<地域の課題解決へ ~国家戦略特区指定~>
☞現状
過疎化や少子・高齢化により人口減少が続いている。これに伴い、農業の担い手不足も顕著であり、農家の平均年齢の上昇や耕作放棄地の面積も増加している。
☞課題
定住促進、地域の魅力を向上させるため、年齢層に合わせた取り組みを行う必要がある。
(若者)市内の「しごと」に魅力を感じ、生まれ育った場所で暮らしたいと考える。
(高齢者)元気な高齢者が地域の中で生きがいを見つけて活躍し続けたいと考える。
(市民全員)「まち」づくりに参画し、養父市で生活することに誇りを持つことが出来る。
☞取り組み1
規制緩和による課題解決を目指し、平成26年春に国家戦略特区に指定された。
特に農業分野において、新たな農業の担い手確保及び6次産業化を促進していくため、農地が所有できる農業生産法人(現農地所有適格法人)の要件緩和を実現したことで、新たに11法人が設立された。
更に、農業生産法人以外の法人でも農地を所有し、営農をすることができる特例が養父市に限って認められるなど多様な担い手確保に向けて積極的に取り組んでいる。
☞取り組み2
高齢化に対応するため、労働意欲のある元気な高齢者が安心して働ける機会が提供しやすくなることを積極的に国に提案し、平成27年夏に特区法が改正され、高齢者が地域社会により深く参加出来る環境整備を実現することが出来た。
☞目指すべき「まち」づくり像
養父市では、これらの取組により市内に住む全ての人々が心豊かで幸せに暮らせる“桃源郷”の実現を目指している。
①農業経営の持続可能性の確保、担い手の確保と農業自体の高付加価値化が必要
中山間地域における農業は、基盤産業として重要であることはもちろんだが、国土の保全、水源かん養、良好な景観の形成、文化の伝承、地域社会の維持活性化といった多面的機能を持つことから、それが維持されることが市としての機能の維持にとっても重要。
しかし、過疎化の進展によって1960年には3,012ヘクタールあった耕地が2015年には1,520ヘクタールとほぼ半減している中で、耕作放棄地は近年増加しており、280ヘクタールと耕地全体の約18%を占める。また、基幹的農業従事者の平均年齢は70.9歳と高齢化が進んでおり、今後の農業の持続可能性について予断を許さない状況。
中山間地農業の持続可能性を確保する際、担い手の確保と農業自体の高付加価値化が必要。このうち、担い手の確保については、「地域の農地を地域で守る」ことが市民の願いでもあり、これまでも市や農業委員会が市外からの移住促進等の取り組みを行ってきたが、自然人を対象とした従来の手法には限界があった。また、仮にその手法で新たな担い手が確保できたとしても、スーパーや食品会社へ原材料を提供するこれまでのビジネスモデルでは、農地を集約して大規模な農業経営を行うことができる平地地域に価格面で優位に立つことはできず、また、TPPにより、更に効率的な農業経営を行う海外からの輸入農産物との競争に晒されることを考えれば、中山間地農業の生き残りのため、抜本的な改革が必要。
そこで、養父市では担い手の確保と農業の高付加価値化を両立させるため、従来の自然人を対象とした新規就農だけではなく、法人企業が主体的に農業経営に参入しやすい環境を作り、また、企業が有するノウハウ・ネットワークを活用して農産物の生産から加工・販売までを一括して行う農業の6次産業化の推進に向け取り組む。
②高齢者が地域社会により深く関与できる環境整備が必要
高齢化が進む日本において、若年者から高齢者までが一体となって参加する社会の構築は大きな課題。養父市においても高齢化が進展する中、高齢者が地域社会に深く関与する社会づくりは現実の課題であり、その解決のため、企業からの退職を機に労働市場から退出した高齢者層の人材活用を検討。
養父市シルバー人材センターは、こうした問題意識をもとに、若年層による正規雇用を前提とした法人の事業としては成立しづらい、地域の求めるニーズにきめ細やかに対応する事業を行う団体で、高齢者を「福祉の受け手から地域の担い手へ」変化させることをスローガンに活動を続けている。地域で労働意欲のある高齢者はセンターの会員となって事業に従事することになるが、センターの会員は昭和46年に施行された法律により、施行当時と比較して体力的にも気力的にも非常に元気であるにもかかわらず、当時の情勢を前提に労働時間が抑制。
