【背景・課題と目的・目標等】
1)背景
①豊田市は平成17年に都市部を流れる矢作川の上流6町村と合併し、自動車産業を中心とする産業都市と自然豊かな農山村を併せ持つ920㎢の広大な自治体である。
②豊田市は産業集積地でもあり、高度成長期より人口が転入、団塊世代が多い人口構成を持ち、近い将来高齢者の激増が見込まれている。
2)課題
「市民の課題」-今後増加が見込まれる高齢者は、転入した人が多く、地縁が薄い中で、地域との関係づくり=活躍の場づくりや健康維持への取組が必要である。
「地域の課題」-高齢者が激増する都市部では「独居高齢者の見守り」、農山村部では「農林業の担い手不足、地域経済の衰退」等それぞれの地域固有の課題への対応が必要である。
このような地域固有の課題に対し、全市一律の施策では効果的な対応は難しく、課題解決のためには行政に加え、ぞれぞれの課題に取組む新たな地域の担い手が必要とされている。
3)達成目標
都市と農山村が共生する「暮らし満足都市」を目指し、2つの仕組みを創出する。
①地域自ら考え、自ら動いて課題を解決する地域単位での「自立」を促す「地域自治システム」
②都市と農山村を様々な主体と「つなぐ」ことで課題解決を実践する「おいでん・さんそんシステム」
地域が自ら特性を活かした地域活性化を図っていくのが「地域自治システム」であり、これにより地域固有の取組も生まれてきた。しかし、未だ地域の過疎化を止めるには至っていない。そのために都市部と農山村をつなぐことで地域の発展を促す仕組みが「おいでん・さんそんシステム」であり、「自立」に足りないものを「つながり」で創出する仕組みを構築するものである。
【具体的な取組】
①「自立」のための地域課題解決を実践する「地域自治システム」
本市では平成17年より「地域自治システム」を導入した。当初は「困ったことがあれば役所がやってくれる」とのこれまでの意識が抜けず、一部地域では評判が悪かった地域自治システムであるが、9年が経過するなかで、「地域(住民)ができることは地域(住民)で行う」との意識転換が図られ、各地域が自立して地域課題を解決する仕組みが完全に定着している。
地域が自立して課題解決を行う事業として「わくわく事業」と「地域予算提案事業」の2つを設けている。
「わくわく事業」は、課題に対して地域住民自らが考え実行することを促す仕組みで、「地域予算提案事業」は、地域が課題解決の取組を市に提案する仕組み。地域会議での合意により決定、地域と行政が役割分担の下協働して取組んでいる。一部で、わくわく事業がコミュニティビジネスに発展している事例も出てきている。
取組にはシニア層を中心として参加者が広がり、シニア層の「自己実現や生きがいづくりの機会提供」の場となっている。
毎年300件ほどの事業が実施され、2万人以上が参加。このシステムがシニア層を容易に地域に飛び込ませる仕掛けになっている。
②「つながり」で地域間・多様な主体間を繋いで課題を解決する「おいでん・さんそんシステム」
自立の仕組みにより各地域が課題解決を行っているが、過疎化は依然として進んでいくなど地域単独ではその解決が困難なものがある。このようにひとつの地域だけでは解決できず、地域が協働してはじめて効果を持つ事業もある。
そこで、地域と地域(都市部と農山村部など)、地域と各主体(過疎集落と企業など)をつなぐことにより、お互いの課題を解決する仕組みを構築している。この「つながり」を「おいでん・さんそんセンター」が創出している。
「おいでん・さんそんセンター」は、まちとむらをつなぐ「プラットホーム」として、交流に関する総合窓口機能及び中間支援機能をもち、、農林業体験や山里暮らし体験など多様なニーズに応じた交流機会の提供や交流形態に応じたコーディネート等を実施している。これにより地域と地域、地域と様々な主体がつながり、各地域だけでは解決できない課題の解決に繋がっている。
【成功要因】
①多様な団体・人材が参加する地域会議による自主的な運営
中学校区単位(全27地区)で形成される地域会議の委員は地区住民から選出される。地域住民や地縁団体、有志グループ、老人クラブなどの各種団体等の意見集約・調整、地域課題の検討、事業選定等合意形成、市への提言などを行い、地域が自主的に課題解決を行う中心的な役割を担っている。このような組織が形成され、それがまちづくり基本条例に確固として位置付けられていることから、女性や若者も含め多様な人材が参加して地域の課題解決、活性化に向けた取り組みを行っている。
②地域間の情報共有・意思疎通を促進する多段階での会議開催
地域間での取組の横展開誘発や地域間の情報共有・取組事業の質の向上等を狙いに、広域的な地域課題を議論する代表者会議、同じような課題を持つ地域で議論する合同地域会議、システム全体について議論する正副代表者会議と各階層ごとに会議を開催、コミュニケーションの強化と取組の情報共有を図っている。
