・青森県において、ライフ分野は、成長産業としてポテンシャルが高く、社会的意義も有しており、本県の地域特性、強みを最大限生かすことで、域外からの外貨獲得や高い雇用創出効果が期待される分野である。
・このため、ライフ産業を次世代における本県の経済成長をけん引する産業の重要な柱と位置づけ、2011年から「青森ライフイノベーション戦略」を策定し、ライフ分野の振興を図ってきたところ。
・その中で、弘前大学COIプロジェクトを重点分野の一つに位置付け、同様に「ひろさきライフ・イノベーション戦略」を策定している弘前市とともに強固に連携・補完を図っている。
・弘前大学では、地域の健康増進を目的とする大規模合同健康調査「岩木健康増進プロジェクト」により蓄積された世界に類例のない健常人の超多項目(2000)健康ビッグデータを活用した認知症や生活習慣病などの疾患予兆法・予防法の研究およびビジネス化による新産業の創出に取り組んでいる。
・これらを同時に社会実装することで、高齢者の健康寿命延伸が可能となり、高齢者の認知症や生活習慣病を減らすことにより医療費の削減をも目指す。最終的にはQOL向上を実現して、地域において健康ビッグデータと最新科学がもたらす「健康長寿社会」を達成し、社会課題解決と経済活性化の両方の同時実現を目指すものである。
【「短命県返上」という地域的課題解決】
・青森県は厚生労働省の平均寿命都道府県ランキング(都道府県別生命表の概況)によると男女ともに全国最下位が続いており(男性1985年~、女性2000年~)、日本一の「短命県」である。この要因は主に青森県の働き盛り世代の死亡率の高さに起因しており、その背景には喫煙率の高さ、健診受診率の低さ、運動習慣(スポーツをする人の割合の低さ)、食生活習慣(食塩摂取量の多さ等)等、総じて県民の健康意識(ヘルスリテラシー)の低いことが考えられる。
・「短命県」という地域的な課題解決のため、2005年から弘前市岩木地区の住民を対象に「岩木健康増進プロジェクト」と名付けた地域健康増進活動を実施している。
【超高齢化社会への対策】
・日本は世界に先駆けて既に超高齢社会となり、医療費の増大や介護の人手不足に対する対策が急務とされている。・従前の医療は疾患発症後の処置に重点が置かれており、高度な医療技術が開発されている一方で、それに比例するように医療費は増大する一途であった。
・この現状を鑑み、本プロジェクトにおいては、疾患発症前の生活習慣の指導や改善により、疾患発症の防止や発症後の重症化を予防する「予防医療」に焦点を置いて研究開発を進めている。特に、三大疾患発症の要因となる「生活習慣病」や、近年トラブル等が数多く発生している「認知症」に重点を置き、本プロジェクトにより、誰もが健康で安心して加齢できる社会の実現を目指している。
【SDGs(持続可能な開発目標)への貢献】
・本プロジェクトの取組は日本国内にとどまらず、現在、欧米の先進国や東南アジア等の開発途上国においても「生活習慣病」は大きな社会問題となりつつあることから、本プロジェクトの成果(主に「啓発型健診」)を国際展開することで、SDGs3(すべての人に健康と福祉を)に貢献することが可能である。
・併せて、ヘルスケア人工知能(HAI)が健康教養のナレッジベースとなり[SDGs4(質の高い教育をみんなに)]、IoTによる啓発型健診がくまなく普及するとともに[SDGs3・SDGs10(人や国の不平等をなくそう)]、新しい産業を創出する[SDGs9(産業と技術革新の基盤をつくろう)]、と多数のゴールに貢献することができる。また、本プロジェクトにより養成された地域の健康リーダーと共にAIもコミュニティの一員となることで「Society5.0」およびSDGs11(住み続けられるまちづくりを)のソーシャルキャピタル機能を補完するものともなっている。
【Society5.0社会実現への貢献】
・近年では政府により「Society5.0」の概念が提唱され、実空間から取得される大量のビッグデータを人工知能(AI)で解析することにより、経済発展と社会的課題の解決に向けた取組が推進されている。ウェアラブルデバイスの普及により個人の健康に関する膨大な情報も取得されているが、ウェアラブルデバイスのデータをどう活用して個人の健康へと活かしていくかが重要となってきている。
