【背景・課題、目的・目標】
豊岡市は人口減少が進んできた。人口減少は、域内・国内経済を縮小させ、地域の活力を削ぐ強大なベクトルとなっている。しかし世界には大きなマーケットがあり、それを取り込むことで地域経済の活性化につなげる。これが「小さな世界都市(Local & Global City)」実現の取組理由である。地方が衰退する過程は、自らに対する誇りの喪失と歩調を合わせてきた。ローカルであることをベースに世界で輝くことで、誇りが生まれ、まちづくりのエネルギーを創出する。
豊岡市は『コウノトリの野生復帰』を機に、これまで無農薬等環境創造型農業に取組み、コウノトリの生育環境整備とコウノトリ育む米の生産という環境と経済とが調和する発展を実現してきた。このような取組みのさらなる展開に加え、合併を契機に生まれた特色ある地域資源を活かし、人口規模は小さくても、世界の人々から尊敬され、尊重されるまちとする。それが実現した状態を『豊岡で世界と出会う』とし、実現のため下記の5つの戦略目標を定めている。
Ⅰ 受け継いできた大切なものを守り、育て、引き継ぐまちづくりを進める
急速に世界中が同じ顔になり、文化的魅力を失いつつある中で、自然や歴史、伝統のように地域固有のものこそが世界で輝くチャンスがある。
Ⅱ 芸術文化を創造し、発信する
芸術文化は人々の暮らしの質を高め、地方の小さな市であっても生きることを楽しみ、肯定する大きな力となる。また、優れた芸術文化は世界の人々を引き付ける。
Ⅲ 環境都市「豊岡エコバレー」を実現する
豊岡はコウノトリ保護の長い歴史を有している。1965年にスタートした人工飼育は苦難の連続であったが、開始から25年目の1989年春待望のヒナがかえり、今80羽を超えるコウノトリが再び空を飛んでいる。コウノトリの野生復帰は、コウノトリも住める豊かな環境をを再びこの地に創り上げようという活動である。その持続可能性を確保すること等を目的に、環境と経済が共鳴する「環境経済戦略」を進める。
Ⅳ 「小さな世界都市」を支える市民を育てる
「小さな世界都市」の市民、とりわけ子どもたちをどう育てるか、が課題である。このため地域に深く根差しながら、『創造の翼、空想の翼、行動の翼』で世界に羽ばたく市民を育てる。
Ⅴ 情報発信戦略を進める
まちは知られなければ存在しないのと同じである。知られて、行き先の選択肢に入る情報発信を国内外へ戦略的に進める。
【取組内容】
5つの戦略目標の実現のために、具体的に実施したプロジェクトは下記の通りである。環境都市「エコバレーの実現」に至るコウノトリの野生復帰への取組みがスタートとなり、「小さな世界都市」実現に向けた多様な取り組みが続いている。
Ⅰ 受け継いできた大切なものを守り、育て、引き継ぐまちづくりを進める
①城崎温泉の復興
城崎温泉は1925年(大正14年)の北但大震災の火災によりほぼ完全に灰になった。復興にあたり川幅・道路幅を広げ、広い防火帯を作るなど防災対策を施した上で、木造3階建ての街並みを復活させ、街並みを維持している。
②出石永楽館の復活
出石は住民の努力が実り、2007年国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、景観を守り、さらに強める取組みが進められている。近畿に現存する最古の芝居小屋「永楽館」復活し、毎年、歌舞伎、狂言、落語、演劇等様々な催し物が行われ、チケットが入手困難になるほどの人気を博している。
Ⅱ 芸術文化を創造し、発信する
①城崎国際アートセンターの創設
豊岡市は兵庫県から移譲された築30年の城崎大会議場を改修し、2014年4月、パフォーミングアーツに特化したアーティスト・イン・レジデンスの拠点、24時間利用可能の城崎国際アートセンターをオープンさせた。初年度から、国内や世界各地からアーティストたちが滞在・制作を目的にやってきている。
②小・中学校での演劇授業や市民への講座開催
〇演劇授業: 5つの小、中学校のモデル校で、劇作家で芸術監督の平田オリザ氏による演劇の授業を平成17年度から開始、表現力とコミュニケーション能力、芸術文化に親しむ態度を養う取組みを進めており、全小中学校に展開する予定。
〇城崎芸術夏期大学:平田オリザ氏らによるパフォーミンアーツの講座を開き、市民への芸術文化の浸透を図っている。
〇高校生のためのアートプロジェクト:新進気鋭の演出家による演劇集中ワークショップ&発表会を開催している。
Ⅲ 環境都市「豊岡エコバレー」を実現する
①コウノトリの野生復帰
コウノトリ野生復帰の最大の狙いは、「コウノトリも住めるまちを創る」ということにある。それを実現するために、様々な主体が連携し、努力を積み重ねてきた。
ア.拠点施設の整備-平成11年兵庫県は豊岡市内にコウノトリの郷公園を設立。そこに県立大学の研究所を設置し、野生化の研究と実践を続けている。平成12年には郷公園の一角を市が借りてコウノトリ文化館(運営はNPO法人コウノトリ市民研究所)を設置し、普及啓発を行っている
イ.湿地再生-コウノトリは主に湿地でエサを捕ることから湿地整備を図っているほか、湿地生態系機能を豊かにするためビオトープ水田、水路、川のネットワーク整備を進めている。そのほか農家、JA、県、市、商社等が一体となって農薬に頼らないコメ作り=『コウノトリ育む農法』を確立、平成26年年には約293ヘクタールまで拡大している。現在、さらに収量が安定し食味の高いコメを作る、より簡易な農法の開発と実証を行っている。
