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平成5年7月に県内初の富山型デイサービス事業所である「このゆびとーまれ」が開設された当初、県としては富山型デイサービスについて「多様な形態のデイサービス」の一つという認識にあった。
しかし、「誰もが住み慣れた地域でともに暮らす」「排除しない」という理念に基づき、地域住民のニーズに柔軟に対応する実践活動が地域の人々の共感を呼び、県民の中に富山型デイサービスを支持する声が強く寄せられるようになり、取組みを評価する意見も多くなっていった。
また、次に掲げる理由もあり、県では富山型デイサービスを地域における多様な福祉サービス提供の拠点として位置づけ、その育成の観点から平成9年度に助成制度を設けるなど、設置促進に努めることとなった。
①富山県の福祉における特徴の一つとして、施設よりは在宅福祉を中心とする状況があった
②当時の急激な高齢化の進行にあわせ、本県においても、各種施設の整備が急速に行われていたが、在宅福祉サービスの明確化や、1989年のゴールドプランにおける在宅福祉の考え方を通じ、「施設から在宅へ」が本格的に言われるようになってきていた
③平成6年度からの県老人保健福祉計画においても、「多様な形態のデイサービスの提供を図るなど、各地域の実情にあったデイサービス事業の展開を図る。」ことを掲げ、その後6年間でデイサービス事業所数を約3倍、延べ利用者で約4倍を目標としていた
④昭和57年から身体障害者について、平成10年から知的障害者について、それぞれデイサービスが開始されているが、数的には少なく、このことが身近な生活圏で利用できる富山型デイサービスに対する潜在的な需要となっていた
その後富山型デイサービスは、平成12年度の介護保険制度の創設を機に、高齢者の介護に対する報酬が得られる一方、県からの補助金が廃止されるなど大きな転機を迎えたが、富山型デイサービス事業所においては、高齢者、障害児(者)等を一緒にケアするサービスは変わることなく続けられ、県では、このような富山型デイサービスをさらに支援するため、特区制度を活用して、国に規制緩和等を働きかけ、富山型デイサービスの普及を推進してきた。
高齢者、障害者、子どもなど誰もが住み慣れた地域において、家庭的な雰囲気のもとで、きめ細かなケアが受けられる小規模なデイサービスである“富山型デイサービス”を県内200箇所に設置(※)する。これにより、赤ちゃんからお年寄りまで、年齢や障害の有無にかかわらず、住み慣れた地域での生活が継続できる“共生社会”の実現を目指す。
※「新・元気とやま創造計画」(富山県総合計画)に掲げられた平成33年度までの目標
200箇所は県の小学校区とほぼ同数であり、県内のどこからでも、歩いて行ける距離に富山型デイサービスがある状況を目指している。(平成26年3月末時点105箇所、)
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①「福祉的就労」の実施が大規模事業所に限定されるため、地域に密着した事業者による多様な福祉サービスの展開の障壁となっている。
②介護保険法や障害者自立支援法による事業所の認可基準が、NPO法人など地域に密着した事業者による多様な福祉サービスの展開において障壁となっている。
①福祉的就労の規模要件の緩和-施設外就労1ユニット当たりの最低人員3人を1人以上とする等(富山型デイサービスの運営法人が就労継続支援B型事業所の指定を受け、県内の複数の事業所を「施設外就労先」としてグループ化。それぞれの事業所が障害者を受け入れることで一定の利用者を確保等)。
②認知症グループホームでの居宅サービスの利用やグループホームへの障害者の受入れ(共生型グループホームの設置)
③障害者グループホーム等の改築などに対する補助制度の改善
(例)「地域共生型障害者就労支援事業」
富山型デイサービス事業所において、民間企業での就労が困難な障害者に対し就労の場を提供し、障害者が就労支援を受けながらスタッフの一員として事業所の業務を担うことにより、障害者の自立又は就労に導くことを目的とする事業。総合特区における規制緩和の特例措置により実現した。
