【背景・課題、目的・目標】
高齢化が全国よりも7年先を行くといわれる熊本県。平成27年時点では認知症高齢者数が少なくとも8万人(高齢者の7人に1人)を超えると推計され、その対応は急務となっていた。
平成20年に熊本県知事に就任した蒲島知事は、認知症対策を県の重点施策に位置づけ、同年8月、知事としては全国初となる認知症サポーターとなり、「長寿を楽しむ社会づくり」をキャッチフレーズに、『認知症になっても、安心して住み慣れた地域で暮らし続けることができる』を目指し、医療、介護、地域が連携した熊本をつくり、『日本一の認知症施策推進県』を目標とすることを内外に示した。
【取組内容】
熊本県では、認知症施策の基本的な方針として、①医療体制、②介護体制、③地域支援体制の3つの柱を立て、それぞれの体制の強化と相互連携を図っている。特に、医療体制の整備は「熊本モデル」と呼ばれる県独自の取組みを進めている(熊本モデルについては 図1 熊本県における認知症施策の推進体制参照)。
(1)医療機関による認知症疾患医療体制の確立-基幹型・地域拠点型の2層構造から3層構造の「熊本モデル」の確立
1)2層構造の認知症疾患医療センターの確立
①2層構造の認知症疾患医療体制の整備
平成20年度、熊本県は国の補助事業の認知症疾患医療センター運営事業の実施を検討したが、国の整備計画の県内2箇所だけでは、県内全域をカバーすることは困難と判断、県内各地をカバーする「地域拠点型」のセンターを複数箇所設置し、県全体を統括する「基幹型」のセンターを設置する県独自の2層体制を構想し、平成21年度、基幹型1箇所、地域拠点型7箇所の計8箇所を指定した。
②事例検討会の開催
平成21年8月から人材育成と連携促進を目的に、基幹型センターにおいて2ヶ月に1回全センターの医師とスタッフが参加する事例検討会を開催、27年7月までに通算36回実施されている。
③地域拠点型2か所、診療所型1か所の追加指定
平成23年度には地域拠点型センター2箇所、平成27年度に診療所型センター1箇所を追加指定、計11箇所のよりきめ細かな対応を可能とする体制とした。
④熊本県認知症医療・地域連携専門研修の実施
基幹型センターでは、認知症サポート医を対象に「熊本県認知症医療・地域連携専門研修」を独自に実施、地域全体における認知症対応力を高める取組みを進めている。
2)3層構造(センターとかかりつけ医等との連携)の実現
①かかりつけ医等との連携による3層構造化
認知症の早期発見、早期対応のためには、2層構造のセンターとかかりつけ医等が十分に連携することが大切であることから各地域拠点型センター(9ヶ所)において、地域のかかりつけ医やサポート医、介護関係従事者、市町村・地域包括支援センター職員など多職種参加型の地域版“事例検討会”をスタート、医療体制の3層化を目指している(これにより、かかりつけ医からセンターへの患者紹介率が、平成23年50%から平成26年66%に上昇、全県で着実に連携=3層化が進展)。
②認知症対応力向上のための独自のカリキュラムによる病院内講師の養成
平成26年度から一般病院における認知症対応力向上のため、熊本大学、県医師会、県看護協会、県認知症介護指導者の会等の協力の下、独自のカリキュラムで病院内講師(くまもとオレンジナース及びくまもとオレンジドクター)を養成、自律的に研修が実施される体制を構築した。
(2)介護体制の充実- “事業所まるごと研修”認知症ケア・アドバイザー派遣事業
1)認知症ケア・アドバイザー派遣事業
認知症高齢者に対する施設等でのケアの質の向上を目指し、施設従事者等を対象に研修を実施する参集型の認知症介護実践者等養成研修を実施。また、熊本県認知症介護指導者が講師としてチームを組み事業所等に出張して、施設の従事者全員に同時研修を行う仕組みを構築、研修内容の理解が施設全体に行き渡るようにしている。
2)介護事業所を認知症介護の拠点とする人材育成事業の実施
地域における認知症介護力向上のために、各介護サービス事業所が認知症に係る地域支援の拠点となるよう認知症介護人材育成事業を実施、市町村と介護事業所が協働で地域の介護力を高める取組みを拡大させている。