ウ.子どもたちの活動-小学校の授業で「コウノトリ育む農法」を学んだ子どもたちが、市役所を訪れ、「学校給食で使えば、消費が増え、生産が増え、環境が良くなる」と市長に直接訴え、市長はその行動力と論理の確かさに驚き、使用を約束、現在週5回の給食のうち3回を「コウノトリ育むお米」にしている。
②環境経済戦略
環境を良くする行動が経済を活性化し、そのことが誘因となって環境を良くする行動がさらに広がる―環境と経済が共鳴する関係が確立できる時代にある。平成16年度、豊岡市は環境経済戦略を策定し、企業等と協力して『豊岡市環境経済事業への認定』を行っている。平成26年度では46事業を認定、その売上総額は約95億円に上っている。
また、市は平成18年から子どもたちが節電行動を習慣化し経済との関係を理解することを目的に、学校ごとの基準年度と当該年度の年間電気料金の差額の2分の1を子どもたちに還元するフィフティ・フィフティ事業を小中学校で展開している。
Ⅳ 「小さな世界都市」を支える市民を育てる
地域のことを学ぶ学習に加えて、平成27年度から6つの幼稚園、保育園、こども園のモデル園で幼児期のうちに英語を身につけてもらう「英語遊び」を、また5つの小中学校モデル校で演劇の授業も始めている。いずれも3年後には市内全域で展開する予定。地域に深く根差し、地域を支えながら、世界の人々と結ばれる人材を育てることが目的である。
Ⅴ 情報発信戦略を進める
①国内-平成20年市役所に情報戦略係を設け、情報発信を積極的に行うこととした。東京でメディア関係者等を招いて豊岡の情報を提供し、発信を要請する「豊岡エキシビション」の開催(平成19年~)、東京有楽町でのアンテナショップの開設(平成23年~)、豊岡へのメディア招聘事業(平成23年~)、豊岡版ことりっぷの出版実現(平成25年)等を行ってきた。
②海外-旅行博への出展など海外での認知度を上げる努力を行っている(ロンドンで毎年開催のヨーロッパ最大のWTM(World Traverar’s Market)に出展(平成25年~)、 フランス・コルマールで開かれたSITVに出展(平成26年)、タイ/バンコクで開かれるTITFに出展(平成27年))。また、Webによるプロモ―ションを柱にインバウンドWeb戦略により外国人観光客を積極的に誘致している(目標:外国人宿泊客者数を豊岡市全体で2020年に10万人、ターゲット:欧米と香港の個人旅行)
【成功要因】
①社会の潮流を受け止め、これを積極的に活用・展開したこと
コウノトリをシンボルにその野生復帰を実現する過程で環境調和型農業の拡大など新たな価値を創造し、経済と環境との調和による持続的発展が将来に亘り共有できた
②コウノトリの環境整備に向けた多様な主体の参加・支援
『コウノトリも住める地域づくり』を推進するため湿地整備やコウノトリ育む農法の技術開発など、市民、農家、研究機関、行政、企業等の様々な主体が係る取組推進の体制が構築された
③地域の伝統的コミュニティの理解
住民の協力のもと集落等の伝統的なコミュニティの精神性や繋がりを理解して、矛盾が生じないよう取組みが進められた
④歌舞伎、演劇等の芸術家や多様な専門家との連携
出石永楽館の復原、国際アートセンター創設などハードの施設整備とあわせ、平田オリザ氏や片岡愛之助氏など芸術家の協力・参加などを得て一流の公演等を実施することにより、市民の強い共感を得ている。
⑤市長をはじめとしたぶれないリーダーシップと共感を呼ぶコミュニケーション
市長の”まちの誇りを創出する”との一貫した方向性の下に、トップダウンではない納得性ある職員や市民とのコミュニケーションが、また一流の芸術家や専門家の招致などではトップの情熱とリーダーシップの発揮など臨機応変に対応されている。
【成果】
①コウノトリの野生復帰を契機とした環境創造型農業への環境整備
農家、JA、県、市、商社等が一体となって農薬に頼らないコメ作り=『コウノトリ育む農法』を確立、湿地整備など持続可能な環境創造型農業の基盤を確立した。
②「コウノトリと共に暮らすまち」豊岡の創出による世界での認知度向上
日本の野外で絶滅したコウノトリを環境再生・保全によって復活させるとともに、生物多様性の保全を地域の人材育成や地域社会と地域経済の活性化につなげる取組みは世界でも稀であり、数少ない成功例となっている。平成26年には、全仏都市連合の「持続可能な都市」をテーマとするシンポジウムに市長が招かれ、豊岡の取組みを紹介するなど国内でもほとんど認知されていなかった豊岡に世界からの関心が高まっている。
③コウノトリを通じた国内各地との結び付き強化
コウノトリ野生復帰は、平成27年千葉県野田市、福井県越前市でも行われ、豊岡は積極的に経験とノウハウを提供している。コウノトリは豊岡を出て日本各地に飛来し、人々に好意的に迎えられ、コウノトリを通じた国内地との結びつきが広まっている。
④創造性・革新性に富んだアートによる地域活性化
パフォーミングアーツに特化した城崎国際アートセンターの取組みは、日本のアートシーンを大きく変える挑戦でもある。アートセンターでは初年度(平成26年度)稼働日数は320日を超えたほか、平成27年度には9団体(うち海外7団体)がレジデンス参加、28年度レジデンスの募集では、37団体(うち海外19団体)から応募あえい、豊岡は、アートを通じて世界と直接結ばれ始めてきた。
⑤多様なプログラムによる先端芸術に触れる機会の創出
