【背景・課題、目的・目標】
平成6年ニセコ町長選に、住民参加と情報公開を掲げ出馬した逢坂氏が町長に就任、以降、住民が自ら考え行動する『住民の自治力によるまちづくり』が最も重要であるとの認識のもと町政を展開してきた。徹底した情報の公開を実践してきたほか、平成7年からは、住民にわかりやすく伝える予算説明書『もっと知りたいことしの仕事(参考資料1参照)』を作成、各地域から選出されている行政推進員への予算の説明、全戸配布を行い、町の施策の周知、平成8年からは町政の課題を住民と役場の管理職等が自由に議論する「まちづくり町民講座」を開催、これまで150回以上開催・議論し、各種の情報共有の場を設けてきた。
こうした住民と行政との情報共有により築き上げてきた様々な住民自治の仕組みを整理体系化した上で、全国に先駆け「ニセコ町まちづくり基本条例」を制定、住民との情報共有化と住民参加の取組みを制度として保証することで、町の意思決定の手続き及び透明性を将来に亘り確保し、住民やNPOなどの施策立案からの協議を行うなどにより無駄ない効率的な行政運営を進めている。
重要なことは「住民自らが考え行動する」ことであり、「住民参加」や「情報公開」はこれを実現する手段である。
「住民主権のまちづくりを標榜してから21年を経た、現状での具体の目標は下記の通り。
①徹底した情報公開による住民参加のまちづくりの実践
この上で、
②豊かな自然環境と美しい景観を守り、育て次世代に引き継ぐ
③町内での生産資源の循環、エネルギーの循環、経済の循環による自律したまちをつくる
【具体的な取組】
(1)肩ひじ張らない気楽な住民参加の実現
概ね5人集まれば町長ほか、住民指名の職員が現場に出向き住民と意見交換する『まちづくりトーク』、町長と気軽に懇談ができるよう毎月1回町長室の開放を実施している『こんにちは・おばんです町長室』などの気楽な住民参加の実現。この制度を設けることで、町民の間で役場へ出向く「気軽さ」が広がっている。
(2)行政と町民の情報共有と真摯な意見交換
管理職の説明により情報の質を同一化し、日々の行政課題を参加者で議論する『まちづくり町民講座』、町長が次年度予算に町民の声を反映させるため『まちづくり懇談会』、政策課題毎に必要に応じて開催する自由参加の『事業別町民検討会』など真摯な意見交換も実施している。これにより職員の意識改革と行政・住民間の自由闊達な議論の土壌ができ、職員の説明責任能力が向上している。
(3)高質な住民参加の実施
NIMBY施設である「一般廃棄物最終処分場」の計画、建設を徹底的な情報公開と住民参加により克服し、住民の協力を得て整備する、公共課題解決のため構想の白紙段階(政策形成過程)から住民公開・参加の中で協議を重ね、計画書の作成や施設を整備するなども実施してきている。
(4)情報公開を支えるファイリングシステムの導入
徹底した情報公開・住民参加のため、町の情報は常に機能的に整理されている必要がある。ニセコ町では、ファイリングシステムの導入により、常に情報の整理と情報の私物化を排除している。また、ファイリングシステムは情報公開の強力なツールであるとともに、執務の効率化を図るツールとなっている。
(5)具体的なプロジェクト・計画等
【プロジェクトの実践】
①道の駅「ニセコビュープラザ」
施設の建設計画・運営に農業者や観光関連事業者が主体的に参加し、今では参加者自らが積極的な商品開発、農産物の生産履歴の公開、土づくり・減農薬栽培を実現し、現在4億円を売り上げている。
②学習交流センター「あそぶっく」
町内唯一の交流型図書館で、お母さん方を中心に70名ほどで構成するNPO「あそぶっくの会」が指定管理者として運営にあたる。子どもたちやお年寄りの交流の場として愛されている。
③ニセコ駅前温泉「綺羅乃湯」
計画段階から意見の異なる住民により議論を進め、建設に至る。町民出資の株式会社「キラットニセコ」が指定管理者として運営にあたり、健全経営で町からの助成はない。
④一般廃棄物最終処分場、堆肥センターの整備
一般廃棄物処分場などは近傍にできると迷惑施設として嫌がられる(NIMBY)施設である。計画策定のスケジュール、場所の選定方法、処理施設や工事の進捗等のすべてを公開の話し合いで進めてきた。一時期は激しい反対運動もあったが、徹底した情報の公開、共有化により、最終的には「お互いに協力し、安全な一般廃棄物最終処分場を造る」ことで合意した。
【実践事例の主な計画等】
①第1次環境基本計画の策定
計画策定を進める事務局を公募し、応募者で事務局としての「環境を考える会」を結成し、事務局長を選任、事務局長宅に策定事務局を設置。環境調査をはじめ、様々な検討をすべて公開、住民参加で計画書を取りまとめた。計画の評価も住民が自主的に担ってきている。
