【背景・課題、目的・目標】
佐渡市は、平成16年3月に10市町村が合併し1島1市となった。島の人口は62,727人(平成22年国勢調査)で、高齢化率も直近では37%を超え、過疎・高齢化の進展が著しい。介護を必要としている高齢者も5,146人(H26.4)に上り、高齢者の約22%が要介護・要支援の認定を受け、このうち8割は医療が必要な高齢者である。
高齢化は患者のみならず医師や医療従事者へも影響し、閉院する診療所も出てきており、そのまま放置しておけば確実に佐渡の医療や介護は崩壊してしまう危惧があった。そこで、本事業を発案した佐渡総合病院の医師が自らキーマンとなって動き、佐渡医師会、歯科医師会、薬剤師会、福祉施設関係者が一体となり「さどひまわりネット」を立ち上げ、医療・介護の提供体制を維持し、下記の現状・課題解決のため、既存の環境や医療資源を最大限活かす仕組みづくりに着手することとなった。
①超高齢化による要介護・要医療者の増加と病態の複雑化(介護サービスを受けている者の殆んどが複数の疾患を持ち、医療を必要とする)
②圧倒的に少ない医療資源(少ない医師、医療機関、医療従事者及び中核病院への集中)
③機能分担・専門化による提供サービスの分断(情報共有に基く診療科・施設間の連携・コミュニケーションの必要)
④困難を極める在宅診療(集落の点在、医療資源不足)
⑤離島であること(天候により本土搬送や応援が呼べない)
さどひまわりネットは、参加する病院・医療・介護施設が主役ではなく、主役は「患者である市民」であり、島内の医療資源を最大限に活用し、島の医療・介護連携を進め、その提供体制を維持する取組である。こうした取組の結果として高齢者が元気に活動できる島が形成される。佐渡地域医療連携推進協議会では「医療・介護は協働作業で成立する」との認識のもとで、情報共有をキーワードに「さどひまわりネット」の構築にあたり、以下の3つの目標を設定した。
①参加するすべての施設で情報の提供と参照が可能な双方向システムとすること
・診療情報の共有によりどこにかかってもすぐ適切な処置が可能(情報提供・参照可能な双方向の連携)
・診療情報の活用(電子データ化されたレセプト情報の活用等最小必要限の情報を収集)
②ネットワークへの参加を促進するため参加施設の業務負荷とコスト負担を可能な限り抑えること
・病院・診療所・歯科診療所・調剤薬局・介護施設の参加(既存システムからの自動での情報収集等)
・自主・自立・継続(行政頼みではない運営、妥協できる費用・業務負担-コストと機能のバランス-)
③島民のメリットがわかり易く、情報共有に多くの市民から同意してもらえるシステムとすること
・かかりつけ診療所で治療を継続(診療所・病院間で情報の共有、特別な場合は病院へ)
・迅速な治療(参加施設間で患者の傷病、治療・検査や投薬状況がわかり、適切な処置が可能)
【取組内容】
(1)地域医療連携ネットワークの推進計画策定、設計システム設計・開発
成22年1月に新潟県が策定した地域医療再生計画に基づき、平成22年度に地域医療連携ネットワークを実現するための体制整備(協議会立上げ準備/スケジュールの設定等)、23年度は佐渡地域医療連携推進協議会を立ち上げ、ネットワークシステムの具備すべき機能・仕様の設計、そして24年度には第1期開発として、医科・歯科・薬局間の連携システムの開発を行い、25年4月から佐渡地域医療連携ネットワーク「さどひまわりネット」が稼働した。
(2)さどひまわりネットの稼働
平成25年度は、第2期として介護・在宅の連携に係るシステム開発を行い、平成25年12月介護施設・在宅との情報連携が、26年2月には健診情報の連携が可能となり、平成26年度に本格的な運用に至っている。
この地域連携システムでは、より多くの施設の参加と診療情報の提供に同意する市民の数が要となることから医療・介護施設や市民への参加勧誘を行い、医療・介護施設では約6割が、当初10%でスタートした市民の参加は24%にまで増加している。
①参加施設数 72施設(H27.7.15現在)
内訳(病院6、医科診療所14、歯科診療所6、調剤薬局12、介護事業者34)
②診療情報同意取得者数
平成25年4月 5,923人(人口比 9.5%)
平成26年7月 12,435人(人口比19.8%)
平成27年7月 14,286人(人口比22.8%)
(3)さどひまわりネットの特徴
