【背景・課題、目的・目標】
荒川区は、「区政は区民を幸せにするシステムである」というドメインを標榜し、様々な事業を計画し実現を進めてきた。なかでも「子どもの貧困・社会排除」に関する問題は、明日を担う子どもたちの健やかな成長や将来を奪いかねないものであるため、平成21 年に「子どもの貧困問題検討委員会」を設置、貧困排除のための研究を進め、平成23 年8 月に最終報告書を公表した。
区は、子どもが発達段階で関わる全ての関係セクション並びに関係機関(保健師、保育所等、学校、医療、民生委員、児相等)が個別に持つ情報を一元化し、報告書で提言されたリスクの持った世帯のシグナルを早期に発見、リスクを減らして貧困等の脱却を図る「あらかわシステム」をもとに、スクールソーシャルワーカーの配置や学習支援事業など、具体的な取り組みを始めた。
本取組みは様々な支援を必要とする子ども(生活困窮世帯やひとり親家庭、虐待、ひきこもりやいじめを受けた子ども等)に対して、食事の提供や学習支援、団らんの場を提供する。そして地域での居場所をつくり、子どもを生活面から学習面まで多面的に支援、子どもの健やかな育成に向けて居場所づくりを行う団体に支援を行うことで、ひとり親家庭や生活困窮世帯の子どもの自立を促進することを目的とする。
【具体的な取組】
「子どもの居場所づくり事業」は、子ども・家庭の目線に立ち、学習支援を含めた子どもの「居場所づくり」を提供している地域の団体への支援を通じて子どもの自立促進を図るものである。行政サービスの枠を超えた新しい事業であり、子どもが健やかに成長し、誰もが新たな価値を創造できる環境を整備し、心(交流)、体(食事)、頭(学習)を育てる事業である。事業の概要は以下の通りである。
1)補助対象
・子どもの居場所づくり事業を実施する団体、区は運営者へ子どもが参加するごとに 2,000円/人を補助
2)参加者
・18歳までの子どもで生活困窮世帯等支援が必要な子ども (公立・私立の子どもに関係なく18歳未満で支援が必要であれば参加できる)
3)事業内容
・学習支援、食事の提供、子ども同士、子どもと大人(ボランティア)の交流(先生でもない、家族でもない、大人や社会との触れ合い)。
4)スタッフ
・地域のボランティア(10代~70代)、塾の経営者や講師で経験者を含む
5)頻度
・週1回~2回程度の開催(区内2か所で実施-学校や家や遊び場でもない、居心地の良いサードプレイス)
(事業内容・推進体制等については 添付 表 「子どもの居場所」事業の内容、図 「子どもの居場所づくり」事業の推進体制 参照)
【成功要因】
①地域団体の支援によるコスト削減
調理スタッフ、学習支援スタッフは有償ボランティアであること、居場所は賃料のかからない場所(空き室や自己所有の事務所)を活用している等低コストで事業を実施。
②学校でも家庭でもない場所での学習習慣や社会経験による社会生活基礎能力の向上
「子どもの居場所づくり事業」は、「学習支援と食事支援をセットにした居場所としていること」、「自治体の補助事業で行い、参加する子ども・保護者の負担は限りなく小さいこと」などのほか、子どもたちにとっては基本的な学習習慣が身につけることができる。活動団体のリーダーは、楽しい時間を作るだけでなく、子どもたちの将来を念頭におき、日常生活の基礎的な体験、社会の様々な経験を積ませて、意識付けをしている。このような目的意識を持った活動は子どもたちの共感を生み、自身の将来を考え、行動する等の動きになっている。区は団体の裁量による柔軟な運営を支援している。
【成果】
① 事業1回あたりにおける平均利用者数の増加(26年度に実施した1団体に関して)
平成26年度 8.91人から27年度 12.22人まで、子どもの参加者が増加、身近な居場所として根づいてきている。
② 進学状況
平成27年3月に中学を卒業した子どもは、都立高校をはじめ希望校に全員進学できており、学力が着実に向上している。
③多世代の出会い・交流・活躍と生きがいづくりに貢献
子どもの居場所づくり事業の主役は子どもであるが、ボランティアが事業を支えている。多くのボランティアの参画・交流により、子どもと多世代の交流が実現し、新たな刺激・活力が生み出されている。「ボランティアには60代・70代の方も活躍」、「料理屋の調理人や塾の講師の参加」など様々な社会経験をもった方の参加が生まれており、ボランティア側の生きがい創出にもつながっている。
また、平成27年度に2団体が実施したことをうけて、28年度から地域の様々な団体が新たに取組みを始めようとするなどの動きがみられる。
【今後の課題・方向等】
①居場所の増加
現在2か所での事業となっているが、多くの子どもが利用できるような多拠点での展開。
②事業の枠組みの改善