②準都市計画の指定(観光エリア)
海外資本による大規模な観光系開発計画がいくつも持ち上がる中、平成21年3月から、スキー場周辺地域一帯を準都市計画の区域とした。建物の用途制限、建ぺい率、容積率などの制限については、開発事業者も交えたワークショップなど話し合いを何度も重ね、現在では秩序ある良好な開発が進んでいる。
【成功要因】
①町長のリーダーシップと住民とのコミュニケーションの充実
「住民自らが考え行動する」を目標とし、「住民参加」と「情報公開」を掲げた逢坂元町長が就任した。当時35歳の若さでハードな施設整備を掲げない町長の誕生である。「住民参加」を掲げていた町長は住民とのコミュニケーションの充実を図るため、『こんにちは・おばんです町長室』などで町民が気安く町長と会話する機会を設けたり、町民の声を予算に反映させる『まちづくり懇談会』を集落ごとに開催するなどし、住民との会話を充実・ニーズを施策に反映してきた。
②職員の意識変革と研修の充実
町の職員はまちづくりの専門スタッフとの位置づけのもと、様々な研修を実施し、職員のレベルアップを図ってきた。また、まちづくり町民講座や事業別町民検討会では職員が説明するなどの取組みにより、行政・住民間の自由な議論の土壌ができ、同時に職員の説明責任能力が向上している。このほか、新聞社やNTT等からの出向や国際交流員としての外国人の受入れ、一方で湯布院町観光協会、JA、一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)シドニーへの出向などにより多様な人材育成を実施してきている。
③「ニセコ町まちづくり基本条例」の制定とファイリングシステムの導入による情報共有・住民参加の保証
住民参加と住民との情報共有化(情報公開)制度として長期的に保証する「ニセコ町まちづくり基本条例」を制定した。これにより町長や幹部職員の意向に拘わらず情報共有と住民参加が保証され、あらゆる事業で住民の意向が反映されることが可能となる。同時に情報共有のためのファイリングシステムも構築され、常に住民が閲覧可能となっており、文書検索効率も向上、事務効率化につながっている。
④住民参加による課題解決の経験
職員は住民参加への抵抗が薄れてきていること、一方で住民は単なる反対ではなく責任ある回答を意識するようになるなど課題解決への意識が高まっている。例えば、一般廃棄物最終処理場の建設では徹底的な情報公開と住民参加により課題を克服してきた経験が生きており、白紙状態から住民公開・参加のなかで計画が立案できるまでに成熟してきている。
【成果】
①計画段階からの住民参加による政策の熟度向上と運営への参加
計画の初期段階からの情報公開と住民参加は、公共課題を解決するための政策を住民と共有し、住民の多様な考えを政策に入れ込むことによって政策の熟度を上げ、質を高めることが可能となる住民自治に不可欠な過程である。多様な価値観が入ることによって、政策の質は研ぎ澄まされる。それが公共施設であれば、施設完成後の管理運営に住民が参加するなど、後の成果は大きい。
②事業所の進出や社会増の実現
環境基本条例や一定規模の開発に規制や住民説明会の開催を求める景観条例、また懲役まで科す厳しい水道水源保護条例や地下水保全条例などニセコ町の環境保全や住民自治の実践に共感いただいた事業所・店舗などの進出が増えつつあるほか、小さな町ではあるがNPOや各種の住民組織の活動が活発で、年間を通して様々なイベントが繰り広げられている。こうした取り組み等の結果、人口の減少に歯止めがかかり、近年は増加傾向に転じている。
③行政依存からの脱却と住民の責任によるまちづくりの実現
町の予算要求の場である「予算ヒアリング会議」などの役場内部の会議の公開を始め、住民向け予算説明書「もっと知りたいことしの仕事」などにより、町の財政状況の詳細を住民が把握できる。このため懇談会等では、行政への過度な期待はなくなり、「行政依存」から住民の主体的な活動、建設的な議論の場へと変わりつつある。
④町民・町の出資による事業会社設立と雇用の実現
バブル崩壊後、町内の観光宿泊数は半減し、将来の経営に危機感を持った宿泊事業者など観光協会役員は、ニセコ町における観光のあり方を検討した。全国の観光地の実態を視察するなど2年間の検討の結果、行政依存体質であった「ニセコ町観光協会」を町から完全に独立した株式会社として新設することが妥当との結論に達した。こうして、平成13年に町民と町の出資による株式会社ニセコリゾート観光協会が誕生した。同社は、現在12名を雇用し、1億5千万円を売り上げ、毎年1千万円を超える運営費補助金は、同社設立以来皆無となり、独立採算により、地域の観光振興に大きく貢献をしている
