険者・保険者の負担軽減、そして医療費の適正化を図るため、市長のリーダーシップによりレセプトの電子データ化を行う「健康管理増進システム」が導入された。これはレセプトをデータベース化することで、ジェネリック医薬品との照合を可能とし、ジェネリック医薬品を用いた場合削減できる金額を示した「ジェネリック医薬品促進通知サービス」により差額通知を被保険者に送付、ジェネリック医薬品への切替を求めるものであった。、レセプトの電子化によりジェネリック医薬品の使用促進による医療費削減のベースができたが、レセプトの利用により市民の健康向上に向けた取組を実施することが必要と認識していた。
呉市では、平成20年7月に、第1回ジェネリック医薬品促進通知(差額通知)を実施し、その後、月1回ペースで差額通知を発出していた(平成23年より2か月に1回通知)。開始直後は市民からの問合せなどもあったが、トラブルや苦情などは発生せず、現在は差額通知も浸透し、有効に機能している。
レセプトの電子化により複数の医療機関で同じ症状の受診を行う「重複受診者」や頻繁に外来受診を行う「頻回受診者」の抽出・保健指導の実施など様々な取組が可能となっている。
生活習慣病についても重症化した疾病の基礎疾患の状況を把握、かかりつけの医療機関と連携することにより適切な指導を行うことが可能となり、医療の適正化に繋がっている。このように、国民健康保険の健全運営(医療費削減を図る)とともに、真の目的である市民の健康寿命の延伸などを目指して取組んでいる。
平成18年、ジェネリック医薬品への切り替えを行うため、19年度にレセプトのデータベース化を実施することを目標に設定、レセプト利用に関して医師会・薬剤師会と事前協議を開始した。平成19年度には呉市保健対策協議会に、ジェネリック医薬品検討小委員会を設置、市販後調査を医師・薬剤師・看護師を対象に実施し、調査結果を報告した。20年度医師会・歯科医師会・薬剤師会にジェネリック医薬品への切替の説明会を2度に渡り開催。その後、市民や医師など関係者を集めてのシンポジウムの開催などにより市民の理解を得るように努め、第1回ジェネリック医薬品促進通知を発送した。
特になし
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事業が患者のQOLの向上に繋がるものであれば協力するとの医師会のスタンスのもと、レセプト利用に関して医師会・薬剤師会と事前協議を行うなど、呉市は医師会や医師との信頼関係が損なわれないよう十分に配慮して取組を実施している。このような事前相談や情報共有が医師会と呉市の信頼関係構築に繋がり、歯科医師会、看護師会、薬剤師会など4師会との協力関係にも繋がっている。
株式会社データホライゾン:レセプトの電子化及び集計、ジェネリック医薬品促使用進通知書の作成等(レセプトデータベース作成及びレセプトデータに基づくジェネリック医薬品促進通知サービス、医療費分解解析等の委託業者)
株式会社DPPヘルスパートナーズ:糖尿病等による慢性疾患の再発と重症化の予防を担当。専門的な教育訓練を受けた看護職や管理栄養士がかかりつけ医と連携をとりながら指導を実施。
広島大学との連携による共同研究:広島大学医歯薬保健学研究院森山教授による「慢性疾患管理」に係るフィールド研究を呉市国民健康組合と実施。
レセプトデータベースを活用した「健康管理増進システム」は、差額通知書によるジェネリック医薬品の使用促進、レセプト点検の効率化、保健事業の3本柱から成る。特に保健事業ではレセプトデータを活用してハイリスク患者を特定、これらの患者のQOL改善に取組んでいる。
①レセプトのデータベース化
呉市では他の国保に先駆けて平成20年度からレセプトのデータベース化を始めた(当時は紙ベースと電子化の比率は50:50ほどであった)。これを用いてレセプトデータを統計的に分析し、どんな対策を打てば医療費の適正化につながるかを見極めるとともに、個別データを活用した被保険者への指導をするなど、レセプトのデータベース化を出発点として多くの取組みが可能となった。
②差額通知書によるジェネリック医薬品使用の促進
【差額通知の対象者】
平成20年7月より実施した差額通知は、ジェネリック医薬品を使用した場合に先発医薬品との差額が大きい上位3,000名を対象として抽出・実施した(精神薬と抗がん剤は除く)。
その後10月までは、一度通知した被保険者を除いた上位3,000名に差額通知を出していたが、毎月同じ被保険者に通知すると効果は小さいため、医師会と調整し、現在は同じ被保険者には4か月に1回程度通知されるペースとしている。