・弘前大学では地域住民を対象とした2,000項目に及ぶ健常人の健康情報(健康ビッグデータ)を既に取得しており、AIを活用した健康ビッグデータの解析結果は、そこで生活するだけで健康になるようなSociety5.0社会の実現にも大きく貢献できる。
・本プロジェクトでは、ライフログを含む個人の健康情報に基づいて、個人自らが健康づくりを推進し、その過程で取得されるデータから様々なヘルスケアビジネスを生み出すシステムを作り出している。本システムは産官学民それぞれが強固に連携することで初めて実現するものであり、本プロジェクトの取組はまさに超高齢社会における健康長寿社会の実現モデルである。
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【青森県】
2011年~ 「青森ライフイノベーション戦略」で、弘前大学COIプロジェクトを重点分野の一つに位置付け
【弘前市】
「ひろさきライフ・イノベーション戦略」
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【弘前大学COI】
(国研)科学技術振興機構(JST)本部からの委託研究開発費
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【産学官民連携】
・2019年現在、約60機関が本プロジェクトに参画しており、現在も拡大中である。プロジェクトの目的達成のため必要な課題を外部との連携により解決する方針のもと、課題解決に有力と思われる企業と交渉・調整を行い、積極的に組織の壁を超えた多角的、複層的な連携により、規模を拡大してきた。
(1)「産(企業)」との連携
・本プロジェクトでは、アンダーワンルーフによる企業間連携の取組が数多く生まれており、その一部は商品化にもつながっている。多業種の企業が参画していることから、それぞれの企業の強みを活かしながら、業種の枠を超えた連携が可能であり、本枠組は参画する企業にとっても大きな魅力であると考えている。オープンイノベーション・プラットフォームとして今後規模を更に拡大していき、新たなヘルスケア事業の創出へとつなげていく。
・すでに社会実装が行われた製品やサービスとして、地元のIT企業が開発した健康増進アプリケーション「健康物語」(マルマンコンピュータサービス)がある。加えて、GWAS解析ソフト(東北化学薬品)、まめしぃ弁当(栄研)など県内において、新規ビジネスが創出され始めている。またモールウォーキング(イオン)は、青森発で今や全国(約100店舗)に普及展開した。他に嗅覚検査(エーザイ)、個人向け腸内フローラ解析サービス「腸環チェック」(テクノスルガ・ラボ、北海道システム・サイエンス)、3ダウンレシピ(楽天)、だし活キッチン(楽天・ローソン・青森県食生活改善推進連絡協議会)等々、多数の例がある。このような状況のもと、国内大手企業と地元企業との連携により新たな産業創出モデルの可能性が見られる。
・参画機関の間での情報共有を円滑とするため、関係者全員が一堂に会し実際に顔を合わせる毎月運営会議を開催し、ほぼ全ての関係者が会議に参加し、進捗について共有・議論している。また、2016年には文部科学省の地域科学技術実証拠点整備事業の採択を受けて、大学内にプロジェクトの拠点となる「健康未来イノベーションセンター(施設)」が整備され、センター内には参画企業が同じ部屋で作業・議論するためのスペース(オープンラボ)も設けており、参画企業間の交流を促進するハード面での環境も整備している。
(2)「官(自治体)」との連携
・実施主体が県であり、県の関係各課と連携し、戦略を展開していることはもちろん、弘前大学の所在する弘前市では施策の実施から実証フィールドの提供等に至るため、強力に連携している。
・県内各市町村レベルにおいては、自治体の首長が前面に立ち、自治体として「住民の健康増進に向けて取り組む」ことを宣言する「健康宣言」が2019年、県内すべての40市町村において実施され、達成率100%となった。