⑤住民参加がもたらすジョイントセクターの健全経営
町が出資しているジョイントセクター「株式会社ニセコリゾート観光協会」「株式会社キラットニセコ」「ニセコ町土地開発公社」の3法人はいずれも健全経営である。特に土地開発公社は、町の500万円の出資で優良宅地の提供を行い、1億円超の預金を有している。これは、すべての構想や活動を、住民に開かれた形で行ってきた成果と考えている。
【今後の課題・方向等】
①財政民主主義の確立
ニセコ町が日本で最初に制定した「まちづくり基本条例(自治基本条例)」は、現在、250を超える市町村で既に制定されている。また、予算を説明する冊子「もっと知りたいことしの仕事」に類似する予算説明書は、多くの自治体が発行、またはホームページにて公表を行うなど、主権者への説明責任を全うし、財政民主主義を確立する一助として取り組んでいる。
②再可能エネルギー活用によるCO2削減など環境政策の一層の実践
環境面においては、2050年までに1990年比で86%のCO2削減目標を掲げている。自然再生可能エネルギーの分野では、冬季の野菜栽培実証試験として取り組んでいる地中熱の利用、公共施設に導入している地中熱ヒートポンプや雪氷エネルギーの利用、マイクロ水力の活用などの環境政策に関して、全国から多くの視察者に来町いただいている。これらの取組みは行政の枠を超え、大手観光事業者などにも関心が広がりつつあり、官民一体となった取り組みに発展している。
③来日視察関係者の受入など海外政府関係者への研修指導等の実施
ニセコ町の住民自治による「まちづくり」や「環境政策」については、世界各地で注目を集めており、JICAのプログラムによる海外政府関係者等の来日視察研修の受け入れも自治体経営、住民自治、環境政策、水道事業など毎年多くの受け入れをしている。なお、本町の道の駅での農産物直売活用に触発された視察者が海外の自国において「ニセコバザール」と銘打った直売施設を実際に立ち上げるなど、喜ばしい成果もある。
【その他】
①地域でチャレンジしようとする土壌の醸成
ニセコ町の第5次総合計画の推進方針には、次のように書かれている。
・新しいことに挑戦します
・分野に縛られず、柔軟に連携しながら取り組みます
・なりたい姿とやるべきことを一緒に考えます
住民自ら考え行動する、頑張る人を応援するというニセコ町の住民自治の実践の積み重ねが、住民が様々な社会変革や事業への挑戦を促すとともにこれを許容する土壌をつくっている。例えば、道の駅に出店した農業者が経験を生かして新たに店舗を立ち上げるなどビジネスが生まれてきている。また、新しく移住した人も含め、ニセコ町の創業率は高い。
②安全で魅力あるスキーを実現する住民等による『ニセコルール(※)』制定
『ニセコルール』は悲惨な雪崩事故が起きない安全なニセコを守りたいと願った住民達が、「ニセコ雪崩ミーティング」という勉強会を継続する中から、スキー場管理者、雪崩研究者をはじめとして、多くの関係者の協力のもとで制度設計をした「ニセコ雪崩情報」に基づくニセコ独自の事故防止対策ルールである。この活動は、住民のネットワーク活動やスキー場等の支援によるものであり、人々の熱意が様々な障害を克服し、現在も多くの人々から愛され、信頼されるルールとして成長している。
平成6年ニセコ町長選に、民主主義の基本である住民参加と情報公開を掲げ出馬した逢坂氏が町長に就任、以降ニセコ町では、将来に亘って持続する地域社会を創っていくためには、住民が自ら考え行動する『住民の自治力によるまちづくり』が最も重要であるとの認識のもと町政を展開してきた。
この実現を目指し、21年前から徹底した情報の公開を実践してきたほか、平成7年からは、議会で決まった当初予算の内容を住民にわかりやすく伝える予算説明書『もっと知りたいことしの仕事(参考資料1参照)』を作成し、各地域から選出されている行政推進員に予算の内容を説明のうえ、毎年4月末に全戸配布を行い、町の施策をわかりやすく周知してきた。また、平成8年から町政の課題を自由に議論する場として、住民と役場の管理職等が議論する「まちづくり町民講座」を開催、これまで150回以上開催・議論し、各種の情報共有の場を設けてきた。
こうした住民と行政との情報共有により築き上げてきた様々な住民自治の仕組みを整理体系化した上で、全国に先駆け「ニセコ町まちづくり基本条例」を制定、住民との情報共有化と住民参加の取組みを制度として保証することで、町の意思決定の手続き及び透明性を将来に亘り確保している。条例に保証された住民参加や情報共有をさらに進め、住民やNPOなどの施策立案からの協議を行うなどにより無駄ない効率的な行政運営を進めている。
