・浜松市は、平成17年度から農福連携を一歩進めた「ユニバーサル農業」に取り組んでいる。
・「ユニバーサル農業」は「農業を通じた障がい者や高齢者等の社会参画を進め、その効用を農業経営の改善や担い手の育成に生かす取組」として定義している。
・障がい者や高齢者等の就労支援といった福祉側からのメリットに加え、福祉分野からの視点や考え方を個々の農作業に取り入れて、農業経営にイノベーションを起こすきっかけとなっている。
・農作業は熟練者の知識と経験を生かすものといったイメージが強く、播種から収穫まで生産にかかる一連の作業を一人でできて“当たり前”と捉えられている。
・しかし、一連の農作業に福祉分野における「作業分解」という視点を取り入れ、農作業の手法や工程を変えて効率化・標準化することで、農業を「誰にでもできる形」にデザインし、農業経営に変革を起こすことが可能である。。
・農業には様々な工程があり、作業が分解されることで障がい者や高齢者に適した仕事を作り出すことができ、職域拡大の可能性が生まれる。
・さらに、浜松市のモデルでは企業が加わることで、農業現場と福祉を繋ぐ役割を果たすとともに、繁閑の時期がある複数の農家と連携することで、作業を平準化し安定的な雇用の確保を実現している。
・「農業経営の改善や担い手の育成に生かす」という農業分野での課題解消を主要な目的とする。
・福祉や企業と連携することで、雇用の創出による地域の活性化や食糧自給率の向上などにも繋がる。
(1)浜松市総合計画 基本構想「浜松市未来ビジョン」
平成27年度を始期とする浜松市総合計画 基本構想「浜松市未来ビジョン」において、世代を通じて共感できる「未来」の創造のため、1世代先(=30年先)を見据えた「都市の将来像」と「1ダースの未来」を定めている。
この「1ダースの未来」は、希望に満ちた「はままつ」の未来に向けた産業・文化、子育て・教育など12の項目における市民の皆さんが描く理想の姿を現しています。
平成27年度から10年間の総合的な政策を定めた「第1次推進プラン(基本計画)」では、10年後の目標(政策の柱)の一つとして「多様な担い手による付加価値の高い農林水産業の実現」を位置付けており、ユニバーサル農業はこの政策の柱となっている。
(2)浜松市農業振興ビジョン
・農業分野の個別計画として「浜松市農業振興ビジョン」を策定している。このビジョンは、「チャレンジ・工夫で「もうかる農業」を実現する」を基本理念に掲げ、農業の持続的発展を目指している。
・ビジョンでは5つの基本方針と17の基本施策を定めており、ユニバーサル農業は「営む力」の基本施策「多様な担い手の確保」に位置付け、市、農業者、企業、大学、
福祉関係者などと連携し、取組の市内全域への拡大や国内外への発信に取り組んでいる。
(3)第3次浜松市障がい者計画
・障がい者基本法に基づき、平成30年度から平成35年度までの6年間の計画として策定している。障がいのある人一人ひとりが社会の一員として、支え合いによって、住み慣れた地域や家庭でいきいきと暮らすことを目標として、障がいがあってもなくても、一人ひとりを大切にする“希望を持って安心して暮らすことができるまち”を目指すものである。この計画の取組のなかの就労支援と雇用促進に向けた取組にも「ユニバーサル農業」は位置づけられている。
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特になし
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・「多様性」がキーワードのひとつであるユニバーサル農業において、浜松市ユニバーサル農業研究会のメンバーが、有機的に連携して課題の解決や新規にユニバーサル農業に取り組む農業者へのスタートアップ支援などを行っている。
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Ⅰ.浜松市の取組
(1)浜松市ユニバーサル農業研究会