アートセンターの滞在者には地元貢献プログラムの実施を求めており、ワークショップ、トーク、成果作品の発表等がなされ、市民が最先端の芸術に触れ、アーティストと交流する格好の機会となっている。
⑥環境やアートが地域経済活性化に繋がる仕組の構築
「小さな世界都市(Local & Global City)」の取組みは、環境経済戦略に典型的に示されるように、経済との関係を強く意識している。「コウノトリ育む農法」を行う農家が、環境に貢献しながら収入を増やすことに成功していることと同様である。
また、城崎温泉ではパフォーミンアーツ・ツーリズムを育てる試みを行っており、街角で観光客にちょっとしたダンスを踊ってもらう仕掛けを作り、城崎温泉の新たな魅力として誘客につなげようとするものである。滞在アーティストの街角パフォーマンスによる魅力アップとあわせて、アートセンターへの公的投資をまち全体で回収するものである。
【今後の課題・方向】
①法に準拠した街並み保存のルールづくり
既存不適格にある木造3階建ての街並みを保存するための、豊岡独自の新たなルール作りを進めるとともに、歴史的建築物の有効活用の具体例を増やしていく。
②芸術文化を地域に根ざす困難と収益性の向上
芸術文化が地域に根差すには時間がかかることをあらかじめ覚悟しておき、アーティストと地域の人々との結びつきを強めながら、芸術文化の創造・発信を地域に根付かせる努力を重ねていく。さらに、城崎国際アートセンターは使用料が無料であるためアートセンター自体の収益性は低く、運営費は公的資金に頼らざるを得ない面を有しており、収益性の向上を図る必要がある。
③環境都市「豊岡エコバレー」の実現
コウノトリ野生復帰の国内外での広がりを支援する、あるいは子どもたちへバトンを引き渡していく仕組みを確立する必要がある。また農業では、減農薬栽培から無農薬栽培へ舵を切るため、新たな農法を開発し、確立する。以上の取組みを通じて「豊岡エコバレー」を実現する。
④インバウンド観光の拡大
インバウンド観光に関してワークショップ等での情報共有や課題の洗い出しを行っているほか、城崎温泉ではアートセンターが中心となって、世界各地からのパフォーミンアーツ・ツーリズムを育てる試みを行っている。このような取組は緒に就いたばかりであり、外国人のニーズを把握し、一層の集客・滞在を図っていく必要がある。
豊岡市は以前から人口減少が進んできた。人口減少は、域内・国内経済を縮小させ、地域の活力を削ぐ強大なベクトルとなっている。しかし世界には大きなマーケットがあり、それを取り込むことで地域経済の活性化につなげる。これが「小さな世界都市(Local & Global City)」実現の取組理由であり、人口減少下において地域活力をいかに維持・強化するかという、わが国における現下の最大の課題への挑戦である。地方が衰退する過程は、自らに対する誇りの喪失と歩調を合わせてきた。ローカルであることをベースに世界で輝くことで、誇りが生まれ、まちづくりのエネルギーを創出する。
豊岡市は『コウノトリの野生復帰』を機に、これまで無農薬等環境創造型農業に取組み、コウノトリの生育環境整備とコウノトリ育む米の生産という環境と経済とが調和する発展を実現してきた。このような取組みのさらなる展開に加え、合併を契機に生まれた特色ある地域資源を活かし、地域経済の活性化を進めていくための「小さな世界都市(Local & Global City)」の実現である。
「小さな世界都市(Local & Global City)」とは、ローカルであることをベースに、人口規模は小さくても、世界の人々から尊敬され、尊重されるまちである。それが実現した状態を『豊岡で世界と出会う』とし、実現のため5つの戦略目標を定めている。
Ⅰ 受け継いできた大切なものを守り、育て、引き継ぐまちづくりを進める
グローバル化の進展によって急速に世界中が同じ顔になり、文化的魅力を失いつつある中で、地域固有のもの、ローカルなものこそが世界で輝くチャンスがある。この戦略は、小さな市が激しい都市間競争に勝ち抜くための有力なシナリオであり、限られた命しか持たない人間が、自然や歴史、伝統のように長い命を持つものに包まれて生きることによって、やすらぎや穏やかさ、落ち着きを感じることができるまちを創るシナリオでもある。
Ⅱ 芸術文化を創造し、発信する
芸術文化は人々の暮らしの質を高め、地方の小さな市であっても人々がその地で生きることを楽しみ、肯定する大きな力となる。また、優れた芸術文化は世界の人々を引き付ける。
Ⅲ 環境都市「豊岡エコバレー」を実現する
ア.コウノトリ野生復帰
豊岡はコウノトリ保護の長い歴史を有している。コウノトリは、かつては日本の各地に見られたが、農薬の使用をはじめとする環境破壊によって、1971年日本の野外で絶滅した。絶滅前1965年に、豊岡でスタートした人工飼育は苦難の連続であったが、人工飼育の開始から25年目の1989年春、待望のヒナがかえり、以後順調に羽数が増え、2005年には自然放鳥がなされ、今80羽を超えるコウノトリが再び空を飛んでいる。
コウノトリは両翼2mもある完全肉食の大型の鳥で、豊かな環境のシンボルである。コウノトリの野生復帰は、コウノトリをシンボルにしてコウノトリも住める豊かな環境――豊かな自然環境と豊かな文化環境――を再びこの地に創り上げようという活動である。それは、人間にとっても素晴らしい環境を創ることに他ならない。