③前市長・現市長2人のリーダーの地域自治システム創出への強い意欲、専門部署の設置
地域自治システムの導入に当たり、前市長・現市長がともに地域に通い、「地域の課題解決を役所に頼ることなく、自ら解決していくことが必要」と地域住民を説得してきたことが事業実施を促した。また併せて、地域自治区を担当する専門組織を立上げ、地域会議の円滑なる実施の支援等にあたらせた。
【成果】
①都市部シニアとの共働による農山村部のコミュニティ機能の持続
都市と農山村の交流プログラム参加者は年間延べ一万人弱であり、これは農山村部人口の2/5に相当し、今後も増加が見込まれている。
このようなボランティア的な交流人口の増加は、限界集落の水準まで人口が減少しても、草刈りなど地域活動に必要な担い手が確保でき、集落のコミュニティ機能が維持されている。
②都市部シニアの活躍の場創出と健康寿命の延伸
「つながり」が生むこのようなメリット(都市部のマンパワー)は農山村だけが享受するのではない。都市部のシニアもまた農山村での活躍の場の確保、定期的な運動(農作業)による健康維持、生きがい・自己実現欲求の充足など、さまざまなメリットを享受している。
都市と農山村が「つながる」ことにより、互いの地域が強みを活かし、弱みを補いあうことができ、それぞれの地域の課題解決と持続可能な地域づくりにつながっている。
③「シニアは地域のコストではなく、担い手」という、ミライのフツーな価値観への転換
「地域自治システム」によってシニアを中心とした地域住民が自立的に活躍し、地域課題の解決に大きく貢献している。これにより、地域住民や行政等の間で、「シニアは地域のコスト」「地域の課題解決をするのは行政」という価値観から、「シニアは地域の担い手」「地域の課題解決をするのは住民自身」という価値観への転換が起こった。
さらに、「おいでん・さんそんセンター」によって、都市と農山村がつながり、互いの課題解決が行われたことにより、「農山村は都市のお荷物」という価値観から、「都市と農山村が互いの強みを発揮し弱みを補完し合うことにより、持続可能な地域が生まれる」という価値観への転換が起こった。
④各地域の活動を「見せる化」することで他地区での活動を誘発
各地域で市民による活動報告会が行われるほか、地域の回覧などでもこれらの活動は積極的に情報発信され、活動内容が「見せる化」される。これにより「あの地域がやっているなら、うちも」と、横展開が誘発される雰囲気が生まれている(旭地区の「木の駅」は全国で27の地区が同様の取組を行い、団体によるサイトを設立、情報発信している)。
実際、木の駅は旭地区を入れて全国で27の地区が同様の取組を行っている。横展開誘発のため木の駅プロジェクトを実施する団体によるポータルサイトも設立され、情報発信がなされている。
⑤ソーシャルビジネス化も含め活動の自立化を育成
はじめは、地域からの発案に対する解決の取組への補助金支給など行政からの支援を実施するが、担い手づくり等をおこなうことでソーシャルビジネス化も含めた住民主体の公益活動として自立化を育成・促すシステムとしており、自立した組織も出てきている。
⑥企業等も巻込んだ中間支援組織づくりによる住民の地域とのつながり創出
これまでCSR等で自主的に農山村との交流を実施してきた企業や労組等をプラットホームに巻き込むことで、より実効性のある組織となっているとともに、都市部勤労者が現役時代に、おいでん・さんそんセンターが認知され、リタイア後のセンターとの関わり創出にも繋がっている。
1)背景
①「日本の縮図」-都市と農山村が同居
豊田市は、平成17年に、都市部を流れる矢作川の上流6町村と合併した。流域の健全性が守られてこそ、都市も持続的に発展できるという考えのもと、100年先を考え、下流部との合併ではなく、あえて上流部との合併を選んだ。この合併により、自動車産業を中心とする産業都市と、自然豊かな農山村を併せ持つ約920k㎡の広大な自治体となった。
森林面積70%、市街化区域5%、都市計画内人口95%と、日本の割合とほぼ同じ土地利用となっている。また、高齢化率をみると、都市部(豊田地区・藤岡地区)は17.6%で東京都より低いが、農山村部(足助地区ほか4地区)は33.4%と、秋田県より高い高齢化率となっている(平成25年4月1日現在)。このように、都市部と農山村部が同居する豊田市はまさに「日本の縮図」といえる特徴をもつ自治体である。
②「急速に進む高齢化」-農山村部に加え、都市縁辺部で高齢者が激増
豊田市は、産業集積地でもあり、団塊世代に大きな膨らみを持つ人口構成を持ち、近い将来、高齢者の激増が見込まれる。2040年には65歳以上の高齢人口は現在の1.7倍の12万人超になると推計されている。
