・超高齢社会を迎えた日本において、人口減少と郊外住宅地の持続可能性は、大きな社会課題となっている。
・その課題を解決する方法の1つとして、まちの魅力を高め イキイキと働ける環境づくりがある。これは、地域住民の期待でもあり、行政の目指すところでもある。企業は、生活者である地域住民のニーズに応えた 商品・サービスを提供していくことで、地域社会に貢献しながら収益も得て、企業自身の持続可能性を確保する。
・地域住民、行政、企業の3者が良い関係性を築くために、公的なコーディーター (大学)の存在は不可欠である。この4者で産官民学連携のオープンイノベーションで共創し、住民ニーズに沿った解決策を導き出す日本版リビングラボのモデルを構築する。
・当プロジェクトの目標は「テレワーク家具の開発」である。
・テレワークは、ワークライフバランスの実現、人口減少時代における労働力人口の確保、地域の活性化など様々な面でメリットをもたらしてくれる働き方であり、テレワークによる働き方改革が普及することで、一億総活躍、女性活躍を実現することが可能になる。
・近年、テレワークの環境を整えたり、サテライトオフィスの誘致活動をしたりする自治体が増えている。鎌倉市においても、観光地域から生活地域へとの視点を加えるべく「鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会」を発足し、都内への通勤を減らし市内でテレワークを行うワークスタイルを普及する活動を始めている。このように、社会的に大きなメリットを提供できる可能性のあるテレワークを何らかの方法でサポートしたいと考え、テレワーク家具の開発に着目した。
・従来、製品企画・開発は企業開発者が行い、その開発した製品を生活者に試していただくという、企業主体の開発をしてきた。しかし、この 開発ステップには、「発売するまで売れるかどうかわからない」、「消費者のニーズとはかけ離れたものを商品化してしまう可能性 がある」などの課題もある。
・その課題を解決するために、当社は産官民学の共創プラットフォームである「鎌 倉リビングラボ」に参画し、生活者である住民のニーズにあう家具開発を目指すこととした。
生活者である住民のニーズにあう家具開発
【鎌倉リビングラボ】
・リビングラボとは、産(企業)官(自治体)民(生活者)学(大学等)などの複数のステークホルダーが 共創し、様々な課題の解決に取り組むオープンイノベーションである。生活の場において、PDCA[Plan(計画)→Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)]のサイクルを回しながら、生活者のニーズに真に適う商品やサービスの開発、地域課題の解決に向けた取組みを住民と共創していく仕組みである。
・<今回の鎌倉リビングラボの取り組み>
生活者(地域住民 はテレワークを望んでいるのか?」という根本的なニーズを把握するため、ゼロから地域住民と一緒に製品開発を行った。企業が直接地域に入り込むと、関係性を構築するのが難しい側面がある。そこで、高齢社会共創センターが取りまとめ役を担い、地域 NPO 法人を通じ 住民 の方々とコミュニケーションを取る手順で進めた。これにより、相互に理解と信頼を得ることができた。このあたりは、日本版リビングラボとしての独自のモデルであり、海外のリビングラボからも注目されている。
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・特に無し
【他に共同団体が独自に獲得した資金例】
・国立研究開発法人科学技術振興機構 国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)
・日本-スウェーデン共同研究「高齢者のための地域共同体の設計やサービスに関する革新的な対応策」
・「活力ある高齢社会の実現に向けた「国際連携型リビング・ラボ」の創設」 (2017年1月~2019年3月)】
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リタイア世代、現役世代、子育て女性の3グループ
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1.ニーズ調査
仮説を立て、リタイア世代、現役世代、子育て女性の3グループに、在宅ワークのニーズヒアリングを実施。「
子育て女性は 仕事さえあれば家で働きたい」 という仮説を持っていたが、「現状のままでは洗濯物や食器などが目についてしまい、家では仕事に集中できない」 などの意見があった。企業目線の仮説と 現実には大きなギャップがあることが確認された。
2.実生活での利用イメージ(理想)の構想
事前に準備したイメージ画像を見ながら、自身が働きたいと思うイメージを選定していただいた。作業をしていただくのと併せて、ヒアリングも実施した。憧れの空間と、実際に自分の家で構えられる空間とには大きな隔たりがあることがわかった。
3.コンセプトの立案
ヒアリングから抽出した要望を元に、在宅ワークを可能にする3つのコンセプトワードを選定。これらを元に具体的な商品開発を進めることを決定した。
