1. プロジェクト名
有田川エコプロジェクト ~官民協働による循環型で持続可能なまちづくり~ (和歌山県、有田川町)

2. 概要

(未入力)

3. プロジェクトを企画した理由・課題(状況)

現在、消滅可能性自治体が発表され、全国津々浦々で地方の活性化を目指した施策が多く行われている。環境分野でもゴミやエネルギーについては、地域活性化に際して多く語られることのない分野であるかもしれない。しかし、当町では、これらを「地球に優しい」というイメージはもとより、域内経済への好循環を生み出す要素をも兼ね備えているものと捉えている。地域に降り注いでいる太陽光や集落を流れる水流といった再生可能エネルギーとなり得るもの、さらには地域から排出される分別された資源化されるゴミ。これらは、特産物となっている農産品と同じような地域資源であると考える。

4. プロジェクトの達成目標

エネルギー分野では「地域のエネルギーは地域で創る(地産地消)」、廃棄物分野では「分ければ資源、混ぜればただのゴミ」という二つの大きな軸となる考えのもと、経済性とまちのイメージの両面から、地球に優しく持続可能なまちづくりを目指している。

5. プロジェクト実行に関連した政策(有れば)

 合併前の旧吉備町では平成4年度から増加の一途をたどるゴミを減量するために、資源化を目指して取組をはじめた。自治会や住民との話し合いを重ねて、平成8年度には旧町内全域で資源ゴミの収集が開始され、平成10年度にはゴミ置場のステーション化が完了した。これが合併後の現在でも、起点となっている。
 再生可能エネルギー導入の分野では、平成21年度にひとりの職員の提案で、町営二川小水力発電所の建設を軸とした「有田川エコプロジェクト」が提案された。太陽光などその他の分野にも広がっているこの取組が再生可能エネルギー導入については大きな転換点であったと考えている。

6. プロジェクト実行に関連した規制(有れば)

 町営二川小水力発電所は多目的ダム(治水・発電)の維持放流水を使った従属発電での計画であった。治水は和歌山県、発電は関西電力が担っており、所有権を持たない町が維持放流水を利用した発電所を建設するにあたって、ダムと維持放流設備に掛かる持分負担(アロケーション)の解決が大きな課題となった。特に、維持放流設備の持分負担割合については「流量比例とする」という省庁間の覚書があり、それが長年踏襲されてきた。本発電所計画では維持放流量と発電使用水量が同量であるため、50%の持分負担額を提示され、発電所建設に当たり最大の問題点であった。

7. 上記規制をどう解決、回避したか

平成21年からの交渉を始めた当初から建設省河川局と通産省資源エネルギー庁との間での覚書(別添資料)がある限り、全国でこれを元に運用されてきており例外は作れないと言われてきたが、我々は覚書締結当時には小水力発電等を想定していなかったことや、既に根拠法律(電源開発促進法)が無くなり時代背景が全く違う中でそのまま別アロケを適応するのはおかしいこと、NEFによる二年間にわたる調査で有望な開発地点であると認められていること等を繰り返し訴え続けた。
そうした中、平成23年3月に東日本大震災が発生し、同年8月には「紀伊半島大水害」があり交渉が年明けまで延期となった。
 年が明け交渉再開となり、覚書は現在の環境問題という社会情勢が考慮されていない古い時代のものであるので、ダム本体の一部として妥当投資額を算出した当町の案に対し、県側も覚書の背景や全国的な事例を調査、参考にしながら協議を続けようと、それまでの別アロケにこだわっていた対応が変化してきた。
 その後、県としては別アロケが論点の中心問題になってしまった感があるので、「特定多目的ダム法」第27条を中心にした説明書きとし、別アロケを簡潔に整理したものに出来ないか、第三者に公平・適正であると説明がつけば良いと言うことになり8月には最終のアロケーション案と説明資料を揃えて提出し、当町の案で了解を得ることが出来た。

8. プロジェクトに対する国、県の補助金・支援政策(具体的な補助金事業名、年度、金額)

・平成22年度中小水力開発促進指導事業基礎調査(新エネルギー財団)
・平成23年度新エネルギー等導入促進事業基礎調査(新エネルギー財団)
・平成28、29年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(環境省)

9. 補助金に対する報告書のファイル

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10. プロジェクトに投入、活用した地域資源、地域人材

町・住民・自治会・NPO団体 ほか

11. プロジェクト推進の協力者、協力団体(商工会議所、NPOなど)