後期高齢者は今後農山村部だけでなく、主に団塊世代等の居住地である都市郊外において激増することが見込まれる。
2)課題
①「市民の課題」-地域での活躍の場不足・健康に不安
今後増加が見込まれる都市部等における高齢者の多くは、市内に転入した人が多く、地縁が薄いなかで、地域との関係づくり等への対応が課題となっている。
そのような中で、65歳以上においては地域の助け合い活動等に関心を示す割合が3/4と意欲的である。一方で、日頃の生活において健康状態への不安も高く、リタイア層を中心とした地域での活躍の場づくり、健康維持の取組が必要となっている。
②「地域の課題」-都市と農山村それぞれ地域固有の課題
超高齢化の進展により、それぞれの地域に多様な課題が生まれつつある。 例えば、高齢者が激増する都市部では「独居高齢者の見守り」「地域のつながりの希薄さ」、すでに過疎化が進んでいる農山村部では「農林業の担い手不足」「草刈りなど集落維持活動の担い手不足」「地域経済・雇用の衰退」など、地域によってさまざまである。これらそれぞれに固有の対応が必要となる。
課題は増加する一方で、高齢化の進展による行政(市)の財政負担の増加は避けられない。また、全市一律の施策では個別の課題に対する効果的な対応は難しい。課題の解決のためには行政だけでは難しく、地域それぞれで自らの地域課題に取組む新たな地域の担い手が必要とされている。
都市と農山村が共生する「暮らし満足都市」を目指し、以下の2つの仕組みを創出する。
①地域自ら考え、自ら動いて課題を解決する地域単位での「自立」を促す「地域自治システム」
②都市と農山村を様々な主体と「つなぐ」ことで課題解決を実践する「おいでん・さんそんシステム」
地域自治システムは合併以前より考えられてきたが、平成17年の広域合併により地域事情の異なる多様な特性を持つ地域が生まれ、これまでの一律な行政施策では十分な成果が生まれにくくなっている。多様性を自ら活かして地域の活性化を図っていくのが地域自治システムである。地域自治システムを取り入れることにより地域特性を活かした取組ができてきている。
しかし地域自治システムが導入され10年近く経つが、地域の過疎化を止めるまでには至っていない。そこで「つなぐ機能が必要である」との認識が芽生え、地域自治ではできない部分である都市と農山村などを「つなぐ」ことで地域の発展を促す取組を取り入れた。これが「おいでん・さんそんシステム」である。
これは「自立」した地域をめざし地域が自ら課題解決に動く中で、都市部と農山村部の交流など「つながり」により他地域のリソースも活用して課題解決に導くものである。「自立」に足りないものは「つながり」を活用して補う、あるいは「つながり」を活用して創出する仕組みを構築するということである。
また地域自治システムは「シニアは地域のコストではなく担い手である」「地域の課題解決をするのは地域住民自身である」「地域づくりこそが生きがいと達成感を生み出す最高のレジャーである」「都市と農山村が互いの強みを発揮し弱みを補完する」という価値観、地域の課題は自ら解決するとの意識転換を市民にも行政にも促している。
<地域自治システム>
H16 地方自治法改正(地域自治区の設置が可能となったことから地域自治システムはこれを活用)
H17 周辺6町村との広域合併…一律な施策に限界が生じた
H17 豊田市まちづくり基本条例・豊田市地域自治区条例制定…条例で自治システムを位置づけ
<おいでん・さんそんシステム>
H20 第7次総合計画の重点テーマに「都市と農山村の共生」を明記(位置づけ)
豊田市まちづくり基本条例(平成17年制定)に「共働によるまちづくりの推進」、「都市内分権の推進」を図るため市長の権限に属する事務の一部を地域自治区に委ねること等を明確に位置づけて推進している。
特になし
-
<地域自治システム> ※市単独事業(プロジェクト予算の項参照)
わくわく事業 H25: 84,447千円 H26: 77,765千円
地域予算提案事業 H25:140,503千円 H26:150,993千円
<おいでん・さんそんシステム>
(市単独事業)交流コーディネート事業 H25:17,420千円 H26:18,523千円
(補助事業)「市町村振興事業を掘り起こすための助成事業」(一般財団法人全国市町村協会)2,000千円 (H26)
-
<地域自治システム>
・実施:各地域会議に予算枠を配分、地域住民が中心となり各地域独自の事業を企画、審査の上取組む
<おいでん・さんそんシステム>
・企画行政や産業等に明るく、志と熱意を持った職員、鈴木センター長(中山間地域在住)が担う
<地域自治システム>
・地域会議に参加する地域の公的団体推薦者(地区区長会、自治区、コミュニティ会議、自治区関係団体、民生児童委員、PTA、商工会、観光協会等)、識見者、公募で選任された方(地域住民)。