③新たな手法での法律の規制緩和が不可欠
これら構想の実現のためにはそれぞれ法律による規制がネックとなっており、規制緩和を求める必要があったが、中央省庁に陳情を行う従来の手法では喫緊の課題に対応するためのスピード感にも確実性にも欠ける状況。
市内に住む全ての人々が心豊かで幸せに暮らせる“桃源郷”の実現を目指す
中山間地に分類され、高齢化が進む養父市において地域活性化を達成するためには、若者が養父市内の「しごと」に魅力を感じて自分の生まれ育った場所で暮らしたいと考える、そして同時に元気な高齢者が地域の中で生きがいを見つけて活躍し続けるような、市民全員が養父市で生活することに誇りを持てる「まち」づくりが必要。そのためには、基盤産業である農業において将来の担い手を確保するとともに、高付加価値化を推進することで農業経営の持続可能性を確保し、また、労働意欲のある元気な高齢者へ労働機会を提供しやすくすることで、高齢者が地域社会により深く参加出来る環境を整備。
国家戦略特別区域法の制定
経済社会の構造改革を重点的に推進することにより、産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点の形成を促進する観点から、国が定めた国家戦略特別区域において、規制改革等の政策を総合的かつ集中的に推進するために必要な事項を定めたもの。
○農業分野
中山間地域は地理的制約等と零細農家の多さが相まって農業生産コストが高く、価格競争や販路確保に著しく不利である。したがって、収益を確保するためには生産から加工・販売までを行う6次産業化を実現することで生産物の価値を高める必要があり、そのために経営ノウハウを備えた経営体が持続性の高い農業を行うことが求められる。
上記を実現するためには新たな農業の担い手として企業参入が不可欠と考えるが、企業が安定した営農を行うために農地を取得するには、農地法で規定されている「農業生産法人」として一定要件を満たす必要がある。しかし、現行(H25年当時)の農業生産法人要件では農作業従事役員を一定以上に確保する必要があるなど、企業色が薄められてしまい、加工・販売体制を強め6次産業化を進めるためには壁があった。
○高齢者雇用分野
過疎化、少子・高齢化という現状を踏まえ、高齢者が地域社会の充実・地域経済の活性化等に貢献するため、元気に活躍できる社会の実現が望まれている。特に家事手伝いや介護予防、農業における軽作業などの市民ニーズは高い。
そのために、シルバー人材センターを始めとする雇用の場において高齢者が働きやすい環境を整備する必要があるが、現行制度では、労働時間に制約があり地域のニーズへの対応が困難であり、また、労働を望む高齢者が十分に働ける環境にはなっていない。
国家戦略特区制度を活用し、国に対して規制緩和を提案
(国家戦略特区指定(第1弾)では過疎地域としては唯一、その指定を受ける)
・農業委員会から市への業務の一部移管
・農業生産法人の役員要件緩和
・高齢者の労働可能時間の拡大等
国家戦略特別区域法 モデル地域における規制改革
(未入力)
①市職員における国家戦略特区推進本部、国家戦略特区担当チーム、国家戦略特区・地方創生課の創設
養父市長を本部長とし、副市長と教育長が副本部長となり、市の部長級職員で構成される国家戦略特区推進本部を設置し、市に必要な施策の計画立案と実施における横連携、及び情報共有を図る。
また、平成27年4月には企画総務部内に国家戦略特区・地方創生課を創設し、前述の推進本部事務局を担う他、内閣府や兵庫県など国・県の機関との総合調整や、特区の推進の総括を担う。
さらに、市職員において国家戦略特区担当チームを創設し、特区事業者には1事業者につき職員2名を担当と割り当て、特区事業者と双方向のコミュニケーションを取れる体制を整え、事業者ニーズに迅速に対応。