①電子データ化されているレセプトデータを核とした情報共有システムで全ての参加施設が情報提供と参照を行う双方向連携システムである(病院⇔医科・歯科診療所⇔薬局⇔介護施設)
②訪問診療を前提としない在宅診療支援システム(第2期(平成25年度)開発)
・タブレット端末等で遠隔地での診療支援を行う-介護と医療の連携
・地域連携クリニカルマップ - 病院・診療所間の連携による患者の健康管理
・施設間連携業務 - 介護、歯科診療所、調剤薬局間の連携による患者の健康管理
③セキュリティ対策
患者の医療情報は最も重要な「個人情報」であるため、セキュリティ対策にも注力している。
・システムのセキュリティ-厚生労働省 「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」等国の安全管理基準に準拠
・「人」へのセキュリティ-診療情報は診療に関わる者で共有し、活用されることが前提。診療情報を扱う者は「守秘義務」を負う。患者情報取扱い規約の患者側への提示、施設参加・利用規約遵守の施設への提示、運用管理規程遵守をNPO法人・ベンダー・保守業者へ提示して承認を得て実施。
④持続可能なシステム運営
・診療情報の提供は既存の機器からの自動収集が基本。参加施設の負担を極力軽減する(費用負担・業務負担、運用コスト)
・自主・自立の運営(運営は参加施設の利用料で賄う、運営法人の設置 NPO法人「佐渡地域医療連携推進協議会」)
【成功要因】
①施設の参加を促す廉価な負担額、業務負担の少なさ、マニュアル不要のシステムの操作性実現
・新たな作業が発生しないよう既存の機器からレセプトデータや検査・画像データなどが自動で収集される仕組みとしている。
・さらに自動収集されたデータを用いて同一患者を自動で名寄せし、同意患者の情報のみをクラウド上の統合データベースで一元管理する
・システム開発には現場の医師や介護士の声を反映し、誰もが使いやすいシステムを実現。
②本プロジェクトの遂行者佐藤佐渡総合病院副院長の強いリーダーシップ
「さどひまわりネット」を作成するにあたり協議会理事およびネットワークシステム検討委員会委員長として事業を遂行してきた佐藤医師の強いリーダーシップが大きい。システム検討に当たりコンセプトの明示・機能の取捨選択などを一貫して利用者視点に立ち構築、参加者増加に繋げた。
③事業継続性を考えた自立運用が可能な適応性の高いシステム
開発段階から要件定義に事業継続性や10年間の保守期間等を視野に入れ実施、適応性の高いシステムを創り上げた。
④情報共有と参照が可能な双方向ネットワークで医療・介護施設等での患者のリスク管理が可能
レセプト情報、健診情報、介護サービス内容等の情報一元化などにより、介護施設職員は患者の処方内容、緊急時対応などの医療情報の把握が、また医師は介護サービス内容やADL(日常生活動作)の推移などの把握が可能となり患者の健康向上に対し連携した取組が可能となる。
【成果】
医療情報を共有する患者においては重複検査や重複処方の回避等のほか、既往歴、検査結果の推移等から的確な診断が可能となり、地域医療を最低限の医療資源で担え、患者への良質な医療提供が期待できる。また、何よりも参加施設や市民の増加が要であり、利用増が成果である。
①医療情報等の共有により患者への医療提供の水準向上が可能
・初診であっても既往症や直近検査データ等の履歴が利用可能で、医師の省力化と少ない時間で適切な診断・処置を行える。
②かかりつけ医での治療継続が可能
・病院と診療所の検査・投薬などの情報が共有され、特別に病院での処置が必要な場合を除けば、かかりつけ医での治療が継続できる。
③重複した検査・投薬や禁忌の薬剤投与がなくなる
・医療機関を移るたび、同じ検査を繰り返すことや重複した投薬がなくなる。複数の病院での処方調剤での禁忌薬剤の投与防げる。
④適切な介護計画によるQOLの維持が可能となる
・介護施設でも医療情報が得られれば、適切な介護計画、日常生活動作(ADL)の改善など、生活の質(QOL)の維持が可能となる
⑤ひまわりネットの活用により医師の指示で在宅での適切な処置が可能
・訪問看護時などに携帯端末等でバイタルの状況をひまわりネットで送信、すぐにシステムを通じて医師の指示が得られ、適切な処置が可能
⑥健康年齢の伸長
