1. プロジェクト名
「ふるさと団地の元気創造推進事業」(大分県大分市)

2. 概要

【背景・課題、目的・目標】
高度経済成長期に建設された郊外の住宅団地高齢化が進み、また空き家空き地の増加、商店の撤退、バスの減便等様々な問題が顕在化している。これをそのまま放置すれば更なる住環境の悪化が予想され、地域の資産価値の低下をもたらし、ひいては地方公共団体の財源にも影響しかねず、このまま朽廃していくことは社会経済上の損失でもある。団地内には学校・保育所・幼稚園、公園など子育て施設が整っている。これらの施設が活用できれば高度成長時代の投資が無駄に終わらず活きてくる。また高齢者が多くなった地域において、その生活関連施設や利便性を維持・確保していくことは行政に課せられた使命でもある
郊外住宅団地の問題は多くの都市に共通する課題であることから、大分市は全国に呼びかけを行い、平成22年6月に7市(札幌市、盛岡市、長岡市、富山市、堺市、久留米市、大分市)で「ふるさと団地の元気創造推進協議会」を設立、各都市でモデル団地を選定し、それぞれに抱える課題や問題点を明らかにして対策を実施するとともに、情報や意見を交換していくことを申し合わせた。
大分市では「ふるさと団地の元気創造推進事業」として、モデル団地において社会実験を実施、団地の活性化に取組むこととした。
郊外型住宅団地に生じる問題や課題に先行的に取組むとともに、同じような課題を持つ自治体と連携を図りながら、‘地域主権の考え方の導入’‘総合的アプローチ’‘上手い仕組みづくり’‘多様な主体の参加’といった視点を持ち、全国のモデルとなるような成果を目指し「地域コミュニティの再生~郊外型住宅団地に新たな息吹を~」をコンセプトとして掲げて「ふるさと団地の元気創造推進事業」に取り組んでいる。

【取組内容】
(1)ワークショップによる課題の抽出と解決の方向の取纏め
①モデル団地の選定とワークショップ 
富士見が丘団地の4つの自治会の住民の皆さんと市職員がテーブルを囲み「知ろう」「考えよう」「描こう」をテーマに、平成22年度各自治会3回、合計12回のワークショップを実施。活性化のための方向性として「若い世代を団地に呼び込む方策」と「高齢者が生活しやすく、高齢者が活躍する場」の検討が必要と認識された。
②地元プロジェクトチームと市作業部会の合同研究
取り組むべき対策がコミュティづくり、高齢者の憩いのサロンづくりなどの項目に整理され、項目ごとに取り組んでいくための協議を市の作業チームと進め、次年度以降、具体的な施策を実施していった。
(2)具体的な施策の展開
1)大分市の主な取り組み
①子育て世帯に限定した家賃補助制度(平成23年8月~)
子育て世帯が一戸建てに入居した場合に、4万円を上限に家賃の3分の2を補助する。延べ114世帯が応募し、現在入居は7世帯24名である。「子供の泣き声や物音を気にせず、のびのび子育てができる」、「近所の人が、子供の名を呼ぶなど声をかけてくれる」と入居者には好評である。
②空き家・空き地情報バンク制度の創設(平成23年8月~) 
モデル団地限定で空き家・空き地の売却・賃貸物件を紹介する。平成23年8月から26年10月までで掲載した36件中32件と多数が成約しておりうち若者世帯が7世帯ある
③空き家・空き地購入支援事業(平成25年5月~)
空き家・空き地情報バンクに掲載されている中古住宅を購入入居、あるいは空き地を購入し新築入居した場合、支払った固定資産税相当額を3年間全額補助。平成26年10月までの18か月間で、空き家16件と多数が成約した。
④ふれあい親子動物園(平成25年3月)
「団地再発見森林探検ウォーキング」のゴールである中央公園芝生広場で、ウォーキングに参加できない子育て世帯にミニ動物園を提供した。子育て世帯間の交流やウォーキング参加者との交流が生まれている。
⑤あずまや設置(平成25年3月)
中央公園芝生広場には日差しを避ける場所が無いため、高齢者や子育て世代の憩いの場として屋根付きのベンチを設置した。