なお、地域会議委員は個人それぞれに活躍してもらうことを期待しており、団体ではなく個人に委嘱。
<おいでん・さんそんシステム>
都市と農山村との交流事業を実施してきたNPO法人・ボランティア団体等(「豊森なりわい塾」など:資料おいでん・さんそんセンター「おいでん・さんそんセンターを支える仲間たち」参照)
それぞれの取組みでは、大学等との連携が行われているものも多数ある。一例を挙げると以下の通り。
<地域自治システム>
・ 逢妻地区交通安全事業…地区内にキャンパスがある愛知学泉大学と連携して事業を実施
<おいでん・さんそんシステム>
・ 名古屋外国語大学とのインターンシップ事業、㈱ジオコスとの連携によるインターンシップ事業
・ トヨタ生協との連携によるグリーンツーリズム事業など
豊田市においては、地域課題の解決に向け、「①地域内の自立×②地域間のつながり」を創り出すことによってシニアを地域の担い手に変える未来型自治モデルを実践している。
①「自立」のための地域課題解決を実践する「地域自治システム」
超高齢化によって各地域が抱えた課題には、その地域の特性もあることから、まず何より地域が自ら考え解決していくことが求められる。そこで、本市では平成17年より「地域自治システム」を導入した。当初は「困ったことがあれば役所がやってくれる」とのこれまでの意識が抜けず、一部地域では評判が悪かった地域自治システムであるが、システム開始から9年が経過するなかで、「地域(住民)ができることは地域(住民)で行う」との意識転換が図られ、各地域が自立して地域課題を解決する持続可能な仕組みが完全に定着している。
地域が自立して課題解決を行う事業として「わくわく事業」と「地域予算提案事業」の2つを設けている。「わくわく事業」は、各地域が持つ課題に対して地域住民自らが考え実行することを促す仕組みで、「地域予算提案事業」は、地域が課題解決の取組を市に提案する仕組みであり、地域会議での合意により決定され、地域と行政が役割分担の下協働して取組むことを基本としている。
取組にはシニア層を中心として参加者が広がり、シニア層の「自己実現や生きがいづくりの機会提供」の場となっている。毎年300件ほどの事業が実施され、2万人以上が参加しており、参加者割合はシニア層が非常に高い。地域的には合併した中山間地域での取組が多い。産業都市という豊田市の特性上都市部では市内に転入した人(地縁が比較的薄い人)が多いなかで、このシステムがこれらのシニアを容易に地域に飛び込ませる仕掛けになっている。
また、一部においては、わくわく事業がコミュニティビジネスに発展している事例も出てきている(後述の成果の項参照)。
さらに、事業についても自立を促していくため、100%から90%に補助率を下げるなど制度の見直しや補助に替り委託料や参加料を徴収するよう促すなどの指導をしている。実際、「高橋おせんしょの会」では協力金や実費を徴収するなど自立に繋がるよう取組まれてきている。
http://www.city.toyota.aichi.jp/shisei/jichiku/yosanteian/index.html
http://www.city.toyota.aichi.jp/shisei/jichiku/wakuwakujigyo/index.html
②「つながり」で地域間・多様な主体間を繋いで課題を解決する「おいでん・さんそんシステム」
①の自立の仕組みにより各地域が自立して課題解決を行うようになった。しかし、過疎化は依然として進んでいくなど地域単独ではその解決が困難なものがある。このようにひとつの地域だけでは解決できず、地域が協働してはじめて効果を持つ事業もある。加えて、企業や大学、NPOなど新たなまちづくりの主体も誕生してきた。
そこで、地域と地域(都市部と農山村部など)、地域と各主体(過疎集落と企業など)がつながることによって、お互いの課題を解決する「つながり」の仕組みを構築している。具体的には、農林業体験や山里暮らし体験など多様なニーズに応じた交流機会の提供や交流形態に応じたコーディネート等を実施している。
この「つながり」を創出しているのが「おいでん・さんそんセンター」である。
「おいでん・さんそんセンター」は、平成25年度に農山村住民と都市住民・企業等のマルチステークホルダーが協働し、設置に至った。まちとむらをつなぐ「プラットホーム」として、交流に関する総合窓口機能及び中間支援機能をもち、地域と地域、地域と様々な主体がつながり、都市部リタイア層の活躍の場の創出、農山村部の集落維持など、各地域だけでは解決できない課題の解決に繋がっている。
【具体的な取組】
○山里交流バンク
希望する交流種目、参加(受入)人員数などの情報を基にリスト化(データーベース化)し、その内容に応じた相手を探し、マッチングするとともに、各団体がパートナーシップを構築するまでサポートを行う。
