【背景・課題、目的・目標】
我々の日常生活は、自然のもたらす生態系サービスに支えられて成り立っているが、日頃、そのことを改めて意識することは少ない。生態系の破壊、地球温暖化など課題の解決には、問題を身近に感じ、その解決を自分のベネフィットとして実感するところが最も実効的なスタートになる。「生物多様性の保全」についても、まずは、『住宅の庭』という身近な場所で生き物を守り、生きものと関わって生態系回復を果たすことが、個人の生活を潤いのある豊かで快適なものにするベースとなり得るとの認識のもと次の考えに至った。
①都市における自然の減少、生態系の劣化回復の拠点としての住宅の活用
「住宅」を「生態系ネットワーク」の部分と位置付け、生態系保全の重要な拠点として効果的に活用することができるのではないかとの認識に至った。
②住まいづくりにおける”持続可能な庭(生きものの来る庭)”の追求
地球環境の保全において持続可能性が求められているが持続可能な庭を考えていくなかで、”生き物(鳥や蝶など)の来る庭”の発想に行きつき、日本の気候風土に適した在来種による生態系の保全の方向に向かった。
③子どもの情操教育の場の回復
自然に接しながら育つことで本来経験すべき、命の尊さや五感を豊かにする。本来の姿の自然を経験、触れ合う機会を増大することは子供たちの将来にとっても極めて重要である。
以上、『持続可能』との観点から、鳥や昆虫など地域の生きものにとって有用な樹種中心の植栽の重要性に基づき、2001年から象徴的に「鳥のために3本、蝶のために2本」という想いをこめ『5本の樹』計画と名付けた「在来種」中心の植栽計画を展開してきた。
『見た目の美しさだけでなく、「生態系に配慮」した庭づくり』が重要であり、生態系保全効果は高いが市場のニーズの低かった「在来種」の生産を、全国の植木生産者ネットワークと連携して拡大するとともに、消費者にとっても生きものと触れ合う庭の楽しさを創り出してきたが、これをさらに充実・推進する。
【取組内容】
①”持続可能な庭” =生きものの来る庭への発想
自然環境などの”持続可能性”がテーマとして挙がるなかで、住まいづくりでも植栽における持続可能性が検討され、その結果”持続可能な庭”の帰結として『生きものの来る庭』との発想に行きつき、わが国の生育環境に適した在来種によりこの実現を図ることとした。
②植木生産者との連携・ネットワーク形成とこれによる市場流通量の拡大
当時、ニーズの低い「在来種」は必要な際に山で採取すること(山取り)が一般的であった。そのために、生産者に趣旨を説いて生産を依頼することろから始め、在来種中心の植栽「5本の樹」計画に賛同する全国約80の植木生産者、造園業者のネットワークと連携することでその生産を開始、市場流通量を増やすことから事業推進を図った。
③お客様への価値提案資料 「庭木セレクトブック」(冊子、204頁)による周知
在来樹種ごとにどのような鳥や蝶が利用するかを理解して頂くための図鑑的な冊子を作成、お客様に提供し,その理解を促した。
④「生きもの調査」の実施
取組みの実効性を把握するために、2008年9月から、全国7カ所の自社分譲地で、「5本の樹」計画の生態系に与える影響と結果を『生きものの種類と数』およびその経年比較の2点から実施している。経年比較によれば、確認された鳥類の種数などはほぼ倍増している。
⑤「個人住宅」の庭からスタートし、「賃貸住宅」や「マンション」へ拡大
取組みは個人住宅の庭からスタートし、街並みに拡大していった。その後、「5本の樹」による住宅地の緑化の意義が社内でも評価され、取組みは「賃貸住宅」「マンション」にも波及した。緑化による植栽が進むと、時間の経過により植物が成長し物件全体の風格が増し、景観も整うことから、例えば賃貸住宅では当該物件の人気が高⑥家族、子ども目線での普及の仕組みづくり「野鳥ケータイ図鑑」
