1. プロジェクト名
コンパクトシティ戦略による富山型都市経営(富山県富山市)

2. 概要

【背景・課題、目的・目標】
①人口減少と超高齢化への対応
人口減少と高齢化、少子化が進展するなか、都市の魅力や活力を維持し、持続可能な地域社会を形成するためには、高齢者が元気で活動しやすい都市空間の形成や多様な世代がバランスよく暮らせる社会的絆が豊かなコミュニティづくりが課題となっている。
②市街地の外延的拡大に伴う行政コストの増加
市街地が郊外へと急速に拡大し、ごみ収集や除雪等の都市管理にかかる行政コストは増加の一途を辿る一方、税収の低下が見込まれ、一人あたりの都市管理に係る行政コストの削減、効率的な都市経営が必要である。
③自動車への高い依存と公共交通の衰退
過度な自動車依存が公共交通の衰退を招き、「車を自由に使えない人」にとって極めて生活しづらいまちとなっている。

以上の課題を解決し、生活しやすいまちを目指し下記を目的に取組を促進する。
①鉄軌道をはじめとする公共交通を活性化させ、その沿線に居住、商業、業務、文化等の都市の諸機能を集積させる『公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり』を推進する。
②人間中心の快適で質の高い魅力的な市民生活基盤の整備や地域特性を充分に活かした産業振興により、2050 年までに「誰もが暮らしたい・活力あるまち」を実現する。

【取組内容】
公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを進めており、「公共交通の活性化」、「公共交通沿線地区への居住誘導」、「中心市街地の活性化」をその実現のための3 本柱と位置づけ、以下の事業に取り組んできた
①公共交通の活性化
〇富山港線路面電車化事業
利用者の減少が著しかったJR 富山港線を『公設民営』の考え方を導入し、日本初の本格的LRT、富山ライトレール(通称ポートラム)として再生させた。旧富山港線と新たに道路敷内に敷設した約1.1km の軌道区間をあわせ、全体で約7.6km の路線延長とし、大幅な増便による運行ダイヤの改善、電停の増設、車両の低床化と電停のバリアフリー化、IC カードの導入、アテンダントの配置などにより、利便性・快適性を大幅に向上させた。
〇市内電車環状線化事業
中心市街地活性化や都心地区の回遊性の強化等を目的に、路面電車事業では日本初となる『上下分離方式』を導入し、既存市内軌道の一部を延伸、環状線化と電停の増設、車両の低床化・電停のバリアフリー化を行った。今後、富山駅高架化事業を契機に駅北側の富山ライトレールと接続し、LRTネットワークを構築する。
②公共交通沿線地区等への居住誘導
〇まちなか居住推進事業
中心市街地地区への居住を推進するため、良質な住宅の建設事業者や住宅の建設・購入・賃貸で入居する市民に対して助成を実施した。
・共同住宅を建設する建設事業者への助成 100 万円/戸
・戸建て住宅又は共同住宅を購入する市民への購入費等の借入金に対する助成 50 万円/戸 など
〇公共交通沿線居住推進事業
公共交通沿線居住推進地区への居住を推進するため、良質な住宅の建設事業者や住宅の建設・購入で入居する市民に対して助成を実施した。
・共同住宅を建設する建設事業者への助成 70 万円/戸
・戸建て住宅、共同住宅を購入する市民への助成 30 万円/戸 など
③中心市街地の活性化
〇グランドプラザ整備事業
都心部に積雪寒冷地の気候も配慮した、賑わいの核となる全天候型の多目的広場を整備した。
〇おでかけ定期券事業
交通事業者と連携し、65 歳以上の高齢者を対象に中心市街地へ出かける際に公共交通利用料金を1 回100 円とする割引制度を実施、高齢者の外出も拡大等に努めた。
〇自転車市民共同利用システム
中心市街地の18 箇所に設置された専用ステーションから、任意のステーションに自転車を返却する新しいコミュニティサイクルシステムを導入した。