センターに相談 →センター情報より交流相手を選定 →交流方法の検討 →交流事業の実施
○パートナーエリア協定推進モデル事業
都市部と農山村部の集落、自治区等による地域間のパートナーエリア協定や地域と企業間の協定について、先進事例の調査・研究、エリア協定締結による交流モデルの提案、実施、検証を行い、横展開に向けた仕組みを構築する。
○集落活動支援事業の運営
農山村地域から支援希望内容を募り、都市地域から集落活動応援隊への参加者を募り(ボランティアの養成・登録)、両者をマッチングする。
○地域スモールビジネス創出に向けた調査・研究
地域の小仕事情報の集約・シェアの仕組みづくり、既に生まれたビジネスの横展開策の調査研究など
平成17年 周辺6町村と合併
平成17年 「地域自治システム」を導入
平成17年 地域会議の設置(旧町村地域)
平成17年 わくわく事業開始
平成18年 地域会議の設置(旧豊田市地域)
平成21年 地域予算提案事業開始
平成25年4月 「おいでん・さんそんセンター準備室」立ち上げ
平成25年8月 「おいでん・さんそんセンター」設置(農山村住民と都市住民・企業等の協働)
「わくわく事業」の予算は500万円/地域が上限であり、地域会議では応募案件の審査会が開かれ、厳しくその内容が吟味され、実施されている(支出は原材料費や備品等に限られている)。実際の支出額は予算の7割程度となっている。
「地域予算提案事業」は地域会議で集約された地域の課題を市の施策に的確に反映させ、効果的に地域課題を解決する仕組みである。予算の上限は2,000万円/地域で予算規模が大きいことから地域への影響力は「わくわく事業」に比べて大きく、事業実施に当たっては地域内での合意形成を必要要件としている。これら事業の決算額は以下の通りである。
【わくわく事業(交付件数 交付金額)】
平成17年度 137件 67,932千円
平成18年度 264件 104,804千円
平成19年度 240件 103,696千円
平成20年度 257件 104,164千円
平成21年度 270件 102,312千円
平成22年度 380件 98,134千円
平成23年度 274件 84,348千円
平成24年度 285件 88,131千円
平成25年度 280件 84,447千円
平成26年度 274件 77,765千円
※平成17年度は旧豊田市を除く地域のみで実施
【地域予算提案事業(事業数(うち新規)交付金額)】
平成21年度 23件(23件) 57,960千円
平成22年度 52件(37件)166,275千円
平成23年度 55件(9件) 112,189千円
平成24年度 67件(30件)183,730千円
平成25年度 64件(9件) 140,503千円
平成26年度 68件(19件)150,994千円
地域自治システムの条例の制定、立ち上げ時などで大森彌 千葉大学教授(当時)、今川晃 同志社大学教授(当時)より指導を戴く。現在もセミナー等での講演など支援を戴いている。
「自立」の仕組は地域自治システム(地域会議が担う)が、「つながり」の仕組は「おいでん・さんそんシステム(おいでん・さんそんセンターが担う)」がその『プラットホーム』として機能する。
①自立:地域自治システム
地域自治システムでは、地域住民が主体となり、地域の課題解決のための取り組みを推進する。わくわく事業では、地域の課題を解決するための事業について、地域住民が活動団体を発足させ提案。提案された事業については、地域住民の代表から成る地域会議で地域住民が自ら選定する仕組みとなっている(地域会議についてはこちら http://www.city.toyota.aichi.jp/shisei/jichiku/chiikikaigi/index.html)。
地域ではわくわく事業選定のために各提案事業の審査会を行っているが、画一的な評価を求めるのではなく、地域の違いを認め評価することで地域の個性と多様性の維持に寄与しているほか、地域の中でも厳しい審査がなされている。また、地域会議の委員も若い人や女性が委員となるなど多様な方々が委員として活躍するようになってきている。
行政は地域住民が選定した事業についての相談を受けるほか、その地域が必要としている事業についてサジェスチョンを行う等の支援に留めている。また事業の初期段階における助成は実施するものの、基本的には各団体が自立して活動をすることを最終目標とし、支援を行っている。
(資料:地域自治システムについて)
②つながり:おいでん・さんそんシステム