主権者は”住民”という理念に立ったとき、重要なことは「住民自らが考え行動する」ことであり、自律のまちづくりを目指すことである。「住民参加」や「情報公開」はこれを実現する手段であり、具体の目標は下記の通り。
①徹底した情報公開による住民参加のまちづくりの実践
この上で、
②豊かな自然環境と美しい景観を守り、育て次世代に引き継ぐ
③町内での生産資源の循環、エネルギーの循環、経済の循環による自律したまちをつくる
上記の思想は総合計画にも示されており、第5次総合計画では『住むことが誇りに思える住民自治のまち』としている。
「まちづくり基本条例」の作成に向け、情報共有及び住民参加の具体的検討を積み重ねた。
①情報共有の仕組みの構築-透明性の確保と説明責任の明確化
②住民参加の取組みー自ら責任を持って行動するまちづくり
上記を実現するための町職員『まちづくり専門スタッフ』の育成
特になし
特になし
※平成22年度以前の主要プロジェクトについては15.プロジェクト予算を参照
平成22年度「地域情報通信基盤整備推進事業」 54百万円(総務省)
平成22年度「緑の分権事業(基礎調査、実証実験) 36百万円(総務省)
平成23年度「緑の分権事業(FS調査)」 16百万円(総務省)
平成22年度「過疎地域等自立活性化推進事業(デマンドバス)」10百万円(総務省)
平成23年度「過疎地域等自立活性化推進事業(地中熱HP)」 10百万円(総務省)
平成23年度「スマートコミュニティ構想普及支援事業」 9 百万円(経済産業省)
平成23-25年度「地域企業立地促進等事業(人材育成)」 28百万円(経済産業省)
平成24年度「過疎地域等自立活性化推進事業(旅育)」 10 百万円(総務省)
平成24年度「森林整備加速化・林業再生事業(木質FS調査)」 5百万円(農林水産省)
平成25年度「農山漁村活性化プロジェクト支援事業(雪氷米倉庫) 366百万円(農林水産省)
平成27年度「グリーンプランパートナーシップ事業」 10百万円(環境省)
平成27年度「二酸化炭素排出抑制対策事業(学童クラブ地中熱HP)」 10百万円(環境省)
平成27年度「観光地域ブランド確立支援事業」 1百万円(観光庁)ほか。
(未入力)
〇北海道大学法学部 木佐茂男教授の主催の『地方自治研究会』で「ニセコまちづくり条例』プロジェクトを学・官・行政が集まり実施。
また、同教授指導の下に文書管理システムを導入、文書の私物化排除、文書取り出しのスピードアップ(30秒で取出)による効率的な行政処理を実施
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平成26年には『環境モデル都市』に選定され、道内大学、銀行等との連携のもと計画推進を図っている。
〇北海道大学観光学高等研究センターと連携協定を結び、観光人材育成等の事業を協働実施(平成22年)
〇海外からの企業の投資が円滑に進むよう地元銀行と連携協定を締結、地域経済の循環環境を整備(平成24年)
〇小樽商科大学と協働で地域の経済分析を行い、将来的に世界に通用する「知のリゾート」として成長するための検討を推進(平成26年)
(1)肩ひじ張らない気楽な住民参加の実現
①まちづくりトーク
概ね5人集まれば町長ほか、住民指名の職員が現場に出向き住民と意見交換する。職員の責任感が向上し、住民からの職員への信頼感が広がる。
②こんにちは・おばんです町長室
町長と気軽に懇談ができるよう毎月1回町長室の開放を実施している。昼は「こんにちは町長室」、夜は「おばんです町長室」で、昼夜交互に実施している。
日常的に町民との懇談は行っているが、この制度を設けることで、町民の間で役場へ出向く「気軽さ」が広がっている。
(2)行政と町民の情報共有と真摯な意見交換
①まちづくり町民講座
管理職の説明により情報の質を同一化し、日々の行政課題を参加者で議論する。職員の意識改革と行政・住民間の自由闊達な議論の土壌ができ、同時に職員の説明責任能力が向上した。
②まちづくり懇談会
町長が次年度予算に町民の声を反映させるため、各地域で懇談会を開催している。広域集落毎に11地域で12回開催(市街地は、昼夜の2回開催)
③ 事業別町民検討会
通常の審議会とは別に、政策課題毎に必要性に応じて開催する自由参加の検討会を開催し、多様な住民相互の意見交換を行う。
(3)高質な住民参加の実施
①忌避政策の実践