・平成16年に園芸福祉普及協会の全国大会が浜名湖花博の開催に合わせて本市において開催されました。これを契機に、すでに農福連携に取り組んでいた京丸園株式会社などの農業者や福祉関係者に加え、企業や学識経験者などから構成する「浜松市ユニバーサル農業研究会」を、浜松市が事務局となり平成17年に発足した。
・研究会では、それぞれが単独では解決できない課題について、メンバーが知恵を出し合い連携することで解決に向けた取り組みを進めている。具体的には、定期的な情報交換や先進事例の研究・視察、障がい者等の農業参画を進めるための農業機械の開発、デザイン専門学校と連携したパッケージ開発など、様々な取り組みを行っている。
・この研究会の活動によって、ユニバーサル農業に取り組むメリットの関係者への浸透やスタートアップの後押し、企業との連携などが進んでおり、浜松市におけるユニバーサル農業推進の中心的役割を担っている。
(2)調査・研究
・市として、障がい者就労モデル調査や農園における障がい者受入れマニュアルの作成などの調査研究を行っている。
(3)シンポジウムの開催
・ユニバーサル農業の理解促進と普及啓発のため、年1回、シンポジウムを開催している。
(4)普及・啓発
・全国の様々な組織からの視察の受入や各地域での事例発表などを通じ、浜松市の取組を全国に発信している。また、農福連携の様々な事例や関係者の思いを、冊子・ホームページ・フェイスブック・パネル展などで市民に伝えている。
Ⅱ.京丸園株式会社の取組
(1)雇用人材の多様性
・平成16年に法人化して以来、経営戦略の重要なテーマの一つに“人材の多様性”を位置付けている。
・障がいの有無だけではなく高齢者や女性など年齢や男女のバランスも重視しており、平成31年1月現在100名いる従業員の年齢層は10~80代で、最高齢者は82歳、男女比は4対6、従業員のうち25名は障がい者である。
(2)ユニバーサル農業の取組事例
①「仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせる」
・働く人に合わせて農作業を捉えなおし、作業を容易にする器具や機械の開発を行っている。
・一例として、農業用のトレー洗いがあります。「トレーをきれいに洗ってください。」という抽象的な指示では障がい者にしっかりと内容が伝わらないため、オリジナルの半自動のトレー洗浄用機械を開発した。その機械の導入により「ここにトレーを入れて、トレーを往復させてください。音楽がなったら洗浄後のトレーを入れるコンテナを変えてください。」と指示が具体的になり、誰でも同じ作業ができるようになった。
・結果、作業効率が130%向上した。「人ありき」の考えのもと機械の設計をするため、全自動ではなくあえて半自動とすることで機械の製作コストも抑えられ、障がい者の能力を活かすと同時にリハビリにもなる作業環境を創り出している。
②「農作業のユニバーサル化」
・京丸園株式会社の主力商品の一つであり、1日2万本を出荷するミニチンゲン菜は、障がい者が中心となり生産を行っている。
・ミニチンゲン菜の定植作業を誰が行っても、同じ深さでまっすぐ植えられるように、定植用のパネルのデザインを変えた。パネルの穴を筒形ではなく、台形とすることにより、一定の深さで苗は止まりる。この方法により、初めての人でも熟練者と同じような作業ができるようになった。
Ⅲ.株式会社ひなり(特例子会社)の取組
(1)株式会社ひなりの事業
・株式会社ひなりの浜松オフィスでは、従業員38名(サポートマネージャー10名、障がいのある社員28名)が働いている。7軒の農業者と業務委託契約(請負契約)を結び、圃場整備、定植、収穫、出荷調整などの農業補助作業を行っている。
(2)農業連携モデル(通称:ひなりモデル)
・株式会社ひなりでは、障がいのある社員がサポートマネージャーとともに3~4チームに分かれて各圃場等に行き、作業を行っている。
・作業を請け負う際には、①業務管理、②品質管理、③衛生管理、④安全管理、⑤業務効率化・生産性向上などについて厳格な管理を行う。
・契約時には事前にサポートマネージャーが農業者とともに「作業手順書」を作成し、障がいのある社員に説明と実習を重ね農業者の細かな注文を受けたうえで作業を開始する。そのため、農業者は障がいのある社員に直接、指示を行う必要はない。