3)九州初の“若年性認知症支援コーディネータ”を配置
若年性認知症は発症率も少なく、市町村では経験もなく対応が難しい。これに関する相談対応や初期支援などを専門的に行う若年性認知症支援コーディネータを県認知症コールセンター内に配置、症状の進行に応じた情報提供、サービス提供が可能となるよう適切な指導を実施している。
(3)その他の地域認知症対策の実施
1)運転適性相談窓口に認知症専門職を配置
平成27年より道路交通法改定に伴い認知症検査が義務付けられたことから、警察本部と連携、運転免許センターに看護師2名を配置し、認知機能の低下が疑われる者等に対する専門相談の実施を開始、認知症の早期発見・高齢者の交通事故防止に繋げている。
2)日本初のアジア認知症学会の開催
認知症医療体制を中心に、認知症介護等も含めた熊本独自の取組みをアジア向けにPRし、アジアとの交流促進を図っている。
3)市町村の初期集中支援チーム活動の支援
平成30年度までに全国の市町村に設置することとなった「認知症初期集中支援チーム」について、熊本県では平成29年度までに県内全市町村への設置を目指し、市町村におけるチーム立上げ支援を行っている。
【成功要因】
①知事の認知症施策推進への強いリーダーシップ
知事は、就任後認知症施策を重要施策に掲げ、その実現に着手、認知症専任組織の設置のほか自らは認知症サポーター資格を取るなど施策実現を先頭で引っ張ってきた。
②認知症専任組織の設置
知事のリーダーシップとともに認知症施策を専門とする組織を設置したことが施策の推進に大いに寄与した。当初認知症施策推進室で設置、これを推進課とし、職員5名体制となることで市町村の現場に出向き、市町村長や職員と同じ土俵、同じ現場での情報共有・意見交換ができており、県・市町村間の信頼感が醸成され、施策の向上に繋がっている。
③安易に公費に頼らない運営の確立
各センターの運営は国の補助事業である認知症疾患医療センター運営事業費(国費1/2、県費1/2)を活用しながら行っているが、年々拡大・充実させている専門知識や連携に関する向上のための各種取組みは追加的な予算措置を行わずに対応している。
病院勤務の医療従事者向け研修においては、県内全ての病院を対象に講師役となる医師及び看護師を養成することで、行政主導の研修は終了しても、自律的に病院内の研修が継続される仕組みとしている。各種介護研修についても、受講者に参加費用を求めて運営費に充当するなど、安易に公費に頼ることのない運営を行っており、自律的な仕組みを創出したことが取組の継続や多様な取組の発展に繋がっている。
④熊本大学医学部との連携
国内でも認知症研究で先端を走っている熊本大学医学部との連携により、認知症への疾患別の対応など症例に応じた対策を可能とする質の高い研修を実施している。
【成果】
①医療機関による認知症疾患医療体制「熊本モデル」の確立
県内各地をカバーする「地域拠点型」のセンターを複数箇所設置し、それらを後方支援、県全体を統括する「基幹型」のセンターを設置する県独自の2層体制を構想し、きめ細かな認知症疾患医療体制「熊本モデル」を確立した(後にこのモデルは国の標準モデルとして採用されている)。
②知事自ら認知症サポーターとなり、サポーター数は人口比で6年連続1位
蒲島知事自らが、知事としては全国初となる認知症サポーターとなり、これを契機に県と市町村が協力してサポーター養成を進めたところ、同時点で全国23位であった人口比順位は平成22年3月末には1位へと上昇し、以降連続1位をキープしている(平成27年3月末時点のサポーター人数は22万2,604人となり、県民の8人に1人がサポーター)。
③運転適性相談窓口への認知症専門職配置による認知症の早期発見・相談体制の充実
認知症高齢者ドライバーによる交通事故の多発化防止として、運転適性相談窓口への認知症専門職を配置した。配置後3カ月間で、専門スタッフが291件の相談に応じ、認知症の疑いがある者に医療機関への受診勧奨を実施し、3人を医療機関受診につなげた。また、運転免許証自主返納は212人となり、前年同期間比で1.6倍増加した。
④認知症ケア・アドバイザー派遣事業の実施