・かかりつけ医と病院の連携、介護施設での適切なケア等により、介護を必要な高齢者の重度化への進行の抑制、住み慣れた地域での生活継続ができ、本人や地域にとっても幸せな状況が創出可能。
⑦災害時に備えたリダンダンシーの確保
・地震や豪雨等の災害時にあっても、サーバーが本土側のデータセンターにあり、被災時にカルテが失われても、記録の再現、医療に活かせる。
佐渡市は、平成16年3月に10市町村が合併し1島1市となった。
島の人口は62,727人(平成22年国勢調査)で、昭和40年には10万人を超えていたが年々減少し、高齢化率も直近では37%を超え、過疎・少子高齢化の進展が著しい。
このため、介護を必要としている高齢者も5,146人(H26.4)に上り、高齢者の約22%が要介護・要支援の認定を受け、このうち8割は医療が必要な高齢者である。
人口は商業・経済の中心である島の中央部に集中し、医療機関もここに集中しているが、広い面積に集落が点在している状況にある。
医師数は人口10万人当たり143.5人(新潟県 191.2人、全国230.4人)と大幅に少ない。全国的にも都市部と地方では医療格差が拡大しているが、離島である佐渡はさらに厳しい。島の救急医療は、休日・夜間とも中央部に位置する佐渡総合病院への搬送数が最も多く、唯一の周産期医療も同病院にある産婦人科医師が担っているため、これら診療を担当する医師の疲弊も激しい。
高齢化は患者のみならず医師や医療従事者へも影響し、閉院する診療所も出てきており、周辺部から中央部の医療機関へ行くにも、また往診するにも深刻な状況であり、そのまま放置しておけば確実に佐渡の医療や介護は崩壊してしまう危惧があった。
そこで、本事業を発案した佐渡総合病院の医師が自らキーマンとなって動き、佐渡医師会、歯科医師会、薬剤師会、福祉施設関係者が一体となり「さどひまわりネット」を立ち上げ、医療・介護の提供体制を維持し、下記の現状・課題解決のため、既存の環境や医療資源を最大限活かす仕組みづくりに着手することとなった。
①超高齢化による要介護・要医療者の増加と病態の複雑化(介護サービスを受けている者の殆んどが複数の疾患を持ち、医療を必要とする)
②圧倒的に少ない医療資源(少ない医師、医療機関、医療従事者及び中核病院への集中)
③機能分担・専門化による提供サービスの分断(情報共有に基く診療科・施設間の連携・コミュニケーションの必要)
④困難を極める在宅診療(集落の点在、医療資源不足)
⑤離島であること(天候により本土搬送や応援が呼べない)
さどひまわりネットは、参加する病院・医療・介護施設が主役ではなく、主役は「患者である市民」であり、島内の医療資源を最大限に活用し、島の医療・介護連携を進め、その提供体制を維持する取組である。こうした取組の結果として高齢者が元気に活動できる島が形成される。佐渡地域医療連携推進協議会では「医療・介護は協働作業で成立する」との認識のもとで、情報共有をキーワードに「さどひまわりネット」の構築にあたり、以下の3つの目標を設定した。
①参加するすべての施設で情報の提供と参照が可能な双方向システムとすること
・診療情報の共有によりどこにかかってもすぐ適切な処置が可能(情報提供・参照可能な双方向の連携)
・診療情報の活用(電子データ化されたレセプト情報の活用等最小必要限の情報を収集)
②ネットワークへの参加を促進するため参加施設の業務負荷とコスト負担を可能な限り抑えること
・病院・診療所・歯科診療所・調剤薬局・介護施設の参加(既存システムからの自動での情報収集等)
・自主・自立・継続(行政頼みではない運営、妥協できる費用・業務負担-コストと機能のバランス-)
③島民のメリットがわかり易く、情報共有に多くの市民から同意してもらえるシステムとすること
・かかりつけ診療所で治療を継続(診療所・病院間で情報の共有、特別な場合は病院へ)
・迅速な治療(参加施設間で患者の傷病、治療・検査や投薬状況がわかり、適切な処置が可能)
-
個人情報保護との関連で「ひまわりネット」の患者情報の収集・提供に当たっては収集目的・開示の範囲などを明記する必要がある。
「ひまわりネット」では佐渡島内の医療機関・介護施設を開示の範囲とすることで患者よりの同意を得ており、これにより情報共有が実現している。
地域医療再生基金(平成21年度補正予算:厚生労働省)の利用
-ひまわりネットの開発に要した資金 約16億円
○システム設計(要件定義・機能仕様作成等) 8千万円
