【背景・課題、目的・目標】
土木インフラの改修・更新費は今後急増し、年間7,850百万円に及ぶと予測され、すべての公共施設・インフラを旧来の方法で維持することは到底できない。そこで企画・総務・財政や施設所管課の担当部課長で構成する「公共施設保全計画導入検討委員会」を組織し、保全計画や公共施設マネジメントの必要性を庁内に知らしめ、保全改革導入を決定、予算措置した。この課題解決のためには、自治体のこれまでの経験をあらゆるステークホルダーと共有・連携し、進めていくことが必要となる。
本市の2つのPPP(Public Private Partnership:官民連携とPublic Public Partnership:自治体間連携)によるファシリティマネジメントは、「①課題を明確にして②FM先進自治体のノウハウを分析し、③民間事業者等と連携して流山市向けにアレンジし、④シンプルに実践すること」を地道に積み重ねるものであり、「モノの考え方・仕事の仕方のイノベーション」でもある。
本市のFMは、単なる「総量削減・自治体経営(市民サービス)の規模縮小」といったネガティブ思考ではなく、保有する資産を「2つのPPP」により最大限に活用し、市民サービスを向上しつつ自治体経営・まちづくりに貢献するポジティブな取組であり、その目的とするところは以下の通りである。
①FMの効率的な資産管理と資産活用
②上記の活動による質の高い市民サービスの提供
取組内容】
本市のFMは「2つのPPP」を掲げ、複数のシンクタンク・ゼネコン・ビルメンテナンス・エネルギーサービス・広告代理店など多様な民間事業者および「自治体等FM連絡会議」等を通じ他自治体や大学との交流(平成25年度)など、一自治体の枠を大きく超えた多様なステークホルダーとの有機的なネットワークを有することを最大の特徴としている。
市としては予算額/事業の概要・条件を提示し、これに対し民間事業者より提案を戴き、事業者を決定する仕組みを採用している。
流山市のファシリティマネジメントは、効率的な資産管理と資産活用を行ない、質の高い市民サービスを提供することを目的に
①トップダウンとボトムアップを併用した推進体制 で
②FM先進自治体の事例を流山市の状況にあわせてアレンジ し、
③できることから施設所管課のニーズに合わせて
④2つのPPP(Publc Private Partnership/Public Public Partnership)を積極的に活用する
シンプルな『第二世代の公共FM』として展開している。
具体的なプロセスでは、フィージビリティスタディを行う前に簡易プロポーザルにより優先交渉権者を選定し、事業者とともに詳細を決定していく流山方式(「デザインビルド方式」と命名)で、多様な方式での資産管理・活用を進めつつ以下の事業を実施してきている。
(1)保健センターデザインビルド型小規模ESCO/市役所等デザインビルド型小規模バルクESCO
デザインビルド型小規模ESCO事業は「プロポーザル+デザインビルド」方式を採用した流山市独自のFM施策であり、ESCO事業者の創意工夫を引き出し、イニシャルコストをかけずに最新の設備を導入し、包括的なエネルギーサービスを得る事業。
ア 保健センターデザインビルド型小規模ESCO(事業者:ジョンソンコントロールズ・京和ガス)
「①施設規模や改修必須条件を補完するため、イニシャルコストの一部を上乗せする小規模補填、②財団法人省エネルギーセンターの無料省エネ診断をフィージビリティスタディの代替として活用、③簡易なプロポーザルで優先交渉権者を先行決定し、④詳細は優先交渉権者との協議によるデザインビルドで決定」することで実施。
イ 市役所等デザインビルド型小規模バルクESCO
空調設備の老朽化していた市役所本庁舎(約10,000㎡)と図書・博物館(約3,300㎡)および800~1,000㎡の福祉会館5館を、バルク(抱き合わせ)した7施設一括の同様のスキームのESCO事業として発注、実施。
(2)デザインビルド型包括施設管理業務委託(大成有楽不動産・大成建設)
包括施設管理業務の流山版で、平成25年度から3か年を期間とする事業である。施設ごと・設備ごとに発注していた電気工作物・エレベーターなどの設備の保守点検業務を一括発注するもの。コスト削減効果は約11,000千円/年(平成25年度)で、この削減分を活用し、「全対象施設の巡回点検(1回/月)・簡易修繕や省エネサポート」等を実現している。当初34施設51契約(約57,000千円/年相当)からこれを47施設68契約(約65,000千円/年相当)に拡大。
(3)まるごと有料広告/バルク型有料広告