介護事業所等へのケア・アドバイザー派遣事業については、平成26年度までに187事業所からの申込みを受け、56事業所を対象に研修を実施した。研修を受けた事業所からは、「とても役に立つ」、「今後も派遣を希望する」と好評を得ている。平成26年度は、観察式評価方法である「認知症ケアマッピング」方式を取り入れ、より実践的かつ効果的な研修とした(20事業所中10事業所)。
⑤コーディネーターによる『若年性認知症支援』
県認知症コールセンター内に配置した若年性認知症相談については、配置初年度である平成26年度には136件の相談に応じた。若年性認知症は生活への影響が大きいことから企業に雇用継続の配慮を求めたり、介護サービス事業所や障害福祉事業所と連携するなど一元的に実施することで成果が期待される。
高齢化が全国よりも7年先を行くといわれる熊本県。人口の社会減に加え、少子高齢化の進展とともに平成15年には人口は自然減となり、65歳以上の人口が増加、平成27年時点では認知症高齢者数が少なくとも8万人(高齢者の7人に1人)を超えると推計されており、その対応は急務となっていた。
平成20年4月に熊本県知事に就任した蒲島知事は、「長寿を恐れない社会」を目指し、認知症対策を県の重点施策に位置づけ、同年8月、知事としては全国初となる認知症サポーターとなり、熊本県全県で認知症に取り組んでいく姿勢を、「長寿を楽しむ社会づくり」のキャッチフレーズとともに、『認知症になっても、安心して住み慣れた地域で暮らし続けることができる』を目指し、医療、介護、地域が連携した熊本をつくり、『日本一の認知症施策推進県』を目標とすることを内外に示した。
平成20年度、国では認知症の専門医療相談の充実を図ることを目的に認知症疾患医療センターを都道府県に設置することとした。これによる熊本県への設置割当は2か所であり、これでは県内全域をカバーできないとの認識に至った。
県内各地をカバーすることとし「地域拠点型」センターを7箇所設置し、これらを後方支援しつつ県全体を統括する「基幹型」のセンターを熊本市に1ヶ所設置する県独自の2層制の体制、いわゆる『熊本モデル』を採用した。
特になし
-
認知症対策等には、消費税増税分を原資とする財政支援措置である「地域医療介護総合確保基金」が設置されており、平成27年度より利用可能であるが、財政事情は厳しい状況にある。
ー
熊本大学医学部 池田教授:経験則から診断に基づく認知症施策の体系化を図った。すなわち、認知症も疾患別に対応が異なることを理解したうえで、疾患別にケアを行うことが必要であるとの考えに基づき医療・介護両面から体系的に施策を実施している。
また医療・介護の現場では、認知症分野の第一人者である池田教授に認知症サポーター制度などの活動が評価されることでモチベーションを高め、実践に拍車がかかっている。
認知症施策の推進には樺島知事の意向が大きく働いている。知事就任と同時に認知症施策を重点項目とし、県庁内に施策を担当する認知症対策推進室を平成21年設置、22年認知症対策課とし、専任5名体制を整備した。5名体制となることで、職員自ら現場に赴き、医療・介護関係者と共働し、認識を共有することで、連携のとれた活動が可能となっている。
また、熊本県における認知症対策はオール熊本県として取り組んでおり、医療機関、介護(福祉)機関、地域支援機関、行政のあらゆる関係者が、それぞれ自らの役割を果たしながら連携体制を構築している。
① 医療機関
基幹型センター(熊本大学医学部附属病院)、地域拠点型センター(各地域専門病院)をはじめ、認知症サポート医、かかりつけ医が連携をとり、認知症の早期診断と適切な医療サービス提供に取り組んでいる。
地域拠点型センターでは、医療分野だけではなく、介護分野・地域支援分野を含めた多職種が参加して事例検討会を開催しており、幅広い視点から議論を深めることで連携強化を図っている。
②介護(福祉)機関
各種介護保険施設、地域密着型介護施設などでは、認知症介護ケアの質を向上させるために、管理者や従事者が各種研修に参加しているほか、地域拠点型センターが行う地域版の事例検討会に参加し、連携を促進している。