○地域医療連携ネットワークシステムの構築 9億5千万円
○データ収集機器の設計・開発、PM業務等 2億円強
○在宅診療支援システムの構築 2億8千万円 等
地域医療再生基金(平成21年度補正予算:厚生労働省)
-新潟県地域医療再生基金の執行状況について
(http://www.pref.niigata.lg.jp/iyaku/1340830942100.html)
○システム構築には国の基金を活用
・平成21年度地域医療再生基金(国)を活用し、新潟県地域医療再生計画(県)に採択され整備
・民(病院・医師会・歯科医師会等、特にキーマンの医師)と官(県(保健所)、佐渡市)が協力し、佐渡地域医療連携ネットワークシステムを構築
○佐渡ひまわりネットの構成概念、データ収集・参照の仕組等システム設計は佐渡総合病院副院長 佐藤医師を中心に実施(佐渡地域医療推進協議会理事で実質的に「さどひまわりネット」を主導)
・官(佐渡市等)は必要に応じバックアップ
・設計に携わったコンサルタント
・開発ベンダー:日本ユニシス株式会社
特になし
平成22年1月に新潟県が策定した地域医療再生計画に基づき、平成22年度に地域医療連携ネットワークを実現するための体制整備(協議会立上げ準備/スケジュールの設定等)、23年度は佐渡地域医療連携推進協議会を立ち上げ、ネットワークシステムの具備すべき機能・仕様の設計、そして24年度には第1期開発として、医科・歯科・薬局間の連携システムの開発を行い、25年4月から佐渡地域医療連携ネットワーク「さどひまわりネット」が稼働した。
平成25年度は、第2期として介護・在宅の連携に係るシステム開発を行い、平成25年12月介護施設・在宅との情報連携が、26年2月には健診情報の連携が可能となり、平成26年度に本格的な運用に至っている。
この地域連携システムでは、より多くの施設の参加と診療情報の提供に同意する市民の数が要となることから医療・介護施設や市民への参加勧誘を行い、医療・介護施設では約6割が、当初1割でスタートした市民の参加は24%にまで増加している。
なお、地域医療連携ネットワーク構築の具体的内容・プロセスは以下の通りである。
(1)地域医療連携ネットワークの方針
①医療・福祉関連機関が誰でも参加できる双方向連携システム
・病院、医科診療所/歯科診療所/調剤薬局/介護福祉施設の参加
②医療従事者でなくとも情報提供ができる在宅診療システムの構築
③使われる(利用される)連携システム
・より多くの同意とより多くの参加者を
・10年間は継続できるシステム(医療・介護環境の変化、ICT技術の進歩を考えると導入システムの寿命は10年以下と想定。10年以下とすることで複雑になりがちなシステムのコストを削減)
・自力で運用できるシステム(複数のステークホールダーが直接関わる運営主体が担い、行政や既存団体等が支援する形態が適当)
(2)さどひまわりネットの稼働
第1期として開発してきた「医療情報の参照・データ収集」が始まり、平成25年12月第2期システム開発で介護施設との連携が可能となり、26年2月よりは健診状況との連携が可能となり、4月より本格稼働となった。
①参加施設数 72施設(H27.7.15現在)
内訳(病院6、医科診療所14、歯科診療所6、調剤薬局12、介護事業者34)
②診療情報同意取得者数
平成25年4月 5,923人(人口比 9.5%)
平成26年7月 12,435人(人口比19.8%)
平成27年7月 14,286人(人口比22.8%)
概ね7割の参加施設、そして1割の診療情報同意取得者でスタートしたが、この数も順調に伸びてきており、特に参加者は平成27年7月では2割を超えている。
(3)さどひまわりネットの特徴
①電子カルテを前提としない全ての参加施設が情報提供と参照を行う双方向連携システム(病院⇔医科・歯科診療所⇔薬局⇔介護施設)
・電子カルテを利用しているのは1病院、3診療所であり、カルテも統一されていない。情報共有の目的を達成するため電子データ化されているレセプトデータを核とした情報共有システムとする(収集情報-レセプトデータ+検査結果+X線・内視鏡画像、院外処方の調剤内容等)。
・介護事業所では、診療データを活用し、生活・社会環境・ADLから最適の介護プログラムの造出に活用。
②訪問診療を前提としない在宅診療支援システム(第2期(平成25年度)開発)
・タブレット端末等で遠隔地での診療支援を行う-介護と医療の連携