ア.区役所の関連課を始め、学校・保健所など関係機関への周知と連携を強化し、早い段階から対象者を紹介・抽出できるような仕組みの構築
イ.ボランティアスタッフの増員に向けた仕掛けづくり(地域大学やボランティアセンターとの連携等)
ウ.食料提供団体等の開拓/紹介や実施場所の提供/紹介を通して低コストで運営できる仕組みの構築
③補助制度の見直し
団体の要請を受け、区が団体へ交付する2,000円/人・回との補助金スキームの見直し(平成28年度は補助体系の見直しを図る予定)。
【その他】
類似事業に、国の「生活困窮者自立支援法」に基づいた「子どもの学習支援事業」(国の補助率は1/2)がある。この事業は主に生活困窮者を対象とし、学習支援に対して補助する内容となっており、一部の自治体で取組を始めている。荒川区が実施する「子どもの居場所づくり」事業は、生活困窮者に限定せず、また事業も学習支援だけでなく、食事の提供や子どもや親の相談等、幅広くカバーするものである。
荒川区は、平成16 年の西川区長の就任当初から「区政は区民を幸せにするシステムである」というドメインを標榜し、様々な事業を計画し実現を進めてきた。なかでも「子どもの貧困・社会排除」に関する問題は、明日を担う大切な子どもたちの健やかな成長、さらには明日への希望や将来を奪いかねないものであるため、平成21 年5 月に「子どもの貧困問題検討委員会」を設置し、荒川区自治総合研究所とともに貧困排除のための研究を進め、平成23 年8 月に研究の最終報告書を公表した。報告では、42 の調査事例のケーススタディをもとに、「子どもの貧困・社会排除」の世帯における「リスク」と「決定因子」等を明らかにした。リスクには①家計の不安定、②生活の負担、③疾患等、④家族の人間関係、⑤孤立、⑥貧困の連鎖 等があり、決定因子には①保護者の就労状況、②保護者の養育力、③世帯に対する支援の有無、があるとした。また「子どもの貧困・社会排除」の様相として、①学力不足、②不衛生、③食生活不全、④児童虐待、⑤不登校、⑥問題行動、があるとした。
区は、子どもが発達段階で関わる全ての関係セクション並びに関係機関(保健師、保育所等、学校、医療、民生委員、児相等)が個別に持つ情報を一元化し、報告書で提言されたリスクの持った世帯のシグナルを早期に発見、リスクを減らして貧困等の脱却を図る「あらかわシステム」をもとに、スクールソーシャルワーカーの配置や学習支援事業など、具体的な取り組みを始めた。
様々な支援を必要とする子ども(生活困窮世帯やひとり親家庭、虐待のある家庭、ひきこもりやいじめを受けた子ども等)に対して、食事の提供や学習支援、団らんの場を提供し、地域での居場所をつくり、子どもの生活面から学習面まで多面的に支援、子どもの心・体・学習の健やかな育成につなげて、貧困をはじめ子どもを取り巻く様々な問題の負の連鎖を防ぐとともに、居場所づくりを行う団体に支援を行うことで、ひとり親家庭の子どもや生活困窮世帯の子どもの自立を促進する。
・学びサポート事業(参加費無料の学習支援の実施)
・荒川区社会福祉協議会との連携
・地域で子どもを支援しようとする機運
・特に無し
・特に無し
・特に無し
無し
・社会福祉協議会
・荒川区コミュニティカレッジ(地域大学)の卒業生
・地域団体
・フードバンク、地元商店街(食材の提供)、地域の各団体(保護司会、民生委員等)
「子どもの居場所づくり事業」は、子ども・家庭の目線に立ち、地域の力を活かしつつ学習支援を含めた子どもの「居場所づくり」を提供している団体への支援を通じて子どもの自立促進を図るものであり、子ども1人ひとりと向き合い対応することで、子ども自らが進学など将来に対する夢や希望を持てるよう支援するものである。
行政サービスの枠を超えた新しい事業であり、子どもが健やかに成長し、誰もが新たな価値を創造できる環境を整備し、心(交流)、体(食事)、頭(学習)を育てる事業である。
(1)荒川区 子どもの居場所づくり事業の概要
1)補助対象
・子どもの居場所づくり事業を実施する団体
・区は運営者へ子どもが参加するごとに 2,000円/人を補助
2)参加者
・18歳までの子どもで生活困窮世帯等支援が必要な子ども
(公立・私立の子どもに関係なく18歳未満で支援が必要であれば参加できる)
3)事業内容
・学習支援
・食事の提供
・子ども同士、子どもと大人(ボランティア)の交流。
-先生でもない、家族でもない、大人や社会との触れ合い。
4)スタッフ
・地域のボランティア(10代~70代)
・塾の経営者や講師で経験者を含む
・週1回~2回程度の開催
・区内2か所で実施(学校でもない、家でもない、遊び場でもない、居心地の良いサードプレイス)
(2)ある日の「子どもの居場所」の様子
一日の「子どもの居場所」事業の実施内容は下記のようなものである。
表 「子どもの居場所」事業の一日
平成21年度 「子どもの貧困問題検討委員会」を設置