③地域支援機関
各市町村における家族交流会の開催も進み(平成26年度末時点で全ての市町村で開始)、現在、認知症の人やその家族等が気軽に集まり、意見交換を行う場として、いわゆる『認知症カフェ』開設も進みつつある。
熊本県および県内市町村は以上の3つをつなぐ役割を果たしている。
熊本大学医学部との連携:認知症初期支援チームを設置(認知症初期における認知度チェックを実施)、県庁・熊本大学で市町村をバックアップ、認知症専門ドクターの育成を要請、要請後地域に派遣
熊本県では、認知症施策の基本的な方針として、①医療体制、②介護体制、③地域支援体制の3つの柱を立て、それぞれの体制を強化するとともに、相互に連携を図っている。特に、医療体制の整備については、「熊本モデル」と呼ばれる県独自の取組みを進めている。
添付 図1 熊本県における認知症施策の推進体制
(1) 医療機関による認知症体制の確立
-「熊本モデル」(基幹型・地域拠点型の2層構造の認知症疾患医療センター等)の確立から新たな「熊本モデル」(基幹型・地域拠点型とかかりつけ医との連携を密にした3層構造)へ
1)「熊本モデル」(2層構造の認知症疾患医療センター)の確立
①2層構造の認知症疾患医療体制の整備
平成20年度、熊本県においては国の補助事業である認知症疾患医療センター(以下「センター」という。)運営事業の実施を検討したが、国の整備計画である熊本県内2箇所だけでは、県内全域をカバーしきれず、これらの機能を地域の医療機関単体で果たすことは困難と判断した。
そこで、県内各地をカバーする「地域拠点型」のセンターを複数箇所設置し、それらを後方支援しながら県全体を統括する「基幹型」のセンターを設置するとの国のスキームにはない県独自の2層体制(※)を構想し、平成21年度、基幹型1箇所、地域拠点型7箇所の計8箇所を指定した。
(※)後に、このモデルはその有効性が認められ、平成22年度から、基幹型と地域型の2層構造が国のスキームとして標準化されるに至った。現在、全国12の県でこの方法が採用されている。
②事例検討会の開催
平成21年8月からは人材育成と連携促進を目的として、基幹型センターにおいて2ヶ月に1回全センターの医師とスタッフが参加する事例検討会を開催、27年7月までに通算36回実施されている。
③地域拠点型2か所、診療所型1か所の追加指定
平成23年度には地域拠点型センター2箇所、平成27年度に診療所型センター1箇所を追加指定し、1箇所の基幹型と9箇所の地域拠点型、1箇所の診療所型を含め計11箇所の認知症疾患医療センター体制とし、各地域において、よりきめ細かな対応を行うことを可能としている。
また、平成27年度に追加指定した診療所型センターは、熊本県オリジナルの連携機能強化型であり、隣接する圏域の地域拠点型センターの専門スタッフを常駐させ、圏域内市町村の地域包括支援センターや介護施設等との連携を担うことで、診療所型であるが地域における拠点性を強化させている。
④熊本県認知症医療・地域連携専門研修の実施
基幹型センターでは、認知症サポート医を対象とした「熊本県認知症医療・地域連携専門研修」を独自に実施し、地域全体における認知症対応力を一層高める取組みを進めている。なお、認知症サポート医の人数は、平成27年3月末時点で累計152人に上っており、人口比で全国一位となっている。
2)3層構造(センターとかかりつけ医等との連携)の実現
①かかりつけ医等との連携による3層構造化
認知症の早期発見、早期対応のためには、2層構造のセンターとかかりつけ医等が十分に連携することが大切であることから、新たな「熊本モデル」として医療体制の3層化を目指している。
平成23年度から、各地域拠点型センター(9ヶ所)において、地域のかかりつけ医やサポート医、介護関係従事者、市町村・地域包括支援センター職員など多職種参加型の地域版“事例検討会”をスタート。これにより、かかりつけ医からセンターへの患者紹介率が、平成23年50%から平成26年66%に上昇するなど、全県で着実に連携=3層化が進展している。
②認知症対応力向上のための独自のカリキュラムによる病院内講師の養成