・地域連携クリニカルマップ - 病院・診療所間の連携による患者の健康管理
-病院退院後の管理をその地域の診療所等で実施(がん術後の管理等を想定)
・施設間連携業務 - 介護、歯科診療所、調剤薬局間の連携による患者の健康管理
-訪問歯科、在宅患者訪問薬剤管理指導、周術期口腔機能管理等で連携
③セキュリティ対策
患者の医療情報は最も重要な「個人情報」であるため、セキュリティ対策も注力している。
・システムのセキュリティ
-厚生労働省 「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」
-経済産業省 「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱のためのガイドライン」
-「医療情報を受託管理する情報処理事業者向けガイドライン」
-総務省 「ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン」 等に準拠
・「人」へのセキュリティ
-診療情報は診療に関わる者で共有し、活用されることが前提。診療情報を扱う者は「守秘義務」を負う。患者情報取扱い規約の患者側への提示、施設参加・利用規約遵守の施設への提示、運用管理規程遵守をNPO法人・ベンダー・保守業者へ提示して承認を得て実施。
④持続可能なシステム運営
・診療情報の提供は既存の機器からの自動収集が基本であり、現行業務を極力変更しない様式となっている。参加施設の負担を極力軽減する(費用負担・業務負担、運用コスト)
・自主・自立の運営(行政だよりとせず、運営は参加施設の利用料で賄う)
・運営法人の設置 NPO法人「佐渡地域医療連携推進協議会」 平成24年9月設立
-会員対象 病院・診療所・歯科診療所・調剤薬局・介護福祉関連/ 理事 参加施設代表者から選出
平成21年度:新潟県地域医療再生計画に佐渡医療圏が採用
平成22年度:地域医療連携ネットワークを実現するための体制整備
平成23年度:佐渡地域医療連携推進協議会を立ち上げ、ネットワークシステムの機能・仕様を設計
平成24年度:医科・歯科・薬局間の第1期連携システムの開発
(平成25年4月:佐渡地域医療連携ネットワーク「さどひまわりネット」稼働)
平成25年度:介護・在宅の連携に係る第2期システム開発
平成25年12月:さどひまわりネットの第2期システムが稼働(本格稼働)
-介護施設等によるバイタル情報の入力と参照機能/地域連携クリニカルマップ機能/業務連携機能(周術期口腔機能管理等)が追加
「さどひまわりネット」の構築・運営費用についての考えは以下の通り。
構築・運用には公費・利用者・受益者負担の三要素が必要かつ妥当である。
システム構築:基金等(公費)で実施が現実的かつ妥当
システム運用:施設等の利用料で賄うことが好ましいが、利用料が高いと参加意欲を阻害する。また、少ないと当事者意識が薄れる。そこで利用料の不足分について公費導入が考えられる(公費が多いと公共事業的要素が強くなる)。受益者負担については診療報酬加算などコンセンサスを取り易く、事務負担を軽減する等の検討が必要である。
○コンサルタント、開発ベンダー
NPO法人「佐渡地域医療連携推進協議会」(会長:佐渡医師会長)のもとに以下の体制で実施
(協議会には病院、医科診療所、歯科診療所、薬局、介護施設が参加)
協議会事務局:佐渡市市民生活課1名、佐渡医師会1名、佐渡総合病院1名で構成
ネットワークシステム検討委員会(実質的な検討組織):
佐渡市内病院代表者6名、佐渡医師会医師2名、佐渡歯科医師会医師2名、薬剤師1名、佐渡市2名(福祉担当含む)で構成
協議会理事会:各病院代表者8名、佐渡医師会医師3名、佐渡歯科医師会医師2名、佐渡市2名
コンサルタント:プロジェクトマネージャ、業務要件チーム、機能要件チーム
開発ベンダー:日本ユニシス㈱
現在は「さどひまわりネット事務室」が設置され、運営を実施している。
①施設の参加を促す廉価な負担額、業務負担の少なさ、マニュアル不要のシステムの操作性実現
・さどひまわりネットのコンセプトは「自主・自立」である。持続に向けて当面10年間の稼働を目指しているため、参加施設の利用料は、料金負担と機能のバランスを考え設計しており妥協のできる額(廉価)に設定している。
