【背景・課題、目的・目標】
最上町は、町域の84%が森林である。昭和50 年前後に一斉に造林が行われ、当時は下草刈り等の手入れは行われたが、その後ほとんど手入れがされず人工林の多くは、荒れた状態になっている。森林整備(間伐)が進まない最大の要因は、森林整備(間伐)には、森林所有者の資本投下を必要とする点にある。材価が低迷しているため、資本投下しても回収の見通しが不透明なことから整備(間伐)が進まないのが現状である。
森林整備(間伐)を進めるために、間伐材をエネルギー利用し、森林所有者の負担金に代える。”もがみまちウエルネスプラザ”(医療・福祉・保健の総合福祉施設)でこれまで利用してきた重油焚きボイラを木質焚きボイラに交換し、冷暖房、給湯を行い化石燃料の削減を目指した。
【取組内容】
実証実験を行ったプロジェクトは下記である。
1.間伐と収穫システム
①間伐の手法を列状間伐で行い伐倒列を利用して収集を行う。
②土地の所有権と利用権を分離し、土地の集約化を図る。
③作業路を開設し切り捨て間伐を極力少なくし効率的な収穫を行う。
④高性能林業機械を利用し、生産性の向上を図る。
2.チップ加工システム
ボイラの燃料となる木質バイオマスは、含水率を安定させることが課題となった。豪雪地帯である最上町において、冬季間の間伐材を当初工事用シートで簡易的に覆い保管したが、含水率が変動した。含水率の安定には燃料の貯留施設が必要である。
3.エネルギー利用・最終利用システム
木質焚きボイラ3 基(550kW(平成18年 稼働)+700kW(平成19年 稼働)+900kW(平成24年 稼働))でウエルネスプラザの冷暖房給湯利用に温水を供給しているが、それぞれが単独運転のた、システム的に連動させる改善が今後必要といえる。550kW システムでは、福祉センターに暖冷房と隣接する園芸ハウスの冬季間の暖房用熱を単独で供給している。700kW ・900kWシステムは、ウエルネスプラザ内の最上病院、健康センター、老人保健施設、給食センターに暖冷房給湯を行っている。なお、重油ボイラもバックアップとして残している。
【成功要因】
①バイオマスエネルギー利用までの一貫した体制整備と事業を活かした取組の創出
本プロジェクトのバイオマスエネルギーの利用と推進は、地域全体で入口から出口まで取り組まなければ完結しない事業であり、さらに関連する事業体全てが経済的に成り立つ仕組みを構築する必要がある。十分ではないが、それぞれが役割を担い、取組んだことが事業の持続的運営に繋がっている。
・地域の林家: 利用権と所有権の分離の必要性を理解し、計画的施業に協力、収穫量の向上を果たす。
・チップの製造供給事業体: 間伐業務から燃料供給業務まで一貫した事業展開を行う。効率の良い間伐と間伐材の収集技術の開発。
・東法田地区みつわ会: バイオマス事業を地域の資源として捉え、視察者に地域の農産物を利用した昼食を提供等。
・東北トラベル: バイオマスエネルギー視察研修を旅行商品として開発し地域に貢献。
・行政: 各団体等の持てる力とそれぞれの得意分野をつなぎ合わせるコーディネート役を担う。
②国のプロジェクトの確保(全面的な国の資金獲得)
【成果】
本プロジェクトによる成果は以下のとおりである。
・森林資源の有効利用と保育- 間伐を適正に行うことで森林整備が促進され、将来的にも有効利用が可能となる。
・燃料供給会社設立による雇用の創出-間伐材生産からチップ加工、燃料供給を一貫して行う燃料供給会社が設立され、新たな雇用が生まれ、間伐(森林整備)が促進されている。
・環境への貢献-化石燃料をバイオマスに変更することで、環境負荷を軽減するとともに地域住民の環境への関心度が向上している。
・バイオマスを活用した地域活性化-本取組を視察するために訪れる人が増え、観光産業や地域農業の活性化をもたらしている。
事業の継続には経済性が不可欠である。年間に削減された重油費で、バイオマスエネルギー利用システムの運用経費が賄えれば持続可能である。今回のシステム規模と条件では、厳しいものの、技術的に次の3 点の改善を行うことで、経済性は向上する。
ア 収納庫を設置するなどにより燃料チップの含水率を低めて安定した供給を行う。
イ エネルギー効率を高くし、ランニングコストを抑える。
ウ 3 基のボイラの利用方法をそれぞれの単独運転ではなくシステム的に連動させて、効率の良いシステムとする。
最上町は町域の84%が森林で、古くから森林と関わりをもって生計を成り立たせてきた歴史がある。また、山の利用にあっても、農家が農耕用の家畜を飼育していた関係から牧野として利用していた。しかし、昭和40年代から農業の機械化が進み家畜用の餌場としての牧野が必要とされなくなった。そのため牧野の利用として拡大造林が昭和50年前後に1,300ヘクタール行われた。その人工林が林齢35年超になり、間伐等の森林整備が必要とされたが木材価格の低迷や社会構造の変化などがあり、整備(間伐)がなされなく荒廃した。