NIMBY施設である「一般廃棄物最終処分場」の計画、建設を徹底的な情報公開と住民参加により克服し、住民の協力を得て整備。
② 白紙段階からの住民参加
公共課題解決のため、構想の白紙段階(政策形成過程)から住民公開・参加の中で協議を重ね計画書の作成、及び施設を整備
(4)情報公開を支えるファイリングシステムの導入
徹底した情報公開・住民参加のため、町の情報は、常に機能的に整理されている必要がある。また、情報はそもそも町民のものであり、職員による私物化は許されない。本町では、ファイリングシステムの導入により、常に情報の整理と情報の私物化を排除している。ただし、整理のために仕事が増えるのは本末転倒であり、ファイリングシステムは、情報公開の強力なツールであるとともに、執務の効率化を図るツールでもある。
(5)具体的なプロジェクト・計画等
①道の駅「ニセコビュープラザ」
施設の建設計画・運営に農業者や観光関連事業者が主体的に参加し、今では参加者自らが積極的な商品開発、農産物の生産履歴の公開、土づくり・減農薬栽培を実現し、現在4億円を売り上げる。町は、場所を提供し、施設使用料を収入している。
②学習交流センター「あそぶっく」
町内唯一の交流型図書館で、お母さん方を中心に70名ほどで構成するNPO「あそぶっくの会」が指定管理者として運営にあたる。子どもたちやお年寄りの交流の場として愛されている。
③ニセコ駅前温泉「綺羅乃湯」
計画段階から意見の異なる住民により議論を進め、建設に至る。町民出資の株式会社「キラットニセコ」が指定管理者として運営にあたり、来訪者や住民の交流と憩いの場として利用され、開業以来健全経営で町からの助成はない。
④一般廃棄物最終処分場、堆肥センターの整備
一般廃棄物処分場などは近傍にできると迷惑施設として嫌がられる(NIMBY)施設であるため、計画策定のスケジュール、場所の選定方法、処理施設や工事の進捗等のすべてを住民検討会や町民講座を中心に、公開の話し合いで取り進めてきた。一時期は激しい反対運動もあったが、徹底した情報の公開、共有化により、最終的には「お互いに協力し、安全な一般廃棄物最終処分場を造る」ことで合意した。その後、反対運動にあたられた多くのみなさんが、町の環境審議委員、一般廃棄物対策検討委員等に就任し、町の環境行政推進の中枢として協力・活躍いただいている。
【実践事例の主な計画等】
①第1次環境基本計画の策定
計画策定を進める事務局を公募し、応募者で事務局としての「環境を考える会」を結成し、事務局長を選任、事務局長宅に環境基本計画の策定事務局を設置。環境調査をはじめ、様々な検討をすべて公開、住民参加で計画書を取りまとめた。その結果、「水環境のまちニセコ」のコンセプトによる「環境基本計画」が完成し、その後も、計画の評価を住民が自主的に担ってきている。
②準都市計画の指定(観光エリア)
海外資本による大規模な観光系開発計画がいくつも持ち上がる中、本町では平成21年3月から、スキー場周辺地域一帯を準都市計画の区域とした。建物の用途制限、建ぺい率、容積率など様々な制限については、開発事業者を交えたワークショップなど話し合いを何度も重ねた。その結果、現在では秩序ある良好な開発が進んでいる。
平成6年度 まちづくりトークの開始
平成7年度 予算説明書『もっと知りたいことしの仕事』発刊
平成8年度 「こんにちは(おばんです)町長室実施
同 まちづくり町民講座開催
平成9年度 道の駅「ニセコビュープラザ」開設
平成12年度 文書ファイリングシステムの導入
平成13年度 「ニセコ町まちづくり基本条例」の制定
平成13年度 ニセコ駅前温泉『綺羅乃湯』整備
平成14年度 一般廃棄物最終処分場建設
同 堆肥センター建設
平成15年度 学習交流センター『あそぶっく』開設
平成23年度 コミュニティFM『ラジオニセコ』開局
平成9年度 道の駅『ニセコビュープラザ』建設費 2億2368万円 (平成15年度までの増設・改修費1億5895万円)
平成12年度 文書管理システム整備費
平成13年度 ニセコ温泉『綺羅乃湯』 8億7232万円
平成14年度 一般廃物処分場整備・使用開始 8億6643万円
同 堆肥センター操業開始 6億1467万円
平成15年度 学習交流センター『あそぶっく』開設 1億6272万円
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①機能的・ワンストップでの問題解決が可能な柔軟な組織改編
小規模自治体において住民主体の自治の町を実現するには、その事務局を担う役場組織が洗練され機能的でなければならない。本町では僅かな職員数で行政事務を進めるため、政策課題を解決するその時々で、組織を柔軟に改変して対応してきた。