地方自治法の改正により行政財産の貸付が比較的柔軟にできるようになったことを受け、流山市でも「庁舎まるごと」の有料広告事業として、庁舎内の「どこに・どのような広告媒体を・いくつ」設置しても良いという形で、500千円/年以上の広告料を納入することを条件に公募。また平成25年に竣工した東武野田線運河駅の東西自由通路を中心とした広告事業を実施し、保全管理費を捻出している。
(4)FM施策の事業者提案制度
「2つのPPP」のノウハウと経験を活用して「FM施策の事業者提案制度」を事業化した。この事業は①「流山市のファシリティを活用してできること」を広く民間企業から募集し、②プロポーザルコンペで協議対象となる案件を選定して、③提案した事業者と原則1年以内の協議期間内に諸条件を定め、④予算措置を含めて協議が成立した場合に提案者と随意契約して、⑤事業を実施するものである。
平成24年度に実施した第1回公募では8件の応募があり4件を協議対象案件に選定し、このすべてを事業化している。
(5)スマート庁舎(事業者:大成有楽不動産・コクヨファニチャー・テンプスタッフ・広友リース)
庁舎内の什器・備品をより効率的なものに更新すること等で余剰面積を発生させ、この余剰面積を民間に貸し付けることで当該什器・備品を調達するESCOに類似したスキームである。下水道関連部局が水道局に移転することに伴い余剰スペース(約500㎡)を生み出し、これを民間の福祉関連事業者に貸付け、この貸付料を活用して①庁舎1階を「わかりやすく・プライバシーに配慮した空間」、②4階を「会議スペースや職員の昼食場所を確保するため少人数対応のフレキシブルな会議兼ランチスペース」として整備。
(6)屋根貸し太陽光(事業者:京和ガス)
①市内23校の小中学校の屋根に合計約500kwの太陽光パネルを設置、②発電量等を示すモニターを設置し環境学習に役立てるだけでなく、③災害時の送電網遮断時には非常用電源として活用できるようにするなど、施設としての品質向上、防災力強化などの副次的な効果も得ている。
(7)官民連携FM研究会(事業者:三菱総合研究所)
三菱総合研究所のプラチナ社会研究会に設けられている公共施設マネジメント部会に参加、「①自治体は自らの抱える課題を提示し、②民間事業者は課題に対するソリューションをビジネスベースで構築する。③そのソリューションを多くの自治体が参加する場で提案し、④官民の協議により内容をブラッシュアップ」する官民連携のプロジェクトを実施。
(8)サウンディング型市場調査(説明会参加企業:20グループ・提案者:8グループ)
特に諸条件を定めず「民間事業者が自ら総合体育館を管理・運営するとしたら何ができるか、コストはいくらかかるか、市に望むことは何か」などを提案して戴き、この提案の中から複数の事業者にヒアリングを実施し、議論を深化させ指定管理者公募要件を精査していく。
【成功要因】
①FM戦略会議・部会・WG等による迅速な意思決定
市長・副市長・教育長・総合政策部長・総務部長・財政部長・環境部長・都市計画部長の8名からなるFM戦略会議で各種FM施策や方針の可否を迅速に判断し、実施すべきと判断されたFM施策は柔軟に改廃する各種部会やワーキンググループによって検討がなされる仕組みが機能している。
②専門部署の設置による事業推進
実施に当たっては総務部財産活用課ファシリティマネジメント推進室が調整役となり、実質的なイニシアティブをとって事業を推進している。専任の推進室ができたことで、人・ノウハウを外部の方々の協力の下に築きあげ、持続的に連携を活かした取組が可能となっている。
③先進的自治体の事例分析とFM関連団体との連携
内部体制だけでなく、武蔵野市、佐倉市等の先進自治体の事例を分析、これを流山での事業展開に活用した。さらに、JFMA(日本ファシリティマネジメント協会)の公共施設FM研究部会の副部会長、一般財団法人建築保全センターが事務局を務める自治体等FM連絡会議の代表幹事(平成25年度)、NPO法人日本PFI・PPP協会・ESCO推進協議会等の関連団体等とも有機的なネットワークを構築、先進自治体による指導は実行に大きく寄与した。
【成果】
2つのPPPによるFM施策の実施は維持管理費等のコスト削減に繋がるほか、このモノの考え方・仕事の仕方はFMに限らず、あらゆる分野で応用可能である。こうした取組が流山市全体で広がっていけば、限られた財源や職員数で住民ニーズに応える「真のコアコンピタンス経営」に繋がっていく。
①維持管理費等のコスト削減
2つのPPPによるFM施策の実施は維持管理費等のコスト削減に繋がっている。その金額は保健センターで1,700千円/年(10年で16,930千円)、市役所、図書・博物館、直営の5福祉会館を合わせたバルクESCO事業では20,541千円/年(13年で267,033千円)