2)地元の主な取組み
①公園の芝生化(平成23年8月~) 
約300人の住民が共同してによりコミュニティ広場に芝生を植えた。管理も地元が行っており、多数の住民が利用するようになり、コミュニティが活性化している。
②第2公民館の設置-高齢者の活動拠点づくり(平成23年8月~)
空き家を自治会が借り上げ公民館として活用している。リフォーム・家賃については市が3分の2を補助している。高齢者の憩いの場、コミュニティの場として利用されている。平成23年8月から2年間で延べ1,300人が利用した。
③自宅開放ギャラリー(年1回開催)
団地居住の作家が自宅を開放して作品を展示するもの。点在する7から9か所の会場を徒歩にて回り、団地からの眺望や自然環境等の魅力を満喫する。
④G級グルメ 
団地内の零細・小規模店舗の活性化のため、各店の自慢の商品をPRし、団地内外の市民に知ってもらい、今後の購買につなげる取組である。経営者の高齢化により当初参加を渋る店舗もあったが、団地内外の買い物客に触れ「来年もまたやりたい」と活力回復につながった。
⑤団地再発見森林探検ウォーキング(年1回)
団地辺縁部に2つのウォーキングコースを設定し、森林セラピストに森の楽しみ方などのレクチャーを受けながら廻る。モデル団地に隣接する大分県立看護科学大学の先生・生徒や健康相談員らによるウォーキング参加者の血圧測定・体脂肪測定などがおこなわれ、学校と団地間の連携が生まれた。
⑥お出かけ交通開始(平成27年3月~)
買い物や通院など自宅から移動困難な高齢者などの移動手段を確保するための乗合タクシーによる「お出かけ交通」事業を開始した。事業はタクシー会社へ運行を委託、運行経費は自治会予算で賄うこととしている。

【成功要因】
①ワークショップによる住民と行政との合意形成
行政と地域住民がワークショップにより、団地活性化の意見を出し合い、活性化の対策について考え、対策の実施を合意したことがスタートになっている。11項目の対策は机上で考えたのではなく、地域住民とともに考えた対策であることが住民が主体的に取り組んでいる源である。第1回目の第一声が「行政は何をしてくれるのか」で始まったワークショップも3回を数え、団地の現状を知り、活性化を考え、対策を描いたとき『自分たちの地域は自分たちで活性化しよう』という認識に変わっていき、次々と自主的な取組みが続いている。
②プロジェクトチーム(団地住民と庁内作業部会)による検討と住民参加による施策の実践
「地域コミュニティづくり」や「住み替え支援対策」などの項目について、市の作業部会と住民によるプロジェクトチームで具体的に詰めていった。
③家賃補助、固定資産税相当額支援などの市の支援
子育て世帯に対する家賃補助制度、空き家・空き地情報バンク制度の創設および中古住宅・空き地を購入・居住した方に支払った固定資産税相当額を3年間補助する等の支援措置を実施した。家賃補助制度を活用し入居した子育て世帯は7世帯、24名である。、

【成果】
行政は限られた件数の家賃補助や固定資産税相当分の補助などを起爆剤とした取組み、空き家・空き地情報バンクによる物件紹介や公民館への補助のほか、地元の取組みの支援を行ってきた。当初課題であった空き家も入居が進み激減したほか、空き地も新築入居により3年余りで2割が解消してきている。
①空き家が激減
平成22年度調査での空き家43戸が3年間で入居36戸、取り壊し2戸があり、5戸に激減
②空き地が減少
平成22年度調査での空き地102件が、新築入居20件、倉庫新築1件もあり、3年間で81件に減少。
③宅地戸数の拡大
団地中心部に位置していた資材置き場・駐車場等は長年に渡り放置されてきたが、本事業開始一年半後の平成23年度から宅地の造成と住宅建設が46件行われ、新築入居が進んでいる。
④人口減少下げ止まり
平成11年の8,242人をピークに毎年平均50人弱の人口減少であったが、平成26年3月末は、1人の減少となり、15年ぶりに下げ止まった。
⑤若い世代の入居と新たな開発の発生
郊外型住宅団地が抱える問題は少子高齢化に要因があり、このため住民とのワークショップにおいても、若い世代を団地に呼び込むことが活性化の方向性として提案されている。

大分市ふるさと団地元気創造推進事業.pdf

3. プロジェクトを企画した理由・課題(状況)