生きものが庭に来訪しても、鳥などを認識することは容易ではない。そこで、庭の樹木につけた樹名札に記したQRコードから携帯電話やスマートフォンでそこに来る鳥を識別できる「野鳥ケータイ図鑑」というサービスを無料で提供している(通話料必要)。
庭の樹から、親子、家族で生き物を一緒に知ることで自然に対する愛着を育み、家族の貴重なふれあいの機会にすることを目指している。
【成功要因】
①社会的ニーズの「創出」~都市の自然についての認識を変える~
「5本の樹」計画は庭を起点とした生物多様性の保全や、庭で生きものと親しむ・庭の生き物を楽しむ価値観を掲げ、商品として顧客に提案し、庭づくりの新たなニーズ、価値を作りだした。
②顧客の理解と協力の獲得とこれによる意識の変化
「5本の樹」事業は、当社だけでは決して成しえない。住宅を建築する際に庭に木を植えることを決定し、しかも、そこに生き物にとって役に立つ木を植えることに同意して費用を負担してくださるお客様のご理解が何よりも重要となる。このため、「セレクトブック」の利用、顧客の理解を促進する一環として分譲地等で実施する「生きもの調査」等でお客様へのご理解、参加の呼びかけや提案を積極的に進めた。この結果、地元の自然に関心が無かった顧客からも、居住する住宅地がいかに生態系が豊かか判って愛着がわいた、といった感想も頂いている。
③「マーケット」の創造
当時、造園、植木生産者は、公共工事で要求される傾向の強い単一樹種、園芸樹種等の生産に特化する傾向が強く、生態系に役に立つ「在来種」も、マーケットニーズがなく、供給体制も整っていなかった。また、住宅の庭についても、バラを中心にした「イングリッシュガーデン」など、庭の管理は害虫など生きものを排除するという価値観優先で運用されてきた。
しかし、積水ハウスが2001年に「5本の樹」計画を開始し、「生きものにとって役に立つ庭」という価値観を掲げ、在来種を中心とした植栽提案は、徐々に市場に受け入れられ、当社と連携した生産者の拡大などとも相まって、新たな市場を創造している。
④少量多品種需要による「中小・中堅生産者」との連携と「Win-win」関係構築
これまで植木生産は、公共工事での大規模な単一植栽の発注に対応できる規模を擁する「大規模生産者」だけが利益を確保できる世界であった。しかし、「5本の樹」計画では、各地域の住宅で多品種・少量の生産が中心となるため、中堅・中小の業者においても可能な規模・樹種の生産による事業体制を確保できるために、中小事業者とのWin-Winの関係を構築できた。
⑤経営の環境重視の姿勢による価値の醸成
当初、住宅会社の考慮する範囲は住宅本体であり、庭までを考慮する意識は低かった。しかし、『環境を重視する』との経営トップの姿勢のもと、一定以上の住宅には「5本の樹」を含んだ植栽を義務付けた。営業担当者も顧客に植栽も提案することとなり、環境に対する知識が増大、顧客に植栽も含めた住環境を勧める土壌ができてきた。
【成果】
①2001年の事業開始から、植栽実績は累積で1千万本超を実現
2001年に「5本の樹」計画を開始して以来、在来種を中心とした当社の植栽本数は1千万本を越え、多い年には年間植栽本数100万本をこえている(東京都内にある街路樹の総数が約70万本(東京都公園局調べ))
添付 図 年間植栽本数、累積植栽本数の推移
②「新・里山」-都心における「5本の樹」のモデルパークの公開と『緑の都市賞』受賞
「5本の樹」計画は社会全般に対して開示し、見て頂くことが難しかった。そこで、2006年に本社所在地 新梅田シティ(大阪市 北区)において、本社ビル横の公開空地を活用、「5本の樹」の考え方を反映した在来種中心の緑化空間として公開している。約100種の樹木550本、200種以上の草花を植えた8000㎡の空間に訪れる野鳥は40種以上、昆虫も50種以上が確認されていて、市民や海外を含めた多くの観光客の憩いの場として親しまれている。