②資産の有効活用による効果
市役所本庁舎有料広告事業ではそのメリットは5年で12,090千円。民間事業者より市施設を活用した事業を公募する「FM施策の事業者提案制度」を実施しており、採用された提案について市と事業者で協議を行い事業化している。これにより市は民間の事業ノウハウを活用でき、発注者としては仕様書の作成から解放され、大幅な業務量の低減と適正な質の確保が可能となっている。
③住民ニーズに応える「真のコアコンピタンス経営」へ
金額的なメリットだけではなく、このモノの考え方・仕事の仕方はあらゆる分野で応用可能であり、仕事の仕方の「イノベーション」でもあり、住民ニーズに応える「真のコアコンピタンス経営」に繋がっていく。
④他自治体・民間企業とのネットワークの構築・強化が可能
流山市のFMでは他自治体・民間企業などあらゆるステークホルダーと有機的なネットワークを構築し、個別の課題にひとつずつ対応している。デザインビルド型小規模バルクESCO事業は、他自治体等の先行事例をベースに創成されたもので、自治体・民間・学識者等との連携が力となっている。
扶助費の増大、公共施設や土木インフラの老朽化等による厳しい財政状況のなか、基礎自治体はこれまでの「行政運営」から「自治体経営」へ舵を切ることが不可避である。
なかでも公共施設や土木インフラの老朽化問題は、人の高齢化問題と同じく「必ず」やってくる問題である。土木インフラの改修・更新費は今後急増し、現在のストック総量全体を維持管理するコストも捻出できなくなることが国交省などの推計で明らかになっている。
本市においても、自治体PFIセンターの簡易推計ソフトの推計結果に640ha(市域の1/5)の土地区画整理事業の影響を加味すると、これらの維持補修費は今後7,850百万円/年に及ぶ。急増する扶助費も考慮すると約50,000百万円/年の予算の本市では、すべての公共施設・インフラを旧来の方法で維持することは到底できない。また一方で、複雑・高度化する市民ニーズを財政上の理由だけで簡単に切り捨てることは、活力ある自治体経営・まちづくりを阻害する要因にもなりうる。
平成20年度には企画・総務・財政や施設所管課の担当部課長で構成する「公共施設保全計画導入検討委員会」を組織し、他自治体へのアンケート・民間事業者からのヒアリング等を行い、保全計画や公共施設マネジメントの必要性について庁内理解を深めるとともに、保全改革導入に関する意思決定と予算措置を行った。このように流山市では限られた職員数で「一円まで生かす市政」を実践するため、これまでも積極的に業務のアウトソーシング、指定管理者、保育所・幼稚園の民設民営化、市営住宅の借り上げ、PFIなどを実践してきた。
公共施設や土木インフラの老朽化・陳腐化問題は、投資可能な財源と必要な維持管理・更新費の乖離に大きく起因するものであり、この乖離は加速度的に深刻さを増している。そして、この課題の解決のためには自治体のこれまでの経験を、あらゆるステークホルダーと共有・連携し進めていくことが必要となる。
本市の2つのPPPによるファシリティマネジメントは、「①課題を明確にして②FM先進自治体のノウハウを分析し、③民間事業者等と連携して流山市向けにアレンジし、④シンプルに実践すること」を地道に積み重ねるものであり、「モノの考え方・仕事の仕方のイノベーション」と言える。
この「モノの考え方・仕事の仕方」はFMに限らず、あらゆる分野で応用可能であるため、こうした取組が流山市全体で広がっていけば、限られた財源や職員数で多様かつ高度化する住民ニーズに応える「真のコアコンピタンス経営」につながっていき、結果として自治体経営やまちづくりに大きく貢献するものと確信している。
流山市では「2つのPPP(Public Private Partnership:官民連携とPublic Public Partnership:自治体間連携)」による第二世代の公共FMを掲げ、「プロポーザル+デザインビルド」の事業形式により短期間に多様な事業を効率的に複数同時展開し、約3年間でESCO、包括施設管理業務委託、有料広告等による約700百万円のコストメリットや約70施設でのWi-Fi環境の整備など質の向上を図り、かつ公共不動産(PRE)全体についても積極的に民間事業者との連携によりその利活用・管理等に取組みはじめたところである。
本市のFMは、単なる「総量削減・自治体経営(市民サービス)の規模縮小」といったネガティブ思考ではなく、保有する資産のポテンシャルを「2つのPPP」により最大限に活用し、市民サービスを向上しつつ自治体経営・まちづくりに貢献するポジティブな取組であり、その目的とするところは以下の通りである。
①流山市におけるFMの一連の実践プロセスは効率的な資産管理と資産活用