例えば、住民への行政の縦割りや職員の意識改革を進めるため、平成7年から平成15年まで「町民総合窓口課」を設置、来訪者をたらい回しにすることがないようベテランの管理職が来訪者の課題に対応した。これは、来訪者がワンストップで目的が達成できるよう利便性を向上させることと、根強く残る職員の縦割り意識を廃し、町民の立場に立って行動する職員づくりのためであった。
なお、設立から9年後に一定の成果を見たことから「町民総合窓口課」は廃止し、全職員が「来訪者(住民)の立場に立って考え行動する」ことを目標としている。
このような考えで実施した組織替えは以下の通りであり、
住民課住民係+総務課広報広聴係 ⇒ 町民総合窓口課(設立9年後に一定の成果をみたことから廃止)
総務課企画係+産業課商工観光係 ⇒ 企画観光課(観光事業の企画・立案・実施)
企画課企画調整係+生活環境課環境対策係 ⇒ 企画環境課(環境政策の立案、事業の実施)
①町長のリーダーシップと住民とのコミュニケーションの充実
「住民自らが考え行動する」を目標とし、「住民参加」と「情報公開」を掲げた逢坂元町長が就任した。当時35歳の若さでハードな施設整備を掲げない町長が誕生した。は「住民参加」を掲げていた町長は住民とのコミュニケーションの充実を図るため、『こんにちは・おばんです町長室』で町民が気安く町長と会話する機会を設けたり、町民の声を予算に反映させる『まちづくり懇談会』を集落ごとに開催するなどし、住民との会話を充実してきた。
②職員の意識変革と研修の充実
町の職員はまちづくりの専門スタッフと位置づけのもと、様々な研修を実施し、職員のレベルアップを図ってきた。職員のスキル向上のための研修費用も年間1,500万円と類似団体に比べ格段の予算を計上している。また、まちづくり町民講座や事業別町民検討会には職員が説明するなどの取組みにより、行政・住民間の自由な議論の土壌ができ、同時に職員の説明責任能力が向上している。特に重要な役割を担う職員には座学のみならず、様々な機会を利用し、資質向上のための研修に多くの投資をしている。このほか、新聞社やNTT等からの出向や国際交流員としての外国人の受入れ、一方で湯布院町観光協会、JA、一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)シドニーへの出向などにより多様な人材育成を実施してきている。
③「ニセコ町まちづくり基本条例」の制定とファイリングシステムの導入
住民参加と住民との情報共有化(情報公開)制度として長期的に保証する「ニセコ町まちづくり基本条例」を制定した。これにより町長や幹部職員の意向に拘わらず情報共有と住民参加が保証され、あらゆる事業で住民の意向が反映されることが可能となる。同時に情報共有のためのファイリングシステムも構築され、常に住民が閲覧可能となっており、文書検索効率も向上、事務効率化につながっている。
④住民参加による課題解決の経験
職員においては住民参加への抵抗が薄れてきていること、一方で住民は単なる反対ではなく責任ある回答を意識するようになるなど課題解決への意識が高まっている。例えば、一般廃棄物最終処理場の建設では徹底的な情報公開と住民参加により克服してきた経験がもたらしている。このような経験値を高めたことで、課題解決のために白紙状態から住民公開・参加のなかで計画が立案できるまでに成長してきている。
①計画段階からの多様な住民の参加による政策の熟度向上と運営への参加の実現
計画の初期段階からの情報公開と住民参加は、公共課題を解決するため政策を住民とともに共有し、その中に住民の多様な考えを入れ込むことによって政策の熟度を上げ、質を高める住民自治にとって不可欠な過程である。
多様な価値観が入ることによって、政策の質は研ぎ澄まされ、後で後悔や失敗がない。それが公共施設であれば、施設完成後の管理運営に住民が積極的に参加するなど、その成果は大きい。
②事業所の進出や社会増の実現
環境基本条例や一定規模の開発に規制や住民説明会の開催を求める景観条例、また、懲役まで科す厳しい水道水源保護条例や地下水保全条例などニセコ町の環境保全や住民自治の実践に共感いただいた事業所・店舗などの進出が増えつつある。
また、小さな町ながらNPOや各種の住民組織の活動が活発で、年間を通して様々なイベントが繰り広げられている。
こうした取り組み等の結果、人口の減少に歯止めがかかり、近年は増加傾向に転じている。人口5,000人規模の町村では、トップランナーとして全国の地方創生に大きなインパクトを与えている。
③行政依存からの脱却と住民の責任によるまちづくりの実現