高度経済成長期に建設された郊外の住宅団地は、建設後30年から40年が経過し、その間、少子高齢化が顕著に進み、高齢化率は平成22年には31%と大分市平均を10ポイント上回り、また空き家空き地の増加、商店の撤退、バスの減便等様々な問題が顕在化している。
これをそのまま放置すれば更なる住環境の悪化が予想され、地域の資産価値の低下をもたらし、ひいては地方公共団体の財源にも影響しかねない。また、高度経済成長期に官民挙げて資本を投下してきた郊外型住宅団地がこのまま朽廃していくことは、社会経済上の損失である。
さらに、高齢者が多くなった地域において、その生活関連施設や利便性を維持・確保していくことは行政に課せられた使命でもあり、この問題の解決は、少子高齢化対策などの新たな施策展開の可能性を秘めている。
 また、団地内には学校・保育所・幼稚園、公園など子育て施設が整っている。これらの施設が活用できれば高度成長時代の投資が無駄に終わらず活きてくる。そのような可能性を持った地域が郊外住宅団地である。

4. プロジェクトの達成目標

郊外型住宅団地の新たな活性化が求められている。郊外型住宅団地における様々な問題や課題について、地域に対して必要な施策や取り組みを、それぞれの自治体が地域住民と一体となって考え、地域の特性に応じてきめ細かく対応していく必要がある。
大分市では「ふるさと団地の元気創造推進事業」として、モデル団地において社会実験を実施、団地の活性化に取組んでいる。
郊外型住宅団地に生じる問題や課題に先行的に取組むとともに、同じような課題を持つ自治体と連携を図りながら、‘地域主権の考え方の導入、‘総合的アプローチ、‘上手い仕組みづくり、‘多様な主体の参加’といった視点を持ち、全国のモデルとなるような成果を目指し『地域コミュニティの再生~郊外型住宅団地に新たな息吹を~』をコンセプトとして掲げて「ふるさと団地の元気創造推進事業」に取り組んでいる。さらに、その過程においては、国に対しても規制緩和や制度改革などの提案も行っている。

5. プロジェクト実行に関連した政策(有れば)

6. プロジェクト実行に関連した規制(有れば)

道路運送法78条では、過疎地等で旅客自動車運送事業の実施が困難な場合、自家用有償運送が登録により認められている。富士見が丘団地では大分市と共同で過疎地等に認められる自家用有償運送を、高齢者等交通弱者の買い物難民が多くいる郊外住宅団地においても適用されるよう国に規制緩和の提案を行ってきた。具体的には、団地自治会を中心に有償での送迎事業を実施するべく陸運支局に掛け合ってきたが、現状では実現していない。

7. 上記規制をどう解決、回避したか

現在時点ではタクシー会社と連携し、「お出かけ交通事業」(後述)をスタートさせている。なお、規制緩和は引き続く要望している。

8. プロジェクトに対する国、県の補助金・支援政策(具体的な補助金事業名、年度、金額)

平成24年度より『(子育て世代に限定した)家賃補助事業』を実施しているが、この事業にともなう家賃補助費と事業支援費(委託分)に対する補助金が入っている(社会資本整備総合交付金)。
 平成24年度 4,608千円
 平成25年度 3,863千円
 平成26年度 1,428千円
 平成27年度 1,940千円

9. 補助金に対する報告書のファイル

なし

10. プロジェクトに投入、活用した地域資源、地域人材

【地域人材の参加・活用】
・地元プロジェクトチーム 49名(ワークショップに参加した住民等)
・現役時代の経験を活かし、魅力向上発信のための取組みを企画実施したリーダーシップ溢れる住民-自宅開放ギャラリー、G級グルメ、森林探検 ウォークラリー、巨大静止ロボット作成などを実施
・団地内居住芸術家-自宅開放ギャラリーに参加

【地域資源の活用】
・中央公園
 住民による芝はり、芝の管理、集会距離表示による散歩環境の改善、あずまや設置等を自治会で実施、コミュニティの活性化にも寄与している
・団地内桜の活用
 森林探検ウォーキングの開催・桜の名所づくり等を実施
・空き家・空き地
 若い世代を呼び込むことに活用(子育て世帯の住み替え支援家賃補助・空き家等購入支援事業を実施)

11. プロジェクト推進の協力者、協力団体(商工会議所、NPOなど)