前述10項のとおり

12. プロジェクト推進の産学連携や技術(有れば)

本取り組みは地方自治体が主体ではあるものの、住民・自治会との連携なしでは成果をあげることができなかった取り組みであり、むしろ主役は住民・自治会であると考える。特に、大きな転機となった資源ゴミ収集運搬処理業務のマイナス入札化について、ゴミ分別徹底は各家庭での努力、それらを排出するステーション化されたゴミ集積場の運営・管理は各自治会の努力があったからこそ、現在の循環型の仕組みを進めることができたと考えられる。
また、再生可能エネルギー分野においても、風車のまち実現をコンセプトに立ち上がったNPO 団体が町内に太陽光と風力を電源とするハイブリッド型街路灯の整備事業を行っている。産業振興の方面でも、みかんを栽培する農家の畑では太陽光をみかんと発電で共有するソーラーシェアリングの取り組みが見られる。また、山間の地域でぶどう山椒の生産に取り組む農家の水路では、マイクロ水力発電機が設置され、街灯用の独立電源として機能している。このように、いわばエネルギー兼業農家とも言える取り組みが、有田川町でも見られるようになってきている。
このように様々な主体が、自然エネルギーや廃棄物を地域資源として捉えて取り組みを進めているところが、有田川町の特筆すべき点である。

13. プロジェクトを構成するプログラム(プロジェクトで実施した行動)

有田川町では「有田川というエコのまち」を合言葉に、地球に優しく持続可能なまちづくりを経済性とまちのイメージの両面から進めている。とりわけ大事にしている経済性の観点として、エネルギー分野では“地域のエネルギーは地域で創る(地産地消)”、廃棄物分野では“分ければ資源、混ぜればただのゴミ”という二つの大きな軸となる考えを設定している。 その考えのもと、住民・自治会との協働でエコなまちづくりを進めている。
現在の有田川町の取り組みは、合併前からの継続的な取り組みが土台となって行えている。特に、旧吉備町では環境行政に力を入れており、合併後の大きな変革のきっかけとなったゴミ集積場のステーション化を平成10年頃に達成した。これは、それまで道路沿いや軒下などに露天出しであったゴミを自治会・住民との粘り強い説明と連携により、各自治会管理の建屋型やボックス型集積場へのゴミ出しに移行できたものである。
エネルギー分野においても、平成12 年に旧吉備町がNEDO の風力発電フィールドテスト事業を活用して、近畿の自治体初となる風力発電所(230kW)を鷲ヶ峰山頂に設置し、まちのシンボルとなった(故障により現在は撤去)。
持続可能なまちを目指すに当たり、合併後の大きな転機となったのが資源ゴミ収集運搬処理業務のマイナス入札化であった。従前は随意契約により、年間約3,200万円を支払い、業務を委託していた。しかし、先述のステーション化と住民のゴミ分別意識の高さにより、雨濡れが少なく再分別の必要がない高品質の資源ゴミが評価されるのではと考え入札を行ったところ、委託費がマイナスに移行した。その結果、平成20 年度からお金をいただいての資源ゴミ収集運搬処理業務が行われるようになり、現在では年間210 万円の収入となっている。これにより削減できた処理費用は、現行の基金の前身である「低炭素社会づくり推進基金」として、住民や行政によるエコ活動に充てるよう、積み立てを始めた。
そして、平成21 年度より「有田川エコプロジェクト」を立ち上げ、それまでの廃棄物関連政策に加えて、再生可能エネルギー関連事業にも行政が本格的に取り組み始めた。プロジェクト開始後、まずは先述の基金を原資に住民の再生可能エネルギー利用促進を目指して住宅用太陽光発電設備や太陽熱利用設備の設置補助制度を導入した。廃棄物減量の面では既に実施していた生ごみ処理機購入補助に加え、コンポスト無償貸与制度を新設し、住民のエコ活動の活発化を図った。このコンポストは、現在町内世帯の約10%で利用されている。
さらに、町をあげてのイベントであるどんどんまつりでは、広く住民にエコに対する関心をもってもらおうと環境衛生課ブースを出店し、生ゴミ水切りネット配布を中心とした生ゴミダイエットキャンペーンや公立保育所と連携した子ども服古着バザーを開催するようになった。なお、このバザーの売り上げは絵本の購入代金として保育所に還元しており、ここでも仕組みが循環型となっている。
町再生可能エネルギー事業としては、プラスチック収集場の屋根へ平成25 年度に11kW、平成27 年度には30kW の太陽光発電設備を設置し、売電を開始した。さらに平成28 年度には廃校になった小学校校舎へ46kWの太陽光発電設備の設置も行い、「使われなくなったインフラ」を「稼ぐインフラ化」することができた。廃校利活用は地方のみならず都市部でも重要な課題となっているが、近年ブームのリノベーションとともにエネルギーの観点からその一端を担い始めている。これら太陽光発電所建設については、先述の資源ごみの分別徹底による基金が活用され、廃棄物での住民・自治会の努力も活かされている。しかし、発電による売電収入も基金へと積み立てるため、財政面においても循環型の仕組みが構築できている。
プロジェクトの目玉であった町営二川小水力発電所建設については、平成22 年度と23 年度に新エネルギー財団の調査事業に採択されたことで、事前に調査・計画や測量等を町が財政負担することなく行うことができた。一方で、本発電所は多目的ダム(治水・発電)の維持放流水を使った従属発電での計画であった。治水は和歌山県、発電は関西電力が担っており、今回所有権を持たない町が維持放流水を利用した発電所を建設する
にあたって、ダムと維持放流設備に掛かる持分負担(アロケーション)の解決が大きな課題となった。特に、維持放流設備の持分負担割合については「流量比例とする」という省庁間の覚書があり、それが長年踏襲されてきた。本発電所計画では維持放流量と発電使用水量が同量であるため、50%の持分負担額を提示され、発電所建設に当たり最大の問題点であった。
しかし、粘り強く県との交渉を続けた結果、平成24 年8 月に知事部局の判断により維持放流設備の費用負担割合についても「ダムと同等(0.3%)」との決定を受け、大幅な減額が実現。同月に実施設計等の委託契約を行い、平成26 年9 月に建設工事に着手。平成28 年2 月に発電所が完成した。平成28 年度売電額は5,003 万円と予測を上回る結果で、順調に運転を続けている。これら売電益は先述の基金を包括して新設した「循環型社会の構築と自然エネルギー推進基金」へと積み立て、さらなるエコなまちづくりへと充てられる。
平成28 年度からは、環境省が提唱する気候変動防止のための賢い選択を推奨する「COOL CHOICE」に町としていち早く賛同し、住民向けのソフト事業や啓発冊子作製を中心にCOOL CHOICE 普及啓発事業を実施している。これについては、域外流出している金銭の多くを各家庭の光熱費が占めていることを鑑み、省エネはもちろん太陽光発電や太陽熱利用など創エネも含めたエコ住宅化などを推進し、地域から域外へのキャッシュアウトを削減するという地域経済に根ざした考え方のもと、実施している。