イ 環境経済戦略
豊岡は環境を良くする行動の持続可能性を確保すること等を目的に、環境と経済が共鳴する関係-環境経済を広げる「環境経済戦略」を進める。
Ⅳ 「小さな世界都市」を支える市民を育てる
「小さな世界都市」の市民、とりわけ子どもたちをどう育てるか、が課題である。
このため、『豊岡のことをよく知っている』 → 『だから豊岡が大好きだ』 → 『だから豊岡のコミュニティの一員としての役割を果たす』、このように地域に深く根差しながら、『創造の翼、空想の翼、行動の翼』で世界に羽ばたく市民を育てる。
Ⅴ 情報発信戦略を進める
まちは知られなければ存在しないのと同じである。私たちは、たくさんの人々に豊岡に来ていただきたいと願っている。知られて、行き先の選択肢に入る情報発信を国内外へ戦略的に進める。
ー
城崎温泉は1925年(大正14年)の震災で温泉街が灰になった歴史を有しており、その復興に当たり、兵庫県が提案した洋風建築での復興計画を廃し、木造3階建ての街並みを復活させた。現在も続く木造3階建旅館の多くは、その後制定された建築基準法上、「既存不適格」な建物となっている。
「既存不適格」であるため、豊岡市では専門家の委員会を組織し、木造3階建ての街並みを将来にわたって守るルールづくりを進めている。
主な事業については14参照
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(未入力)
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城崎国際アートセンターでは劇作家の平田オリザ氏が芸術監督を務めるなど様々な関係者の参加のもと協働が実現し、あるいは実現しつつある。特に、長い期間を要したコウノトリ野生復帰事業は、その実施主体が豊岡という地域社会そのものであり、極めて広範な協働が推進力となっている。
すなわち、コウノトリ野生復帰は、コウノトリが自然界に定着し、生まれたヒナが成長して自力でエサを捕り、カップルができ、そのカップルがヒナを産むという状態を安定的に創り出すことに他ならない。そのためには、飼育下で羽数を増やすことに加えて、環境創造型農業の推進、湿地再生、環境学習・環境教育の推進、環境経済戦略の推進等様々なことを進める必要がある。それは「コウノトリも住める」環境を創ることであり、その責任は様々な構成員からなる豊岡という地域社会そのものであり、これを支えるコウノトリの郷公園(兵庫県)、文化庁、国土交通省、環境省、農林水産省、豊岡市役所等の機関は、その重要なメンバーとなっている。
5つの戦略目標の実現のために、具体的に実施したプロジェクトは下記の通りである。
Ⅰ 受け継いできた大切なものを守り、育て、引き継ぐまちづくりを進める
①城崎温泉の復興
城崎温泉は1925年(大正14年)の北但大震災の火災により、温泉街はほぼ完全に灰になった。復興にあたりまず川幅と道路幅を広げ、広い防火帯を作るなど最先端の防災対策を施した上で、兵庫県の提案した洋風建築物による復興を斥け、木造3階建ての街並みを復活させた。この姿勢は伝統として受け継がれ、街並みが維持されているが、現在の木造3階建旅館の多くは建築基準法上「既存不適格」であるため、木造3階建ての街並みを将来にわたって維持できるルールを策定している。
②出石永楽館の復活
豊岡の小京都・出石は住民の努力が実り、2007年国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、景観を守り、さらに強める取組みが進められている。具体的には、保存地区の隣接場所に、近畿に現存する最古の芝居小屋「永楽館」があり、1964年以来閉館されたままとなっていたが、住民の復元への強い要望を受けて市が所有者より譲り受け、2008年再び芝居小屋(350席)として復活した。
以来毎年、歌舞伎、狂言、落語、演劇等様々な催し物が行われ、秋の歌舞伎はチケットが入手困難になるほどの人気を博している。
Ⅱ 芸術文化を創造し、発信する
①城崎国際アートセンターの創設
豊岡市は兵庫県から移譲された築30年の城崎大会議場を改修し、2014年4月、パフォーミングアーツに特化したアーティスト・イン・レジデンスの拠点、城崎国際アートセンターをオープンさせた。ホール、6つの稽古場、宿泊施設、調理施設、食堂を最高3か月間無料で提供している。施設は、24時間利用可能で、芸術監督には劇作家の平田オリザ氏を迎えている。
初年度から、国内はもとより、世界各地からアーティストたちが滞在・制作を目的にやってきている。滞在アーティストのために、地元住民と同じ料金(100円/回)で温泉の外湯を利用することができるようにし、「アーティストはまちの一員である」とのメッセージを送っている。食事は自炊だが、旅館の板長OBによる調理ボランティア(有償)も用意されている。
②小・中学校での演劇授業や市民への講座開催
〇演劇授業: 5つの小、中学校のモデル校で、平田オリザ氏による演劇の授業を平成17年度から開始。児童・生徒が演劇を創り、演じる過程で表現力とコミュニケーション能力、芸術文化に親しむ態度を身につけてもらおうという取組みである。3年後には市内38の小中学校で全面展開する予定。
〇城崎芸術夏期大学:芸術監督である平田オリザ氏らによるパフォーミンアーツの講座を開き、市民への芸術文化のさらなる浸透を図っている。