施設外就労…就労継続支援B型事業所が外部の企業等と契約を締結し、請負った仕事をB型事業所内ではなく、当該企業等で行う就労
富山型デイサービスに関する県補助金(施設開設・設備などの支援)
【目的・対象等】
高齢者、障害児(者)、児童のすべてを対象としたデイサービス等を行うNPO法人、その他知事が適当と認める法人が実施する施設の施設整備に対して市町村が支援を行う場合、または市町村が自ら施設整備する場合に、当該市町村に助成する。
【補助対象経費】
施設整備のために必要な新築費、既存施設改修費及び初年度備品費
施設整備 新築の場合 1箇所…1,200万円
住宅活用施設整備 ①住宅等改修 1箇所…600万円 ②機能向上(改修)1箇所…600万円 ③機能向上(除雪機、AED等)1箇所…60万円
②、③は平成24年度より、通常の指定通所介護事業所等から富山型への転換を図る際にも利用可能
補助率 県…1/3 市町村…1/3
その他 福祉車両の設置 1台…50万円(上限)
※国庫補助等他の助成制度が適用可能な施設整備・設備に要する経費を除く
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本来、わが国の社会福祉制度は、高齢者は介護保険法や老人福祉法、障害者は障害者自立支援法(障害者総合福祉法)、児童は児童福祉法と、サービス対象者ごとに根拠法令や補助制度等が異なり、国や地方公共団体における所管部局も異なっている。このため、例えば介護保険法上の通所介護事業所では、要介護高齢者のみが対象であるなど特定の対象者のみにサービスを提供する縦割りの構図が固定化していた。また、従来の福祉サービスは、時として住み慣れた地域から離れた場所に立地する大規模施設において、集団的なケアが提供される傾向にあり、地域共生という考え方が欠落していた。
これに対して富山型デイサービスは、誰もが身近な地域でともに暮らす地域共生の理念を重視しており、従来の縦割り・施設型サービスに比べ、次のような革新的な特徴を有している。
①利用定員が10から20名程度と小規模で、住宅街にあり、民家を改修したような施設であること
②高齢者、障害児(者)、児童を利用対象者とし、また、依頼があった時は、デイサービスで泊まりにも対応するなど、多機能で柔軟なサービスを提供していること
③地域住民の福祉相談に気軽に応じるなど、地域密着の活動をしていること
上記に加えて、富山型デイサービスの事業者の多くは、介護保険等の給付の対象となるサービスのみならず事業所独自の自主事業を展開しており、地域共生に貢献する新たなサービスを創出している。
(※例えば、「デイケアハウスにぎやか」では、障害者の就労支援として、事業所を訪れた視察者への事業所案内を精神障害者が行っている。)
【具体的な取組内容】
(1)富山型デイサービス事業者の新たな参入を促すこと-富山型デイサービス事業者の活動を支える施設・設備等に対する支援を目的とした事業
①富山型デイサービス施設の整備事業(H17~)
・富山型デイサービス施設の新築整備に対する助成
・基準額12,000千円(県1/3、市町村1/3、事業者1/3)
②富山型デイサービス住宅活用施設整備事業(H17~)
・民家等の改修による富山型デイサービス施設の整備に対する助成
-基準額6,000千円(県1/3、市町村1/3、事業者1/3)
・サービスの多様化を図るための施設改修に対する助成
-基準額6,000千円(県1/3、市町村1/3、事業者1/3)
・利便性の向上を図るための備品の購入に対する助成
-基準額600千円(県1/3、市町村1/3、事業者1/3)
③福祉車両の購入に対する助成(H16~)
・車いす対応の車両 500千円/1台 回転シート等 100千円/1台
④富山型デイサービス起業家育成講座(H14~)開催
・富山型デイサービスを起業したい方を対象に、起業にあたっての留意点や税務などの制度に関する説明、実際に起業された方の体験談などを盛り込んだ研修の開催
