1. プロジェクト名
救急患者搬送支援システムの構築-ICTによる救急現場の“見える化”で医療崩壊を防げ(佐賀県)

2. 概要

【背景・課題、目的・目標】
救急医療は時間短縮が最大の課題であり、次いで情報の質と量が重要であると認識し、これをICT(携帯端末を活用した救急医療情報システムの導入)を活用して、①搬送時間の短縮、②適正医療機関への搬送、③救急の現場の状況を関係者全員で共有等を達成することを目標とした。
【取組内容】
このため救急患者の搬送先を決定するために救急医療情報システムを構築、消防機関や救急医療機関の従事者が救急患者を迅速に搬送・診療できる仕組みを構築した。そのシステムの操作方法等の説明にあたっては、担当者が県内7消防本部に赴き約250名への研修を行った。現場を訪れ研修を行うことで、救急隊員が現場を離れることなく、操作を習熟できるように配慮、また現場のキーマンを早期に把握、キーマンに対しシステムの有効性を説明し、理解を得たことも現場の反発を抑えて、研修を実施することに繋がった。
【成功要因】
救急医療には行政と消防機関、医療機関、企業など関係機関との協力体制が不可欠であり、この協力体制を担当職員が「現場主義」を通じて構築できたことが成功の大きな要因である。また救急医療について、佐賀大学および県立病院の救急医療部門の責任者(キーマン)を足しげく訪問、救急医療システムの構築に関し、医師会等の協力を取ることを要請、承諾を得たこともその後の円滑な協力体制の構築に繋がった。
【成果】
医療機関の受入可否・受入科情報、搬送実績がリアルタイムで共有されることで無駄な確認作業が削減でき「搬送時間の短縮」、「搬送医療機関の分散化・適正化」が可能となり、救急医療の質の向上につながっている。
クラウドシステムの採用及び徹底した競争入札による運用コストを削減した。その実績は以下の通りである。
 システム更新費用 - 当初2億円 ⇒ 9,700万円に削減(総務省の補助金で構築)
 システム運用費用 - 6,700万円 ⇒ 2,700万円に削減(年間4,000万円のコストダウン)
本プロジェクトにより以下のように徐々に救急医療に携わる関係者が自ら動き出しつつある。
〇救急隊員の意識の変化-自ら最新のiPadを購入・利用するようになる
〇病院間の壁を壊す-病院の受入状況が判ることにより協力体制が整う、病院の得意科目を標榜するようになる

救急患者搬送システムの構築(佐賀県) .pdf

3. プロジェクトを企画した理由・課題(状況)

佐賀県では救急医療分野のリソースが不足する一方で救急搬送が必要な患者数は増加傾向にあり、現場の医療従事者・救急隊に疲弊感が広がっていた。国も救急医療情報システム(EMIS)を都道府県に導入し、改善を図ろうとしていたが、入力項目が多く煩雑であることや救急車にシステムを閲覧するための通信手段がなく利用が進んでいない状況にあった。
平成23年、佐賀県救急医療の現場は「情報共有もできず疲弊する現場。救急医療崩壊の危機!」との状況であり、以下の問題を抱えていた。
◾救急車による搬送数が右肩上がりで、年々増加
◾搬送受入する救急告示医療機関数が減少
◾特定の医療機関への搬送の集中 (救命救急センターへの搬送割合:H19年27.5% →H22年32.7%)
◾救急現場の疲弊、救急患者のたらい回しの発生
◾平均搬送時間も伸びた(10年間で約7分伸びてH22年には34.3分になる)
◾国の旗振りで導入された「救急医療情報システム」も患者受入の可否情報入力にかかる医療機関の負荷が大きく、利用が進んでいない
◾救急車内にインターネット環境がないため殆ど活用されず、ひたすら電話で搬送先を探すしかない