・医療機関の既存システムに手を加えずに、複数機関からのデータを一元管理できる仕組みを導入しているが、新たな作業が発生しないよう既存の機器からレセプトデータや検査・画像データなどが自動で収集される仕組みとしており、当初から継続性を見据えて構築している。
・さらに自動収集されたデータを用いて医療機関ごとに異なる患者番号を持つ同一患者を自動で名寄せし、同意患者の情報のみをクラウド上の統合データベースで一元管理する仕組みであり、参加機関のシステム上の負荷はない。
・システム開発には現場の医師や介護士の声を反映し、誰もが使いやすいシステムを実現した。
②本プロジェクトの遂行者佐藤佐渡総合病院副院長の強いリーダーシップ
「さどひまわりネット」を作成するにあたり協議会理事およびネットワークシステム検討委員会委員長として事業を遂行してきた佐藤医師の強いリーダーシップが大きい。システム検討に当たり医療・介護の提供体制への危機感・システムの必要性などの認識を共有した上で、コンセプトの明示・機能の取捨選択などを一貫して利用者視点に立ち構築してきたことが参加者・利用者の増加に繋がっている。
③事業継続性を考えた自立運用が可能な適応性の高いシステム
システム開発に当たり運営主体を想定した上で運用について計画段階から組込むなど開発段階から要件定義に事業継続性や10年間の保守期間等を視野に入れ実施している。そのためミッション・クリティカルではない融通の利く適応性の高いシステムを創り上げている。
④情報共有と参照が可能な双方向ネットワークで医療・介護施設等での患者のリスク管理が可能
・レセプト情報、健診情報、介護サービス内容等の情報一元化などにより、総合的な健康管理が可能となるほか、介護施設職員は患者の処方内容、緊急時対応などの医療情報の把握が、また医師は介護サービス内容やADL(日常生活動作)の推移などの把握が可能となり患者の健康向上に対し連携した取組が可能となる。
稼働開始から間もないため効果として実感できる段階ではないが、医療情報を共有する患者においては重複検査や重複処方の回避等のほか、既往歴、検査結果の推移等から的確な診断が可能となり、地域医療を最低限の医療資源で担えることや患者への良質な医療提供が期待できる。またこのシステムの利用のためには、何よりも参加施設や情報提供に同意する市民の増加が要であり、利用増が成果でもある。
①医療情報等の共有により患者への医療提供の水準向上が可能となる
・医療側ではこのシステム利用により、初診であっても既往症や直近検査データ等の履歴を得られる。
・医師の省力化と少ない時間で適切な診断・処置を行える。
・緊急搬送などの場合でも患者の既往の傷病名・薬・体質などが共有され、適切かつ迅速な対応が期待される。
・患者が別の医療機関を受診しても、既往歴、治療内容、投薬内容を説明する必要がなくなる
②かかりつけ医での治療継続が可能になる
・病院と診療所の検査・投薬などの情報が共有され、仮に指示する事項や患者照会が必要な場合でも、システムのコミニュケーションツールでやり取りが可能であり、特別に病院での処置が必要な場合を除けば、かかりつけ医での治療が継続できる。
③重複した検査・投薬や禁忌の薬剤投与がなくなる
医療機関を移るたび、同じ検査を繰り返すことや重複した投薬がなくなる。複数の医療機関からの処方調剤を行う場合、医療情報が得られることで禁忌の薬剤が投与されることが防げる。医療費抑制に繋がる。
④適切な介護計画によるQOLの維持が可能となる
介護施設でも医療情報が得られれば、適切な介護計画、日常生活動作(ADL)の改善など、生活の質(QOL)の維持により、住み慣れた地域で終末期が迎えられるようになる。
⑤ひまわりネットの活用により医師の指示で在宅での適切な処置が可能
訪問看護時などに携帯端末等でバイタルの状況をひまわりネットで送信、すぐにシステムを通じて医師の指示が得られ、適切な処置ができれば在宅での介護継続につながる。
⑥健康年齢の伸長
佐渡市は離島であり、天候等の影響で本土との航路が不通となれば、“孤島”となってしまうため、ある程度の自己完結型社会を築く必要がある。そのためにも島民一人ひとりが健康で自立した生活を送るために健康年齢を伸ばす必要がある。
このため、かかりつけ医と病院の連携、介護施設での適切なケア等により、介護を必要な高齢者の重度化への進行の抑制、住み慣れた地域での生活継続ができ、本人や地域にとっても幸せな状況が創出可能。