通知の対象となる被保険者は生活習慣病がほとんどである。生活習慣病は継続して医薬品を服用する場合が多く、ジェネリック医薬品に変更する効果は大きい。
【差額通知書の表記内容】
差額通知についても、市医師会等と調整を行いながら表記方法を検討した。一般的な健康保険組合の表記方法と比較して、下記の点で異なっている。
・健康保険組合は多くが円単位の差額表記だが、呉市では100円単位で表記している(円単位での表示は、実際には調剤料などの関係で額が異なる場合もあり、被保険者の混乱を避けるための工夫)。
・健康保険組合では先発医薬品との薬価差が最大となるジェネリック医薬品を取り上げる場合が多いが、呉市では敢えて価格が高いジェネリック医薬品を取り上げ、調剤薬局において疑義が生じることのないよう配慮している。
・被保険者の誤解を避けるため、通知額はあくまで薬にかかる金額のみであることを記載し、医療機関の技術料・指導料・検査費用などは含まれないことも明記している。
【差額通知事業の運営方法】
差額通知事業は民間事業者への委託で運営している。問い合わせ先等も委託事業者が担い、質問や要望などはデータベース化して呉市にフィードバックする仕組みとなっている。
導入段階では民間健保と同様、差額通知から得られた効果額の一定割合での契約も検討していたが、導入が1年遅れたことによる状況の変化から定額契約とした。当初は、レセプトの電子データ化を1件あたり50円で契約、徐々に減額し平成22年度には39円/件、26年度では20円/件となっている。その他、差額通知に係る直接的な事業経費は郵便料金のみである。
平成21年5月より、医療機関にジェネリック医薬品の使用実績(患者数・錠数)を情報提供し、ジェネリック医薬品の使用に疑問を持つ医療機関の不安解消を図り、更なる普及につなげてきている。
また、平成21年7月よりジェネリック医薬品希望カードを被保険者に配布した。この取組についても、事前に医師会・歯科医師会・薬剤師会に対して説明を行っている。
③レセプト点検の充実・効率化
レセプト点検についてもチェックポイントをシステム化して抽出しており、人による審査以前の段階でコンピュータ審査を取り入れている。7~8万件のレセプトから月2回実施禁止の検査など疑わしいレセプトを1~2万件抽出し、これを市役所専任の点検員が画面上で確認、効率的に点検を実施している。点検効果が大きいものを再審査に出しており、請求額、査定率(平成20年56.8%→平成25年63.8%)は高まっており、効果額は増大している。また、点検員も他市点検員との勉強会等も実施、能力向上を図っている。
④重複・頻回受診者及び重複服薬の保健指導の実施
レセプトデータを活用した重複・頻回受診者リスト(「同じ傷病名で、3カ所以上、3カ月以上受診した人」が対象)をもとに、保健師による訪問指導を実施した。
また、同一医薬品の重複服薬についても対象者をリストアップ、保健婦が訪問指導を行っている。
⑤併用禁忌・回避医薬品の情報提供
医師会が併用禁忌・回避の医薬品をスクリーニングし、これをデータベースで検索、併用禁忌・回避薬剤の服用が見つかれば、関係医療機関に情報提供を行い、医療機関で確認後、併用禁止の指導をしている。
⑥生活習慣病放置者フォロー事業
生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症)で継続的な受診があったにもかかわらず、3か月以上放置している被保険者に対して、文書通知や保健師訪問で診療勧奨を実施する。これも生活習慣病の重症化予防で、非保険者の健康増進だけでなく、長期的な医療費削減に繋げることも目的としている。
⑦レセプトデータによる医療費分析
レセプトデータでは傷病名は主傷病が挙げられているが、通常は複数を併発している。そこでレセプトの処方薬・診療行為との関連から主傷病以外の傷病も加えて、傷病ごとの医療費に請求点数を振り分けている(株式会社データホライゾンによる「医療費分解解析」を活用)。これをベースに傷病ごとの点数を算出し、一人当たり医療費の多寡を傷病ごとに判定、医療費削減に効果的な取組を明確にしている(これによれば人工透析の医療費が圧倒的に高く、次いで慢性腎不全、インスリン療法などが続く)。
⑧糖尿病性腎症等重症化予防事業
人数は少ないものの突出して医療費が高い人工透析患者の出現を予防するため、「糖尿病性腎症第3期または第4期で通院治療をしている人」対象に、保健指導を実施している。具体的には、看護師が個別に面談して目標を設定、面談指導や電話指導のほか「腎臓にやさしい料理教室」を毎月開催、食事療法も含め6か月間フォローアップしている。保健指導は当社広島大学が行っていたが、専門的な教育を受けた看護師の集まりである疾病管理会社「ヘルスパートナーズ」に委託している。