取組は階層ごとの連携・分担のもとにそれぞれ役割を果たすことで実現されている。
○富士見が丘連合自治会:多くの取組みを中心となって実施
○内閣官房地域活性化統合事務局:7市協議会への助言、関係省庁会議を事務局として運営
○団地開発業者:芝への散水水の低額での提供等

12. プロジェクト推進の産学連携や技術(有れば)

○大分県立看護科学大学
平成25年、26年、27年の各3月に実施された「森林探検ウォーキング」のゴール会場の芝生広場で、大分県立看護科学大学の先生・生徒、健康相談員らによる血圧測定などが行われ、地域連携が生まれた。団地高齢者への訪問・健康保持等に取り組んでいる。
○自治体委託による「お出かけ交通」に協力するタクシー事業者

13. プロジェクトを構成するプログラム(プロジェクトで実施した行動)

郊外型住宅団地は大都市、地方都市を通じて全国的に建設され、多くの都市に共通する課題であることから、全国に呼びかけを行い、平成22年6月に7市(札幌市、盛岡市、長岡市、富山市、堺市、久留米市、大分市。平成23年11月に川西市の加入で一時8市に)で「ふるさと団地の元気創造推進協議会」を設立した。当初活動期間を平成24年3月末としていたが、協議の結果、富山市以外は活動を延長することになった。
具体には各都市でモデル団地を選定し、それぞれに抱える課題や問題点を明らかにして対策を実施するとともに、情報や意見を交換していくことを申し合わせている。大分市では富士見ヶ丘団地をモデルに次のとおり取り組んだ。

【ワークショップによる課題の抽出と解決の方向の取纏め】
①モデル団地の選定とワークショップ (参考資料①p1~2、参考資料②p1~2参照)
市中心部から南西12㎞に位置する大分市内で最も大きい団地の一つである「富士見が丘団地」をモデル団地に選定し、当時の4つの自治会の住民の皆さんと市職員がテーブルを囲み「知ろう」「考えよう」「描こう」をテーマに各自治会3回、合計12回のワークショップを実施。
ワークショップの結果、活性化のための方向性として「若い世代を団地に呼び込む方策」と「高齢者が生活しやすく、高齢者が活躍する場」の検討が必要と認識された。
②地元プロジェクトチームと市作業部会の合同研究 (参考資料①p3参照)
このワークショップの結果、取り組むべき対策がコミュティづくり、高齢者の憩いのサロンづくりなどの項目に整理され、項目ごとに取り組んでいくための協議を進め、次年度以降、具体的な施策を実施していく。

【具体的な施策の展開】
(1)大分市の主な取り組み
①子育て世帯に限定した家賃補助制度(平成23年8月~) (参考資料①p4参照)
概要:子育て世帯が一戸建てに入居した場合に家賃の3分の2を補助(4万円上限)。
募集:5世帯ずつ2回実施
応募:延べ114世帯(実85世帯)。30歳前後の両親に3歳以下の子1~2人の世帯。
入居:7世帯24名→自己都合退去により、現在出生児含め6世帯24名
入居者は、子供の泣き声や物音を気にせず、のびのび子育てができる。子供ができて荷物も増えるが部屋が多く都合もよい。また、近所の人が、子供の名を呼ぶなど声をかけてくれると好評。地域の人も空き家に灯がともり、子供の声を聞くと活性化すると好評。

②空き家・空き地情報バンク制度の創設(平成23年8月~) (参考資料①p5参照)
概要:モデル団地限定で空き家・空き地の売却・賃貸物件の紹介
利用状況:掲載36件中32件が成約、成約率約9割 うち若者世帯7世帯(平成23年8月~平成26年10月) 
アクセス件数 3年間で3万件以上(平成23年8月~平成26年7月)

③空き家・空き地購入支援事業
中古住宅等購入で固定資産税相当分を補助(平成25年5月~)(参考資料①p6参照)
概要:空き家・空き地情報バンクに掲載されている中古住宅を購入入居、空き地を購入し新築入居した場合は、支払った固定資産税相当額を3年間全額補助する。子育て世帯は5年間、5年間に第三子以上を出生した場合は7年間に延長。
利用状況:平成26年10月までの18か月間で、空き家16件の成約とハイペースで成約、中古住宅購入のインセンティブになっている。
なお、事業開始前は、22か月間で6件の成約。