・障害福祉に関する専門知識を持たない農業者にとって、農業者と障がい者の間に入り支援を行う「農業ジョブコーチ」は、ユニバーサル農業に取り組む際には重要な存在になるが、農業者側にジョブコーチを雇用する余裕がない場合がほとんどである。ひなりモデルでは、農業ジョブコーチの役割を担うサポートマネージャーが企業に所属しているため、農業者側に負担をかけることなく農業者と障がい者の橋渡しを行っており、契約農家の拡大につながっている。
〇浜松市は、2005年度から農福連携を一歩進めた「ユニバーサル農業」に取り組んでいる。
〇京丸園
①認定
・JGAP認証農場 (2013年)
・しずおか農林水産物認証(2017年)
・厚生労働省 次世代育成支援認定「くるみん」(2015年)
・農業の未来をつくる女性活用経営体100選認定(2016年)
②受賞
・全国優良認定農業者表彰 農林水産省経営局長賞(2003年)
・第33回日本農業賞 特別賞(2004年)
・障害者関係功労者 内閣総理大臣賞(2007年)
・農林水産省農林水産技術会議 会長賞(2012年)
・GAP普及大賞2018 GAP普及大賞(2018年)
・第48回日本農業賞 個別経営の部大賞(2019年)
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・浜松市
・京丸園株式会社
・株式会社ひなり(特例子会社)
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Ⅰ.農業分野の効果
・京丸園株式会社の売上と障がい者雇用の推移を見ると、売上と障がい者雇用数はほぼ比例している。これは、企業にとって障がい者雇用がリスクではなく、むしろ障がい者の力により生産規模を拡大することができたことを証明している。
Ⅱ.福祉分野の効用
・障がい者雇用については、約361万人が在宅、約50万人が企業就労、約32万人が福祉就労しているといわれている。障がい者が一人でも多く産業界に身をおくことができれば、福祉に係る費用の増加が抑えられ、納税者になる可能性も出てくる。
・労働の提供者と福祉サービスの受益者のボーダーラインを福祉領域の方へ移動させ、労働の提供者としての障がい者枠(産業領域)を拡大させること、それが「ユニバーサル農業」が目指す未来である。
・ユニバーサル農業がさらに普及すると、障がい者だけでなく、高齢者や外国人など、多様な人材が農業に従事することで、雇用の創出による豊かで活力のある地域の発展が見込まれる。
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・ユニバーサル農業の取組をさらに発展させ、横展開を図るため、市やユニバーサル農業研究会が新たなステークホルダーの発掘や連携支援、スタートアップ支援、情報発信などを行っていく。
・農業・福祉・企業が連携した浜松の「ひなりモデル」は、それぞれの強みを活かしながら弱みを補強し合うことで、様々な品目の農業形態において障がい者の農業参画を促す好事例とである。そのため、株式会社ひなりの浜松第2オフィスの開設や、新たな特例子会社の誘致などに取り組んでいく。
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・京丸園株式会社への年間の視察者は、700人~800人を数える。
・行政(農業・福祉・商工)や大学関係者、農業者、福祉関係者、企業など職種も様々で、ユニバーサル農業の新たな担い手となる可能性を持つ人々である。
・また、中国、韓国、タイ、アメリカ、アフリカ、ブラジルなど23ヵ国からの視察を受け入れており、日本国内だけではなく、海外からも注目を集めている。
・国の「農福連携等推進会議」においては、京丸園株式会社の鈴木 厚志氏、緑氏が有識者委員として参加しており、本市のユニバーサル農業の取組を国の政策にも反映している。
・また、人材派遣会社の特例子会社は、ひなりの取組を視察し、「ひなりモデル」を採用し、横浜市と横須賀市で農作業の受託を始めているほか、JALの特例子会社や資生堂の特例子会社もひなりを視察した後に、近隣の農家と一緒に取組を進めている。