⑦災害時に備えたリダンダンシーの確保
近年、地震や豪雨等による災害が多発している。本ネットのサーバーは本土側のデータセンターに設置しているため、被災時にカルテが失われても、記録が再現でき、被災時の医療に生かすことができる。これまでのシステムの脆弱性を補うことが可能。
病院・診療所、歯科診療所、調剤薬局等の施設参加の増加が見られないが、介護事業所については参加施設層が増加している。医療・介護施設間の連携は高齢者のQOLの維持・向上には極めて重要であり、病院にとってはリハビリ等の介護プランが把握できることにより長期的な治療を立てやすくなる、介護施設からは医療情報が判って安心、緊急対応の指示も依頼できるなどの意見が寄せられており、確実に利用と連携が進んできている。今後、ユーザーが活用方法を開拓していくようになることが望まれる。
また、レセプト情報等の利用に同意する住民は確実に増加しており、参加住民のなかには診療所等で患者情報を参照するよう求める者も出てきている。このように、ひまわりネットは徐々に住民に浸透しつつあるがその利用は緒についたばかりである。
①健診データとの連携
現在、第2期(平成25年度)システムの開発・稼働が終わり、本格稼働中であるが、佐渡市全域をカバーできるよう検診機関の参加と同意を得た方の検診データ提供を実施する予定である。
実現すれば健康保険者の特定健診(40歳以上の者が対象)のみならず、職場健診の若年者データが集まることになるため、患者本人の活用は勿論であるが、統計的に地域の特性分析などに生かせ、大学等の研究機関との連携や市の健康施策への活用等も考えられる(このようなことも踏まえ、「さどひまわりネット」では参加者データを統計化する準備を進めている)。
佐渡は小さな地域ではあるが、市民全年齢層のデータが得られれば、これを応用した新たな展開が可能と考えている。
②佐渡ひまわりネットの運用費用の確保およびシステム利用の横展開
「さどひまわりネット」は参加施設からの利用料による自立運用を行っている。このためには資金および人的資源両面から整備を進めていく必要がある。資金面では利用料を主に一部不足分を公費で賄っている。人材面では現時点では事務局専任が1名と体制が整っているわけではなく、取組みは徐々に周知されつつあるとはいえ、知名度は高くはない。
①佐渡市の支援等による参加施設・同意住民の増加
統計的な分析を可能とするためにも、本来なら全市民の加入が望ましいが、多数の市民参加を得るため、市においても各種検診時でのPR等に協力している。また、佐渡における疾患・要介護度の分析および医療・介護計画の策定などにデータを利用することでエビデンスを持った計画策定が期待される。
②知名度の向上と議会・団体等の視察への対応
現在、本システムについては各所で取り上げられつつあるものの、議会・団体等の視察への対応は行えない状況にある。しかし、医療従事者の確保に繋げるうえでも、本取組をより広く知ってもらう必要があり、今後は視察への対応を行い、本システムの他市町村での活用など横展開を期待したい。
① 視点を変えた新しい取組
・これまでも、一部地域での医療連携ネットワークの取組はあった。しかし佐渡での取組は、電子カルテを前提とせず、既に電子化されているレセプトデータ(傷病名など客観的データ)を活用し自動収集する、合わせて検査や画像データも取込み、施設間で共有することにより通常業務の負担とならないよう工夫したシステムであり、このシステムでは。
② 他の地域への応用につながれば…
・佐渡は確かに離島で、島だから1つになれたという事情はあるが、全国の地方でも、当市と同じような環境にある中山間地・離島等があるため、そこへの応用は可能ではないか。
・本システムを類似地域でも活用いただけるような取組へと展開し、他地域との情報交換等を行いながら互いに補完し合えば、世界でも通用し得るシステムに発展できると考える。
◆さどひまわりネット http://www.sadohimawari.net/
◆地域医療番組「佐渡だからできる!地域医療連携ネットワーク」
http://sadosogo-hp.jp/information/videos/
佐渡市のケーブルテレビ(CNSテレビ)では、医療の現状と「さどひまわりネット」構築の取組を市民の皆様に紹介し、取組について理解を深めてもらうため、医療機関の協力のもと番組制作に取り組んだ。