2014年には、公益財団法人 都市緑化機構の主催する「第34回 緑の都市賞」において内閣総理大臣賞を受賞している。
③「在来種」市場の確保とサプライヤーの育成
「在来種」の年間植栽本数の増大とともに、全国の中堅・中小の植木生産者にとっても「在来樹種」の生産自体が新しいビジネス領域として安定的に普及してきている。また、大手ハウスメーカーや不動産デベロッパーなどでも類似の「生態系に配慮した緑化」が一般的になり、それら企業からの発注も増えて、植木生産者にとつて安定的なビジネスが可能となっている。
【今後の課題・方向】
①「平面の庭」から「垂直の壁面緑化」への拡大
「5本の樹」計画に基づく緑化は、当初、住宅の平面の庭を対象に拡大してきた。しかし、都市化の進行の中で増加する3,4階建の都市型狭小宅地住宅に対しても、生態系に配慮した壁面緑化を実施することの可能性と必要が求められている(本社所在地(大阪市)の「希望の壁」壁面緑化モニュメントで「5本の樹」樹種を中心に植栽し、灌水や生物への影響などを検証している)。
①都市における自然の減少、生態系の劣化
かつては、国土の自然も豊かであったが、山林もスギ・ヒノキの単一種造林一辺倒となり、また、都市での自然破壊や減少が進むなかで、効果的な植栽は生態系の保全に繋がっていく。このような認識のもとに、「住宅」を「生態系ネットワーク」の部分と位置付け、生態系保全の重要な拠点として効果的に活用することが、できるのではないかとの認識に至った。
②住まいづくりにおける”持続可能な庭(生きものの来る庭)”の追求
地球環境の保全において持続可能性が求められているが、住まいづくりにおいても植栽は不可欠となっており、”持続可能な庭”を追求することが検討課題となった。持続可能な庭を考えていくなかで、”生き物(鳥や蝶など)の来る庭”の発想に行きつき、見栄えや管理の容易さから選ばれることの多い園芸種や外来種ではなく、日本の気候風土に適した在来種による生態系の保全の方向に至った。
③子どもの情操教育の場の回復
自然に接しながら育つことで本来経験すべき、命の尊さや五感を豊かにする。幼少時に自然体験の多い子どもの方が、道徳感・正義感の高い子どもに育つとの研究もあることを考えると、本来の姿の自然を経験、触れ合う機会を増大することは子供たちの将来にとっても極めて重要である。
我々の日常生活は、自然のもたらす生態系サービスに支えられて成り立っているが、日頃、そのことを改めて意識することは少ない。生態系の破壊、地球温暖化など社会に存在する様々な社会課題の解決には、問題を身近に感じ、その解決を自分のベネフィットとして実感するところが最も実効的なスタートになる。その入り口としての「住まい」は地球温暖化防止、省エネルギーなど社会課題解決に重要な役割を果たし得ると認識している。
「生物多様性の保全」についても、まずは、『住宅の庭』という身近な場所で生き物を守り、生きものと関わって生態系回復を果たすことが、個人の生活を潤いのある豊かで快適なものにするベースとなり得るとの認識を抱いた。
『見た目の美しさだけでなく、「生態系に配慮」した庭づくり』
身の回りの自然が減少する中で、『持続可能』との観点から、美しく品種改良された「園芸種」や珍しい「外来種」から鳥や昆虫など地域の生きものにとって有用な樹種中心の植栽の重要性に基づき、2001年から象徴的に「鳥のために3本、蝶のために2本」という想いをこめ『5本の樹』計画と名付けた「在来種」中心の植栽計画を展開してきた。生態系保全効果は高いが市場のニーズの低かった「在来種」の生産を、全国の植木生産者ネットワークと連携して拡大するとともに、消費者にとっても「雑木」として軽視されがちであった在来種を、生きものと触れ合う庭の楽しさを創り出し、その浸透を図ってきたが、これをさらに充実する。