②上記の活動により質の高い市民サービスを提供していく
-
特に規制等の問題はない
特になし
【以下は公共不動産の有効活用を進めるための計画づくりであり、重要な調査と認識】
・国土交通省:平成26年度都市再興のための公共不動産活用検討委託調査(PRE推進事業)
-国土交通省補助事業(補助率10/10) 約7,000千円、単独事業費1,000千円
http://www.mlit.go.jp/report/press/toshi07_hh_000080.html
【以下はエスコ事業であり、民間のプロポーザル形式により、補助金等の活用も含め民間事業者が提案】
・環境省:小規模地方公共団体対策技術率先導入補助事業(保健センターデザインビルド型小規模ESCO)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biz_local/25_07/yoryo-reg.pdf
・環境共創イニシアチブ:建築物節電改修支援事業補助金(市役所等DB型小規模バルクESCO、生涯学習センターDB型小規模ESCO)
https://www.env.go.jp/policy/ga/bp_mat/01whole-02/full.pdf
・都市ガス振興センター:エネルギー使用合理化事業者支援補助金(市役所等DB型小規模バルクESCO)
http://www.kankyo-business.jp/subsidy/p-saving/result.php?state=chiba&city=nagareyamashi
-
本市のFMは「2つのPPP」を掲げ、複数のシンクタンク・ゼネコン・ビルメンテナンス・エネルギーサービス・広告代理店など多様な民間事業者はもとより、100以上の自治体が参画する「自治体等FM連絡会議」等を通じ他自治体や大学との交流(平成25年度)など、一自治体の枠を大きく超えた多様なステークホルダーとの有機的なネットワークを有することを最大の特徴としている。
市としては専門家としての立場ではなくオーナーとしての立場で民間事業者の知恵・ノウハウを活用する(予算額/事業の概要・条件を提示し、これに対し民間事業者より提案を戴き、事業者を決定する)。
自治体間の連携により他の先進的な自治体の同様な事業の担当者より民間事業者の紹介や事業のポイントについて教えを受けており、2,3番手であれば先任者の苦労をうまく利用することが可能である。
また、首都大学 李教授、東洋大学南教授等学識者の協力を得ている(困ったら教示を得る)。
これまで、例えば市役所等デザインビルド型小規模バルクESCO事業では、複数の老朽化した空調設備の更新に当たって、「①大阪市の簡易公募型ESCOの検討資料、②佐倉市のイニシャルコストの一部を市が負担するESCO、③福岡市の省エネ診断事業、④埼玉県のPFI法を用いた複数施設一括発注型ESCO、⑤青森県の土地のバルクセール検討資料」等の自治体のノウハウと、民間事業者との対話(デザインビルド)を通じて諸条件をひとつずつ整理して事業を実施している。この事業では結果的に最新の空調設備とLEDが新たな財政負担なく整備できただけでなく、13年間の包括的エネルギーサービスを享受できることとなった。また、民間事業者にとっては約700百万円/13年というビジネス(市場)が形成されており、双方が持てる力を十分に発揮しただけでなく、双方にとっての経営上のメリットも大きいものであった。
・日本ファシリティマネジメント協会、日本PFI/PPP協会等に募集要項(案)をチェック、応募者を紹介戴く等ネットワークを造り活用。
流山市のファシリティマネジメントは、効率的な資産管理と資産活用を行ない、質の高い市民サービスを提供することを目的に
①トップダウンとボトムアップを併用した推進体制 で
②FM先進自治体の事例を流山市の状況にあわせてアレンジ し、
③できることから施設所管課のニーズに合わせて
④2つのPPP(Publc Private Partnership/Public Public Partnership)を積極的に活用する
シンプルな『第二世代の公共FM』として展開している。
具体的には、フィージビリティスタディを行う前に簡易プロポーザルにより優先交渉権者を選定し、事業者とともに詳細を決定していく流山方式(「デザインビルド方式」と命名)で、バルク方式の採用など多様な方式での資産管理・活用を進めつつ事業を実施してきている。
(1)保健センターデザインビルド型小規模ESCO/市役所等デザインビルド型小規模バルクESCO
ア 保健センターデザインビルド型小規模ESCO(ジョンソンコントロールズ・京和ガス)