【成功要因】
①『コンパクトなまちづくり』との明確なビジョンがあること
『コンパクトなまちづくり』との明確な目標を掲げ、LRTや路面電車の整備による公共交通の利便性向上と公共交通沿線地区への拠点整備、中心市街地整備などを手段としてこの実現を図った。目標・手段、スケジュールがはっきりしていることで次は自分たちのまちでの事業との期待も芽生え、市民の賛同・協力を得られている。
②公共交通事業に公費を投入、公共交通の活性化をまちづくり実現の手段とした
コンパクトなまちづくりを実現する手法として、本来民業である公共交通事業に積極的に公費を投入、公共交通の活性化を新たな発想で実施した。
③地域の関係者の組織化と市長の強いリーダーシップの発揮
地域の関係者(産民学・自治体)による協議会やプロジェクトチーム、コンソーシアムを組織するとともに、事業を柔軟かつスピード感を持って実行するため協議会の会長である富山市長がすべての権限を有する体制で実施、市長の強いリーダーシップが発揮できた。
④産民学・自治体の密接な連携による高齢化分野への民間参入
産民学・自治体が密接に連携し、一体となって事業に取り組むことで、民間事業者が医療や介護等の高齢化分野での効率的かつ質の高いサービスを提供することができた。

【成果】
①LRTの利用者数は開業前と比較して平日で約2.1 倍、休日で約3.6 倍へと大幅に増加した。なかでも、日中の高齢者の利用が飛躍的に増加しており、LRTの整備が単なる移動手段に止まらず、これまで家に閉じこもりがちだった高齢者の外出機会の創出にもつながっている(富山市の試算では高齢者の歩行の増加による医療費削減効果は年間約7,000万円に及んでいる)。
そのほか沿線での住宅新規着工の増加、買い物を主目的とした外出機会の増加や中心部での滞在時間・消費金額の増加などの効果が現れている。
②まちなか居住推進事業
助成実績:平成17 年7 月から平成26 年11月までで合計753 件 1,802 戸
③公共交通沿線居住推進事業
助成実績:、平成19 年10 月から平成26 年11月までで合計488 件 1,020 戸
④グランドプラザ整備事業
幼稚園児によるフットサル大会、エコリンク、バンド演奏等のイベントが民間により毎週行われるなど。中心市街地のにぎわい拠点となっている。
⑤おでかけ定期券事業
高齢者の26.0%がおでかけ定期券を所有し、1 日平均2,438 人が利用するなど、高齢者の外出機会の創出や公共交通の活性化、中心市街地の活性化に繋がっている。

以上のような、「公共交通の活性化」、「公共交通沿線地区への居住誘導」、「中心市街地の活性化」を3本柱とするコンパクトなまちづくりを進めることにより、これまでに次のような効果が現れている。
①中心市街地歩行者数の増加と空き店舗の減少
②公共投資が呼び水となり、市街地再開発事業等民間投資が活発化しており、まちなか居住が促進
③環状線新線区間沿線では平成19 年度以降、地価の下落が見られず、地価が維持
④中心市街地及び公共交通沿線居住推進地区は平成23 年度より転入超過、社会増に転じた。中心市街地の転入超過は数百人単位と増加している。
⑤中心市街地の小学校児童数が106 人(12.6%)増加(H19-H24)。

【今後の方向・取組】
(1)公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり
公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを実現するため、交通事業者等との協働により路面電車の南北接続によるLRT ネットワークの形成、南部地区と都心地区のアクセス強化を図るため市内電車の上滝線(鉄道線)への乗入れを検討する。
(2)質の高い魅力的な市民生活づくり
中心市街地において歩行者専用道路の整備等による歩行者ネットワークを形成するとともに、高齢者の外出・交流機会の充実や富山型デイサービス施設の立地誘導を図り、高齢者の健康増進に役立つ『ヘルシー&交流タウン』を構築する。また、町内会等の地域コミュニティが主体となって、町内の空き地などを農園や広場として再生・運営し、子どもから高齢者までの多様な世代が交流、社会的絆を醸成することができるコミュニティガーデンを構築する。
(3)地域特性を充分に活かした産業振興
全国トップクラスの充実した農業用水路網を有する地域特性を活かし、これをを活用した小水力発電設備を農業現場や農山村集落に導入、電力を農業生産過程や農山村集落の維持管理等で自給自足することで、農山村自給モデルの確立を目指す。また、高齢化や過疎化が進む農山村地域(山田地域)に温泉熱や太陽光などの再生可能エネルギーを活用した植物栽培工場を整備し、薬用植物である「エゴマ」の生産・加工・流通販売を一体的に行い、地域特産品を創出する。