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自社の樹木医(の活用)
環境NPO(シェアリングアース協会、現在は代表逝去で解散):在来種の重要性を積水ハウスに訴え、在来の樹種ごとにどのような鳥・蝶が利用するかに関連付けた図鑑的な冊子作成に協力した。
植木業者:「五本の樹」計画に賛同してくれ、在来種の育成・植樹を担ってきた植木業者・造園業者
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①”持続可能な庭” =生きものの来る庭への発想
2000年を前後して自然環境などの”持続可能性”がテーマとして挙がるなかで、住まいづくりにおいても緑化の重要な要素である植栽における持続可能性が検討された。その結果”持続可能な庭”が認識され、その木帰結として『生きものの来る庭』との発想に行きつき、わが国の生育環境に適した在来種によりこの実現を図ることとした。
②植木生産者との連携・ネットワーク形成とこれによる市場流通量の拡大
当時植木の生産圃場、造園業者においては、市場ニーズが高く価格の高い園芸品種や希少な外来品種中心に生育し、ニーズの低い「在来種」は必要な際に山で採取すること(山取り)が一般的であった。そのために、本プロジェクトの実現に際しては、生産者に趣旨を説いて生産を依頼することろから始めた。市場ニーズが低かったため、植木生産者によって生産されず市場流通しにくかった「在来樹種」に関して、在来種中心の植栽「5本の樹」計画に賛同する全国約80の植木生産者、造園業者のネットワークと連携することでその生産を開始し、市場流通量を増やすことから事業推進を図った。
③お客様への価値提案資料 「庭木セレクトブック」(冊子、204頁)による周知
在来樹種ごとにどのような鳥や蝶が利用するかを理解して頂くための図鑑的な冊子を作成し、お客様に提供している。これは、弊社の樹木医等が生物について詳しい環境NPO(シェアリングアース協会、代表者逝去により現在は解散)との協働により作成したもので、どの植物をどのような生き物が利用するかの相関関係を示した図版。このような図版は他に例が無いため、お客様のみならず環境団体などにも人気で、2001年の作成から版を重ねて、累積約20万部発行の隠れたベストセラーとなっている。
④「生きもの調査」の実施
取組みの実効性を把握するために、当社では、2008年9月から、北は宮城県から南は宮崎県まで、全国7カ所の自社分譲地で、「5本の樹」計画の生態系に与える影響と結果を次の2点から調査してきた。
第一は、在来種中心の植栽を実施したエリアと、そうでない近隣エリアでの観察される生きものの種類と数についての「場所的」比較。第二は、当該分譲地における前年度と次年度の「時間的」比較である。調査は、専門機関である生態計画研究所によって実施した。
調査結果は季節・エリアによって異なるが、特に経年比較によれば、確認された鳥類の種数などはほぼ倍増している。
④全国レベルでの事業推進
当社は沖縄を除く全都道府県で事業を行い、しかも、代理店を採用せずにすべて「積水ハウス」自体で施工を行なっており、全国80の植木生産者のネットワークとの連携により事業を構築している。そのため国内の1拠点からの波及でなく、全国での同時展開で実施する仕組みとして当初より設計されている。
⑤「個人住宅」の庭からスタートし、「賃貸住宅」や「マンション」へ拡大
取組み自体は、当初、個人住宅の庭からスタートし、街並みに拡大していった。その後、「5本の樹」による住宅地の緑化の意義が社内で評価され、取組みは「賃貸住宅」「マンション」にも波及した。本来、こうした集合住宅では緑化は建物本体に加えて余分な初期投資を要し、維持管理のコストが管理費を押し上げるとの観点から最低限の緑化しか行われないことが一般的であった。しかし、緑化による植栽が進むと、時間の経過により植物が成長し物件全体の風格が増し、景観も整うことから、例えば賃貸住宅では当該物件の人気が高まって空室率が下がり、賃料低下傾向が少ない(緑化が資産価値に貢献する)というメリットが確認された。