また、平成26年度から一般病院における認知症対応力を向上させるため、都道府県が主体となる全国的な研修が開始されたが、着実かつ効率的に研修を行えるよう、熊本大学、県医師会、県看護協会、県認知症介護指導者の会等の協力の下、独自のカリキュラムで病院内講師(くまもとオレンジナース及びくまもとオレンジドクター)を養成し、自律的に研修が実施される体制を構築した。
今後もオレンジナース等を養成し、そのフォローアップ・情報連携を図ることで、継続的な病院内研修を実施する予定であり、平成29年度までの受講者数目標3,200人(国の新オレンジプランでは2,140人が熊本県割当て目標)は、早期のうちにクリアし、平成30年度以降もさらに受講人数を拡大していく。
添付 図2 3層構造の認知症医療連携体制の構築
(2)介護体制の充実- “事業所まるごと研修”認知症ケア・アドバイザー派遣事業
1)認知症ケア・アドバイザー派遣事業
認知症高齢者に対する施設等でのケアの質を向上させるため、熊本県では施設従事者等を対象として、受講者を募って研修を実施する参集型の認知症介護実践者等養成研修を実施している。しかし、参集型の研修のみでは研修者が施設の一部にとどまることから内容が十分に理解されず、施設の慣習等が影響し、十分な研修効果を発現させることが難しいケースも見受けられた。そこで、熊本県認知症介護指導者(※)が講師としてチームを組み事業所等に出張して、施設の従事者全員が同時に研修を受ける仕組みを構築・実施している。
(※)熊本県認知症介護指導者は、「熊本県認知症介護指導者の会」として組織化されており、各種研修の講師や介護保険施設・事業所への指のみならず、例えば認知症パンフレット作成時など、他の熊本県認知症対策関連事業の企画時にも必要に応じて参画している。
2)介護事業所を地域における認知症介護の拠点とする人材育成事業の実施
地域における認知症介護力向上のために、各介護サービス事業所が認知症に係る地域支援の拠点となるよう地域を支える認知症介護人材育成事業を実施した。
初年度である平成26年度は、県老人福祉施設協議会、県老人保健施設協会、県グループホーム協会から先進事例を募り、事例集を作成のうえ、事業所管理者向けの意識啓発のための研修を行った。
その後『認知症カフェ』の開設・運営や地域に対する認知症研修会の実施など、市町村と介護事業所がタイアップし、協働で地域の介護力を高める取組みを拡大させてきている。
3)九州初の“若年性認知症支援コーディネータ”を配置
65歳未満で発症する若年性認知症は発症率も少なく、市町村では経験もなく対応が難しい。これに関する相談対応や初期支援、さらに関係機関と必要なサービスの調整などを専門的に行う若年性認知症支援コーディネータ※1を県認知症コールセンター内に配置した。若年性認知症は、症状の進行に応じて市町村の障害福祉担当課や介護保険担当課、年金相談等の多くの窓口と関わることになることから、その状況に応じた情報を一括して提供、症状に応じた必要なサービス提供が可能となるよう適切な調整・指導を実施している。
※1:専門コーディネータは社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員の4資格を有する
(3)その他の地域認知症対策の実施
1)運転適性相談窓口に認知症専門職を配置
平成27年より道路交通法改定に伴い認知症検査が義務付けられたことから、警察本部とタイアップし、平成27年2月、運転免許センターに看護師2名を配置し、認知機能の低下が疑われる者(主に75歳以上)等に対する専門相談の実施を開始した。相談内容に応じて医療機関への受診や免許証の自主返納を勧奨することで、認知症の早期発見・早期対応のほか高齢者の交通事故防止に繋げている。
2)日本初のアジア認知症学会の開催
「熊本モデル」認知症医療体制を中心に、熊本県の認知症介護等も含めた熊本独自の取組みをアジア向けにPRし、アジアとの交流促進を図っている。
平成27年9月には、日本で初めて、熊本でアジア13の国・地域の認知症研修者が参加する「アジア認知症学会」が開催され、熊本県の認知症施策について情報発信をおこなっている。