⑨CKD(慢性腎臓病)重症化予防事業
糖尿病を発症していない慢性糸球体腎炎・腎硬化症などCKD(慢性腎臓病)患者に対しても重症化を予防するため、広島大学と共同研究を実施、より効果的な予防対策の基礎資料を採っている。
⑩地域総合チーム医療の推進
呉市では生活習慣病の発症予防、重症化予防及び慢性期の維持を関係機関等のシームレスな連携を図る仕組み=地域総合チーム医療を目指している。多職種の連携により疾病管理・保健事業を実施、情報の収集・共有を図り、健康寿命日本一を目指している。呉市地域保健対策協議会内に地域総合チーム医療推進専門部会を設けて疾病ごとの取組みを協議、調査等を進めている。
平成20年度 レセプトのデータベース化、ジェネリック医薬品使用促進通知開始
平成21年度 重複・頻回受診者の保健指導、併用禁忌・回避医薬品服用被保険者の保健師指導の実施
平成22年度 糖尿病性腎症等重症化予防の実施
平成23年度 併用禁忌・回避医薬品服用被保険者情報の関係医療機関への提供、医療機関の指導
平成25年度 呉市地域総合チーム医療を開始(脳卒中予防等)
平成22年度 健康管理増進システム(レセプト電子化,ジェネリック薬品促進通知作成等)約3,300万円
平成26年度 健康管理増進システム 同上 約2,000万円
※レセプトデータの作成・分析費用は、医療機関でのレセプトデータの電子化の進展に伴い、入力データ数の減少から低下してきている。
特になし
呉市地域保健対策協議会-呉市、医師会、歯科医師会、薬剤師会、社会福祉協議会等により構成され、呉市地域住民等の健康の保持・推進を目的としている。
協議会の下に疾病ごと等で専門部会を置いている(糖尿病地域連携パス小委員会、母子保健専門部会等)
(※組織図参照)
①呉市医師会との事前の十分な協議
国民健康保険の安定的運営がなければ、患者はもちろん医師会も困ることから 「協力できるところは協力する。また、事業が患者のQOLの向上に繋がるものであれば協力する。」が医師会のスタンスである。その上で、呉市は医師と患者の信頼関係が損なわれないよう十分な配慮を行っている。具体的には、ジェネリック医薬品の使用促進については、医師の処方箋の侵害にならないよう事前に話し合いを行ったほか、医師会会員への説明会を開催した。
糖尿病性腎症等重症化予防事業については、事前に会員へのアンケートを行い理解を求めるとともに、協力医療機関を募集する形で実行している。保健師の指導については医師の手が届きにくい生活指導面での支援ということで医師からも受け入れられている。
②被保険者(患者)への十分な説明、指導(抽出した対象者への書面通知や保健師による訪問指導等)
重複・頻回受診者への保健師による訪問指導、ハイリスク患者を特定しての直接指導などそれぞれの態様に応じて、医師と連携した訪問指導などにより被保険者の納得を得る形態で事業を進めてきている。
③広島大学医歯薬保健学研究院との連携による事業の実施
広島大学医歯薬保健学研究院森山教授が生活習慣病等の自己管理プログラムを作成。その研究実施のフィールドを呉市が提供し、呉市国保(保険者)はそのノウハウを活用し事業に取組むことで、お互いにメリットのあるWin-Winの関係を築くことができた。その後も生活習慣病の重症化予防、脳卒中再発予防等の取組でも連携を取り、最新の研究成果を活用した取組を実施している。
④安価なレセプトのデータベース化とレセプトデータによる医療費分析
事業のスタートとなったのはレセプトのデータベース化への取組みであるが、当初はデータベース化を多大なコストがかかり断念した。しかし、委託業者であるは既に2003年より保健事業支援システムを開発していた㈱データホライゾン社に委託することで安価なレセプトのデータベース化が可能となった。
その後このレセプトデータを用いて病名と紐づけた医療費分析を行っており、生活習慣病の疾病ごとに医療費を算出している。これにより人工透析、インスリン療法、慢性腎不全の支出が大きいことが示され、糖尿病性腎症のリスクの高い人の抽出・指導事業に繋がっている。
⑤研究・事業に適した呉市の医療環境
呉市は市域が医療圏となっており、呉市域で医療行為がほぼ完結する環境であり、他地域まで及ばないことが事業を行うのに適した環境にあったと考えられる。
レセプトデータの電子化をベースにした健康増進のための種々の事業による成果は以下の通りである。
①ジェネリック医薬品の使用通知に伴う効果