④ふれあい親子動物園(平成25年3月) (参考資料①p7参照)
概要:団地主催の「団地再発見森林探検ウォーキング」のゴールの中央公園芝生広場で、ウォーキングに参加できない子育て世帯にミニ動物園を提供。同じ子育て世帯間の交流及びウォーキング参加者との交流によりコミュニティは強化。予想外の大人数で賑わいコミュニティの強化に役立った。

⑤あずまや設置(平成25年3月) (参考資料①p8参照)
概要:中央公園芝生広場には、日差しを避ける場所が無いため、屋根付きのベンチを設置。
団地主催の「団地再発見森林探検ウォーキング」のゴールの中央公園芝生広場で、あずまやの存在を認知できるように披露目式を実施。子育て世帯を中心に家族連れに多く利用されており、子育て世帯間のコミュニティ強化に役立っている。

(2)地元の主な取組み
①公園の芝生化(平成23年8月~) (参考資料①p9、参考資料②p3~4参照)
概要:約300人の住民の共同作業により芝生化、管理も地元実施、多数の利用によりコミュニティが活性化。
利用状況:現在、ラジオ体操・グラウンドゴルフ・フットボール・少年野球・親子連れの休憩・散歩等に毎日約130人が利用するほか、イベント会場としても活用され、多数の参加でコミュニティが活性化している。

②第2公民館の設置-高齢者の活動拠点づくり(平成23年8月~)(参考資料①p10、参考資料②p5~6参照)
概要:空き家を自治会が借り上げ公民館として活用。リフォーム・家賃については、「大分市校区公民館、自治公民館等建設費等補助金交付要綱」で3分の2を補助。
利用状況:高齢者の憩いの場、コミュニティの場として利用されている。平成23年8月から実施しており、2年間で延べ1,300人が利用。
高齢者サロンは月2回実施され、お茶を飲み、お菓子や漬物をつまみながらくつろいでいる。また、西部保健福祉センターによる健康教室には多数参加しているほか、夏季のそうめん流しなどのイベントにも参加者が多く、家に高齢者が閉じこもりにならない対策になっている。

③自宅開放ギャラリー(平成23・24・25年各年11月) (参考資料①p11~12参照)
概要:団地居住の作家が自宅を開放して作品を展示するもの。来場者は作品を鑑賞し、文化的雰囲気に触れるとともに、7から9か所の点在する各会場を徒歩にて回り、団地からの眺望や自然環境等の魅力を満喫する。
利用状況:3回を数え、平成23年度725名、24年度(雨天)656名、25年度779名、うち団地外からは143名が訪れている。
毎年テレビ等メディアの取材を受け、団地の魅力を内外に発信している。25年度は、家族による演奏会が開催され、立ち見が出るほどの盛況。
文化の団地として飛躍する可能性もあり、団地のブランド化として魅力の創造に貢献している。

④G級グルメ(平成24年11月) (参考資料①p13参照)
概要:団地内の零細・小規模店舗の活性化のため、各店の自慢の商品をPRし、団地内外の市民に知ってもらい、今後の購買につなげる。
零細店舗の経営者は高齢化しており、当初参加を渋る店舗もあったが、ケーブルテレビの取材を受け、団地内外の買い物客に触れ「元気が出て来年もまたやりたい」と活力につながった。
25年度は行事が多く開催を見合わせたところ、住民から「G級グルメ」はしないのかとの問いあわせが自治会にあった。

⑤団地再発見森林探検ウォーキング(平成25・26年3月)(参考資料①p14、参考資料②p7~8参照)
概要:団地辺縁部に2つのウォーキングコースを設定し、森林セラピストと一緒に歩くことにより森の楽しみ方などのレクチャーを受ける。
ゴール会場の芝生広場でクイズやミニ動物園、自治会によるぜんざいなどが振舞われ大盛況となった。
モデル団地に隣接する大分県立看護科学大学の先生・生徒や健康相談員らによる血圧測定・体脂肪測定などがおこなわれ、地域連携ができた。
全体を通じ、心地よい体験を参加者が共有し、コミュニティの強化及び健康増進、活力源として効果があった。各種テレビにも数分間取上げられ、ふるさと団地の元気創造推進事業の周知に貢献した。
参加状況:約300名の住民が参加し、ゴール会場でのイベントを含め、大変好評であったことから、今後も団地の継続事業に。