⑤富山型デイサービス職員研修会(H17~)の開催
-富山型デイサービスに勤務する職員を対象に、高齢者、障害者、児童などの分野を横断する総合的な研修の開催
(2)高齢者のみを受け入れている一般のデイサービス事業所等が、富山型デイサービスに転換することの支援
①富山型デイサービス理念普及講座の実施(H24~)
・一般のデイサービス等の管理者等に、富山型デイサービスの持つ共生の理念を学んでいただくための講座や、富山型デイサービス事業所見学会の実施
②富山型デイサービスDVDの作成・配布(H24年度のみ)
・富山型デイサービスの日常の取組み等を紹介したDVDの作成・デイサービス事業所等への配布
(3)特区制度を活用した規制緩和の実現
(1)、(2)の支援制度を設けるとともに、国の制度改正が必要な事項については、特区制度を活用し、規制緩和等を国に働きかけることなどにより、民間事業者である富山型デイサービスがより柔軟に活動できるように支援を行ってきた。
①富山型デイサービス推進特区
平成15年11月、県と3市2町(富山市、滑川市、砺波市、大山町、福野町)が特区の認定を受け、介護保険の指定サービス事業所の利用対象が、知的障害者と障害児に広がった。これにより、高齢者と障害者の垣根が低くなり、特区内での富山型デイサービスの普及に弾みがついた。
平成18年10月には、特区において適用されている規制の特例措置である「指定通所介護事業所等における知的障害者及び障害児の受入れ」が、特区内に限らず、全国で実施できるよう規制緩和された。
②富山型福祉サービス推進特区
平成18年7月、県と2市1町(富山市、高岡市、立山町)が特区の認定を受け、介護保険の小規模多機能型居宅介護事業所における、障害児(者)の通所サービス(生活介護、自立訓練、児童デイ)、宿泊サービスの利用が可能になった。
そして平成22年6月からは、通所サービスの生活介護が全国展開、平成23年6月からは、宿泊サービスについても全国展開されることとなった。
また、富山型デイサービス事業所は、①ア.認知症高齢者のケアや介護予防、イ.障害者の地域における居場所づくりや就労支援、ウ.乳幼児の一時預かりや学童保育による子育て支援など地域における様々な福祉ニーズに対応していること、②利用者やその家族にとっては「どのような問題であっても断られない」という安心感を持って利用できる、いわば地域の「駆け込み寺」的な役割を果たしていること等地域の福祉課題を地域自ら解決するための重要な福祉拠点施設となっている。
さらに、障害者の自立支援の観点から障害者の就労支援が課題となるなか、富山型デイサービス事業所は、総合特区による規制緩和を活用した「地域共生型障害者就労支援事業」において、障害者の施設外就労先となるなど中心的役割を果たしている。この事業により、地域の身近な場所で障害者の就労が確保され、特別支援学校などの卒業後の進路の選択肢が増えている。
1993年 民間デイケアハウス「このゆびとーまれ」開所
1996年 県が「在宅障害児(者)デイケア事業」を開始
1997年 県が「富山県民間デイサービス育成事業」を開始
1998年 富山型デイサービス事業者による「富山県民間デイサービス連絡協議会」が発足
1999年 「このゆびとーまれ」富山県第一号のNPO法人となる
2000年 介護保険制度スタート
2003年 富山型デイサービス推進特区の指定(指定通所介護事業所で知的障害児の受入が可能に)
2006年 富山型デイサービス推進特区の全国展開・富山型福祉サービス推進特区の指定
2010年 富山型福祉サービス推進特区の特例措置が全国展開(通所サービスの生活介護)
2011年 富山型福祉サービス推進特区の特例措置が全国展開(短期入所)
2013年 富山型福祉サービス推進特区の特例措置が全国展開(児童発達支援、放課後等デイサービス)
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①富山型デイサービスの初期においては、高齢者に関するサービスは高齢福祉課、障害者に関するサービスは障害福祉課のように縦割りの対応をしていたが、より横断的で柔軟に対応するため、富山型デイサービスに関する要望や問合せは、厚生部厚生企画課が一括して受け付けている。