町の予算要求の場である「予算ヒアリング会議」や予算編成に関する会議などの役場内部の会議の公開を始め、予算を取りまとめる住民向け予算説明書「もっと知りたいことしの仕事」などにより、町の財政状況の詳細を住民が把握できる。この財政の現状や将来シミュレーションを基にした各種の懇談会では、行政への過度な期待はなくなりつつあり、これまでの「行政依存」から住民の主体的な活動、建設的な議論の場へと変わりつつある。
④町民・町の出資による事業会社設立と雇用の実現
バブル崩壊後、町内の観光宿泊数は半減し、将来の経営に危機感を持った宿泊事業者など観光協会役員は、ニセコ町における観光のあり方を検討した。全国の観光地の実態を視察するなど2年間の検討の結果、行政依存体質であった「ニセコ町観光協会」を町から完全に独立した株式会社として新設することが妥当との結論に達した。こうして、平成13年に町民と町の出資による株式会社ニセコリゾート観光協会が誕生した。同社は、現在12名を雇用し、1億5千万円を売り上げており、それまでは毎年1千万円を超える運営費補助金を経常的に町から支出していたが、同社設立以来運営費補助金は皆無となり、独立採算により、地域の観光振興に大きく貢献をしている。その後同社は地域の情報共有ツールとして、平成24年3月からコミュニティーFM「ラジオニセコ」を開局した。この小さなラジオ局の職員は僅か2名だが「聞くだけじゃない出るラジオ」を標榜し、現在、ボランティアパーソナリティー60名を有するまでに成長し、住民がラジオ局を支える存在となっている。また、同局は「ラジオニセコ放送劇団」を生んだ。特殊詐欺被害防止を訴えた全13話の脚本は、町民の人気を呼んだ。ラジオ局を介して町民の新たなコミュニティーが生まれ、まちづくりに多大な貢献を始めている。
⑤住民参加がもたらすジョイントセクターの健全経営
町が出資しているジョイントセクターでは、「株式会社ニセコリゾート観光協会」「株式会社キラットニセコ」「ニセコ町土地開発公社」の3法人が事業活動を行っているが、いずれも健全経営である。特に土地開発公社は、町の500万円の出資で優良宅地の提供を行い、1億円超の預金を有している。これは、すべての構想や活動を、住民に開かれた形で行ってきた成果と考えている。
①地域でチャレンジしようとする土壌の醸成
ニセコ町の第5次総合計画の推進方針には、次のように書かれている。
・新しいことに挑戦します
・分野に縛られず、柔軟に連携しながら取り組みます
・なりたい姿とやるべきことを一緒に考えます
住民自ら考え行動する、頑張る人を応援するというニセコ町の住民自治の実践の積み重ねが、住民が様々な社会変革や事業への挑戦を促すとともにこれを許容する土壌をつくっている。例えば、道の駅に出店した農業者が経験を生かして新たに店舗を立ち上げるなどビジネスが生まれてきている。また、新しく移住した人も含め、ニセコ町の創業率は高い。
②安全で魅力あるスキーを実現する住民等による『ニセコルール(※)』制定
『ニセコルール』は悲惨な雪崩事故が起きない安全なニセコを守りたいと願った住民達が、「ニセコ雪崩ミーティング」という勉強会を継続する中から、スキー場管理者、雪崩研究者をはじめとして、多くの関係者の協力のもとで制度設計をした「ニセコ雪崩情報」に基づくニセコ独自の事故防止対策ルールである。この活動は、住民のネットワーク活動やスキー場等の支援によるものであり、行政の公的資金は僅かなものでしかない。人々の熱意が様々な障害を克服し、現在も多くの人々から愛され、信頼されるルールとして成長している。
(※)『ニセコルール』
近年、ニセコは「世界一のパウダースノーの聖地」として名前が浸透しつつあり、平成25年度は海外観光客の延べ宿泊数は45万人(泊)で、北海道では札幌市に次ぐ海外来訪者の多い地域となっている。このことは、雪崩リスクが比較的に少ない気象時においては、スキー場のコースエリア外の新雪斜面に立ち入ることができる「ニセコルール」が確立し、世界のスキーヤーを魅了する大きな要因となっていることである。
また、この独自の「ニセコルール」が、『2015ワールドスキーアワード』(スキー界のオスカー賞と言われている)で評価され、世界で初めてスキー界の功労者として「ニセコ雪崩調査所 新谷暁生代表」が表彰されている。
①予算・執行・決算・評価への住民参加の推進