②地域農家の出資、法人立ち上げ
農業関係で参入した11事業者のうち10の事業者について、地域の農家が出資して法人を立ち上げており、役員として経営に参加。
③地域農業関係機関、大学との連携
事業者の一部は地域のJAや関西の有名私立大学教授との連携なども行っており、様々なステークホルダーとの協働が実現。
○ 国家戦略特区特定事業者
(有)新鮮組
(株)近畿クボタ
吉井建設(有)
オリックス(株) & やぶパートナーズ(株)
ヤンマーアグリイノベーション(株)
(株)姫路生花卸売市場
(株)マイハニー
(株)アグリイノベーターズ
(株)トーヨーエネルギーファーム
山陽Amnak(株)
福井建設(株) & (株)オーク
(一社)ノオト
(公社)兵庫県シルバー人材センター協会 & 養父市シルバー人材センター
○ 養父市農業委員会
○ 兵庫県(養父市特区支援チーム)
○ 三井物産(株) 関西支社
○ 東京都健康長寿医療センター研究所
※ 特になし
①農地法第3条(農地の権利移動)許可権限の養父市長への移管
従来、農業委員会が事務を行ってきた農地法第3条(農地の権利移動)許可権限を養父市長に移管。このことにより、平成27年度は、従前の制度では19日要していた許可に要する日数が9日となるなど大幅に短縮。
②農家と認められる営農面積の下限引下げ
農業委員会自らが、農家と認められる営農面積の下限を30アールから10アールに引き下げるなど、農地を次の担い手へ移りやすくする体制構築。
③農業生産法人の役員要件緩和
中山間地である養父市では耕作面積が50アール未満である農家が51%、1ヘクタール未満まででは全体の約90%を占めており、大規模で効率的な農業経営は不可能。
そのような状況で持続可能な農業の確立のためには6次産業化を進めることが重要だが、そのためには、資金調達や経営ノウハウ等を有する企業の参入を促進することが不可欠。
従来、農地を取得できる法人は役員の一定割合を農作業従事者が占めなければならないとされていたが、6次産業化の推進を阻害すると考えられたため、国家戦略特区に指定されたことにより、これらの規制が大幅に緩和。
農業生産法人の要件について更なる緩和を求め、本年6月に公布された改正国家戦略特区法では、一定条件を満たした法人が農地を取得し営農することが可能となり、一層の中山間地域の農地活用が図られる環境が整った。
④移住人口の増加、地域文化の復活
企業の参入に伴ってその社員が農業を行うために養父市へ家族を連れて移住する事例が出てきており、数字には表れない効果だが、その地域では長らく失われていた高齢者と若年者の交流が再び行われるようになり、移り住んできた家族や子供のために地域行事を復活させようという動きにもつながっている。
⑤アグリ特区保証融資制度の設立
商工業者の農業参入や6次産業化を推進するため、これまで銀行や信用金庫が保証制度を利用することが出来なかった農業資金についても保証を利用することが出来る、養父市アグリ特区保証融資制度を創設。設備投資資金、運転資金に活用されるなど、平成27年度末時点で、6件(9,600万円)の融資実績。
⑥高齢者の労働時間延長
特区の特例によりシルバー人材センター会員の派遣による労働時間が従来の20時間から40時間まで拡大。これにより、市内事業所において最大週37.5時間の労働を実現し、働きたい高齢者の希望を実現。
・平成25年 8月28日 国家戦略特区提案(①農地の流動化に関する農業委員会の関与の廃止、②シルバー人材センター会員における労働時間規制の緩和)
・平成26年 3月28日 国家戦略特区に選定、5月1日政令の施行
・平成26年 7月23日 第1回 区域会議開催
・平成26年 9月 9日 計画認定「農業委員会と市の事務分担に係る特例」
・平成27年 1月27日 計画認定「農業生産法人に係る農地法等の特例」「農業への信用保証の適用」「歴史的建築物等に係る旅館業法施行規則の特例」
・平成27年 9月 9日 計画認定「農業生産法人に係る農地法の特例(追加)」「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の特例」