②平成25年度よりは、厚生企画課に地域共生福祉係を設け、係員それぞれが民生各課(高齢福祉課、児童青年家庭課、障害福祉課)と情報交換等を行い、地域共生実現に向けた情報収集等を行っている。また、民生各課においても、地域共生の窓口となる担当職員をおいており、情報共有・連携に努めている。
③富山型デイサービスを運営する小規模事業者で構成される任意団体「富山ケアネットワーク」(平成10年発足)の毎月の定例会には、県の担当職員も参加しており、事業者との情報交換、意見交換を行い、行政に対する要望等を汲み取り、施策に反映している。
④富山型デイサービス事業者、特別支援学校、行政(教育、厚生、労働等の関係部局)が連携を深めることにより、障害のある子どもの地域の活動場所の整備等を目的に、「富山型デイサービス・特別支援学校連携協議会」が設置されている。ここでは進路協議会の開催(障害のある方が働いている富山型デイサービス事業所の視察等より特別支援学校卒業生の進路を考える等)や、事例・実技研修会の開催(富山型デイサービスでの生活や就労に関する保護者との意見交換会等)を行っている。
①「誰も排除しない=共生」を重視した取組み
当初、福祉サービスは高齢者、障害者、児童と各対象者を限定した縦割りの取組みであったが、「このゆびとーまれ」は「誰もが住み慣れた地域で共に暮らす(共生)」ことを重視した取組みであった。このため国の補助が得られず財政的には厳しい出発であったが、逆に地域で多様なサービスを展開するということが効率的な運営に繋がってもいる。このような地域の支持を得た柔軟な実践活動が人々の共感を呼んだ
②小規模で初期投資が少なくて起業が可能
小規模による施設整備等への負担の少なさ等意欲と熱意があればできる起業(初期投資の軽減等)
③県のタイムリーな施設整備等資金補助
県独自のデイサービス設の整備や福祉車両の購入に対する補助金などの支援
④特区制度を活用した規制緩和の実現
富山型デイサービス推進特区の認定を受け、介護保険の指定サービス事業所の利用対象が知的障害者と障害児に広がるなど普及が進んだ。
1)日常生活圏でケアを必要とする多様な地域住民が触れ合うことによる意識の啓発
富山型デイサービスは、民家を改修するなどした小規模な生活空間において、既存の制度の枠組みにとらわれることなく、高齢者(介護保険法の通所介護等)、障害児(障害者総合支援法の生活介護、機能訓練等)、障害児(児童福祉法の放課後等デイサービス等)、子ども(放課後児童クラブ等)など、年齢や障害の有無にかかわらず、ケアを必要とする地域住民に分け隔てなく多様なサービスを提供している。
このことにより、従来の縦割りサービスでは期待できない次のような効用が認められる。
①高齢者は子どもと触れ合うことで自分の役割を見つけ、意欲が高まり、日常生活の質の改善や会話の促進につながる
②障害者は身近な生活圏に居場所ができることで、受身の利用者としての立場ではなく、自分なりの役割を見出し、自立へとつながっていく(※1)
③子どもにとっては、高齢者や障害者をはじめとする他人への思いやりや優しさを身につける教育面の効果がある
④地域にとっては、地域住民が持ちかけていく福祉に関する相談など、様々な相談に応じる地域住民の福祉拠点としての効果
※1…富山型デイサービスにおいては、子どもの時から児童デイ(放課後等デイサービス)の利用者として事業所に通っていた障害児が特別支援学校を卒業した後、有償ボランティア等として、デイの職員の助言・支援を受けながら、配膳や掃除、洗濯などの作業に従事している例があり、平成24年4月の本県の調査によると、9施設で14名の有償ボランティアが働いている。
2)地域生活圏での小規模施設による効率的運営と高齢者・障害者の就労・交流の機会提供
人口増加、安定成長に伴い、外部化、専門化、大規模化してきた福祉施設は、人口減少に伴い小規模・多様な取組を持つものが必要とされていくと考えられる。その意味で、富山型デイサービスはこれからの人口減少・高齢化社会に対応した地域生活圏での福祉サービスの提供のあり方ということができる。