コンパクトシティ戦略による都市経営(富山市) .pdf

富山市資料.pdf

3. プロジェクトを企画した理由・課題(状況)

①人口減少と超高齢化
人口減少と高齢化、少子化が進展するなか、都市の魅力や活力を維持し、持続可能な地域社会を形成するためには、高齢者が元気で活動しやすい都市空間を形成することが重要である。また多様な世代がバランスよくミックスされ、ソーシャルキャピタル(社会的絆)で豊かなコミュニティづくりの実施も課題となっている。
②市街地の外延的拡大
市街地が郊外へと急速に拡大し、全国の県庁所在地で最も低密度な市街地を形成している富山市では、ごみ収集や除雪等の都市管理にかかる行政コストは増加の一途を辿っている。一方、今後は生産年齢人口の減少による税収の低下が見込まれ、一人あたりの都市管理に係る行政コストの減少が必要である。
③自動車への高い依存と公共交通の衰退
中核都市圏のなかでは全国で最も高い自動車分担率となっており、過度な自動車依存が公共交通の衰退を招き、「車を自由に使えない人」にとって極めて生活しづらいまちを形成している。

プロジェクトの全体像についてはプラチナ構想ネットワークの第5回シンポジウムで発表された下記のプレゼンテーションが参考になる。
http://www.platinum-handbook.jp/slides/104
また下記の資料もプロジェクトに関してよくまとめられている。
http://bizgate.nikkei.co.jp/smartcity/challenge/001540.html

何故富山市はコンパクトシティーを目指したのか.pdf

4. プロジェクトの達成目標

鉄軌道をはじめとする公共交通を活性化させ、その沿線に居住、商業、業務、文化等の都市の諸機能を集積させる「公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」を推進、人間を中心とする快適で質の高い魅力的な市民生活づくりや地域特性を充分に活かした産業振興を図ることにより、2050 年までに持続可能な都市を創出し、「誰もが暮らしたい・活力あるまち」を実現する。
①公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり-中心市街地だけではなくバスも含めた公共交通沿線地区への居住誘導を実施、地域生活拠点を創出する。
②質の高い魅力的なまちづくり-中心市街地の活性化と歩いて暮らせるまちづくり-高齢者と多様な世代がバランスするまちづくりを推進する。
③地域特性を充分に活かした産業振興-小水力発電所の整備を推進し、農業等に活用する(大山地区)、農商工連携により農業の6次産業化に取組む。具体的には、湧出する温泉熱を植物工場に活用し、健康食品である「エゴマ」の生産、加工、流通販売まで一貫して行う(山田地区)等それぞれの地区で特色あるビジネスを展開する。

5. プロジェクト実行に関連した政策(有れば)

6. プロジェクト実行に関連した規制(有れば)

JR富山港線は軌道法上整備と運営を一体的に行うこととされていたため、「公設民営」の考え方による日本初の本格的LRT導入を進めた。その後、富山市から国への働きかけもあり、平成19年に「地域交通の活性化及び再生に関する法律」により上下分離方式での整備が可能となった。
(地方都市の公共交通事業者は設備支出が大きく経営を圧迫しているが、これを道路と同じようにインフラ整備と考え、インフラ部分を自治体で整備することが可能となる)

7. 上記規制をどう解決、回避したか

冨山市が「軌道整備事業者」として、軌道整備と車両購入を行い、施設整備は校が実施し、富山地方鉄道は軌道運送事業者として運営を行う上下分離方式を適用している。これにより施設整備の借入金利子や減価償却費等の経費は公が負担し、運営主体は運営収支のみに責任を負うようになり、効率的な運営へのモチベーションと収支改善による安定的な運営が可能となっている。今後も路面電車の南北接続事業などの整備に上下分離方式を適用していく予定である。

8. プロジェクトに対する国、県の補助金・支援政策(具体的な補助金事業名、年度、金額)

〔富山港線路面電車化事業〕
連続立体交差化事業、路面電車走行空間改築事業、LRT システム整備費補助 (国土交通省)
〔市内電車環状線化事業〕
都市交通システム整備事業、路面電車走行空間改築事業、地域公共交通活性化再生事業 (国土交通省)
〔牛岳温泉植物栽培工場整備事業〕
環境未来都市先導的モデル事業費補助 (内閣府)