4. 商品化に向けたデザインワーク
コンセプトワードを社内に持ち帰り、イラストやCG によるイメージを作成。作成したイメージを住民の方々にみていただいた。『どんなに便利な家具であっても家族に受け入れられないものは家に設置できない』など、生活者目線でのリアルなご意見を頂いた。
5.CGとモックアップによる検証
モックアップはダンボールを用いて当社開発担当者が作成
。 住民の方々に、サイズ感や使い勝手とデザインを確認。これにより、パネルの高さや天板サイズなどが決定。
6. 6.試作モデルによる検証
試作モデルを作成し、住民の方々にレビューを実施。住民の方々は、ゼロから開発した商品が現物として目の前にあることに驚きつつも、製品開発の醍醐味を実感していた。自分の家に設置したイメージと、どのような使い方をするかについての説明もしていただいた。
7.実生活での利用体験
住民の方々に、 試作モデルを自宅に持ち込んで、1週間使っていただいた。生活の中で使用すると、想定していなかった新しい使い方や、問題点が発見された。
8. 製品化
その後改良を加え 2019 年7月に鎌倉リビングラボとの共同研究により開発された商品の第一弾として、リビングで仕事をするための折りたためるワークデスク「ONOFF(オノフ)」 を発売した 。第二段商品も間もなく発売予定。
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【鎌倉リビングラボ】
本プロジェクトでは、産(イトーキ)官(鎌倉市)民(鎌倉市住民・ NPO )学(東京大学)が活動する仕組みである。
1) 株式会社イトーキ・・・・ 開発の各ステップにおいて、イラストや CG 、サンプルを作成し、生活者のニーズを引き出した。また、生活者の要望に沿った新商品を発売した。
2) 鎌倉市・・・生活者 に活躍の場を提供し、魅力あるまちづくりと、それに向けた仕組みやサービスの可能性を構築した。
3) 鎌倉市今泉台地域の住民と NPO ・・・ 住民は、自らが開発者となって生活者の目線で 商品開発に取り組んだ。具体的には、開発商品を生活の中で試し、発売までに商品の問題点を洗い出すことで商品の完成度を高めた。 NPO 法人は、リビングラボの趣旨に合った適切な人材をリクルートし、地域住民のハブとしての役割を担った。
4) 東京大学・高齢社会共創センター・・・ 異なる 性質を持つ各ステークホルダーの主体性やニーズ・アイデアを引き出すために様々な手法を用いて、バランスよくコーディネートし、取りまとめの役割を担った。
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・生活者へのヒアリングから 出てきた課題は、製品やサービスとともにまちの課題として鎌倉市やNPOにも共有され、 次の課題解決へと進めることとなっている。当初 NPOの声かけ により 集まったリサーチ対象登録者は30 名ほどであったが、現在は1 2 0 名ほどに増えている。
・鎌倉市では、まち全体の課題解決としてテレワーク推進や SDG s未来都市計画など大きなテーマへと展開している。
・大学および共創センターは、鎌倉リビングラボの活動を「日本版リビングラボ」という一つの形として、プロセスの可視化をした。この2年半の間に、鎌倉リビングラボは20件ほどのプロジェクトが実施され、その内数件は現在でも継続活動となっている。
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・当該の取り組みは 、家庭内で仕事をすることに対する 問題を家具で解決するという取り組みだったが、「ワクワクしながら働く環境」 を構築するためには家庭から飛び出し、様々な場所で働くというより大きな展開にステップアップする必要がある。次のステップとして、2019 年1月から「みんなで創るコミュニティコモンズ」 をテーマに掲げ、鎌倉での働き方を検討するワークショップを開催している。このテーマから、鎌倉市に事業拠点を置いている株式会社東京映画社も共創に参加している。さらに今回の活動に興味を持った企業数社が連携し、新しい働く環境づくりを共創する オープンイノベーションの活動もスタートしている。
・行政として鎌倉市は、まち全体をおおきな活躍フィールドとして生活や就労などを検討し、SDG s環境未来都市のさらなる展開として進めている。
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・鎌倉リビングラボの取組みは、昨年国賓として来訪されたスウェーデン国王に興味を持っていただき、直々に鎌倉市まで視察に来ていただいた。メディア各社も日本版リビングラボの新しいモデルとして、多く取材に来ていただいている。既に様々な媒体で紹介されており、この活動をモデルとし鎌倉以外の場所でも日本版リビングラボとして、地域事情にあわせた形での取組みがはじまりつつある。R&D の未来モデルとして取組みたいという企業も増えており、今後の広がりが期待できる。