〇高校生のためのアートプロジェクト:アートセンターで、新進気鋭の演出家による演劇集中ワークショップ&発表会を開催している。
Ⅲ 環境都市「豊岡エコバレー」を実現する
①コウノトリの野生復帰
現在、野外のコウノトリは80羽を超え、豊岡の空を中心に再び自由に飛び回っている。コウノトリ野生復帰の最大の狙いは、「コウノトリも住めるまちを創る」ということにある。それを実現するために、様々な主体が連携し、以下のような努力を積み重ねてきた。
ア.拠点施設の整備
平成11年兵庫県は豊岡市内にコウノトリの郷公園を設立。そこに県立大学の研究所を設置し、野生化の研究と実践を続けている。平成12年には郷公園の一角を市が借りてコウノトリ文化館(運営はNPO法人コウノトリ市民研究所)を設置し、普及啓発を行っている。また平成26年には、コウノトリの郷公園内に県立大学の大学院が開設され、コウノトリの野生復帰など地域資源マネジメントを学ぶ研究科が開設されている。
イ.湿地再生:
コウノトリは主に湿地でエサを捕る。そこで、湿地生態系機能を豊かにするため、水田、水路、川のネットワーク整備を進めている。
〇ビオトープ水田
休耕田を利用して一年中水を張り、農家がビオトープとして維持する。豊岡の自然が豊かになり、コウノトリのエサ場になり、子どもたちの環境学習の場になる。市内に23カ所、合計12.4ヘクタールが整備・管理されている。
〇冬期湛水:
アカガエルが産卵する2~3月に水田に水を張ってもらい、産卵場所を確保するとともに水鳥が休憩する場所としている。現在251.7ヘクタールで行われている。
〇コウノトリ育む農法:
農家、JA、県、市、商社等が一体となって努力を重ね、農薬に頼らないコメ作り=『コウノトリ育む農法』が豊岡で確立され、平成26年年には約293ヘクタールまで拡大。現在、さらに無農薬栽培を圧倒的に増やすために、農業者、農機具メーカー、JA、県、市で連携し、収量が安定し食味の高いコメを作る、より簡易な農法の開発と実証を行っている。
平成27年ミラノ万博日本館では、映像のシンボルにコウノトリが、日本館フードコートで使用される米は、すべて「コウノトリ育むお米」であった。平成27年11月には、JA 、商社と組んで輸出も始める予定。
〇水田魚道:
排水性を高めるために水田と水路とに段差が作られ、水田、水路、川を行き来する循環が断ち切られている。そこで農家、県、市が協力し、水田と水路をつなぐ水田魚道を市内110カ所で設置している。
〇円山川湿地再生:
円山川では、水路と川との間に設けられている段差を解消する湿地再生事業が国土交通省により進められている。これまでに新たに57ヘクタールの湿地が創り出されている。
〇ハチゴロウの戸島湿地:
戸島地区の湿田を乾田化する土地改良工事が進む平成20年夏、大陸からやってきた1羽のコウノトリが連日戸島の水田に降り立ちエサを捕るようになった。市民から湿地を守る声が上がり、市が農家と話し合い4ヘクタールの用地を確保、県と工事を分担して湿地公園(運営はNPO法人コウノトリ湿地ネット)を整備した。コウノトリはハチゴロウという名で親しまれていたため、公園名を「ハチゴロウの戸島湿地」と名づけている。ここでは、8年連続野外でヒナが生まれ、巣立っている。
〇ラムサール条約湿地登録:
平成24年、円山川下流域と周辺水田が、ラムサール条約の登録湿地に認められた。希少種であるコウノトリの生息を支える湿地として、日本で初めて河川が登録さた。
ウ.子どもたちの活動
小学校の授業で「コウノトリ育む農法」を学んだ子どもたちが、この農法を広げることができるか話し合い、「消費を増やす」の結論を得た。そこで学校近くのコンビニの店長にコウノトリのコメで作ったおにぎりを売ってもらうよう直談判を行った。実現はしなかったが、子どもたちは平成19年3月に市役所を訪れ、「学校給食で使えば、消費が増え、生産が増え、環境が良くなる」と市長に直接訴えた。市長はその行動力と論理の確かさに驚き、使用を約束した。
現在市では、週5回の給食のうち3回を「コウノトリ育むお米」にしている。慣行米との差額は、一般財源とふるさと納税などの寄付金で賄っている。
エ.学術研究費補助制度:
豊岡市をフィールドにして自然との共生などをテーマに研究する大学生、大学院生に対し、交通費、宿泊費等の一部を補助している。平成16年の制度開始以来100人以上に交付しており、研究成果は学生が市民に向けて報告。
オ.コウノトリ放鳥の国内外への展開:
コウノトリの自然放鳥は、平成25年豊岡市近隣の養父市、朝来市でもなされ、平成27年7月には千葉県野田市で行われ、秋には福井県越前市でも予定されている。
また、平成26年3月豊岡の野外で生まれたコウノトリが海を渡り、その後韓国に1年1カ月滞在した。韓国でもコウノトリは一度絶滅している。幸い日本、ロシアの協力を得て人工飼育で羽数が増え、平成27年9月には自然放鳥が予定されており、豊岡への関心と友好ムードが高まっている。
②環境経済戦略
相いれないと固く信じられてきた環境と経済は、環境を良くする行動が経済を活性化し、そのことが誘因となって環境を良くする行動がさらに広がる――環境と経済が共鳴する関係が確立できる。平成16年度、豊岡市は環境経済戦略を策定し、企業等と協力して共鳴の具体例を積み重ねている。
環境経済戦略の狙いは、ⅰ環境行動自体の持続可能性を確保する、ⅱ地域経済を活性化し、地域の自立につなげる、ⅲ環境への貢献を通じて誇りにつなげる、の3つである。とりわけⅰは、環境を良くするためには経済を敵に回すのでなく味方につけた方が得だ、という考えに立っている。