9. 補助金に対する報告書のファイル

特になし

10. プロジェクトに投入、活用した地域資源、地域人材

(未入力)

11. プロジェクト推進の協力者、協力団体(商工会議所、NPOなど)

富山市環境未来都市アドバイザリーグループ、富山市環境未来都市推進協議会に所属するメンバーの協力を仰いでいるが、市及び富山交通等プロジェクトの事業者が中心の体制をとっている。

12. プロジェクト推進の産学連携や技術(有れば)

13. プロジェクトを構成するプログラム(プロジェクトで実施した行動)

これまでは公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを推進してきている。「公共交通の活性化」、「公共交通沿線地区への居住誘導」、「中心市街地の活性化」をその実現のための3 本柱と位置づけ、以下の事業に取り組んできた
(1)公共交通の活性化
①富山港線路面電車化事業
利用者の減少が著しかった地方ローカル鉄道「JR 富山港線」を『公設民営』の考え方を導入し、日本初の本格的LRT、富山ライトレール(通称ポートラム)として再生させた。旧富山港線を活用した約6.5km の鉄道区間に道路敷内に敷設した約1.1km 新たな軌道区間をあわせ、全体で約7.6km の路線延長としアクセスを改善、大幅な増便、電停の増設、車両の低床化と電停のバリアフリー化、IC カードの導入、アテンダントの配置などにより、利便性・快適性を向上させた。
②市内路面電車環状線化事業
中心市街地活性化や都心地区の回遊性の強化等を目的に、路面電車事業では日本初となる「上下分離方式」を導入し、既存市内軌道の一部を延伸・環状線化した。新たに約0.9km の軌道を道路敷内に敷設し、路線延長約3.4km の環状線を形成するとともに、電停の増設や車両の低床化・電停のバリアフリー化を行った。
③南北接続事業
今後、富山駅高架化完了後、富山港線と市内環状線の南北接続事業を実施し、LRTネットワークを構築する予定である。
(2)公共交通沿線地区への居住誘導
①まちなか居住推進事業
中心市街地地区への居住を推進するため、良質な住宅の建設事業者や住宅の建設・購入・賃貸で入居する市民に対して助成を実施した。
・共同住宅を建設する建設事業者への助成 100 万円/戸
・戸建て住宅又は共同住宅を購入する市民への購入費等の借入金に対する助成 50 万円/戸 など
②公共交通沿線居住推進事業
公共交通沿線居住推進地区(鉄道駅から500m、バス停から300m の区域で、工業専用地域と工業地域を除く用途地域内)への居住を推進するため、良質な住宅の建設事業者や住宅の建設・購入で入居する市民に対して助成を実施した。
・共同住宅を建設する建設事業者への助成 70 万円/戸
・戸建て住宅、共同住宅を購入する市民への助成 30 万円/戸 など
(3)中心市街地の活性化
①グランドプラザ整備事業
都心部に積雪寒冷地の気候も配慮した、賑わいの核となる全天候型の多目的広場を整備した。
②おでかけ定期券事業
交通事業者と連携し、65 歳以上の高齢者を対象に、市内各地から中心市街地へ出かける際に公共交通利用料金を1 回100 円とする割引制度を実施した(お出かけ定期券保有者がまちなかへ出かけることによる医療費削減効果は年間約7,000万円と試算される)。
③自転車市民共同利用システム
中心市街地の15 箇所に設置された専用ステーションから自由に自転車を借りて、任意のステーションに自転車を返却することができる新しいコミュニティサイクルシステムを導入した。ステーションは、システム導入後に新たに3箇所を増設し、現在は18箇所である。なお、コミュニティサイクルの利用は、路面電車・バス等の交通ICカードと共通して利用できるよう利便性を高めている。

14. スケジュール(行程表)

【ハードな施設整備】
平成15年度~18年度(着工17~18年度) 富山港線路面電車化事業
平成16年度~19年度(着工18年度~19年度) グランドプラザ整備事業
平成18年度~21年度(着工19年度~21年度) 市内電車環状線化事業
平成23年度~    (着工 平成25年度~ )路面電車南北接続事業
平成21年度、平成25年度 自転車市民共同利用システム整備事業
【ソフトな誘導施策】
平成16年度~        お出かけ定期券事業
平成17年度~現在     まちなか居住推進事業
平成19年度~現在     公共交通沿線居住推進事業