おいでん・さんそんシステムを担うおいでん・さんそんセンターの運営は、学識者、企業、行政、労組、活動団体、市民からなる市役所主導の「都市農山村交流促進連絡会議(年2,3回開催)」で大まかな運営方針・方法等を決定する。一方、毎月開催する「プラットホーム会議」はおいでん・さんそんセンター設立以前から都市と農山村の交流を行っていた団体等が集まり、実務面から交流事業実施のための協議等を行っている。
なお、おいでん・さんそんセンターでは民営化で公金に頼らない体制を構築することを目標にしており、プラットホーム会議を中心に平成28年度には民営の法人を設立する予定である。
(資料 おいでん・さんそんセンターについて)
①多様な団体・人材が参加する地域会議による自主的な運営
地域会議は、中学校区単位(全27地区)で形成されており、委員は各地区の住民から選出される。地域の公共的団体等マルチステークホルダー(地域住民や地縁団体、有志グループ、老人クラブなどの各種団体)の意見集約・調整、地域課題の検討、合意形成、市への提言などを行い、地域が自主的に課題解決を行う中心的な役割を担う。このような組織が形成され、それがまちづくり基本条例に確固として位置付けられており、女性や若者も含め多様な人材の地域会議への参加が地域の課題解決、活性化を進めている。
②地域間の情報共有・意思疎通を促進する多段階での会議開催
地域会議に市が権限や予算をある程度移譲するなど、地域の自主性を重視した運営となっており、一律の行政施策では解決できない各地域固有の課題を地域で解決する仕組みとしている。地域間での取組の横展開誘発や地域間の情報共有・取組事業の質の向上等を狙いに、各階層ごとに地域の関係者が集まる会議を開催、コミュニケーションと取組の情報共有を図っている。
・代表者会議 同一地域自治区内の地域会議の代表者が集まり、広域的な地域課題について議論。
・正副会長会議 全27の地域会議の正副会長があつまり、システム全体について議論。
・合同地域会議 同じような課題を持つ地域同士合同で会議を開催。
③前市長・現市長2人のリーダーの地域自治システム創出への強い意欲、専門部署の設置
地域自治システムの導入に当たっては、前市長・現市長がともに地域に通い、「今後は地域の課題解決を役所に頼ることなく、自ら解決していくことが必要」と地域住民を説得してきたことが事業の実施を促した。
また併せて、地域自治区を担当する専門組織を立ち上げ、地域会議による事業の選定や実施する活動の決定、実行の支援・推進にあたらせた。また地域自治区の活動の高度化とともに、専門組織もその人員・内容等を充実している。
①都市部シニアとの共働による農山村部のコミュニティ機能の持続
都市と農山村の交流プログラム参加者は年間延べ一万人弱であり、これは農山村部人口の2/5に相当し、今後も増加が見込まれている。
単なる観光による交流人口の増加と違い、このようなボランティア的な交流人口の増加は、過疎集落にとって大きな意味を持つ。限界集落の水準まで人口が減少しても、草刈りなど地域活動に必要な担い手は確保できるため、集落のコミュニティ機能は維持可能となっている(限界集落の持続の一つのあり方)。ボランティア的な交流を年間を通じ1か月につき4日の土日に従事することで1人の定住者に相当すると考えると、実質的な限界化のスピードは3割程度遅くなる。
②都市部シニアの活躍の場創出と健康寿命の延伸
「つながり」が生む都市部のマンパワーがもたらすメリットは農山村だけが享受するのではない。都市部のシニアもまた農山村での活躍の場の確保、定期的な運動(農作業)による健康維持、生きがい・自己実現欲求の充足など、さまざまなメリットを享受している。
都市と農山村、二つの地域が「つながる」ことによって、お互いの地域が強みを活かし、弱みを補いあうことができ、それぞれの地域の課題解決と持続可能な地域づくりにつながっている。
③「シニアは地域のコストではなく、担い手」という、ミライのフツーな価値観への転換
「自立:地域自治システム」によってシニアを中心とした地域住民が自立的に活躍し、地域課題の解決に大きく貢献している。これにより、地域住民や行政等の間で、「シニアは地域のコスト」「地域の課題解決をするのは行政」「地域づくりは面倒なお役所の仕事」という価値観から、「シニアは地域の担い手」「地域の課題解決をするのは住民自身」「地域づくりこそが生きがいと達成感を生み出す最高のレジャー」という価値観への転換が起こった。
さらに、「つながり:おいでん・さんそんセンター」によって、都市と農山村がつながり、お互いの課題解決が行われたことにより、「農山村は都市のお荷物」という価値観から、「都市と農山村が互いの強みを発揮し弱みを補完し合うことにより、持続可能な地域が生まれる」という価値観への転換が起こった。価値観の転換がさらに多様な住民の活躍を招いている。
④各地域の活動を「見せる化」することで他地区での活動を誘発