3)市町村の初期集中支援チーム活動の支援
平成30年度までに全国の市町村に設置することとなった「認知症初期集中支援チーム」について、熊本県では平成29年度までに県内全市町村への設置を目指し、平成27年度から各圏域の認知症疾患医療センターに専門スタッフを追加配置、市町村におけるチーム立ち上げ支援を行っている。
【医療機関との連携構築】
平成20年度 認知症疾患医療センター運営事業の検討
平成21年度 「熊本モデル」の認知症疾患医療体制の整備(基幹型1、地域拠点型7の指定)
同 基幹型センターにおける医師・スタッフによる事例検討会スタート
平成23年度 地域拠点型センター2カ所の追加
同 かかりつけ医等との連携による3層化による認知症早期発見・対応体制の確立
平成26年度 熊本県独自のカリキュラムによる病院内講師養成による自律的研修体制の整備
平成27年度 新たに診療所型センター1カ所の指定
【介護機関等との連携構築】
平成24年度 認知症ケア・アドバイザー派遣事業の実施
平成26年度 介護事業所の地域における認知症介護の拠点化
平成26年度 若年者認知症支援コーディネータの配置
平成26年度 運転適性相談窓口(警察本部運転免許センター内)への認知症専門職の配置
平成27年度予算額 - 当初事業費は約1億4500万円で、主要な事業費は下記の通り。熊本モデルの医師養成関係が一般財源としては最も大きい。
①認知症に診療・相談体制強化事業(認知症に関わる医療体制・関係機関連携体制強化や認知症早期発見・相談体制強化) 約65,000千円
②「熊本モデル」認知症疾患医療機能強化事業(認知症専門医、精神保健福祉士等の養成等) 約40,000千円
③市町村認知用早期発見・対応支援事業(市町村が実施する認知症初期集中支援推進事業の支援) 約10,000千円
④認知症ケアアドバイザー派遣事業(認知症ケアの質向上のためのケア・アドバイザーの派遣経費) 約3,500千円
⑤若年性認知症対策事業(若年性認知症自立支援ネットワークの構築等若年性認知症の支援) 約5,300千円
⑥「熊本モデル」アジア交流促進事業(アジア各国に対する熊本モデル等の情報発信など) 約9,000千円 など
「熊本モデル」実施のために各拠点に配置する医師の確保(熊本大学医学部での専門医養成)
平成20年度樺島知事は就任と同時に公約であった認知症施策に着手、21年度に「高齢者支援総室」内に、「認知症対策・地域ケア推進室」を設置、22年度に「認知症対策・地域ケア推進課」とし、認知症対策等に取り組む専任の班(認知症対策班)を設置。現在に至っている。
認知症高齢者への対応を見据えて専門課を設置、体制を強化したことで、現場に出向いて生きた情報を収集することや、関係機関と顔を突き合わせての意見交換・情報交換が頻々と行うことが可能となっている。これが市町村担当セクションとの信頼関係の醸成と認知症施策の推進に繋がっている。
添付 図3 認知症対策に向けた組織の変遷
① 知事の認知症施策推進への強いリーダーシップ
知事は平成20年度の知事選から認知症施策の推進を公約に掲げていた。知事就任後、認知症施策を重要施策に掲げ、その実現に着手、認知症の専任組織を設置したほか自らは認知症サポーター資格を取るなど認知症施策の実現を先頭で引っ張ってきた。
② 認知症専任組織の設置
知事のリーダーシップとともに認知症施策を専門とする組織を設置したことが施策の推進に大いに寄与した。当初認知症施策推進室で設置、これを推進課とし、職員5名体制となることで市町村の現場に出向くことが可能となり、市町村長や職員と同じ土俵、同じ現場での情報共有・意見交換ができている。このことで信頼感が醸成され、互いの意思疎通の円滑化、施策の向上に繋がっている。
③ 安易に公費に頼らない運営の確立
各センターの運営は国の補助事業である認知症疾患医療センター運営事業費(国費1/2、県費1/2)を活用しながら行っているが、年々拡大・充実させている専門知識や連携に関する向上のための各種取組みは追加的な予算措置を行わずに対応している。また、人口比で全国一である認知症サポート医の養成研修経費についても、公費を使わずに参加者(医師)の自費対応としている。