4. プロジェクトの達成目標

佐賀県知事の執務姿勢でもある『現場主義』にしたがい、担当者は実際に救急医療現場に赴き何が課題かを調査した。この結果、救急医療は時間短縮が最大の課題であり、次いで情報の質と量が重要であると認識した。この速さと情報の質と量についてICT(携帯端末を活用した救急医療情報システムの導入)を活用して以下の達成を目標とした。また、同時に救急隊員の業務の状況を、救急車に乗車し観察することで、開発するシステムは簡単な操作で可能な仕組みとすることとした。
達成目標は以下を掲げた。
①搬送時間の短縮
②適正医療機関への搬送
③搬送状況についてのデータの収集(蓄積)
④救急の現場の状況を関係者全員で共有
⑤危機的な状況にある救急医療に住民の関心を集中
⑥若手の医師が救急に関心を持つような政策を実施

5. プロジェクト実行に関連した政策(有れば)

特になし

6. プロジェクト実行に関連した規制(有れば)

プロジェクト実施にあたり制度や規制の壁は特になかった。
かってITバブル期に当たる15年前にもパソコンを利用した改善策が実施されたが、実際にはパソコンの接続環境も悪く、救急現場には「酷い目にあった」という意識が残った。今回のICT利用にあたっても過去の失敗経験もあり、現場の拒否意識は強かった。
加えて、国も救急医療情報システム(EMIS)を都道府県に導入し、改善を図ろうとしていたが、煩雑さや携帯端末救急車へのシステム閲覧環境が未整備であった。しかし一方で、携帯端末などが利用可能な環境に徐々になっていった(iPadなどのスピーディで操作の簡単な端末利用が可能になってきた)。

7. 上記規制をどう解決、回避したか

携帯端末の利用環境が格段に向上し、救急車から直接システム閲覧が可能な環境ができつつあった。
一方で、只でさえ忙しい救急現場にまた負担を強いるのかとの反発は強くあった。
このような中で、救急患者の搬送先を決定するために必要な情報等を提供するなど搬送支援機能を有する救急医療情報システムを構築、消防機関や救急医療機関の従事者が救急患者を迅速に搬送・診療できる仕組みを構築した。そのシステムの操作方法等の説明にあたっても、担当者が県内7消防本部に赴き、約250名への研修を行った。現場を訪れ研修を行うことで、救急隊員が現場を離れることなく、操作を習熟できるように配慮した。また、現場のキーマンを誰かを早期に把握、キーマンに対しシステムの有効性を説明し、理解を得たことも現場の反発を抑え、研修実施に繋がった。

8. プロジェクトに対する国、県の補助金・支援政策(具体的な補助金事業名、年度、金額)

平成20年度 医療情報連携システムの作成に着手(総務省地域情報化事業への採択)
 平成22~23年度 総務省 佐賀県救急医療・ICT医療連携システム(ICTふるさと元気事業)191.474千円
 (診療録地域連絡システム・遠隔画像診断システム)
  ・システム構築に係る予算 9,700万円(システム開発・構築費 9,700万円、機器等 0(クラウド利用)
  ・運用費用 2,700万円(携帯端末運用費用 700万円、クラウドシステム運用費用 2,000万円)

9. 補助金に対する報告書のファイル

平成22年度 総務省 ICTふるさと元気事業
http://www.soumu.go.jp/main_content/000067924.pdf

10. プロジェクトに投入、活用した地域資源、地域人材

本プロジェクトの実施にあたり、佐賀大学病院救急医療の坂本教授および佐賀県立病院藤田救急センター長の協力を得られたことが大きい。そのため、『声を吸い上げてくれない』、『期待していない』と言われることも厭わず、担当者は何度も足を運び協力を要請した。
この結果、病院の参加をお願いするため医師会への協力依頼に医師2人が率先してその役を担ってくれた。

11. プロジェクト推進の協力者、協力団体(商工会議所、NPOなど)

プロジェクトの推進(協力)団体等は以下の通り。
①佐賀県救急医療協議会:佐賀県医師会、協力医療機関、消防本部
②大学・行政:入力されたデータを分析し、地域の課題をみつけ、新しい政策へと繋げる
③佐賀県医務課:佐賀県救急医療協議会およびベンダー事業との協議・検討
④国際航業:ベンダー:システム設計・構築・保守

12. プロジェクト推進の産学連携や技術(有れば)

上記11の通り

13. プロジェクトを構成するプログラム(プロジェクトで実施した行動)