また、富山型デイサービスは、①利用者と住民が一緒に食堂で食事ができるなど、地域住民が気軽に利用し、交流できる居場所としての機能を有していること、②障害者が「有償ボランティア」として就労している例が多数見られること、などから、高齢者、障害者等の社会参加の機会の確保や、地域住民の“交流の場”として、街の活性化にも寄与した取組みということができる。
この富山型デイサービスの共生のあり方は、富山県内で広まりを見せるにとどまらず、他県から多数の自治体関係者や福祉関係者が視察に訪れるなど、全国から支持されている。
3)事業者間の情報交流・連携による質の向上と県による制度改変や環境整備への不断の対応
富山ケアネットワークでは、会員同士の情報交換や各種セミナーを開催することにより、共生型ケアの質の向上に努めている。また富山型デイサービスの起業を考えている方に対するアドバイスなども実施しており、毎月1度の定例会には、毎回、県の担当職員も参加し、現場の生の情報をもとに、既存制度の課題や共生型福祉のあり方について議論が交わされている。
県は、この議論の中から行政に対する要望等をくみ取り、県で対応できることは対応し、制度を改正する必要があるものについては、特区制度の活用などにより国に対して要望するなど、県と事業者が協働して、共生社会実現に向けた環境の整備に努めている。
①地域共生ホーム全国セミナーの開催
富山ケアネットワークなどを中心とした実行委員会が主催する、富山型デイサービスをより深く理解するための全国セミナーの実施。平成15年に第1回が開催され、その後隔年で富山県内で開催され、毎回全国から多くの方が参加しており、それぞれの地域で、それぞれの立場・視点で地域共生を考える契機となっている。
②富山型デイサービス施設におけるケアの実態などの調査研究とその情報発信
平成16~17年度においては、行政、事業者、学識経験者からなる「富山型デイサービス施設調査研究委員会」を立ち上げ、ア 富山型デイサービス施設におけるケアの実態調査及びその効用の研究、イ 自主サービス等に関するモデル事業の実施及びその検証による発展性の研究 などを行い、その結果を8つの提言にまとめ、国や全国に向けて発信したところである。
平成25年度においても富山型デイサービス等におけるケアの実態や地域活動との連携の状況などを調査し、総合特区における新たな提案を検討するため、学識経験者をメンバーとする調査検討委員会を設置することとしている。
③事業への理解・起業への取組・福祉事業の質の向上が進む
このような取組を進める中で“富山型デイサービス”が広く県民に行き渡るとともに、事業への理解・起業への取組・福祉事業の質の向上が進んできている。
富山型デイサービスの課題は次のとおりである。
①専門性の確保
富山型デイサービスの理念が広く共感を呼びノーマライゼーションの実現として肯定的に捉えられても、それを実践していく過程では、利用者の個別のケアをマネジメントする専門性が不可欠である。そのため具体的なケアを展開できる能力を持つ人育てていくことが今後も必要である。また、利用者への安全の配慮は、どのような状況にあっても欠かすことはできない。
②ケアの展開の限界とサポートネットワーク
地域での生活の継続のためにショートステイなどの取組みを模索したり、世代を越えて存在している重度の身体障害のある利用者や多動の利用者(例えば認知症で徘徊がはげしい利用者や多動の障害児等)に対応している事業者もある。このように各事業所が多機能なケアを展開していくなかで、個別の施設で対応できないケースがでてきた場合に、それをサポートするための互助ネットワークに各事業者が積極的に参加することが必要である。
③障害のある方の雇用
平成25年4月より、総合特区による規制緩和を活用した「地域共生型障害者就労支援事業」がスタートしており、障害のある方が富山型デイサービスで福祉的な就労をしているが、さらに多様な就業場所を地域の中で確保し、社会参加を具体化していく。
④地域住民への情報提供と理解