特に、賃貸住宅においては、「シャーメゾン・ガーデンズ」という「5本の樹」緑化を積極的に反映し、緑豊かな敷地に複数棟のアパートを配した物件の展開が拡大している。駅からの距離が遠い、といった条件が必ずしも良くない場所でも、緑化により個人住宅並みの落ち着いた空間となることで入居希望が高く、家族層にも人気である。
⑥家族、子ども目線での普及の仕組みづくり「野鳥ケータイ図鑑」
「5本の樹」の樹種を植栽して生きものが庭に来訪しても、自然体験の少ない都心の家族にとっては鳥などを認識することは容易ではない。
そこで、庭の樹木につけた樹名札に記したQRコードから携帯電話やスマートフォンでそこに来る鳥を識別することができる「野鳥ケータイ図鑑」というサービスを独自で開発し無料で提供している(通話料必要)。
このサイトでは、代表的な都市の野鳥をその特徴などから識別でき、その鳥について学べるだけでなく、鳥の鳴き声(さえずり)を聴いて確認することもできる。
庭の樹から、親子、家族で生き物を一緒に知り、親しみを持つことで自然に対する愛着を育み、同時に家族の貴重なふれあいの機会にすることに貢献したいという想いからスタートしたサービスである。
2000年 "持続可能な庭”の検討により、『生きものの来る庭』-在来種の育成・整備とし、生産圃場・造園業者との連携による植木生産に着手
2001年~ 顧客への提案資料「庭木セレクトブック」作成
2006年~ 「みどりの専門家(グリーンエキスパート)」養成(専門研修)を実施
2007年~ 「5本の樹・野鳥ケータイ図鑑」サイトの運営
2008年~ 「5本の樹」計画の生態系に及ぼす影響を検討(在来種植樹のエリアとそうでない近隣エリアでの観察調査を専門機関に委託・実施)
2011年 「5本の樹」計画の賃貸住宅(シャーメゾンガーデンズ)への拡大
2013年 新梅田シティに「希望の壁」設置(壁の両面も緑化)
2013年 『野鳥携帯図鑑』サービスの開始
〇本プロジェクトでは価格の高い園芸種や外来種から在来種へと樹種の変更を図ってきたものであり、コスト的には従来と大きな変動はない。地域の生態系の保全に寄与しているほか、「庭木セレクトブック」の発行は累積約18万部を超えた隠れたベストセラーとなるなど自然学習に寄与している。
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①環境NPOとの連携による事業構想
「5本の樹」計画においては、どの植物をどの生物が利用するかの基礎的な情報が不可欠となるところ、「植物」「野鳥」「蝶類」個々についてそれぞれ詳細に表した図鑑や図書は各種存するものの、直接参考にできるものは見当たらない状況であった。そのために、当社では自社で擁する樹木医等が外部の環境NPOに相談し、綿密な打ち合わせを繰り返してオリジナルな図書を作成して、事業の基盤とした。
このNPOはシェアリングアース協会といい、代表者の藤本和典氏はNHKの子供電話相談室で生物の担当をするなど生きものに対する幅広い知見と深い愛情を備えた方で、ご自身が庭で生きものを楽しむ暮らしを広めたいと考えておられたこともあり、その知見を惜しみなく提供してくださった。残念ながら2014年に逝去されたが、この共同作業で生まれた「5本の樹 庭木セレクトブック」は非売品ながらその後も版を重ね、2001年の出版以来20万部の発行をする隠れたベストセラーとなっている。
企業が環境NGOと連携をする事例は多いが、多くがCSR等中心で、年間売上500億円規模の事業でNGOとここまで深く連携して構築した事例を他に聞かない。