〇救急車の中で、情報を確認できるインターネット環境を整備する
          ↓
 解決するには現場で使いやすいモバイル端末が必要。
 (様々な端末を試行した結果、IPadを採用)
県内の全ての救急車にIPadを配備

〇救急隊員は搬送が終わった後で救急搬送情報を入力(搬送情報の確認に利用)
⇒救急現場の状況を関係者全員で情報共有できるシステムを構築⇒『救急医療の見える化』 
(状況確認)
◾今受入可能な病院はどこか
◾他の病院の受入状況は
◾救急搬送が集中しているのはどこか
(効果)
〇効果的な搬送先選定
〇搬送先の分散化・適正化(救命救急センターへの搬送割合が減少する)
〇搬送時間の短縮(導入後半年間で平均搬送時間が1分短縮)
〇システム利用率の大幅アップ(救急隊員による入力率は100%)

14. スケジュール(行程表)

平成20年 医療情報連携システムの作成に着手(総務省地域情報化事業への採択)
  平成22~23年 佐賀県ICT医療連携システム(診療録地域連絡システム・遠隔画像診断システム)
  平成22年   iPadを用いたクラウドシステムでの救急医療情報システムの開発に着手
  平成23年   新救急医療情報システム『99さがネット』運用開始

15. プロジェクト予算(年度ごとの金額、あれば予算書)

〇システム構築に係る予算 
 ◾総務省の補助事業を活用 -システム更新費用:総務省「ICT利活用広域連連携事業」
           9,700万円(システム開発・構築費 9,700万円、機器等 0(クラウド利用)
    運用費用 2,700万円(携帯端末運用費用 700万円、クラウドシステム運用費用 2,000万円)
〇運用費用
 ◾クラウドコンピューティングの採用による経費削減
        システム維持費用:国・県・市町村(20)で1/3づつ費用負担

16. プロジェクト遂行で調達した専門人材(エンジニア、デザイナー、知財関係など)

特にな特になし(システム開発に当たってはIT活用の先進事例-タッチパネル方式導入済みのラーメン屋でのパネルの並びについて、iPadの電磁線の安全性についてのソフトバンク本社へのヒアリング等で担当者が実施)し(システム開発はベンダーに依頼するなど外注で実施)

17. プロジェクト推進・運用組織(あれば組織図)

○佐賀県医務課  + 佐賀県救急医療協議会(佐賀県医師会、協力医療機関、消防本部)
○システム運用管理は業務委託(国際航業)

18. プロジェクトの成功要件(要因できるだけ多く)

救急医療には行政と消防機関、医療機関、企業など関係機関との協力体制が不可欠であり、本プロジェクトではこの協力体制を担当職員が「現場主義」を通じて構築できたことが成功の大きな要因である。
また救急医療について、佐賀大学および県立病院の救急医療部門の責任者を足しげく訪問、救急医療システムの構築に関し、医師会等の協力を取ることを要請、承諾を得たこともその後の円滑な協力体制の構築に繋がった。
このプロジェクトの成功要因は下記のように現場主義と「見える化」を徹底して担当者が実施したことといえよう。
①現場の状況を肌で感じていること(何が問題かが明確に意識され、明示的であること)
  県職員、システム構築事業者が現場を訪問、いかなる環境で利用するシステムか肌で感じる取組を実施
②手を動かす効果を現場が実感できること(救急患者の搬送時間の短縮など具体的成果が見えること)
-救急現場への新たな負担への反発への対応
◾現場で信頼されているキーパーソンを巻き込む工夫
◾現場スタッフへの操作研修(県内各地に出向いて研修開催)
③最低限の労力で救急搬送業務が効率化できるよう現場職員を交えて設計・仕様について充分検討したこと
ICT事業では一般にICTの導入が先に立ち、本来の目的である現場業務の改善がおろそかになりがちであるため上記を明確に意識する必要がある。システム導入により電話が一病院に集中することもなくなり、受入情報・受入状況を共有することで集中することも減った。また医師の得意とする標榜科の積極的受入れを発信することも可能となり、医療機関ごとの役割分担の推進にもつながった。