・平成27年10月20日 計画認定「NPO法人の設立手続の迅速化に係る特定非営利活動促進法の特例」
・平成28年 2月 5日 「農業生産法人の更なる要件緩和」を提案
・平成28年 6月 3日 改正特区法の施行(企業による農地取得の特例ほか)
国家戦略特区推進に係る予算 H27 616千円、H28 1867千円
農業生産法人(特例農業法人)設立補助 H27 400千円、H28 400千円
シルバーの活動に対する支援 H27 220千円 H28 220千円
特になし
(添付)
①市長の強いリーダーシップと行政による専門部署の設置、県との連携
養父市長を本部長とし、副市長と教育長が副本部長となり、市の部長級職員で構成される国家戦略特区推進本部、企画総務部内の国家戦略特区・地方創生課、市職員の国家戦略特区担当チーム創設。兵庫県特区支援チームの創設
②担い手視点によるしくみ構築と、特区制度の活用で、大胆な農業改革を実現
③推進力に民間活力や資金を活用
①農地流動化の促進
農業委員会と市町村の事務分担を行ったことにより、農地の権利移動に、従前は約26日要していた許可に要する日数が約13日に短縮。
②特例農業法人の設立、6次産業化の推進
平成28年5月までに、特区の特例を活用して11の特例農業法人設立し、養父市の農地を活用して6次産業化に取り組む。平成28年5月末時点では、約15ヘクタールの農地を活用し、そのうち9ヘクタールが、これまで農地として使われていなかった未作付地や耕作放棄地が農地として再生。全国展開
③流入人口の増加、地域文化の復活・振興
企業職員家族の移住、若者と高齢者と交流復活。
④農業への信用保証制度の適用
商工業とともに農業を行おうとする者には商工業信用保証制度が適用される。
平成27年度末時点で、6件(9,600万円)の融資実績。
⑥高齢者の労働時間延長
シルバー人材センターの業務のうち、会員の派遣による労働時間が従来の20時間から40時間まで拡大。最大週37.5時間の労働を実現。全国展開。
シルバー人材センターの「社会の担い手」としての活動活性化
・高い加入率と多方面での活動を行う
・耕作放棄地での有機栽培野菜、コメの都市部への販売
・米の生産と販売(含む。輸出)
・研修を受けたシルバー人材センターの会員が、指導者として行政区単位での実施地に出向き、フレイル予防教室「毎日元気にクラス」を開催
・都市部との交流事業として、農業体験(棚田(温石米)等田植え・稲刈り)、野菜収穫体験(畑のスーパーマーケット・柿採り)、創作体験(わら細工、クリスマスリース、手作りおもちゃ作り)、食体験(おばあちゃんとつくる郷土料理、餅つき)、自然体験(雪遊び)等を実施
・友活(婚活)事業の実施
・ボランティア活動の実施。異世代交流ボランティア(高校生とお手玉作り、八鹿病院看護学校実習など支援)、認知症サポーター活動(寸劇による認知症の理解と対応を出前啓発)、高齢者施設、子育て施設等の訪問活動等
・宿泊型交流拠点「みやがき結の里」の設置と運営
空き家築150年の養蚕農家を「みやがき結の里」と名付け、農園体験などを通してミニ田舎暮らし体験や都市部の方との宿泊型交流拠点としてオープン
農業や高齢者雇用だけでなく、地方創生の実現を目指した取り組みとして国家戦略特区を活用。
・地域医療の充実のため、国家戦略特区を活用
地域医療の充実を図るため、現時点でも訪問診療や訪問看護が充実している地域だが、医師等の移動時間を短縮するため遠隔診療の浸透、併せて対面による服薬指導が原則であった薬剤師の活動をテレビ電話を活用した遠隔服薬指導を可能とするため地域での調整開始。最終的には、在宅医療の環境を整備し、家庭に居ながら、診療から服薬指導、そしてドローンを活用するなど医薬品が手元に届くサービスを実現させたい。
規制改革・緩和は、事前の調整や事後の実施については先行事例が無いため、相当の時間と人員を要する。国(規制改革担当)と協議することが重要。
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