国の借金が1千兆円を超えている現在、自治体は財政的視点においても現在のままでは継続できないと考えており、自治体組織の役割及び仕事内容の見直しが必須で、住民自治の機能をより高度化して行かねばならないと考えている。このためには、主権者たる住民が予算策定等に積極的にかかわる「財政民主主義」の確立が必要と考えており、さらに予算・執行・決算・評価への住民参加を推進する。また、併せて、自己財源を確保するため観光関連目的税の創設など、自治体間の広域連携を図りつつ自律した自治体経営を目指す。
②再生可能エネルギー利用の最大化による環境モデル都市づくり
待ったなしの地球環境温暖化防止対策を始め、食の安定的な生産と安全を確保し、将来にわたって「世界の人々が安心して滞在ができる国際環境リゾート地」を形成するため、再生可能エネルギーの利用を最大化し、資源循環、エネルギー循環、経済循環による「環境モデル都市」づくりに不断の挑戦を行っていくこととしている。
①財政民主主義の確立
ニセコ町が日本で最初に制定した「まちづくり基本条例(自治基本条例)」は、現在、250を超える市町村で既に制定されており、自治体が地方政府として機能していくためには今後とも、多くの自治体がそれぞれの地域にあった特色ある自治基本条例を制定していくものと思われる。
また、予算を説明する冊子「もっと知りたいことしの仕事」に類似する予算説明書は、多くの自治体が発行、またはホームページにて公表を行うなど、主権者への説明責任を全うし、財政民主主義を確立する一助として取り組んでいる。
②再可能エネルギー活用によるCO2削減など環境政策の一層の実践
環境面においては、2050年までに1990年比で86%のCO2削減目標を掲げている。自然再生可能エネルギーの分野では、冬季の野菜栽培実証試験として取り組んでいる地中熱の利用、公共施設に導入している地中熱ヒートポンプや雪氷エネルギーの利用、マイクロ水力の活用などの環境政策に関して、全国から多くの視察者に来町いただいている。これらの取組みは行政の枠を超え、大手観光事業者などにも関心が広がりつつあり、官民一体となった取り組みに発展している。
③来日視察関係者の受入など海外政府関係者への研修指導等の実施
ニセコ町の住民自治による「まちづくり」や「環境政策」については、世界各地で注目を集めており、JICAのプログラムによる海外政府関係者等の来日視察研修の受け入れも自治体経営、住民自治、環境政策、水道事業など毎年多くの受け入れをしている。なお、本町道の駅での農産物直売活用に触発された視察者が海外の自国において「ニセコバザール」と銘打った直売施設を実際に立ち上げるなど、喜ばしい成果もある。
平成24年にボルネオ島インドネシア領のカリマンタン地区における「ごみの投棄」のひどい現状を解決するには、住民自らの行動による意識改革、実践活動しか方策がないとの地元政府の判断から、「ニセコ町における住民自治の実践を教示してほしい」旨の依頼を受け、JICA・北海道大学等の協力のもと、環境グループの町民や職員合わせて3名を派遣し、情報交換と現地指導を行っている。
平成27年には、マレーシアのジョホーバル市で開催された内閣官房等主催の「環境モデル都市国際シンポジウム」において、ニセコ町の環境政策についての事例発表を行っている。当地のイスカンダル州政府からは、今後の環境政策の推進についての協力要請を受けている。また同年、ジョージア国(旧グルジア)地域開発協力のためJICAからの要請を受け、職員を調査団員として派遣し、ニセコビュープラザでの農産物直売活動の事例を報告した。この後、ジョージア国からの視察団を受け入れる予定となっている。
①「公益・公開・公正」の原則による自治の実現
住民に広く情報を公開し検討することによって、政策や計画の質が向上し、無駄なものは排除されていくこととなる。住民検討会で必ず出るキーワードは、「子どもたちに借金を残さない」とのことであり、住民から意見を聞くと「過大なものができる、要求ばかり」などの言葉は、全くの憶測であることが分かる。
今、日本社会に求められているのは「公益・公開・公正」という公共の3原則に基づく、住民自治による民主主義社会の実現であると思われる。今後とも、小さな町ながらニセコのライフスタイルを世界に発信し、社会正義の実現と持続する環境リゾートの形成に努力していきたい。
②住民自らの責任でのまちづくりは自治体の標準装備として必要
国や地方の財政の実情や社会が大きくグローバル化へ進む今日、自治体が地域の政府として自己決定権を発揮し、地域の経営主体として住民自らの責任においてまちづくりを推進することこそが、日本社会における喫緊の課題であり、ニセコ町のまちづくりの実践手法が自治体の標準装備として地方創生の一つの示唆になるものと考えている。
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