【救急隊員の評価】
  ・携帯端末もタッチするだけなので検索・入力もすばやく楽になった
  ・受入先病院を探すときに検索機能に助けられた
  ・どの病院に搬送が集中しているか一目でわかる
  ・現場でインターネットが使える環境整備がなされ、その場で不明な病名・薬剤名の検索も可能
【医師の評価】
  ・システム導入により電話が集中することもなくなり、受入情報・受入状況を共有することで受入が集中することも減少
  ・医師の得意とする標榜科について積極的に受入れることを発信することが可能となり、医療機関ごとの役割分担の推進にもつながった。
  ・他の病院の受入状況や地域の現状が初めてわかった
  ・リアルタイムで状況がわかるのは非常に良い

19. プロジェクトの結果(出来れば数値)

〇医療機関の受入可否・受入科情報、搬送実績がリアルタイムで共有されることで無駄な確認作業が削減でき「搬送時間の短縮」、「搬送医療機関の分散化・適正化」が可能となり、救急医療の質の向上につながっている。
〇クラウドシステムの採用及び徹底した競争入札による運用コスト削減
システム更新費用 - 当初2億円 ⇒ 9,700万円に削減
システム運用費用 - 6,700万円 ⇒ 2,700万円に削減
(年間4,000万円のコストダウン)
〇システムの設計や操作画面のデザインの検討に現場の意見を採用、大幅な簡素化
-優先順位の低い機能を思い切って削除
-入力方法の簡素化と入力情報のインセンティブを高めるためのユーザーインターフェイス重視の工夫(駅の券売機やインターネットショッピングサイトを徹底的に研究し入力しやすく気持ちいい操作性を実現)

20. プロジェクトによる地域の変化

〇救急隊員の意識の変化-自ら最新のiPadを購入・利用するようになる
〇病院間の壁を壊す-病院の受入状況が判ることにより協力体制が整う、病院の得意科目を標榜するようになる

21. プロジェクト遂行後も残る課題(未達成、見えてきた課題)

〇救急隊員が電話で伝える現場の状況をより詳しく説明可能なようにする。具体的には現場の写真や傷病者の動画を救急隊と医師が共有するシステムの導入を予定する。
〇救急搬送時の患者の医療情報を把握するための救急医療情報システムと診療録地域連携システムとの連携、および医療サービスを提供するための氏名、連絡先、既往歴、投薬情報、アレルギー情報等を記録したカードを配布する「佐賀99カードシステム」を策定中。
〇その他データの活用等について
・救急医療状況がデータで“見える化”ができたが、さらに結果を消防、医療、行政で分析、救急医療を改善する新たなポイントを見つけ出していく
・受入不可の理由分析から今後招聘する必要がある医師の専門分野を把握する
・搬送地点情報より交通事故が多発する道路を明らかにし、改善を進める

22. 上記の課題を解決するさらなる展開(プロジェクト、フォローアップ)

①救急搬送の質を高めるためにもドクターヘリが必要との意識が変わってきており、26年1月には導入に至った。
②政府への要望
・新しいことに挑戦するための経費面や技術的な面での支援をいただける制度があるとありがたい。
・次なる展開として救急搬送患者の医療情報(病歴・投薬情報など)の共有化を検討している。それには個人情報の壁が立ちはだかるため、個人情報保護に関しての規制緩和が必要。
③民間企業への要望
・救急医療という人の命を救うための一助を担うシステムという趣旨を理解していただき、運用や次なる取組に人、モノ、カネの面での支援を戴きたい。

23. 横展開を考えている人への助言、特に苦労した事

①取組の進め方について
◾現場の困りごとを解決するような取組を行うこと
◾最初から100点満点を目指すのではなく、まずは小さくシンプルに始めて現場の負担を最小限に留める。「あれもこれも」から「あれかこれか」で捨てる勇気を持つ。
◾ICT導入が目的ではない。ICTは関係者をつなぐための単なるツールであり、新たな挑戦を後押しするツールでもある。
◾ワクワク、ドキドキする仕掛けでみんなを巻き込む。

24. その他関連情報、資料

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