・青森県の働き盛り世代の健康づくりを目的に、従業員の健康管理を経営的視点から考え戦略的に実践する「健康経営」に取り組む県内事業を「青森県健康経営事業所」として認定する独自の制度も創設した。当該制度は、従業員の健康増進に資するのみならず、認定を受けた企業側は経営面でのインセンティブがある(県実施の入札での優遇、県特別保証融資制度の利用、県内金融機関による低利融資の利用)というものであり、企業は認定を受けるにあたり青森県医師会に付属する「健やか力推進センター」の研修受講が必須で、制度的なリンクも図られている。
(3)「民(市民)」との連携
・青森県医師会の一部門として社会実装の中核組織である「健やか力推進センター」を創設し、職域や地域、学校における健康づくり推進のための健康増進リーダー・サポーター(健康の指導員)を育成する養成講座を実施している。養成講座においては生活習慣(喫煙・飲酒・肥満等)やメタボリックシンドローム、ロコモティブシンドローム、健診、認知症などの健康に関する講義に加えて、各種測定(血圧、体組成等)、健康活動計画の作成等、健康に関連する事項を幅広くかつ体系的に習得することが可能である。健康増進リーダー・サポーターは2019年度中までに約1万人を育成予定であり、それぞれ地域において健康教室等を積極的に開催し、住民へもその活動は浸透してきている。
・将来的な視点で、住民に高いヘルスリテラシー(健康教養)を身に付けてもらうため、教育委員会との連携による小中学校(弘前市内の全51小中学校)での健康授業も実施しており、その内容は青森県民の寿命を延ばすために必要なことを児童と共に考える構成となっている。併せて、(株)ベネッセコーポレーションと協力し、児童を介して親(家庭)の健康教育も同時に実施可能な健康教育プログラム「ファミリー・ヘルス・ラボ」を開発し150校以上にて実施、ライオン(株)との協働ではオーラルヘルスケア教育プログラムも開発して教育を実施している。
・住民の健康づくりを推進するため、住民も巻き込んだ産学官民の強固な連携のもとにアンダーワンルーフのオープンイノベーション・プラットフォームを構築している点が大きな特長である。
(4)「学(大学)」との連携
・健康ビッグデータの解析に当たっては生物統計、臨床統計、バイオインフォマティクス、人工知能(AI)、スーパーコンピューティングなど様々な技術・知識が必要となることから、京都大学や東京大学から各分野の著名な専門家を集めた「健康ビッグデータ解析チーム」を構築し、弘前大学の医学的な知識を有した教員や参画企業の研究者とも連携し、多角的に解析を進めている。
・本プロジェクトにおいては、各大学で個別に収集されていたコホート研究等のデータを連携・包含して解析し新たな成果につなげる取組(COI健康・医療データ連携)も推進している。
・本プロジェクトは、地域全体(産官学民)を巻込んだ地域イノベーションと、それに立脚した経済活性化、少子化対策ひいては地方創生の実現を目指しており、目的達成のためにはすべての領域を巻き込んだオープンイノベーションを求める姿勢が必須であり、本プロジェクトではそれを実現している。
【弘前大学】
・2005年~ 弘前市岩木地区の住民を対象に「岩木健康増進プロジェクト」と名付けた地域健康増進活動を実施
・2013年~ 文部科学省革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)の拠点
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(国研)科学技術振興機構(JST)本部からの委託研究開発費、2018年度5.4億円。民間資金3億円超
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【経済効果】
・本プロジェクトの成果として、推計で経済効果約242億円、雇用創出約1,812人、医療費抑制約527億円を見込んでいる。また、本プロジェクトの成果を日本国内、更には海外へと展開することにより、その規模は更に拡大していくことが推計される。併せて、本プロジェクトの成果から新たなヘルスケア事業の創出、それに伴う雇用の創出も見込まれる。
【平均寿命の伸び率の向上】