デザインビルド型小規模ESCO事業は、他自治体の英知と民間事業者のノウハウを結集した「プロポーザル+デザインビルド」方式を採用した流山市独自のFM施策である。ESCOは空調や照明設備の更新等によるエネルギーコストの削減見込み分を原資に、ESCO事業者の創意工夫によりイニシャルコストをかけずに最新の設備を導入し、包括的なエネルギーサービスを得られる事業で、オーナーにとってポテンシャルの高い事業である。
一般的にESCOでは「①5,000~10,000㎡以上の施設規模、②フィージビリティスタディのコスト確保、③機械設備・電気設備の高い専門性」などが導入の障害となり、一部の自治体を除きそれほど普及していない。
流山市では、「①施設規模や改修必須条件を補完するため、イニシャルコストの一部を上乗せする小規模補填、②財団法人省エネルギーセンターの無料省エネ診断をフィージビリティスタディの代替として活用、③簡易なプロポーザルで優先交渉権者を先行決定し、④詳細は優先交渉権者との協議によるデザインビルドで決定」することで課題を解決している。なお、小規模補填の金額は事業期間内にESCOサービス料として均等支出することで、歳出の平準化も図っている。
イ 市役所等デザインビルド型小規模バルクESCO
延べ面積2,310㎡の流山市保健センターでデザインビルド型小規模ESCOのスキームが実現したことを受け、空調設備の老朽化していた市役所本庁舎(約10,000㎡)と図書・博物館(約3,300㎡)を同様のスキームでESCOにより改修することを計画した。同時期に800~1,000㎡の5館の福祉会館でも空調設備の老朽化が問題になっていたため、コアになる施設(市役所、図書・博物館)に5つの福祉会館をバルク(抱き合わせ)した7施設一括のESCO事業として発注、実施することとなった。
バルク型ESCO事業では募集要綱で240百万円の小規模補填を上限金額としていたが、優先交渉権者の提案で小規模補填額は約180百万円(市の純然たる持ち出し金額)となった。契約で260百万円/13年(20百万円/年)の光熱水費の削減保証がついたため、単純計算ではイニシャルコストをかけず空調設備の全面更新・LED化が図られ施設の品質・サービスの向上につながっただけでなく、約80百万円/13年(180百万円/13年-260百万円/13年)のコストメリットを得た。
(2)デザインビルド型包括施設管理業務委託(大成有楽不動産・大成建設)
香川県まんのう町(PFI法による)や我孫子市で実施している包括施設管理業務の流山版で、平成25年度から3か年を期間とする事業である。包括施設管理業務委託は、各施設所管課が施設毎・設備ごとに発注していた電気工作物・エレベーター・自動ドアなどの設備の保守点検業務を一括発注するもので、実施にあたっては全庁的な協力体制(横串)が求められる。
流山市の事業スキームは基本的に我孫子市の事例を踏襲、デザインビルド型バルクESCO等のFM施策で培った「プロポーザル+デザインビルド」によるPPPのノウハウを活用し、コスト削減や保守点検仕様の統一化だけでなく、事業者とより実践的で効果的な「+αのサービス」を引き出すことを意図している。コスト削減効果は約11,000千円/年(平成25年度)となり、この削減分を活用した「全対象施設の巡回点検(1回/月)・簡易修繕や省エネサポート」などの付加価値を実現している。
事業の実施状況が良好であり効果が高いことから当初の34施設51契約(約57,000千円/年相当)から、、平成26年度にはこれを47施設68契約(約65,000千円/年相当)に拡大している。
公共施設所管部局は、包括施設管理業務によって設備管理の入札・伝票等の業務が不要となり、サービス業務に専念、市民サービスの向上に繋がっている。
(3)まるごと有料広告/バルク型有料広告
ア まるごと有料広告(表示灯・宣通)
地方自治法の改正により行政財産の貸付が比較的柔軟にできるようになったことを受け、多くの自治体で有料広告事業が行われている。一般に有料広告事業では場所・広告媒体の種類・面積等を規定して公募するが、流山市では民間ノウハウを最大限に活用するため、「庁舎まるごと」の有料広告事業として、庁舎内の「どこに・どのような広告媒体を・いくつ」設置しても良いという形で、500千円/年以上の広告料を納入することを条件に公募した。ただし、実際に「設置できる広告媒体は、提案のうち市と優先交渉権者で協議が成立したもの」という条件を付すことで、市にとって受け入れがたい媒体を排除できる工夫をしている。
この公募では広告代理店2社から提案があったが、偶然にも2社の広告媒体の設置場所、種類が異なっていたため、市と両社との協議により2社ともに採用することで、より多くの歳入に結び付けている。