⑥合唱・オーケストラ等演奏会(平成25年12月) (参考資料①p15、参考資料②p9~10参照)
概要:団地40周年記念事業の一環として実施。地域の子供は、地域が育てるとの観点から、大分県立芸術緑丘高等学校音楽科生徒約100名による合唱、オーケストラによる演奏会を団地の子供が多数通学する大分市立横瀬小学校にて実施。児童と高校生による合唱、オーケストラの伴奏による校歌の合唱は、子供たちに貴重な体験と良い思い出を残すものとなった。
参加状況:大分市立横瀬小学校児童約320人、地域住民等約200人が鑑賞、芸術にふれ、児童の情操教育、住民の活力に貢献、オーケストラの伴奏で校歌を唄い、好評を博した。

⑦お出かけ交通開始(平成27年3月)
概要:自宅から移動困難な高齢者などの移動手段を確保するための乗合タクシーによる「お出かけ交通」事業を開始。自宅から団地の生活拠点である富士見ヶ丘グリーンプラザを往復する。事業はタクシー会社へ運行を委託、運行経費は自治会予算で賄うこととしている。

プラチナ(取り組みの具体的内容と効果:参考資料①)20140521最終版.doc

14. スケジュール(行程表)

平成22年6月  :7市(札幌市、盛岡市、長岡市、富山市、堺市、久留米市、大分市)で「ふるさと団地の元気創造推進協議会」を設立した
平成23年8月~:家賃補助制度(子育て世帯限定)、空き家・空き地情報バンク制度の創設
平成23年8月~:公園の芝生化、第2公民館設置
平成23年11月 :自宅開放ギャラリー(第1回)
平成24年11月 :G級グルメ、自宅開放ギャラリー(第2回)
平成25年3月  :あずまや設置、ふれあい親子動物園、森林探検ウォーキング(第1回)
平成25年5月~:空き家・空き地購入支援事業
平成25年11月 :自宅開放ギャラリー(第3回)
平成25年12月 :隣接小学校にて「大分県立芸術緑丘高校 合唱・オーケストラ他演奏会」(団地40周年記念事業)
平成26年3月  :森林探検ウォーキング(第4回)
平成26年11月 :自宅開放ギャラリー(第4回-年を数えるごとに充実してきている)
平成26年12月 :モデル団地類似大規模2団地隣接送学校2校にて「大分県立芸術緑丘高校 合唱・オーケストラ他演奏会
平成27年3月  :お出かけ交通スタート、あずまや設置、中央公園トイレにJAZZアート壁画お披露目式、森林探検ウォーキング(第5回)

15. プロジェクト予算(年度ごとの金額、あれば予算書)

平成22年度11,217千円
平成23年度 6,745千円
平成24年度15,018千円(社会資本整備総合交付金 4,608千円)
平成25年度 8,001千円(社会資本整備総合交付金 3,863千円)
平成26年度 7,457千円(社会資本整備総合交付金 1,428千円)
平成27年度 6,902千円(社会資本整備総合交付金 1,940千円)

16. プロジェクト遂行で調達した専門人材(エンジニア、デザイナー、知財関係など)

専門コンサルタント:ワークショップのモデレータ等の運営・取り纏めに貢献戴いた。行政だけでは、ワークショップが行政への要望に終始するなど運営が難しい。

17. プロジェクト推進・運用組織(あれば組織図)

大分市では庁内推進委員会(関係部局より39名の職員が参加)を組織、自治会との連携により事業を継続、発展させていく。
また、地方だけでは解決できない法律の改正や制度の創設などについては、7市による協議会等を通じて国へも提案しており、今後も関係省庁会議等で意見を交換していく。
①「ふるさと団地の元気創造推進協議会」(会長:大分市長、事務局:大分市)
 札幌市、盛岡市(副会長市)、長岡市、富山市(平成24年3月まで)、堺市、川西市(平成23年11月より)、久留米市、大分市
②「ふるさと団地の元気創造推進事業関係省庁会議」(事務局:内閣官房地域活性化統合事務局)
 内閣府、国土交通省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、総務省
③「ふるさと団地の元気創造推進庁内委員会」
 副市長を委員長として関係8部長を委員、13課長を幹事に作業部会として8部会54名。ワークショップでの多くの意見が出てきたためこれに対応する部課長を幹事とするとともに、内容ごとのプロジェクトチームを設置、これに対応して設けられた団地住民のプロジェクトチームと討議を行い、それぞれの取組みを明確にした。
④富士見が丘団地自治会
 地元プロジェクトチーム等ワークショップへ参加した自治会が募集の49名