・2017年に厚生労働省から発表された都道府県別平均寿命ランキングにおいて、青森県は男女ともに最下位ではあったものの、男性の平均寿命の伸び率が全国3位であった。本数字は心疾患や自殺による死亡数が大きく減少したことによるものと考えられ、数々の健康づくりの取組を反映しているものと考えている。本プロジェクトは短命県を返上する、すなわち都道府県別平均寿命ランキングで最下位を脱出することが大きな目標であり、短命県を返上できた際の社会的インパクトは非常に大きなものとなる。2017年の結果はその兆しを示している。
【健康への価値観のシフト】
・経済効果、平均寿命の伸び率の向上に加え、学域での健康教育、また地域における健康増進リーダー等を通じての住民に対しての健康教育(啓発)等により、地域住民の健康に対する意識が向上し、地域社会の価値観のシフトにまでも貢献している。
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【自立化に向けた仕掛けづくり】
・「健康・医療データ連携」や「啓発型健診の海外展開」をさらに加速し展開していくとともに、本拠点で構築している「健康づくりの総合プラットフォーム」、地域健康増進に向けた新たな仕組みを「公的政策×民間サービス(事業)」による「地域健康増進パッケージ(モデル)」として「標準化」し、短命県青森から全国へ展開していく。
・個々の企業との個別の連携を推進しているところであるが、将来的には関係する業界団体(食品業界/ILSI;国際生命科学研究推進機構、製薬業界/LINC;ライフインテリジェンスコンソーシアム等)との連携を目指し、産業界全体への寄与・貢献を見据えて展開していく。
・自治体や中小企業を含め、全県的に健康経営の推進、生産性の向上につなげ、地域経済活性化を目指していく。
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【健康・医療データ連携】
・本プロジェクトにおいては、各大学で個別に収集されていたコホート研究等のデータを連携・包含して解析し新たな成果につなげる取組(COI健康・医療データ連携)も推進している。この連携により、認知症・生活習慣病等の予兆発見や予防法開発などの加速につながることが見込まれる。認知症発症後の意思決定サポートシステム等の開発を目指す京都府立医科大学が参画しており「京丹後長寿コホート」と青森県の短命データとの比較研究等が展開されている。また名桜大学の「やんばる版プロジェクト健診」(沖縄北部12市町村)や和歌山県立医科大学の「わかやまヘルスプロモーションスタディ(WHPS)」(かつらぎ町)との連携、更には世界的に著名な九州大学の「久山町研究」を始め複数大学との連携を進めている。全国縦断的なデータ連携基盤が構築され、相互補完的な連携解析や比較分析等が進行し、大学間の戦略的データ連携にもつながっている。今後さらに、この連携を加速させていくものである。
【新型健診モデルの海外展開】
・「啓発型健診」は現在、青森県内の企業において検証実施している段階であるが、すでに国内の大手企業からの照会もあり、将来的には日本国内において普及展開していく。また急激に経済発展を遂げている開発途上国においては、その発展に伴う様々な医療課題も想定されるが、これらのアジア諸国をはじめとして全世界に向けて展開を目指していくものである。
・第一段階として健康診断が国家の制度的にも義務化されているベトナム社会主義共和国での展開のため、2019年に現地調査を実施した。周知の通り、ベトナムは近年経済発展が目覚ましく、今後も継続的な経済成長が見込まれており、それに伴い先進国同様の生活習慣・食生活習慣が急速に浸透し、いわゆる生活習慣病が医療課題になることが容易に想定される。一方で医療機関の質や健診受診率はいまだ低い水準にとどまっているのが現状である。この状況改善への貢献を目的とし、本プロジェクトで開発した「啓発型健診」を同国にて展開すべく現地の健康医療関係の行政機関や大学等研究機関、日系企業などを訪問調査した上で、より効果的な連携の方法について模索、検討しているところである。
・最終的にはここで得た知見をもとに、周辺の開発途上国、ひいては全世界への普及展開を目指す。