平成22年度 荒川区子どもの貧困・社会排除問題対策本部の設置
平成23年度 「子どもの貧困問題検討委員会」最終報告書を公表
同 子どもの貧困の早期発見のための情報共有に関するプロジェクトチームの設置
平成27年度 地域の力を活かした子どもの居場所づくり事業開始(実施団体への補助を開始)
平成27年度 1,500千円
平成28年度 4,500千円(予定)
・社会福祉協議会-人材・ボランティアのコーディネート
「子どもの居場所づくり」事業実施団体に対し、荒川区は補助制度を創設、実施団体に対する助成を行っている。また、区は子どもの成長に関連する区役所関連組織に保健所、学校、スクールソーシャルワーカーなどと連携、情報共有を進め、一体となった支援を実施している。
また、実施団体はフードバンクより食料の提供を受ける、ボランティアセンターより人材派遣を受けるなど地域団体の支援も受け、活動している。
図 「子どもの居場所づくり」事業の推進体制(実施団体への地域の支援)
①地域団体の支援によるコスト削減
調理スタッフ、学習支援スタッフはいずれも有償ではあるが、ボランティアであること、居場所は賃料のかからない場所(空き室や自己所有の事務所)を活用している等低コストで事業を実施している。
②学校でも家庭でもない場所での学習習慣や社会経験による社会生活基礎能力の向上
「子どもの居場所づくり事業」は全国的にも希な事業であり、「学習支援と食事支援をセットにした居場所としていること」、「自治体の補助事業で行い、参加する子ども・保護者の負担は限りなく小さいこと」などのほか、子どもたちにとっては基本的な学習習慣が身につけることができる。
活動団体のリーダーは、楽しい時間を作るだけでなく、子どもたちの将来を念頭において、日常生活の基礎的な体験、社会の様々な経験を積ませて、意識付けをしている。このような目的意識を持った活動は子どもたちの共感を生み、自身の将来を考え、行動する等の動きになっている。区は枠にはまった形式的な事業運営ではなく、団体の裁量による柔軟な運営を支援しており、多くの活動を通して、社会で必要とされる人材の育成、ひいては貧困等からの解消を目指している。
① 事業1回あたりにおける平均利用者数の増加(26年度に実施した1団体に関して)
平成26年度 8.9人から27年度 12.22人まで、子どもの参加者が増加し、身近な居場所として根づいてきている
② 進学状況
平成27年3月に中学を卒業した子どもは、都立高校をはじめ希望校に全員進学できており、学力が着実に向上している。
③多世代の出会い・交流・活躍と生きがいづくりに貢献
子どもの居場所づくり事業の主役は子どもであるが、ボランティアが事業を支えている。多くのボランティアの参画・交流により、子どもと多世代の交流が実現し、新たな刺激・活力が生み出されている。「ボランティアには60代・70代の方も活躍」、「料理屋の調理人や塾の講師の参加」、「様々な社会経験をもった方の参加」が生まれており、事業への参加がボランティア側の生きがい創出にもつながっている。
平成27年度に2団体が実施したことをうけて、28年度に入ってから地域の様々な団体が新たに取組みを始めようと意欲的に検討するなど、地域内での事業拡大に向けた機運が高まっている。
①居場所の増加
現在2か所での事業となっているが、多くの子どもが利用できるような多拠点での展開
②事業の枠組みの改善
ア.区役所の関連課を始め、学校・保健所など関係機関への周知と連携を強化し、早い段階から対象者を紹介・抽出できるような仕組みの構築
イ.ボランティアスタッフの増員に向けた仕掛けづくり(地域大学やボランティアセンターとの連携等)
ウ.食料提供団体等の開拓/紹介や実施場所の提供/紹介を通して低コストで運営できる仕組みの構築
③補助制度の見直し
区が団体へ交付する2,000円/人・回との補助金スキームの見直し
平成28年度は団体の要請等も勘案して、補助体系の見直しを図る予定。
類似事業に、国の「生活困窮者自立支援法」に基づいた「子どもの学習支援事業」(国の補助率は1/2)がある。この事業は主に生活困窮者を対象とし、学習支援に対して補助する内容となっており、一部の自治体で取組を始めている。
しかし荒川区が実施する子どもの居場所づくり事業は、生活困窮者に限定しておらず、また事業も学習支援だけでなく、食事の提供や子どもや親の相談等、幅広くカバーしている。子どものたちに食事の提供を行う子ども食堂は、全国的に注目を多く集めている事業である。平成27年6月にはフジテレビ系列「ミスターサンデー」、平成27年7月には日本テレビ系列「スッキリ」その他多くのメディアで取り上げられている。
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