14. スケジュール(行程表)

平成4年度~   廃棄物減量に向けた検討開始
平成10年度  ゴミ集積場のステーション化完了
平成12 年度  近畿の自治体初となる風力発電所設置
平成20年度  資源ゴミ収集運搬処理業務のマイナス入札 達成
平成21 年度~ 「有田川エコプロジェクト」開始
平成22 年度~ コンポスト容器無償貸与制度創設
平成27年度~ 町営二川小水力発電所完成・稼動開始
平成28年度~ COOL CHOICE 普及啓発事業開始

15. プロジェクト予算(年度ごとの金額、あれば予算書)

<主要な事業>
【平成24~27年度】
町営二川小水力発電所建設 約2億8,600万円
【平成29~31年度】
資源ごみ収集運搬処理業務 -210万円/年(町収入)
【平成29年度】
住宅用太陽光発電設備導入補助制度 480万円
太陽熱利用設備導入補助制度 250万円
コンポスト容器無償貸与制度 15万5千円

16. プロジェクト遂行で調達した専門人材(エンジニア、デザイナー、知財関係など)

 平成22 年度と23 年度に新エネルギー財団の調査事業に採択されたことで、専門的なコンサルタントの力を借りることができた。

17. プロジェクト推進・運用組織(あれば組織図)

(未入力)

18. プロジェクトの成功要件(要因できるだけ多く)

①資源ゴミ処理の有償化
②循環型社会の構築と自然エネルギー推進基金の創設・積立
③基金を原資とした住民のエコな暮らしを支援する制度を整備し、ゴミ分別の努力を住民に還元
④①~③が循環する事業モデルを確立

19. プロジェクトの結果(出来れば数値)