病院勤務の医療従事者向け研修においては、県独自の取組みとして県内全ての病院を対象に講師役となる医師及び看護師を養成することで、たとえ行政主導の研修は終了しても、自律的に病院内の研修が継続される仕組みとしている。
各種介護研修の実施についても、受講者に参加費用を求めて運営費に充当するなど、安易に公費に頼ることのない運営を行っている。これは認知症サポーター活動の活性化に対する補助でも同様であり、継続的かつ自律的に活動を行うことを目的に立上げ支援や活動強化支援は行うが、恒常的な運営費支援は行わっていない。
このように自律的な仕組みを創出したことが取組の継続や多様な取組の発展に繋がっている。
④ 熊本大学医学部との連携
国内でも認知症研究で先端を走っている熊本大学医学部との連携により、認知症への疾患別の対応など症例に応じた対策を可能とする質の高い研修を実施している。このような充実した研修体制を整え、県庁・熊本大学が連携し、市町村や介護施設職員への専門研修を行う、若年性認知症への対応を進めるなど大学との連携がその基盤を支えている。
①医療機関による認知症疾患医療体制「熊本モデル」の確立
国の補助事業である認知症疾患医療センター運営事業の実施を検討したが、熊本県内2箇所の整備だけでは県内全域をカバーしきれず困難と判断した。そこで県内各地をカバーする「地域拠点型」のセンターを複数箇所設置し、それらを後方支援、県全体を統括する「基幹型」のセンターを設置する国のスキームにはない県独自の2層体制を構想し、箇所数も国の基準の2か所から8か所に増加、きめ細かな認知症疾患医療体制「熊本モデル」を確立した(後にこのモデルは国の標準モデルとして採用されている)。
②知事自ら認知症サポーターとなり、サポーター数は人口比で6年連続1位
平成20年8月、蒲島知事自らが、知事としては全国初となる認知症サポーター(以下「サポーター」という。)となり、これを契機に県と市町村が協力してサポーター養成を進めたところ、同時点で全国23位であった人口比順位が、平成22年3月末には1位へと上昇し、以降6年連続1位をキープしている。平成27年3月末時点のサポーター人数は22万2,604人(キャラバン・メイト(サポーター養成講座の講師役)を含む。)となり、県民の8人に1人がサポーターとなるに至った。
③運転適性相談窓口への認知症専門職配置による認知症の早期発見・相談体制の充実
認知症高齢者ドライバーによる交通事故の多発化防止として、運転適性相談窓口への認知症専門職を配置した。配置後3カ月間で、専門スタッフが291件の相談に応じ、このうち、認知症の疑いがある者に医療機関への受診勧奨を実施し、3人を医療機関受診につなげた。この他、必要に応じて市町村の地域包括支援センターや県認知症コールセンターの紹介・つなぎも行うなど、認知症の初期相談に応じる体制が整えられた。また、運転免許証の自主返納に関しては、免許センターにおける運転免許証の自主返納者は同3カ月間で212人となり、前年同期間比で1.6倍の増加となった。
④認知症ケア・アドバイザー派遣事業の実施
介護事業所等へのケア・アドバイザー派遣事業については、平成26年度までに、187事業所からの申込みを受け、56事業所を対象に研修を実施した。研修を受けた事業所からは、「とても役に立つ」、「今後も派遣を希望する」と好評を得ている。
平成26年度は、研修対象事業所数を拡大したほか、ケア・アドバイザー派遣事業の内容に観察式評価方法である「認知症ケアマッピング」方式を取り入れ、より実践的かつ効果的な研修とした(20事業所中10事業所)。
⑤コーディネーターによる『若年性認知症支援』
県認知症コールセンター内に配置した若年性認知症相談については、配置初年度である平成26年度には136件の相談に応じた。若年性認知症は現役世代であり生活への影響が大きいことから企業に雇用継続の配慮を求めたり、介護サービス事業所や障害福祉事業所の連携するなど横断的、多面的な活動が必要であり、これを一元的に実施することで成果が期待される。