間伐を進めるには、森林所有者の負担(金)が必要となる。その経費を小規模個人林業経営者が負担するのは難しい状況にある。通常、ほとんど価値のない間伐材をエネルギー源として利用し、収益を得るとともに、森林資源を育てていくという課題設定をした。
地域に賦存する木質バイオマス資源を利活用し、間伐(森林整備) → チップ加工 → 燃料供給 → バイオマスエネルギー活用 との一連の取組により、新たな産業を創出・根付かせることにより、地域に住み働く住民の生活基盤を確立し、持続可能な地域社会を形成することを本プロジェクトのコンセプトにおいて取り組んでいる。具体的な目標は以下の通り。
〇間伐材の収穫システムの構築(間伐計画の立案、計画的施業等)
〇チップ製造システムの構築(安定した燃料供給システムの確立)
〇効率的なエネルギー利用システム(3基のボイラ連結による効率化)
〇バイオマスエネルギーを活用した地域活性化
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規制等は特にない。間伐等を行う予算を獲得するためには、国の制度に則って事業を進めていくことが有効であり、年度々々で変わる事業メニューをうまく活用することが必要である。国の補助金等に加え、間伐材のエネルギー利用を進めてその対価を得るなど、様々に資金手当てをして森林整備の支出を賄うことが、難しいことだが求められている。
なお、林業については西日本と東日本では状況が異なる。西日本は民有林が多いのに対して、東日本は国有林が多い。林道等の整備も連携のないまま推進されているようだが、森林のの整備のためにも、民有林と国有林との連携が必要である。
国有林の分布は下記
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/welcome/bunpu.html
http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/jpgis/datalist/KsjTmplt-A13.html
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今回のプロジェクトに活用した資金は以下の通り。
平成17~21年度(5年間) 4.3億円 NEDO委託事業「バイオマスエネルギー地域システム化実験事業」
(バイオマスの入り口から出口まで地域で相応しいシステムを作り上げる実証実験事業)
-本事業は凡そ100%国の資金となっており、自治体の費用負担はゼロで実施可能
林野庁 地方の元気再生推進調査事業 7,680千円
㈱もがみ木質エネルギー:実証実験にあたり、木を切る-素材生産、チップに加工する-製材、この2つを一気通貫で行う会社を地元の若手が設立(通常、素材業者と製材業者は分かれている)
最上町観光協会:バイオマス視察ツアー専門のガイドを育成、視察の内容に応じてガイドをするほか、遠方からの視察者へは宿泊施設の紹介も実施している。
(未入力)
木質バイオマスのエネルギー利用が経済的に成り立つよう以下の事業システムを確立した。
〇間伐材の収集運搬システム- GISの活用、利用券と所有権の分離、高性能林業機械の導入などによる効率的施業の実施
・GISの活用: 森林のバイオマス賦存量を把握し、計画的な間伐を行うとともに、森林所有者への説明に活用する。
・所有権と利用権の分離: 間伐を実施する区域を10ha以上の団地化(ブロック化)を行い施業を行う。団地化には20人程度の所有者の同意が必要であり、所有権と利用権を切り離して一斉に施業を行うシステムを確立した。
・高性能林業機械の活用: 林道を新設し、作業の効率性と安全性を高めるとともに、若者が林業に携わる魅力を創出する契機となった。
〇エネルギー転換システム-バイオマスボイラー燃料の効率的製造
・間伐材の乾燥対策: 間伐材を一年間椪積みし自然乾燥して利用。冬期間は収納庫を利用して乾燥。
・チップへの転換: 土砂等も付着している間伐材もあることから、それらにも対応可能な機械システムを構築している。
・チップ輸送: 単純にホイルローダで積み込み、ダンプトラック運搬で効率よく作業の機械化を確立。
〇エネルギー利用システムーバイオマスボイラ利用による施設への暖房冷房給湯の供給
・バイオマスボイラ構成 900kw+700kw+550kw 3基の連結による高効率システムの構築