現状の介護保険のケアマネジャーを中核としたケアマネジメント制度では、「富山型デイサービス」について情報提供が充分になされているとは言えない。また、地域住民の理解も地域差がある。「富山型」事業者は、高齢者、障害者、子どもなど「いつでも だれでも」の共生の理念に基づき、共生ケアを行うことを住民に明確に周知し、理解を得ていく必要がある。
⑤富山型デイサービス提供に対する適正な対価の取得
富山型デイサービスの大多数は介護保険の指定事業者であり、他の介護保険事業者と同じく介護報酬により運営することが基本となる。そのため、現在、富山型デイサービスに対し、行政から運営費の助成はしていない。また障害者を預かった場合の給付が、高齢者を預かった場合に比べて安い、基準該当での障害者の受入れには各種の加算がつかない などの富山型デイサービスを運営する上での諸課題については、特区制度を活用して国に改善を働きかけている。
これらの課題を克服するための主な取組みは次のとおりである。
①ケアの専門性の確保や、サービスの質の向上を図るため、富山型デイサービスに勤務する職員を対象に、高齢者、障害者、児童などの分野を横断する総合的な研修を実施している。また、富山ケアネットワークでは、共生施設ならではのケアの留意点をまとめた「共生ケアひやり・はっと集」を作成・配布し、ケアの質の確保や、事故防止に努めている。
②富山ケアネットワークでは、定例会の開催などにより、会員同士の情報交換を積極的におこなっており、ニーズに対応できない際には、他の富山型デイサービス事業所に受け入れを打診するなど、できる限りニーズに対応できるよう連絡体制の構築に努めている。
③平成25年4月より「地域共生型障害者就労支援事業」がスタートしているが、現在の施設外就労先は富山型デイサービス事業所に限定し実施している。今後、更にこの取組みを推進し、県内に就労の拠点となる就労継続支援B型事業所の指定を受けた事業所を増やすとともに、施設外就労先に一般の商店や企業などを加えることにより、障害者の就労の場を地域一体に広がるよう努めている。
④富山型デイサービスで提供されている様々な福祉サービスや、高齢者や子どもなどの居場所づくりなどの地域貢献活動等を地域住民等に広く周知し、富山型デイサービスを地域の福祉拠点として活用していただくため、「地域共生型福祉モデル発信事業」により、その地域共生の取組みを広く情報発信することとしている。
富山型デイサービスが、文字通りの富山県限定のサービスにとどまることなく、全国に広がったのは、構造改革特区制度の活用とその効果の検証による全国展開という流れがあったためである。全国展開された富山県の取組みは全国で実施可能であり、県内外に広がっていくものと考えている。
「富山型デイサービス推進特区」の全国展開の流れを以下に挙げておく。
平成15年11月 特区の認定を受け、介護保険の指定サービス事業所の利用対象が、知的障害者と障害児に広がることとなった。これにより、高齢者と障害者の垣根が低くなり、特区内での富山型デイサービスの普及に弾みがついた。
平成18年10月 特区において適用されている規制の特例措置である「指定通所介護事業所等における知的障害者及び障害児の受入れ」が、特区内に限らず全国で実施できるように規制緩和された。これにより、富山型デイサービスが全国に大きく広がった。
さらに、平成23年12月に指定を受けた総合特区による規制緩和を活用し、富山型デイサービスを中心とした障害者の福祉的就労である「地域共生型障害者就労支援事業」などに取り組んでおり、今後も新たな地域共生に関する規制緩和の提案をしていく予定である。
なお、本県が毎年開催している「富山型デイサービス起業家育成講座」には、第1回開催の平成14年度から平成24年度までに、累計575名の方が受講され、そのうち、県外からの受講が153名にのぼり、県外で富山型の施設運営を始める者も出てくるなど、富山型デイサービスの全国展開に大きな成果を上げている。
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