18. プロジェクトの成功要件(要因できるだけ多く)

①ワークショップによる住民と行政との合意形成
少子高齢化が顕著に進む郊外の住宅団地で、実際に何が問題で課題なのか住民にも行政にも具体的に認識されたものは当初はなかった。この事業は、まず行政と地域住民がワークショップにより、団地活性化の意見を出し合い、活性化の対策について考え、対策の実施を合意したことがスタートになっている。11項目の対策は机上で考えた活性化策ではなく、地域住民とともに考えた対策であることが住民の皆さんが主体的に取り組んでいただいている源と考えられる。第1回目の第一声が「行政は何をしてくれるのか」で始まったワークショップも3回を数え、団地の現状を知り、活性化を考え、対策を描いたとき『自分たちの地域は自分たちで活性化しよう』という認識に変わっていき、次々と自主的な取組みが続き、団地内のコミュニティの強化や郊外型住宅団地の魅力を内外に発信し続けてきている。

②プロジェクトチーム(団地住民と庁内作業部会)による検討と住民参加による施策の実践
このワークショップで合意した活性化の方向性は「若い人を団地に呼び込む方策」と「高齢者が住みやすく活躍する場がある」の検討であり、具体的には「地域コミュニティづくり」や「住み替え支援対策」などの項目について、ワークショップ後も市の庁内推進委員会の作業部会と住民によるプロジェクトチームで具体的に詰めていくことができた。
また、団地に隣接する大分県立看護科学大学及び大分県立芸術緑丘高等学校などとも連携が進んできている。

③家賃補助、固定資産税相当額支援などの市の支援
子育て世帯への家賃補助制度、空き家・空き地情報バンク制度の創設および中古住宅・空き地を購入、居住した場合は支払った固定資産税相当額を3年間補助する等の支援措置を実施した。
家賃補助制度を活用し入居した子育て世帯は7世帯、24名であり、入居者は子供の泣き声や物音を気にせずのびのび子育てができる、近所の人が子どもに声をかけてくれると好評である。また、空き家・空き地購入支援事業の利用も平成25年12月までの8か月間で6件とハイペースで成約している。

19. プロジェクトの結果(出来れば数値)

行政は、限られた件数の家賃補助や固定資産税相当分の補助などを起爆剤とした取組み、空き家・空き地情報バンクによる物件紹介や公民館への補助のほか、地元の取組みの支援を行ってきた。
当初課題であった空き家も入居が進み激減したほか、空き地も新築入居により3年余りで約2割減少するなど、市と地元の取組みが相乗的に効果を上げてきているものと考えており、市民協働のひとつの成果である。
①空き家が激減
平成22年度調査での空き家43戸が3年間で36戸が入居、取り壊し2戸があり、5戸に激減。3年間で新規に発生した空き家も7戸にとどまり、現在空き家は12戸と大きく減少。
②空き地が減少
平成22年度調査での空き地102件が3年間で新築入居20件、住宅のほか倉庫新築1件もあり81件に約2割減少。3年間で新規に発生した空き地も1件にとどまり、現在82件が空き地。
③宅地戸数の拡大
団地中心部に位置していた資材置き場・駐車場等の空き地は長年に渡り放置されてきたが、本事業開始一年半後の平成23年度から宅地の造成と住宅建設が21件、平成24年度からは25件の合計46件行われ、平成25年12月までに35件が新築入居し、売り家が1件、売り地が10件となっている。これら11件も入居が進む予定となっている(詳細は参考資料①のp19に記載)。
④人口減少下げ止まり
平成11年の8,242人をピークに毎年平均50人弱の人口減少であったが、平成26年3月末は1人の減少となり、15年ぶりに下げ止まった。今後11件も入居が進む予定となっていることも人口減少下げ止まりの主要因になっている(詳細は参考資料①のp21に記載)。
⑤若い世代の入居と新たな開発の発生
郊外型住宅団地が抱える問題は少子高齢化に要因があり、このため住民とのワークショップにおいても、若い世代を団地に呼び込むことが活性化の方向性として提案されている。
これまで、社会実験や地元住民による取り組みが、新聞・テレビ等で多く報道され、子育て環境に優れ自然環境にも恵まれた団地の魅力を発信してきた結果相乗的に効果をあげ、団地中央にあった資材置き場・駐車場で新たな開発が平成23、24年度に46件起こり、ほぼ完売の状況になった。
また、事業開始年度の平成22年12月に実施した公道上から目視による空き家空き地調査と同様の調査を平成25年12月に行ったところ、空き家43戸は2戸取り壊し、31戸に入居、残り5戸が空き家のままで、新規の空き家も7戸にとどまり、3年間で43戸から12戸に劇的に減少した。空き地についても平成22年から3年間で約2割改善した。いずれも若い世代の入居であり、当初の方向性どおりの効果があった。