ア.豊岡市環境経済事業への認定
豊岡には太陽電池を製造するカネカソーラーテックの本社・工場がある。世界中の人々がこの会社の太陽電池を設置すればするほど環境は良くなり、この会社の売り上げは上がる。得られた利益をさらなる研究開発に投資すれば、より高効率でより安価な太陽電池ができ、温暖化対策がさらに進む。
市は、利益を追求し、環境に貢献する事業(農業を除く)を『豊岡市環境経済事業』として認定している。今年1事業を加え、これまでに47事業を認定してきており、平成26年度では46事業の売上総額は約95億円に上っている。
イ.小中学校フィフティ・フィフティ事業:
市は平成18年からフィフティ・フィフティ事業を小中学校で展開している。これは、基準年度の学校ごとの年間電気料金と当該年度の電気料金の差額の2分の1を子どもたちに還元するというものであり、子どもたちが節電行動を習慣化し、かつ経済との関係を理解することを目的に実施している。平成26年度は全体で217万円を還元している。
図 コウノトリ人工ふ化から野生復帰、環境経済への取組
Ⅳ 「小さな世界都市」を支える市民を育てる
地域のことを学ぶ学習に加えて、平成27年度から6つの幼稚園、保育園、こども園のモデル園で幼児期のうちに英語を身につけてもらう「英語遊び」を始めている。3年後には市内全域で展開する予定。
また、5つの小中学校モデル校で演劇の授業も始めている。演劇を創り、演じる過程でコミュニケーション能力を身につけてもらう取組みで、3年後には市内全域で展開する予定。
グローバル人材ではなく、ローカル&グローバル、すなわち地域に深く根差し、この地域を支えながら、世界の人々と結ばれる人材を育てるのが目的である。
Ⅴ 情報発信戦略を進める
①国内:
平成20年市役所に情報戦略係を設け、情報発信を積極的に行うこととした。東京でメディア関係者等を招いて豊岡の情報を提供し、発信を要請する「豊岡エキシビション」の開催(平成19年~)、東京有楽町でのアンテナショップの開設(平成23年~)、豊岡へのメディア招聘事業(平成23年~)、豊岡版ことりっぷの出版実現(平成25年)等を行ってきた。
また、平成23年にはJR西日本に働きかけ、特急「北近畿」の特急「こうのとり」への名称変更が実現した。認知度は確実に上がりつつある。
②海外:
〇旅行博への出展など海外での認知度を上げる努力を行っている。
・ロンドンで毎年開催のヨーロッパ最大のWTM(World Traverar’s Market)に出展(平成25年~)
・ フランス・コルマールで開かれたSITVに出展(平成26年)
・タイ/バンコクで開かれるTITFに出展(平成27年)
・シンガポールで開かれる旅行博(平成28年)に出展予定など
〇インバウンドWeb戦略
国内需要は今後下降傾向になることが予想されることから外国人観光客を積極的に誘致している。特に世界各国でのモバイルの急速な普及により、外国人から直接宿泊予約が入る時代となっていることから、Webによるプロモ―ションを柱に実施している。
誘客戦略を立てるため、Webを利用して外国人旅行客の行動等を調査・分析し、海外戦略基本方針を策定、事業を進めている。
目標:外国人宿泊客者数を豊岡市全体で2020年に10万人
ターゲット:欧米と香港の個人旅行
城崎温泉は11月~3月のカニシーズンは観光客が多く、今以上の集客が難しい。また、城崎温泉は小規模の旅館が多く、団体客の収容に限りがある。そこで4月~10月の訪日が比較的多く、英語が通用し、Webでの個人予約が多い欧米と香港をターゲットとする。
方法:海外の旅行誌「ロンリープラネット」や「ミシュラングリーンガイド」などで紹介された城崎温泉が外国人に訴求力があるので、城崎温泉を中心に誘客、その客を他の地域や周辺市町に誘導する。
【コウノトリの野生復帰から環境経済事業へ】
昭和40年 コウノトリの人工飼育開始(兵庫県)
平成元年 コウノトリの人工ふ化成功(ヒナ誕生)
平成11年 県立コウノトリの郷公園開設
平成14年 コウノトリ共生推進課設置、コウノトリ野生復帰推進計画策定
(平成17年4月1日、1市5町(豊岡市、城崎町、竹野町、日高町、出石町、但東町)が合併、豊岡市に)
平成18年 コウノトリ育むお米生産部会設立(JA)、戸島湿地整備スタート、コウノトリ環境経済コンソーシアム設立
平成24年 環境経済事業認定開始(平成22-23年豊岡エコバレー構想)
【その他の事業】
平成20年 出石永楽館復元落成
平成26年 城崎アートセンター・オープン
〇コウノトリ関係の予算としては野生復帰に伴う環境整備(湿地整備)などインフラ整備であり、人工ふ化などは兵庫県が実施してきた。
現在はコウノトリ文化館管理、コウノトリ野生復帰推進事業、コウノトリ生息地保全対策事業などに計約35,000千円(平成25年度)を支出。
〇現在、「小さな世界都市(Local & Global City)」の実現を予算と市政方針の柱に据え、職員、議会、市民の理解得て実施しているとのこと。
平田オリザ氏-城崎アートセンター芸術監督
それぞれの事業別に市・関連機関に加え住民や専門家による支援・協力体制を整備し、実施している。
Ⅰ 受け継いできた大切なものを守り、育て、引き継ぐまちづくりを進める
「出石城下町を活かす会」、「城崎街並み保存会」など住民組織:街並みの保存や歴史的建築物の保存・活用のみならず提案も実践