②植木生産者、造園事業者等とのネットワーク形成
2001年ごろ松などの立派な庭木と住宅とのデザインが合わないミスマッチが生じており、造園事業者2代目などが新たな庭木の開発が必要であった。このようななかでニーズの低い「在来種」の必要性を説き、計画に賛同する全国の約80の植木生産者、造園業者のネットワークを形成・連携することで、在来種の生産を開始、市場流通量の増大を図った。
①社会的ニーズの「創出」~都市の自然についての認識を変える~
古くより自然が豊かであったわが国では、住宅の「庭」はいかに美しく見せるかを中心にデザインされ、庭を起点とした生物多様性の保全や、庭で生きものと親しむ・庭の生き物を楽しむことが明確な価値観として定義されてこなかった。そこで、「5本の樹」計画はこの点を明確に提示し、商品として顧客に提案し、庭づくりの新たなニーズ、価値を作りだした。
②顧客の理解と協力の獲得
「5本の樹」事業は、当社だけでは決して成しえない。当社が自社で土地に建物を建てて庭付きで販売する自社建売分譲の場合は自社で植栽内容を決定できるが、それ以外の場合には住宅を建築する際に庭に木を植えることを決定し、しかも、そこに生き物にとって役に立つ木を植えることに同意して費用を負担してくださるお客様のご理解が何よりも重要となる。このため、「セレクトブック」の利用等でお客様へのご理解の呼びかけや提案を積極的に進めた。
こうした顧客の理解を促進する一環として、分譲地等で実施する「生きもの調査」の際には、専門家だけでなく、お客様のご家族にも参加を呼び掛け、「住民参加型の生きもの調査」として実施する等の工夫も行ってきた。これによって、それまであまり地元の自然に関心が無かったお客様から、ご自身の居住しておられる住宅地が、いかに生態系が豊かかわかって愛着がわいた、といった感想も頂いている。
③「マーケット」の創造
従来の造園、植木生産者は、公共工事で要求される傾向の強い単一樹種、園芸樹種等の生産に特化する傾向が強かった(…例えば、「ハナミズキ通り」として街路樹にアメリカハナミズキを数十本植える、公共建築物の足元にサツキツツジを数百株植える、といった仕様に対応できる生産体制の確保)。
このような環境では、生態系に役に立つ「在来種」についても、本事業をスタートした2000年当時は「雑木」扱いでマーケットニーズがなく、当然、供給体制も整っていなかった。また、住宅の庭についても、美観を備えるための緑化がメインで、バラを中心にした「イングリッシュガーデン」など、庭の管理は害虫中心にむしろ生きものを排除するという価値観優先で運用されてきた。
積水ハウスが2001年に「5本の樹」計画を開始し、「生きものにとって役に立つ庭」という価値観を提案し、在来種を中心とした植栽提案は、徐々に市場に受け入れられ、当社と連携した生産者の拡大などとも相まって、新たな市場を創造している。
④サプライチェーン「中小・中堅 生産者」との連携と「Win-win」関係構築
これまで、植木生産者は、公共工事での大規模な単一植栽の発注に対応できる規模を擁する「大規模生産者」だけが利益を確保できる世界であった。しかし、公共事業の減少を背景に、当社の進めた「5本の樹」計画の場合は、各地域の住宅に多品種・少量の生産が中心となるため、中堅・中小の業者においても要求される傾向の強い単一樹種、園芸樹種等の生産により事業体制を確保できるために、中小事業者にとってもメリットが生まれ、当社とWin-Winの関係を構築できた。
⑤経営の環境重視の姿勢による価値の醸成
当初、住宅会社の考慮の範囲は住宅本体であり、庭までを考慮する意識は低かった。しかし、環境を重視するとの経営トップの姿勢のもと、一定以上の住宅には植栽を義務付け、「5本の樹」を含んだ植栽を義務付けた。営業担当者も顧客に植栽も提案することとなり、環境に対する知識が増大、その認識が変化し、顧客に植栽も含めた住環境を勧める土壌ができてきた。