20. プロジェクトによる地域の変化

郊外型住宅団地の活性化という行政課題について机上で対策を立てたのではなく、住民と一緒になってワークショップを行い行政と住民で合意形成を行った。その結果、住民自ら地域の活性化に取り組み、行政はその支援にあたるという市民協働の形ができたこと。
具体的には「自宅開放ギャラリー」に見られる芸術と自然環境の良さの発信や団地周辺での「森林探検ウォーキング」による健康やコミュニティの増進のほか、芸術専門高等学校による合唱やオーケストラ演奏会を通じて、団地内に住む児童の情操教育に貢献できている。
これらの住民による地域の活性化自体が活動を支えている高齢者の生きがいづくりにつながっている。
ともすれば、行政に頼る公助一辺倒になるところを自助や共助としての取り組みに転換できたことが革新的であると考えている。

21. プロジェクト遂行後も残る課題(未達成、見えてきた課題)

ワークショップでは病院へのアクセスや団地内の交通対策が大きな課題として挙げられた。この問題に対しては団地内での自主的な取組みとして元気な高齢者がマイカーで送迎を実施する等を検討してきた。当初、無償のボランティアを考えたが、持続可能性を視野にガソリン代ぐらいを徴収の有償ボランティアとすることで参加者を募り陸運支局に相談したが、有償での運航は道路運送法78条の規制の壁を越えることはできなかった(関連6参照)。

22. 上記の課題を解決するさらなる展開(プロジェクト、フォローアップ)

自宅から移動困難な高齢者などの移動手段確保の交通対策として、自宅から生活拠点の中核商店「富士見ヶ丘グリーンプラザ」までを往復する乗合タクシーによる「お出かけ交通」が平成27年3月にスタートした。タクシーを毎週月・水曜日に運航し、1台を複数人が乗りあって利用する。住民1回の利用料は200円で、利用者の支払とタクシー代との差額を自治会が負担する。利用する場合、自治会への申請、審査・登録が必要である。登録料は1,000円/年、平成27年7月の利用登録者数は12名という状況であり、タクシー会社の請求額は約6千円/月と想定よりは少ない。決められた曜日・時間の利用なので、利用が難しい面もあるようだが、今後一層の周知と利便性を考え、利用者ニーズに沿った形で見直しも進めていく。自治会では有価資源物の回収等も行い財源の強化に取組んでおり、自治会費も含めた収入で「お出かけ交通」を賄っている。
なお、道路運送法78条は自家用有償運送を認めており、過疎地域に加えて郊外住宅団地においても有償運送を認めるよう国に働きかけている。

23. 横展開を考えている人への助言、特に苦労した事

郊外の住宅団地は、工業団地等で働くために流入する労働者に住居を提供するものであったことから、様々なキャリアを持つ人材の宝庫であり、人的資源は豊富にある。
その地域で、「自分たちの地域は自分たちで活性化するんだ」と認識されたということは、アイデア次第では活性化につながる可能性が大きい。
また、地域的にも就労場所へは相応の通勤時間はかかるものの、子供を育てるのに適した地域である。学校は近く、団地の中、または周辺には幼稚園や保育園があり、公園も多く、通学に支障がないほどに広い道路、郊外に建設されたことから自然環境もよく、のびのびと子育てできる環境が整っている。次代を担う子供たちにここで育ってもらえるよう高度経済成長期に官民挙げて投資をしてきた地域である。わずか30年から40年で元の山野に戻してはこの資本の投下が水泡に帰してしまう。多様な仕事の経歴をもつ住民も、すでに多くは現役を終えており、時間的に余裕のあるこれら人的資源を活用した活性化が可能な地域である。

24. その他関連情報、資料