平成25年度には通知した被保険者の8割強がジェネリック意欲品に切り替えている(累計通知者数 28,249通、累計切替者数 23,255名)。
この切替えによる費用削減効果額は約147,300千円となる。
②レセプト点検の充実・効率化
レセプト点検はコンピュータ審査で疑わしいものを抽出、これを点検員による点検で再審査に回している。再審査の請求額は高まっており、査定率も平成20年56.8%から25年には63.8%まで高まっている。
③重複・頻回受診者、重複服薬訪問指導
重複受診は同一疾患で3以上の医療機関に3か月以上かかっている被保険者が対象。平成23年度は10名を訪問指導、うち8人が削減、約1,700千円の削減効果。平成24年度も10名を訪問指導、うち4名が削減、削減効果は523千円。同様に同一医療機関に月15日以上の受診者を対象とする頻回受診者訪問事業では平成23年度155名を訪問指導、うち94名に削減効果あり、約23,000千円の削減額。平成24年度でも147名に訪問指導、うち86名に削減効果あり、13,510千円の削減額。
また、同じ薬の処方が同一月に複数ある受診者を対象とする重複服薬訪問指導事業では、平成23年度184名を訪問指導、うち39名が削減効果あり、約2,400千円の削減額。平成24年度134名、うち削減効果あり34名、2,323千円の削減額。
④併用禁忌・回避医薬品情報提供事業
医療機関への情報提供対象件数 平成24年度 禁忌1件、回避34件、25年度 禁忌8件、回避18件。
④生活習慣病放置者フォロー事業
生活習慣病の治療を3か月以上放置している被保険者に対し、受診勧奨を行う生活習慣病放置者フォロー事業では平成25年度279名に文書通知、79名を訪問指導した。医療費は短期的には増えるが、長期的視点でみれば被保険者のQOLの向上に繋がることが期待できる。また受診勧奨者フォロー事業では特定健診結果等から受診勧奨を523名に行った。
⑤糖尿病性腎症等重症化予防事業
糖尿病性腎症の重症化(透析等)を防ぐことで対象者のQOLを維持するとともに医療費の高額化を防ぐ。本事業は平成22年度年間50名を定員に指導実施、23年以降は70名に増やし、指導を行っている。予防事業への参加者は健康への意識が高いこともあり、3年後に人工透析等へ移行するものは殆んど出ていない状況であり、予防事業は効果を持っている。
①医師会、歯科医師会、薬剤師会等の事業への理解の高まり
医師会等と協力して本取組に対しての事前説明を何度も行ってきたほか、事業を実施する場合、事前説明、事後の結果報告等を行っている。このように取組みに対してはあくまで医療機関の意思を優先しており、できるところから実施して戴いている。最近は協力医療機関が徐々に増えており、理解が進んできている。
②住民の意識の変化
重複受診や頻回受診などの指導の効果も挙がっており、またジェネリックへの切替えも進んでいる。このような点からしても住民の理解も進んできていることが伺われる。
①脳卒中再発予防等保健指導による予防事業の更なる実施
糖尿病性腎症等重症化予防事業にみる対象者抽出・指導事業の一連の流れはCKD(慢性腎臓病)重症化予防プログラムへの活用にも示されるように、他の症例への適用も可能である。地域総合チーム医療推進部会での脳卒中再発予防事業対象者の抽出・指導事業の実施等は患者や家族のQOLの向上に繋がり、ひいては市民の健康寿命の延伸となる。このように地域保健対策協議会の指導の下、再発性の高い疾病等を対象に指導事業を行っていくことが求められる。
②重症化予防指導事業への参加者増加
糖尿病性腎症患者の指導事業は予算の関係もあり、参加者定数は70人となっている。今後は健康への取組意識が低い方々も健康指導事業に参加して戴くことを検討していく必要がある。重症化(透析)に移行する可能性の高い方々をどのようにスクリーニングして効果的な指導に結び付けるかも今後検討していく必要がある。
①広島大学等との共同研究による知見の向上
重症化しやすい患者の特性などが明確になれば、効率的な指導事業が可能となる。このために傷病に関する知見を持つ大学等との連携を図り、更なる研究やフィールドサーベイでの確認等を繰り返すことで、より効率的な指導が可能となるよう質を高めていく。
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株式会社データホライゾン 「ヘルスケアやまと」による呉市での取組等の概要
http://www.dhorizon.co.jp/product/04.html
http://www.dhorizon.co.jp/product/index.html