・ウエルネスプラザ(町立最上病院・老健施設・福祉センター・健康センターの複合施設)への暖房冷房給湯の供給システムの構築
・特別養護老人ホーム「紅梅荘」への暖房冷房給湯の供給・無散水消雪システムの構築
・給食センターへの給湯システムの構築
平成20年 GISを活用した計画的な資源の収穫システムの構築・運用
平成20年 バイオマスボイラの稼働(550kW1基)
平成21年 バイオマスボイラの稼働(700kW1基)
平成22年 林道の新設(3路線5工区)、間伐による森林整備(120ha)
平成23年 林道の新設(4路線4工区)、間伐による森林整備(115ha)
平成24年 バイオマスボイラの設置(900kW1基)
平成24年 木材保管施設1棟・木材移動機械(ホークリフト1台)(民間企業が国の補助事業で実施)
平成24年 地域材による特別養護老人ホームの建設(社会福祉法人実施)-ボイラーの熱利用
平成17年度-平成21年度 NEDO バイオマスエネルギー地域システム化実験事業 4.3億円 100%補助 バイオマスボイラ(550KW,700KW)整備
2010‐2012年度 1.1億円 林野庁 森林整備加速化・林業等再生基金事業 100%補助 バイオマスボイラ(900KW)整備
特になし
① (株)もがみ木質エネルギー:間伐(素材生産)事業から燃料となるチップ製造・供給(製材事業)までを行う事業体
②(株)巴商会: バイオマスボイラの保守管理
③(株)最上町地域振興公社: 日常保守管理
④バイオマス視察ツアー関係:年間最大500人~600人が視察で来訪。以下の役割分担で対応
・東法田みつわ会: バイオマス視察ツアーの昼食の提供(農家レストラン)
・最上町観光協会: バイオマス視察ツアーのツアーガイド
・(株)東北トラベル: バイオマス視察ツアー受入窓口
⑤役場まちづくり推進室: エネルギー政策全般
①バイオマスエネルギー利用までの一貫した体制整備と事業を活かした取組の創出
バイオマスエネルギーの利用と推進は、地域全体で入口から出口まで取り組まなければ完結しない事業であり、かつ関連する事業体全てが経済的に成り立つ仕組みを構築する必要がある。各団体が地域資源を活用、それぞれの役割を果たすとともに、連携して取り組んでいることが事業の持続的運営を可能としている。
・地域の林家: 燃料となる間伐材は、すべて町内の民有林から生産収集されており、地域の理解・協力が不可欠である。計画的な施業に当たり、利用権と所有権の分離を行う必要があり、このような所有者の理解を得たことが収穫量の向上に繋がっている。
・チップの製造事業体: 間伐からチップ製造、燃料供給まで一貫した事業展開を行うが、このための効率良い間伐と間伐材の収集技術を開発する。
・東法田地区みつわ会: バイオマス事業を地域の資源として捉え、視察の際に地域の農産物を活用して昼食の提供等を行う。
・東北トラベル: バイオマスエネルギー視察研修を旅行商品として開発し、地域の持てる力を引き出している。
・行政: 各団体等が持てる力とそれぞれの得意分野をつなぎ合わせるコーディネート役を行っている。
②国のプロジェクトの確保(全面的な国の資金獲得)
本プロジェクトは平成17年度~21年度にわたり、NEDOの「バイオマスエネルギー地域システム化実験事業」の資金を得て実施したもので、ほぼ事業費全額を国の資金で賄っている。最上町の費用負担がないことが、事業に着手できた大きな要因である。NEDO事業終了後の平成22年度には、林野庁の「森林整備加速化・林業等再生基金事業」により資金手当てをしてバイオマスボイラ(900kW1基)を追加整備した。
プロジェクトの成果については以下の通り。
①森林資源の有効利用と保育
間伐を適正に行うことで森林整備が促進され、森林資源として将来的にわたり有効利用が図られる。
②燃料供給会社設立による雇用の創出
間伐材生産収集、チップ加工、燃料の供給を一貫して行う燃料供給会社を設立、新たな雇用を創出している。
木質バイオマスを燃料として安定的かつ経済性をもって供給するためのシステムを構築することがプロジェクトの成功を左右する鍵であった。そのため、燃料を供給する法人(株式会社)を設立し、実験から実証へと事業を進めてきている。従来間伐は素材生産業者が行い、チップの製造は製材所が行ってきた。これを、間伐材生産、チップ加工、燃料供給を一体的に行う事業体を、町内の製材所と素材生産の事業体が連携し、新たに法人(株)もがみ木質エネルギーを設立して事業を展開している。
間伐を年間20haから30ha行い、事業費で500万円から800万円の事業とし、燃料供給については、年間24,000千円で(株)もがみ木質エネルギーと木質チップの安定供給を最上町が委託している。
③環境への貢献