Ⅱ 芸術文化を創造し、発信する
〇城崎国際アートセンターでは平田オリザ氏のほか、広報・マーケティング担当ディレクター、プログラムディレクター、舞台操作員等の専門家を配置、アーティストの滞在制作を支援、ほかに旅館板長OBがボランティア(有償)で調理を担当
〇NPO 法人プラッツ:市民の芸術文化活動の拠点「市民プラザ」を運営
Ⅲ 環境都市「豊岡エコバレー」を実現する
〇国、県、市の関係機関、研究者、JA、農業者、学校長代表、商工会議所、NPO等からなる「コウノトリ野生復帰推進連絡協議会」で情報交換をしながら目標を共有して支える。市は「コウノトリ共生部」と「コウノトリ共生課」を設置、野生復帰を担当。
〇JA但馬に農業者から成る「コウノトリ育むお米生産部会」を設置、県の農業改良普及センター、市の農業部門、商社、生協、大手小売店等と絶えず情報交換をしながら、栽培技術の向上、面積の拡大、品質の向上、無農薬栽培の拡大を推進
〇金融機関、商工会議所、商工会及び市で「環境経済インキュベーションパートナーシップ」を立ち上げ、市内企業の行う環境経済事業に対する経営と資金面からの個別支援を実施
Ⅳ 「小さな世界都市」を支える市民を育てる
〇市の教育委員会が中心となり、事業を推進。「英語遊び」は市民ボランティアグループが組織され、市教委、ALTと連携しながら実践、「英語遊び」のプログラムは神戸外国語大学の教授と作成
〇演劇授業は学校長、教員の研修を行い、学校現場内に推進力を作ることを目指す
Ⅴ 情報発信戦略を進める
〇市役所大交流課に情報発信の担当者を配置、豊岡ツーリズム協会などの情報を得ながら、情報発信
-インバウンド:豊岡ツーリズム協議会にインバウンド部会を設置、観光協会と市が一体となりワークショップ等での情報共有や課題の洗い出しなどを実施。
-市役所大交流課内にはインバウンドチームを設け、インバウンド部会と連携して情報発信と受け入れ態勢の整備を推進。
市のインバウンドチーム:副市長(米国内企業経営経験者)、JTB及び楽天からの派遣人材、海外戦略推進員、CIR(国際交流員)等から成り、2015年時点で英語、フランス語、韓国語、タイ語、トルコ語での対応が可能
-平成27年度からパリにレップ(representative;情報発信の代理人)を設け、パリ発の情報発信を強化
①社会の潮流を受け止め、これを積極的に活用・展開したこと
環境の重要性を早期に認識、コウノトリをシンボルにその野生復帰を実現する過程で環境調和型農業の拡大など新たな価値を創造することで経済と環境との調和による持続的発展が将来に亘り共有できたこと
②コウノトリの環境整備に向けた多様な主体の参加・支援
『コウノトリも住める地域づくり』を推進していくためには湿地整備やコウノトリ育む農法の技術開発などが必要であり、市民、農家、研究機関、行政、企業等の様々な主体が取り組みの推進力となるよう連携体制が構築された
③地域の伝統的コミュニティの理解
住民の協力のもと生活を営んできた集落等の伝統的なコミュニティの精神性や繋がりを理解して、矛盾が生じないよう配慮しながら取り組みが進められた
④歌舞伎、演劇等の芸術家や多様な専門家との連携
出石永楽館の復原、国際アートセンター創設などハードの施設整備とあわせ、平田オリザ氏や片岡愛之助氏など芸術家の協力・参加などを得て一流の出し物の公演等を実施することにより、市民の強い共感を得ている。
⑤市長をはじめとしたぶれないリーダーシップと共感を呼ぶコミュニケーション
市長の”まちの誇りを創出する”との一貫した方向性の下に様々な事業を企画、これを実施している。トップダウンではなく納得性ある職員や市民とのコミュニケーション、トップの情熱が動かす一流の芸術家や専門家の招致などトップの情熱とリーダーシップが発揮されてる。
①コウノトリの野生復帰を契機とした環境創造型農業への環境整備
農家、JA、県、市、商社等が一体となって農薬に頼らないコメ作り=『コウノトリ育む農法』を確立、湿地整備など持続可能な環境創造型農業の基盤を確立した。
②「コウノトリと共に暮らすまち」豊岡の創出による世界での認知度向上
国内でもほとんど認知されていなかった豊岡を世界の中で輝かせるという戦略は、自治体としては極めて創造性・革新性に富んだ取組みであると考えている。
日本の野外で絶滅したコウノトリを環境再生・保全によって復活させるとともに、生物多様性の保全を地域の人材育成や地域社会と地域経済の活性化につなげる取組みは世界でも稀であり、数少ない成功例となっている。コウノトリ野生復帰は、自分たちの地域を「コウノトリと共に暮らすまち」とする道を選ぶかどうかという自治の問題であり、市民を巻き込んだ地域社会創造の壮大な取組みである。大空を悠然と舞うコウノトリの姿は、市民の誇りを象徴している。
平成26年には、全仏都市連合の「持続可能な都市」をテーマとするシンポジウムに市長が招かれ、豊岡の取組みを紹介したほか、これまでにドイツ、韓国、中国、台湾、ルーマニアなどでも関係者が招かれ、シンポジウムで報告するなど世界からの関心が高まっている。
③コウノトリを通じた国内各地との結び付き強化
コウノトリ野生復帰は、平成27年千葉県野田市、福井県越前市でも行われ、関東エコロジカルネットワーク構想では南関東をコウノトリの生息地にするための広域連携が進んでいるが、豊岡は積極的に経験とノウハウを提供している。コウノトリは豊岡を出て日本各地に飛来し、人々に好意的に迎えられており、コウノトリを通じた国内各地との結びつきが広まっている。