各地域で市民による活動報告会が行われるほか、地域の回覧などでもこれらの活動は積極的に情報発信され、活動内容が「見せる化」される。これにより活動者のモチベーションアップにつながるとともに、「あの地域がやっているなら、うちも」と、横展開が誘発される雰囲気が生まれている。
実際、木の駅は旭地区を入れて全国で27の地区が同様の取組を行っている。横展開誘発のため木の駅プロジェクトを実施する団体によるポータルサイトも設立され、情報発信がなされている。
⑤ソーシャルビジネス化も含め活動の自立化を育成
はじめは、地域からの発案に対する解決の取組への補助金支給など行政からの支援を実施するが、その中で事業のリーダーとしての担い手づくり等をおこなうことで、ソーシャルビジネス化も含めた住民主体の公益活動の自立化を育成するシステムとしている。
講演会の受託あるいは独居老人に替り庭木の剪定、掃除、ゴミだしなどを行う等によりソーシャルビジネス化を図り自立した組織も出てきている。
⑥企業等を巻込んだ中間支援組織づくりによる住民の地域とのつながり創出
これまでCSR等で自主的に農山村との交流を実施してきた企業や労組等をプラットホームに巻き込むことで、より実効性のある組織となっているとともに、民営化の実現性を高めている。また、企業を巻き込んでいることで、都市部勤労者の現役時代における、おいでん・さんそんセンター等の周知が可能となり、リタイア後のセンターとの関わり創出にも繋がっている。このように地域とのつながりが早い内から芽生えてきている。
※本プロジェクトの成果として各地域での取組事例をあげる以下のとおりである。
ア.「元気シニア」×「世話好き」=ソーシャルビジネス ~高橋おせんしょ(世話好き、おせっかいの三河地区の方言)の会~
高橋地区は、市中心部近くのベッドタウンとして発展。典型的な郊外型住宅地として、シニア層の増加、独居高齢者の増加が進んできた。このような中、平成21年に「高橋おせんしょの会」が発足。地域自治システムによる支援も働き、独居高齢者や障がい者を対象とした、蛍光灯の交換、庭木の剪定、家の掃除、ゴミだし等の手伝いを実施している。60~70代の定年退職者が中心となり(メンバーの平均年齢は64.5歳)、いまでは他地域へも展開・収入を確保し、ソーシャルビジネスとして持続可能な活動となりつつある。
市内外への情報発信、横展開の働きかけを積極的に実施しており、視察も多数受け入れている。
設立年月: 平成21年9月
会 員 数: 38名(H25.4現在)
活動地域: 高橋・美里地区(中学校区)
活動内容: 高齢者・障がい者等の方々からの自分ではできない依頼作業
作業料金: 実費 + 協力金(人工代 最初の30分300円、その後30分200円×人員)
(PDF:高橋おせんしょの会)
イ.「間伐材」×「地域通貨」=地域経済活性化 ~旭木の駅プロジェクト~
旭地区は高齢化率が40%を超え、過疎化が進行している農村地域である。地域の基幹産業であった林業が衰退し、山が荒れるとともに、商店の撤退等の生活機能の低下が大きな課題となっていた。
旭地域内の林地に放置された間伐材等を搬出し、資源として活用するとともに、木材の対価として地域通貨を導入することにより、地域経済の活性化を図る「旭木の駅プロジェクト」が発足した。
市場に出荷できない間伐材等の木材を山林所有者が「木の駅」に出荷すると、地域通貨であるモリ券(使用は登録された旭地区内の店舗)が支払われる仕組み。
これにより、間伐が促進し年間約350tが搬出され、地域通貨発行額は、年間約200万円となっている。これは人口3千人弱の地域にとって大きな効果をもたらし、環境(山)の保全だけでなく、林業や商業をはじめとする地域経済の活性化、地産地消、地域内消費拡大、ひいては地域雇用にもつながっている。全国の農山村で横展開が進む。視察も多数受け入れている。(H25年度:14団体215名)
(PDF:旭木の駅プロジェクトの概要)
ウ.「農山村部」×「都市部企業退職者」= Win-Winの課題解決 ~集落活動応援隊~
集落活動応援隊は、豊田市の農山村地域において過疎化や高齢化の進行により集落が単独で行う事が困難となった集落の共同作業(生活道路の草刈りなど)を応援するボランティア組織で、作業の応援を通じて都市住民と農山村地域の人々との交流促進を図るものである。主に、都市部の企業退職者が登録している。
おいでん・さんそんセンターにおいて、農山村地域から支援希望内容を募り、都市地域から集落活動応援隊への参加者を募り、両者をマッチングしている。お互いにとっての課題解決(Win-Win)となる上、行政コスト削減にもつながっている。
(PDF:「おいでん・さんそんセンター」の概要)
■平成26年度集落活動応援隊の実績
活動日 活動場所 世帯数(人口) 高齢化率 応援隊 集落 活動内容