(募集要綱で想定していた本事業のメリット2,500千円/5年を大きく上回り、約4.8倍の12,090千円/5年のメリットが本事業で得られた)。
イ バルク型有料広告(星広告)
平成25年に竣工した東武野田線運河駅を東西に結ぶ自由通路は、約8,000千円/年におよぶ保守管理費をいかに回収するかが課題であった。運河駅は20千人/日以上の平均乗降者数であるため、上記の市役所本庁舎有料広告事業の成功体験を基に、自由通路を中心とした同様のスキームで広告事業を実施することとなった(出張所単独では広告媒体としての事業規模に到底及ばないが、20千人/日の利用者数の想定される運河駅自由通路をコア施設に、3出張所の受付番号発券機をバルクした有料広告事業として実施した)。
(4)FM施策の事業者提案制度
流山市におけるFMは、これまで述べてきたように「2つのPPP」を活用して、先進自治体や民間企業との連携により効率的に進めることが特徴になっている。
これまで培った「2つのPPP」のノウハウと経験を活用して事業化したのが「FM施策の事業者提案制度」である。この事業は①「流山市のファシリティを活用してできること」を広く民間企業から募集し、②プロポーザルコンペで協議対象となる案件を選定して、③提案した事業者と原則1年以内の協議期間内に諸条件を定め、④予算措置を含めて協議が成立した場合に提案者と随意契約して、⑤事業を実施するものである。
流山市の事業者提案制度では民間事業者に過剰な応募リスクを課すことを避けるため、A4用紙1枚で事業提案をすること、「原則として市の新たな財政負担を生じさせない」事業スキームで提案することを条件としている。
平成24年度に実施した第1回公募では8件の応募があり民間事業者による市営住宅管理や市内の小中学校(全23校)の屋根貸し太陽光など4件を協議対象案件に選定し、このすべてが事業化されている。平成25年度に実施した第2回公募では同じく3件の応募のうち2件を条件付き協議対象案件に選定し、現在実現に向けて協議を進めている。
(5)スマート庁舎(大成有楽不動産・コクヨファニチャー・テンプスタッフ・広友リース)
第1回の事業者提案制度で協議対象案件となった事業のひとつで、正式名称は「官民が協力して公共施設をもっと便利で快適にする手法」である。通称「スマート庁舎」は、庁舎内の什器・備品をより効率的なものに更新すること等で余剰面積を発生させ、この余剰面積を民間に貸し付けることで当該什器・備品を調達するESCOに類似したスキームである。
下水道関連部局が水道局に移転することに伴い空いた1棟の余剰スペース(約500㎡)を生み出し、この余剰空間を民間の福祉関連事業者に貸し付け、この貸付料を活用して①市民が最も利用する庁舎1階を「わかりやすく・プライバシーに配慮した空間」、②会議スペースや職員の昼食場所を確保するため、同じく4階を「少人数対応のフレキシブルな会議兼ランチスペース」として整備している。
なお、スマート庁舎では新たな財政負担なく窓口環境等が整備されるだけなく、庁舎内のゾーニングが「手続き関係、内部管理、議会、児童・福祉、土木建築の事業者関連、コミュニティや防災の自治会関連、商業や農業などの産業系」とわかりやすく改編されること、10以上の部局が連動して事務室移転を行うことにより備品や古い書類・書籍等の棚卸・整理が大規模に行われたことも本事業の副次的な効果である。
(6)屋根貸し太陽光(京和ガス)
公共施設の屋根を民間事業者に貸付け、民間事業者が自ら太陽光発電設備を設置・全量買電を行う通称、屋根貸し太陽光は多くの自治体で取り組みが検討されていたが、「①対象施設の選定、②貸付料の単価設定、③屋根の耐荷重」などの課題があり実施に至っている施設は多くない。
本市では100~200円/㎡・年という貸付料の安さと事務上の手間を考慮し実施を見合わせていたが、前述の事業者提案制度で提案されたこと・アンカーレスで荷重の問題が発生しないシステムであったことから、実施に向けて検討することとなった。
①市内23校の小中学校の屋根に合計約500kwの太陽光パネルが設置され、②発電量等を示すモニターを設置し環境学習に役立てるだけでなく、③学校は災害時の主要な避難所・避難場所にもなることから、送電網遮断時には非常用電源として活用できるようにするなど、施設としての品質向上、防災力強化などの副次的な効果も得られる事業となっている。
(7)官民連携FM研究会(三菱総合研究所)
流山市では前述の事業者提案制度で広く民間提案を募集し幅広いFMを展開しはじめているが、このようなPPPの仕組みが多くの自治体で構築されれば、580兆円あるといわれるPREがマーケットとして市場に登場することとなる。しかし、現状では民間事業者は公共の実態を把握できないまま自らのノウハウだけで提案を続け、公共はそれを受け止める財源と受け皿がない状況となっている。