15. プロジェクト予算(年度ごとの金額、あれば予算書)

富山港線路面電車化事業   5,800百万円
グランドプラザ整備事業     1,520百万円
市内電車環状線化事業     3,000百万円
路面電車南北接続事業     未定
自転車市民共同利用システム整備事業 150百万円(平成21年度)、20百万円(25年度ステーション増設)
まちなか居住推進事業     910百万円(平成17年度~25年度)
公共交通沿線居住推進事業  585百万円(平成19年度~25年度)
※上記は平成25年度までの支出金額

16. プロジェクト遂行で調達した専門人材(エンジニア、デザイナー、知財関係など)

 特になし

17. プロジェクト推進・運用組織(あれば組織図)

地域の関係者(産民学・自治体)による協議会、そのもとにテーマ別部会、各取り組みに精通する事業者や学識経験者等で構成するプロジェクトチームそしてプロジェクトチーム内において組織される地域の関係者によるコンソーシアムを組織している。それぞれの役割を以て機能している。なお、計画に位置づけた事業を柔軟かつスピード感を持って実行することができるよう協議会の会長である富山市長がすべての権限を有する体制となっている。

<富山市環境未来都市アドバイザリーグループ>
・産民学の代表者で構成し、取り組み全般について助言や支援を行う。
<富山市環境未来都市推進協議会>
・産民学の実務者で構成し、取り組み全体についてマネジメントを行う。
・テーマ別に部会を設置し、同一部会内の取り組みについて横断的な連携を図る。
・各取り組みに精通する事業者や学識経験者等によりプロジェクトチームを構成し、調査研究等を行う。
・プロジェクトチーム内の関係者により組織されたコンソーシアムが事業を実施する。

18. プロジェクトの成功要件(要因できるだけ多く)

①『コンパクトなまちづくり』との明確なビジョンがあること
富山市は『コンパクトなまちづくり』との明確な目標を掲げ、LRTや路面電車の整備、公共交通沿線地区への拠点整備、中心市街地整備などを手段としてこの実現を図ってきた。目標・手段がはっきりしていることで次は自分たちに係る事業との意識も芽生え、市民の賛同・協力を得られている。
②公共交通事業に公費を投入、公共交通の活性化をまちづくり実現の手段としたこと
本市のまちづくりの最大の特徴であるコンパクトなまちづくりを実現する手法として、本来民業である公共交通事業に積極的に公費を投入し、公共交通の活性化を図っていくというこれまでのまちづくりにはない新たな発想で実施した。
③地域の関係者の組織化と市長の強いリーダーシップの発揮
地域の関係者(産民学・自治体)による協議会やプロジェクトチーム、コンソーシアムを組織するとともに、計画に位置づけた事業を柔軟かつスピード感を持って実行するため協議会の会長である富山市長がすべての権限を有する体制としている。このことで、市長の強いリーダーシップが発揮できている。
④産民学・自治体の密接な連携による高齢化分野への民間参入
産民学・自治体が密接に連携し、一体となって事業に取り組むことで、これまで公的部門が高い比重を占め、民間事業者の参入が難しかった医療や介護等の高齢化分野でも民間事業者が参入、効率的かつ質の高いサービスを提供している。

19. プロジェクトの結果(出来れば数値)