4/19 岩下町 11世帯(15人) 67% 13人 10人 環境美化活動(竹藪刈作業)
6/14 岩下町 11世帯(15人) 67% 8人 10人 環境美化活動(市道の草刈作業)
8/31 旭八幡町 15世帯(35人) 60% 12人 20人 環境美化活動(草刈)、お祭り準備
9/14 岩下町 11世帯(15人) 67% 5人 10人 環境美化活動(市道の草刈作業)
10/12 旭八幡町 15世帯(35人) 60% 5人 20人 お祭り準備
1/24 日下部町 29世帯(85人) 57% 5人 20人 梅の木の剪定
<地域自治システム>
・参加者の増加、年数の経過・知名度の向上に伴い、参加者を中心にではあるが、「自分たちの地域を自らよくしよう」という気運が高まっている。これらの地域では地域会議委員も多様化してきており、若者や女性が積極的に委員に就任するようになっている。また、「わくわく事業」等で自由度の高い補助金を活用するプロセスで人材が育ち、地域が活性化している点も挙げられる。
<おいでん・さんそんシステム>
・都市部(貢献・承認欲求の充足)・農山村部(地域の困りごと解決)のWin-Winの関係が生まれているほか、都市部と農山村部の住民が顔なじみになるなど心理的な距離も縮まりつつある。
合併により豊田市内に農山村と都市が併存するようになっており、一つの行政区のなかに都市・農山村があることでこれらの距離は合併前よりは近くなってきている。このことがWin-Winの関係構築に寄与している。
①認知度のさらなる向上
いずれの事業においても参加者は増加してきているものの更に多くが事業に参加し、シニア層の活力と生きがいに繋がり、結果、地域の持続を後押しするように認知度を高め、参加者増を図る
②事業の客観的な評価
事業には多くの団体の参加を求める一方補助金頼みでの事業を継続する団体も見られる。このように事業は多種多様でありその評価は難しい。地域まちづくりビジョンを示し、その中での立ち位置を明確にするなど基準があれば地域住民の評価・理解も進むと考えられる。
③おいでん・さんそんセンターの自立とマンパワーの強化
おいでん・さんそんセンターは、平成28年度を目途に民営の組織を設立し、民営化へのシフトを進める予定であるため、その詳細について検討する必要がある。
また、おいでん・さんそんセンターはパートも含め6名のスタッフ体制で運営しているが、60以上の事業関わっており、マンパワーも不足している。
①認知度向上のための地道な広報
行政としては事業の参加者増のためにも取組事業の成果報告会・事例集の発行/事業団体の掲載など事業団体の口コミ広報なども含め多様な手段により事業の広報・理解を進めていき、認知度向上に繋げる。
②地域への愛着や地域課題を問うアンケートによる定点観測
事業については4年に一度、地域への愛着や地域課題を問うアンケート調査を実施している。今後もアンケート調査を実施、これを活用して市民ニーズや各地域でのニーズ・課題を把握、事業の評価や企画・取組のサジェスチョン等に活用していく。
③交流事業等のコーディネートと「地域おこし協力隊」等の活用
都市と農山村の交流のニーズが高いため、都市部の企業等からコーディネート料を徴収して交流のコーディネートを行うことを検討している。また、マンパワー不足については総務省事業である「地域おこし協力隊」の活用などによりスタッフの確保を図り、センターの運営の強化を進める。
①仕組みづくりと少しの行政の後押しがあれば、比較的容易に展開可能。
この「ミライのフツー」な自治モデルは、「自立×つながり」の仕組みづくりと、行政による少額の補助金など立ち上げ時の少しの後押しがあれば、シニアを中心とした地域住民が自立的に、また他地域とつながりながらそれぞれの地域の課題解決を行うものであり、一旦軌道に乗れば各地域で連鎖的に広がっていくものである。
「シニアは地域のコストではなく担い手である」「地域の課題解決をするのは地域住民自身である」「地域づくりこそが生きがいと達成感を生み出す最高のレジャーである」「都市と農山村が互いの強みを発揮し弱みを補完する」という価値観の転換が市民にも行政にも必要であるため、定着には少々の時間が必要であり、粘り強く取り組んでいくことが重要である。行政の費用負担が少ない、もしくは必要ないのも魅力。
②地域住民による各地域の課題解決の取組が、横展開で他地域に広がり
各地域で行われている課題解決のための活動は、行政が税金を支出して全市一律に行う施策ではなく、各地域の住民が自ら考え、自ら行う取組である。そのため、各取組には現場から生まれたアイディアがあふれており、条件が似ていれば他地域でも横展開可能なものが多い。また、「あの地域がやっているなら、うちも」と、横展開を誘発する雰囲気も生まれている(一部の取組では横展開がなされている)。
豊田市地域自治区条例は添付の通り