これまで化石燃料によって暖冷房給湯を賄っていたシステムをバイオマスに変更することで、環境負荷が軽減されたほか地域住民の環境への関心が高まっている。
実際、転換したことで下記のように化石燃料使用量は大きく削減しており、CO2排出削減に寄与している。
施設名 H16年度使用 H23年度使用量 効果 削減量 削減率
ウエルネスプラザA重油 449,027㍑ 268,884㍑ 180,143㍑ 40.12%
ウエルネスプラザLPガス 8,137 2,002㎥ 6,135㎥ 75.40%
園芸ハウスA重油 15,690 1,500㍑ 14,190㍑ 90.44%
また、年間に削減された重油費でバイオマスエネルギー利用システムの運用経費が賄えれば経済的に成り立つ。
しかし、今回の規模と条件では、経済的に厳しい結果となったものの、次の3 点の改善により経済性は向上する。
ア 収納庫を設置するなどにより燃料チップの含水率を低めて安定した供給を行う。
イ エネルギー効率を高くし、ランニングコストを抑える。
ウ 3基のボイラをそれぞれ単独運転ではなく、システム的に連動させて効率の良いシステムとする。
④バイオマスを活用した地域活性化
バイオマスエネルギー視察研修のツアーが商品化され、観光産業や農業の活性化をもたらしている。
木質バイオマスエネルギー利用に関する視察が年間37件までになった。そこで視察をビジネス化している。申し込みは町内の観光会社を通して行い、対応は観光協会の専門ボランティアが有料で行い、東法田集落のみつわ会(おかあさんたちのグリープ)が昼食にソバ御前を提供している。ソバはもちろん天ぷらやおかずは、全て自分達の畑で生産された野菜である。廃所になった保育所(みつわ保育所)を修繕し、農家レストランを開き運営している。宿泊には最上町にある3つの温泉地がを紹介斡旋している。バイオマスにより農観連携で産業を興している。
最上町の政策の後押しもあるが地域住民のなかで、薪やペレットなど自然エネルギーへの転換の動きが出てきており、住民の再生エネルギーや環境への関心の高まりが見られる。ちなみに現在(平成26年7月)、最上町では民間事業者によるメガソーラーが杉の苗床であった地区に導入されている。
年間500人を超える視察があることから、本プロジェクトの認知度は高いと思われるが、今後は単に「システムを見せる」から「システムを見て考え実行に移していく」視察としていく。
最上町は、平成24年度にスマートコミニティー構想を立ち上げた。目標とする数値目標は、2020年までにエネルギー効率を高め、積極的に省エネルギーに努めることで、現在の年間エネルギー利用効率を20%を高めること、また再生可能エネルギーとして、太陽光発電・中小水力発電・未利用温度差による熱利用・木質バイオマスによる熱利用等が最上町では導入可能なエネルギーとされているが、これらの再生可能エネルギーの利用で最上町のエネルギー利用比率の20%を賄うことを目標(「トリプル20」)に今後の展開を推し進めることとしている。
最上町はストーブ/ボイラーの利用を補助金も入れ進めていく。これにより民間のペレット製造工場が建設され、経済的な循環ができれば、現状に比べより効率的な木質バイオマスエネルギーの利用が進んでいく。このような経済循環が起こし、雇用を拡大し、地域活性化に繋げることを目指していく。
木質バイオマスエネルギーはこれまで同様に利用し、薪の利用も含めて利用拡大の施策を講じる。一方最上町は災害に強い町づくりを目指すことから、町内を3地区に分割し、中心施設となる小学校等に太陽光パネルと蓄電池を設置、一部グリット化し、効率のよい利用を行うための実施計画を既に策定し、具現化しつつある。
また、将来的には薪の供給システムの開発、普及に向けた調査・実験、薪等の木質バイオマスエネルギーを導入した住宅開発など薪文化再生を図る以下の取組を検討する。
① 薪の供給システムの開発、普及に向けた調査・実験
意欲的な事業所等を指定し、里山から伐採、配達、燃料使用までの仕組みを開発する。
② 薪等の木質バイオマスエネルギーを導入した最上町版木造エコ住宅の開発
地域材と薪やチップといった木質バイオマスエネルギーを組み入れたエコ住宅の『開発を大学と住宅関連事業者との共同により実施する。
③ 環境と観光との連携による交流体験モニターの実施
④ 薪文化再生創出セミナーの開催
視察にくる多くの行政機関あるいは団体から感心される。類似条件の自治体が多くあると推察されるが実施しているのは出口部分のボイラのみが多い。川上のバイオマス収穫システムから川下のエネルギー利用システムまでのトータルシステムでの運営は少ない。地域と行政等が連携しながらやることで可能なシステムであるが、一歩踏み込むことができていないのが現状であろう。