住民・自治会については徹底したゴミ分別とステーションの運営・管理をお願いしているが、その成果として削減できた資源ゴミの処理費用で種々の住民向け補助制度を行っていることが浸透しているようであり、分別徹底やステーションへのゴミ出しに対する苦情を受けることは大変少ない。住民においてもエコのまちという地域アイデンティティが芽生えてきているように感じる。
平成22 年度より導入したコンポスト容器無償貸与制度は、世帯数約10,000 の当町にあって、現在では町内の約10%の世帯で利用されている。当町調査の結果、コンポスト容器により約219t/年の生ゴミが削減され、約547 万円/年の町負担(処理料)削減効果が推計される。また、町の資源ゴミ処理費用のマイナス入札化や小水力・太陽光発電の売電収入はもちろん、それらを原資に実施している住民向けの太陽光・熱利用への補助制度についても導入により地域資源である自然エネルギーを利用して家庭内での電気・給湯コストを減らし、余剰売電を行っている太陽光発電であれば一家庭であっても域外から売電収入を得ることができる。これらのことから、域内経済の好循環や地域自立にも寄与していると考えられる。平成28 年度末現在では、補助制度を利用して太陽光発電では393 件、総出力2,052kWが導入され、1200tのCO2排出削減効果が推測される。同様に太陽熱利用でも154件、総容量31kLが導入され86t のCO2 排出削減効果が推測されている。
これら取り組みごとに経済性もしっかりとしており、分野ごとに先進性もあることから、エコのまちとして注目をいただく機会も増えた。ストーリー性のある横断的な取り組みとしての本応募を契機に、より一層のまちのブランディングや知名度向上につなげたい。

20. プロジェクトによる地域の変化

前述19項のとおり

21. プロジェクト遂行後も残る課題(未達成、見えてきた課題)

二川小水力発電所は年間に4,300 万円の売電収入が見込まれており、太陽光発電の売電益や資源ゴミ収集運搬処理業務の収入とともに先述の基金を包括して新設した「循環型社会の構築と自然エネルギー推進基金」へと積み立て、これまでの補助制度に加え、小中学生への環境教育や公共施設への再生可能エネルギー設備設置等の事業へと活かしていく予定である。さらに、今年度は防災の分野でも活躍することが期待される電線に頼らないオフグリッド型の再生可能エネルギーを利用した電源の普及を自治会と連携して進めている。加えて、住民の中に地域コミュニティの活性化を目指して、市民出資による発電所事業に取り組もうと動き出している団体がある。そのため、行政はソフト事業の実施などで後押しを行い、地域のエネルギーを地域が利用し、売電益をコミュニティのために活かす市民発電所の建設を支援していく。
また、次世代エネルギーパークについては、観光や視察、環境学習などと結び付けられるよう、PR を進めていく予定である。今後は、より一層「有田川というエコのまち」の実現を目指して、エネルギー・環境の観点から住民が住みがいを感じるまちづくりに取り組んでいく。そして、家庭レベルからエネルギーは買わずに創り(地産地消)、ゴミは徹底した分別で再資源化するということをさらに進め、地域が一体となった域内経済の好循環を生み出すことによる自立した持続可能なまちを目指していく。

22. 上記の課題を解決するさらなる展開(プロジェクト、フォローアップ)

前述21項のとおり

23. 横展開を考えている人への助言、特に苦労した事

二川小水力発電所は、多目的ダムへ権利を持たない町が発電所を設置するという水利権のハードルの高さから全国的にも珍しい発電所であり、完成後、有田川モデルを知りたいと全国から視察・問い合わせを多く受けている。よって、同様の状況を抱える他地域での導入の契機・先行例になるものと考えられる。
さらに、ゴミの徹底した分別と集積場のステーション化により、資源ゴミ収集運搬処理業務がマイナス入札になっているなど、廃棄物も農産物と同じような地域資源と捉えることが、自主財源の確保やさらなる各主体での環境に優しい活動への広がりへとつながっている。この考え方を取り入れることで、他地域においても、廃棄物の処理費用の削減効果や自主財源化をすることも可能ではないかと思う。
このような廃棄物減量や自然エネルギーといった環境問題を横断した取り組みでありながら、地球に優しいというイメージ論のみならず、住民の努力に起因する自主財源の確保と基金化とそれを利用した再投資(小水力、太陽光発電所事業)からの収益とを合わせて、さらなる住民へのエコ活動支援に活かすという循環型の経済性を兼ね備えた案件である。地方創生が叫ばれ、まちのイメージと域内経済の活性化を両立した取り組みが必要
となっている中、持続可能な地域づくりの全国的なモデルケースになり得るものではないかと考えられる。

24. その他関連情報、資料

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