①2001年の事業開始から、植栽実績は累積で1千万本超を実現
2001年に「5本の樹」計画を開始して以来、在来種を中心とした当社の植栽本数は1千万本を越え、多い年には年間植栽本数100万本をこえている。東京都内にある街路樹の総数が約70万本(東京都公園局調べ)であるから、一企業が関与して植栽したボリュームの大きさは他に比するもののない規模に達している。
添付 図 年間植栽本数、累積植栽本数の推移
②「新・里山」-都心における「5本の樹」のモデルパーク公開
「5本の樹」計画は各顧客邸で実現されるものであるため、お引き渡し後の状況等について社会全般に対して開示し、見て頂くと言うことが難しかった。
そこで、当社では、2006年に本社所在地 新梅田シティ(大阪市 北区)において、本社ビル横の公開空地を活用、それまでのお花畑(ワイルドフラワーガーデン)をリニューアルし、「5本の樹」の考え方を反映した在来種中心の緑化空間として公開している。
約100種の樹木550本、200種以上の草花を植えた8000㎡の空間に、田んぼや畑まで設けており、ここを訪れる野鳥は40種以上、昆虫も50種以上が確認されていて、地域コミュニティーの場として市民や海外を含めた多くの観光客の憩いの場として親しまれている。
2014年には、公益財団法人 都市緑化機構の主催する「第34回 緑の都市賞」において、最上位の内閣総理大臣賞を受賞している。
③「在来種」市場の確保とサプライヤーの育成
上記④のとおり、中堅・中小の全国のサプライヤーにとっても「在来樹種」の生産自体が新しいビジネス領域として安定的に普及していった。また、当社の「5本の樹」着手以降、大手ハウスメーカーや不動産デベロッパー、ゼネコンなどでも類似の「生態系に配慮した緑化」のトレンドが確立されつつあったために、植木サプライヤーにとつてはそういう企業からの発注も増えて、安定的なビジネスが可能となっている。
本プロジェクトを実施するなかで、園芸種や外来種から在来種、いわゆる雑木への転換が進んできて、生きものと樹木との相互依存が形成され、現在では造園業界でも「雑木の庭」といった提案が一般化しつつある。このように、『管理し、愛でる庭』から『生態系を育む庭』へとより生物連鎖を考えるものへと変化している。このような状況で、東京都が2014年からは「在来種の活用」への方針転換を始めているが、積水ハウスはこうしたトレンドの先鞭をつけたといえよう。
①「平面の庭」から「垂直の壁面緑化」への拡大
「5本の樹」計画に基づく緑化は、当初、住宅の平面の庭を対象に拡大してきた。しかし、最近では、都市化の進行の中で、都市の狭小空間で3,4階建の都市型住宅が増加している。こうした建物でも生態系に配慮した壁面緑化を実施することの可能性と必要が求められている。一例として、本社所在地(大阪市)に2013年11月設けた高さ9m×長さ78m×幅3mの「希望の壁」という世界最大規模の壁面緑化モニュメントでも、「5本の樹」計画での選定樹種であるソヨゴ、クチナシ、ヒラドツツジ、ヤブツバキ、ヤマブキ、フジ、オオイタビなど「5本の樹」樹種を中心に植栽し、灌水や生物への影響などを調べている。
①本社(大阪北)での壁面緑化の試行
本社所在地(大阪市)に2013年11月設けた高さ9m×長さ78m×幅3mの「希望の壁」という世界最大規模の壁面緑化モニュメントでも、「5本の樹」計画での選定樹種であるソヨゴ、クチナシ、ヒラドツツジ、ヤブツバキ、ヤマブキ、フジ、オオイタビなど「5本の樹」樹種を中心に植栽し、灌水や生物への影響などを調べている。
なお、3階建て、4階建ての建物の緑化(壁面緑化)は生活に潤いを与えるものであるが、壁面緑化でのコスト削減が課題である。
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