①認知症でも『環境が支えてくれる』との安心感の醸成
認知症サポーターの養成数の増加に伴い、身近なコミュニティや地域における見守り体制の充実もあり、『認知症の進行は止まらせることは難しいが、環境が支えてくれる』との安心感に繋がっている。認知症サポーターへのステップアップ研修など更なる取組みはこれらの意識を高め、より安心感を深める契機となってくる。『環境が支えてくれる』という意識が県民の中に大きな安心感を醸成してきている。
医療面からみれば認知症に対する施策は『熊本モデル』として体系化されたということができる。しかし、多数の認知症の方々に対応するためには、このモデルをベースとして、それぞれの地域で、全体として認知症を見守っていく体制、役割分担と連携が不可欠であり、この整備を行っていく必要がある。
①医療・介護の緊密な連携による一人ひとりに対応した認知症対策の実施
本県の認知症施策は、各分野で先進的に取組まれており、医療機関及び介護関係者、県民、行政等をはじめとした多くの関係団体と協働で推進されてきた。
認知症対策は、一人ひとりの患者の特性に応じて適切に対応することが必要であることから、医療分野と介護分野において専門性の向上による認知症対応力を向上させることはもとより、両分野が互いに理解を深め、より緊密な連携が実現するような取組みを進めていく。
② サポーターによる見守り活動等の活性化
既に22万人を超えたサポーターは、熊本県の認知症施策の推進上貴重な資源であり、県内それぞれの市町村において、サポーターを活用した認知症に関する傾聴ボランティアや見守り活動など積極的な活動等が行われている。また、認知症サポーターをはじめ、地域における草の根レベルの理解者、支援者、さらには実践者を増加させることで、地域全体で生活を支えていくための取組みを充実させていく。
今後は、認知症の人と家族が安心を実感して暮らせるようサポーター活動の活性化を更に進め、当初の目標である『認知症になっても住み慣れた地域で安心して暮らせる』熊本県を目指す。
③「熊本モデル」等認知症に関する取組の海外展開
本県では、「熊本モデル」をはじめとする認知症に関する取組みを海外向けに発信し、アジアとの交流を促進している。(基幹型認知症疾患医療センターへの委託事業等)
これにより、認知症医療に関し、平成26年、熊本大学医学部と台湾成功大学との間で学術交流協定が締結され、人材交流が開始されたところである。また、認知症介護に関しては介護事業所が独自に台湾の介護関係者と交流を進めており、介護技術を伝えている。
平成27年9月には、アジア13カ国・地域の認知症研究者が参加する「アジア認知症学会」が、日本で初めて、熊本県で開催されることとなっており、熊本の認知症医療に関して情報発信を行うほか、この機会を捉え、本県における認知症介護に係るシンポジウムや県内の先進的な取組みを行う介護事業所等を見学できるツアーを5コース設定することで、本県における認知症介護の質の高さも来訪者に訴求し、今後の介護人材の交流促進も図る予定である。
アジアにおいては、今後、急速な高齢化とともに、認知症への対応が社会的な大きな課題として浮上してくることが確実であることから、本県において先行して取り組んできた各種認知症への対応方法がアジア各国において有効に活用されることを期待している。
①「熊本モデル」の他地域への普及・展開
熊本県における認知症対策については、他の地域においても存在する(又は今後整備が予定されている)認知症疾患医療センターや一般的な機関を中心とした普遍的要素を備えた取り組みである。
近年は、毎年度10箇所を超える複数の行政機関等からの視察に対して、熊本モデルの詳細な説明を行い、他の地域における普及・展開に寄与している。
また、平成25年度、熊本県と基幹型認知症疾患医療センター(熊本大学医学部附属病院)の共催でスタートさせた「認知症疾患医療センター全国研修会」は、平成26年度には北海道で、平成27年度には千葉県(予定)で継続して行われるなど、広がりをみせている。
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