このことから、三菱総合研究所のプラチナ社会研究会に公共施設マネジメント部会を設け、「①自治体は自らの抱える課題を提示し、②民間事業者は課題に対するソリューションをビジネスベースで構築する。③そのソリューションを多くの自治体が参加する場で提案し、④官民の協議により内容をブラッシュアップ」することとなった。
この研究会では7社(グループ)から民間資金と公共の土地・建物の現物出資による官民合築、民間施設を含む包括施設管理など多様な提案がなされ、活発な議論が繰り広げられた。現段階では自治体と民間との「お見合い」程度であるが、この第一歩が踏み出せたことは非常に大きい意味がある。今後も、この研究会が更に発展していけば、この中からいくつかのPPP事例が実現していくだろう。
(8)サウンディング型市場調査(説明会参加企業:20グループ・提案者:8グループ)
本市では、老朽化・狭隘化に伴い総合体育館の再整備を進めている。この新しい体育館は延べ面積が10,000㎡を超え、大きなポテンシャルを有するが全館空調などの高度な設備も含めて指定管理者選定の諸条件を定めるのが困難な状態であった。
そこで、この体育館のポテンシャルと効果的・効率的な活用方法を探るべく、横浜市等で実施しているサウンディング型市場調査を実施した。この市場調査では特に諸条件を定めず「民間事業者が自ら総合体育館を管理・運営するとしたら何ができるか、コストはいくらかかるか、市に望むことは何か」などを提案してもらっている。更にこの提案の中から複数の事業者にヒアリングを実施し、議論を深化させ指定管理者公募要件を精査していくこととなる。
・保健センターデザインビルド型小規模ESCO
・市役所等デザインビルド型小規模バルクESCO
・デザインビルド型包括施設管理業務委託(大成有楽不動産・大成建設)
・庁舎まるごと有料広告(表示灯・宣通)
・運河駅バルク型有料広告(星広告)
・FM施策の事業者提案制度
・スマート庁舎(大成有楽不動産・コクヨファニチャー・テンプスタッフ・広友リース)
・屋根貸し太陽光(京和ガス)
・スマート庁舎(大成有楽不動産・コクヨファニチャー・テンプスタッフ・広友リース)
・官民連携FM研究会(三菱総合研究所)
・サウンディング型市場調査(説明会参加企業:20グループ・提案者:8グループ)
当初は、流山市諸施設の保全計画に係る21,630千円(平成20,21年度)を支出した。しかし、その後のデザインビルド型ESCO事業等は施設の維持管理費を低減できたかなどで評価する事業者提案制度や庁舎等の有料広告への貸出に伴う収入等であり、支出は計上されない。事業に伴う低減額、収入等をを合わせるとその効果は相当額に上る。
特にプロジェクトに関連して集めてはいない(企業の提案制度に専門知識は実現されている)。
総務部財産活用課ファシリティマネジメント推進室を中心に、前述の「2つのPPP」を活用して各種FM施策を企画・実践している。
庁内の意思決定を迅速化するため、市長・副市長・教育長・総合政策部長・財政部長・総務部長・環境部長・都市計画部長からなる「FM戦略会議」を設置し、各種FM施策の企画段階で実施の可否を判断する仕組みを講じている。
このFM戦略会議で実施すると判断された案件は、柔軟に改廃する関係部課長による検討会議・担当者によるワーキング等を素早く組織し、全庁的体制でFMを推進している(大きな特徴)。
また、存在する無数の課題を庁内のみで検討するのではなく、できるだけ早い段階で他自治体や民間事業者に課題を提示し、より多くのステークホルダーの経験とノウハウを活用して効率的に課題解決にあたっている。
①FM戦略会議による迅速な意思決定と専門部署の設置による事業推進
市長・副市長・教育長・総合政策部長・総務部長・財政部長・環境部長・都市計画部長の8名からなるFM戦略会議で各種FM施策や方針の可否を迅速に判断し、実施すべきと判断されたFM施策は柔軟に改廃する各種部会やワーキンググループによって検討がなされる仕組みが整備されている。
実施に当たっては総務部財産活用課ファシリティマネジメント推進室が主体に調整役となり、実質的なイニシアティブをとって事業を推進している。専任の推進室ができたことで、人・ノウハウを外部の方々の協力の下に築きあげ、持続的な取組が可能となったことが大きく寄与している。
②先進的自治体の事例分析とFM関連団体との連携