④創造性・革新性に富んだアートによる地域活性化
パフォーミングアーツに特化した城崎国際アートセンターの取組みは、これまでビジュアルアーツに支援が偏りがちであった日本のアートシーンを大きく変える挑戦でもある。また、アートによる国際交流・国際貢献、アートによる地域活性化の挑戦であり、創造性・革新性を有している。
アートセンターでは初年度(平成26年度)稼働日数は320日を超えたほか、平成27年度には9団体(うち海外7団体)がレジデンス参加、28年度レジデンスの募集では、37団体(うち海外19団体)から応募があった。豊岡は、アートを通じて世界と直接結ばれ始めてきた。
⑤多様なプログラムによる先端芸術に触れる機会の創出
アートセンターの滞在者には地元貢献プログラムの実施を求めており、毎月何組かのアーティストによるワークショップ、トーク、成果作品の発表等がなされている。市民が最先端の芸術に触れ、アーティストと交流する格好の機会となっている。
⑥環境やアートが地域経済活性化に繋がる仕組の構築
「小さな世界都市(Local & Global City)」の取組みは、環境経済戦略に典型的に示されるように、事業の持続可能性を確保するため、経済との関係を強く意識している。農業においても、「コウノトリ育む農法」を行う農家は、環境に貢献しながら収入を増やすことに成功している。
また、城崎温泉ではアートセンターが中心となって、パフォーミンアーツ・ツーリズムを育てる試みを行っている。これは街角で観光客にちょっとしたダンスを踊ってもらう仕掛けを作り、城崎温泉の新たな魅力として誘客につなげようとするものである。滞在アーティストの街角パフォーマンスによる魅力アップとあわせて、アートセンターへの公的投資をまち全体で回収するものである。
まちへの誇りの醸成とまちの活性化
『コウノトリ』の野生復帰や環境整備さらには城崎温泉や出石永楽館歌舞伎公演などメディアで豊岡市が取り上げられ、市外の人々からも豊岡市が口の端に上るにつれ、市民の間にも”良いまち”になっているとの意識が醸成されてきているようである。それは市民の誇りにもつながっており、まちが元気なってきている。
①法に準拠した街並み保存のルールづくり
木造3階建ての街並みを保存するための、建築基準法をクリアするための豊岡独自の新たなルール作りを進めるとともに、歴史的建築物の有効活用の具体例(レストラン、宿泊施設等)を増やし、方向のさらなる視覚化を図る。
②芸術文化を地域に根ざす困難と収益性の向上
芸術文化が地域に根差すには時間がかかることをあらかじめ覚悟しておく必要がある。幸い、ア
ートセンターのレジデンスには国内外から申し込みが殺到している状態にあるので、アーティスト
と地域の人々との結びつきを強めながら、芸術文化の創造・発信を地域に根付かせる努力を重ねてい
く。また、国内外の劇場との連携、共同制作を実現・強化していく。
さらに、城崎国際アートセンターは使用料が無料であるためアートセンター自体の収益性は低く、運営費は公的資金に頼らざるを得ない面を有しており、収益性の向上を図る必要がある。
③環境都市「豊岡エコバレー」の実現
コウノトリ野生復帰の国内外での広がりを支援する、あるいは子どもたちへバトンを引き渡していく仕組みを確立する等拡大・継続する仕組みを構築する必要がある。また農業では、減農薬栽培から無農薬栽培へ舵を切るため、新たな農法を開発し、確立する。以上の取組みを通じて「豊岡エコバレー」を実現する。
④インバウンド観光の拡大
豊岡ツーリズム協議会では市と一体となってインバウンド観光に関してワークショップ等での情報共有や課題の洗い出しを行っているほか、城崎温泉ではアートセンターが中心となって、世界各地からのパフォーミンアーツ・ツーリズムを育てる試みを行っている。このような取組は緒に就いたばかりであり、外国人のニーズを把握し、一層の集客・滞在を図っていく必要がある。
①メディアによる情報発信の充実
まずは国内、世界に豊岡を知ってもらうことが何よりも重要であり、大交流課を中心に戦略的なメディア利用対策を策定し、情報発信力を強化していく。特に、関西のニュースは関西以西にとどまり、東京まで届かないことが多い。そこで、小規模ではあるがアンテナショップ開設などを実施してきたが、今後も東京まで届くPRを戦略的に企画・実施していく。
②コウノトリなどの地域資源を活かした豊岡らしさの追求
神戸市とは100万円ほどの所得格差があるなど経済水準の高める必要は大きい。豊岡らしさを出しながら”小さな世界都市”にたどり着くまで地域資源に磨きをかけ、活性化を図っていく。幸い竹野のジオパークなどの資源もあることから、コウノトリとあわせて自然体験学習の場としていくことなども期待できる。
③外国人訪問客の行動分析、DMO設立によるタイムリーな情報発信実施
2020年インバウンド10万人の目標を達成するため、フランス人にターゲットを絞った取組みを実施するなど戦略的に行っている。これに加えて、ビックデータを活用して外国人訪問客の行動等の分析を行い、ニーズに沿ったタイムリーな情報発信を行う。またDMOを設立、興味の異なる外国人訪問客への的確・効率的な情報発信を実施する。
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