内部体制だけでなく、武蔵野市、佐倉市等の先進自治体の事例を分析、これを流山での事業展開に活用した。さらに、JFMA(日本ファシリティマネジメント協会)の公共施設FM研究部会の副部会長、一般財団法人建築保全センターが事務局を務める自治体等FM連絡会議の代表幹事(平成25年度)などを通じて他自治体・民間企業と密接な連携をしつつ、NPO法人日本PFI・PPP協会・ESCO推進協議会等の関連団体とも有機的なネットワークを構築している。特にFMを先行して実施していた佐倉市など他自治体の方々に指導等を仰ぐことができたことは大きな支援となった。こうした先進的な自治体との連携や団体等との一連連携が、流山市のFMを安定的に継続・発展させる原動力となっている。
流山市の2つのPPPによるFM施策により維持管理費等のコスト削減に繋がっている。その金額は保健センターで1,700千円/年(10年で16,930千円)、市役所、図書・博物館、直営の5福祉会館を合わせたバルクESCO事業では20,541千円/年(13年で267,033千円)、市役所本庁舎有料広告事業ではそのメリットは5年で12,090千円となるなど多額の効果をもたらしている。
金額的なメリットだけではなく、このモノの考え方・仕事の仕方はFMに限らず、あらゆる分野で応用可能であるため、こうした取組が流山市全体で広がっていけば、限られた財源や職員数で多様かつ高度化する住民ニーズに応える「真のコアコンピタンス経営」につながっていくと考えている。
①維持管理費等のコスト削減
流山市の2つのPPPによるFM施策により維持管理費等のコスト削減に繋がっている。その金額は保健センターで1,700千円/年(10年で16,930千円)、市役所、図書・博物館、直営の5福祉会館を合わせたバルクESCO事業では20,541千円/年(13年で267,033千円)
②資産の有効活用による効果
市役所本庁舎有料広告事業ではそのメリットは5年で12,090千円となるなど多額の効果をもたらしている。また、民間事業者より市施設を活用した事業を公募する「FM施策の事業者提案制度」を実施しており、採用された提案について市と事業者で協議を行い、事業化している。この提案制度(デザインビルド方式)により市は民間の事業ノウハウを活用でき、発注者としては仕様書の作成から解放され、大幅な業務量の低減と適正な質の確保が可能となっている。
③住民ニーズに応える「真のコアコンピタンス経営」へ
金額的なメリットだけではなく、このモノの考え方・仕事の仕方はFMに限らず、あらゆる分野で応用可能であり、仕事の仕方の「イノベーション」でもある。こうした取組が流山市全体で広がっていけば、限られた財源や職員数で多様かつ高度化する住民ニーズに応える「真のコアコンピタンス経営」につながっていくと考えている。
④他自治体・民間企業とのネットワークの構築・強化
流山市のFMでは「2つのPPP」をキーワードに、他自治体・民間企業などあらゆるステークホルダーと有機的なネットワークを構築し、個別の課題にひとつずつ対応している。こうした取組の中で構築したデザインビルド型小規模バルクESCOは、流山市のFMでは「2つのPPP」をキーワードに、他自治体・民間企業などあらゆるステークホルダーと有機的なネットワークを構築し、個別の課題にひとつずつ対応している。こうした取組の中で構築したデザインビルド型小規模バルクESCOは、PFI並みに複雑なESCO事業を単純化したもので、他の自治体・民間企業の先行的な事例をベースに創成されたもので、自治体・民間・学識者等の連携が大きな力となっている。
地域のよりも庁内が大きく変わってきていると感じる。効率的な行政運営が求められ、職員も増えない中でともすれば新たや業務を増やす取組となるため、「なぜこのような取組が必要なのか」、庁内の理解を得ることに腐心をしている。「FM戦略会議」などが庁内に浸透するにつれ、徐々に箱モノに対してこのままでは経営を揺るがすのではないか等問題が認識され、庁内の考えも徐々に変わってきていると感じる。具体には、「推進室に行けば面白い仕事ができそうだ」など推進室の評価が庁内でも高まってきている状況にある。
今後は各種FM施策により公的資産の更なる活用を図りながら、現状の維持管理コストを徹底的に見直すことが必要である。その上で、減価償却費相当額など必要なコストを明確にし、毎年の予算編成に反映させる、あるいは基金として積み立てるなど長期的な運用を図ることが必要である。
FMに関する先進自治体ネットワークやFM関連団体等とさらに連携を図り、一層知見を高めていき、、整備手法等様々な視点から当市の資産をどのように活用し、持続可能なものとしていくかを検討していく。同時に自治体の広域連携も視野に入れ、事業者を選定する際に、広域的な取組の有無や共同発注等を評価することで、一層の効率化を目指していく。
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