プロジェクトの成果については以下の通り。
(1)公共交通(富山ライトレール)の利用者増とまちなか居住・中心市街地の利用者の増加
LRTの利用者数は開業前と比較して平日で約2.1 倍、休日で約3.6 倍へと大幅に増加した。なかでも、日中の高齢者の利用が飛躍的に増加しており、富山ライトレールの整備が単なる移動手段に止まらず、これまで家に閉じこもりがちだった高齢者の外出機会の創出にもつながっている(富山市の試算では高齢者の歩行の増加による医療費削減効果は約7,000万円に及んでいる)。
加えて、利用者のうち約25%が自動車・バスからの転換であり、環境負荷の低減にとどまらず、沿線での住宅新規着工件数の増加、沿線観光施設等の入館者数の増加など、多面的な効果が発現している。それは買い物を主目的とした外出機会の増加や中心部での滞在時間・消費金額の増加などの効果となって現れている。
(2)中心市街地活性化策の効果
①まちなか居住推進事業
助成実績は、平成17 年7 月から平成26 年11月までで合計753 件 1,802 戸
②公共交通沿線居住推進事業
助成実績は、平成19 年10 月から平成26 年11月までで合計488 件 1,020 戸
③グランドプラザ整備事業
幼稚園児によるフットサル大会、エコリンク、バンド演奏等のイベントが民間により毎週行われている。
④おでかけ定期券事業
高齢者の26.0%がおでかけ定期券を所有し、1 日平均2,438 人が利用している。
⑤自転車市民共同利用システム
民間企業が運営主体となり、150 台の自転車を24 時間365 日いつでも利用可能としている。
(3)上記施策に伴う効果
以上のような、「公共交通の活性化」、「公共交通沿線地区への居住誘導」、「中心市街地の活性化」を柱とするコンパクトなまちづくりを進めることにより、これまでに次のような効果が現れている。
①歩行者数の増加と空き店舗の減少
中心市街地の歩行者数が着実に増加するとともに、中心市街地の空き店舗数が減少している。
②民間投資の活発化
公共投資が呼び水となり、市街地再開発事業が活発に行われており、民間投資が活発化、まちなか居住が進んできている。
③地価の維持
環状線新線区間沿線では、平成19 年度以降地価の下落が見られず、新線区間以外の環状線沿線の地価は、富山市平均(宅地)と比較して下落率が緩やかである。
④転入人口の増加
中心市街地及び公共交通沿線居住推進地区では、平成23 年度より転入超過、社会増に転換した。中心市街地の転入超過は数百人単位で増加している。
⑤中心市街地の小学校児童数の増加
都心地区の小学校児童数が106 人(12.6%)増加するとともに、富山市全体に占める都心地区の小学校児童の割合が0.6 ポイント増加した(H19-H24)。

コンパクトシティー戦略による富山市の経営.pdf

20. プロジェクトによる地域の変化

平成24年度の市民アンケート調査結果によれば、「コンパクトシティ」に賛同する割合が高まっていること、「まちづくり」に関心を持つ市民が増えていること、「今後も住み続けたい」、「街がきれいになった」と感じる人の割合が高くなるなど、住民が『まちづくり』を評価している傾向が高まっている。また新たな市民一人一人が富山市に対して愛着や誇りを抱く「シビックプライド」を醸成することのキャッチフレーズを“アメイジング富山”としているが、このキャッチフレーズを花屋等の民間事業者が店頭に掲げるなどの動きが出てきている。

コンパクトシティー戦略による富山市の経営.pdf

21. プロジェクト遂行後も残る課題(未達成、見えてきた課題)

(1)公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり
①市全域を接続する公共交通 ネットワークの形成
公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを実現するため、交通事業者等との協働により全長約25.3km のLRT ネットワークを形成する。
・路面電車の南北接続
平成26 年度末の北陸新幹線開業にあわせて整備が進められている富山駅高架下において、富山ライトレールと市内軌道線を接続し、北部地区と都心地区のアクセス強化を図る。
・市内電車の上滝線(鉄道線)への乗入れ
南部地区と都心地区のアクセス強化を図るため、南富山駅における市内軌道線の上滝線(鉄道線)への乗入れについて検討を進める。
(2)質の高い魅力的な市民生活づくり
①ヘルシー&交流タウンの形成
中心市街地において歩行者専用道路の整備等による歩行者道路ネットワークを整備するとともに、高齢者の外出・交流機会の充実や富山型デイサービス施設の立地誘導を図り、高齢者の健康増進に役立つ『ヘルシー&交流タウン』を構築する。高齢者が健康で自立した生活を営むことができる暮らしを実現し、医療費や介護保険給付費等の社会保障費の抑制を目指す。
②地域コミュニティが主体の交流空間の整備
町内会等の地域コミュニティが主体となって、町内の空き地などを農園や広場として再生・運営し、子どもから高齢者までの多様な世代が交流し、社会的絆を醸成することができるコミュニティガーデンを構築する。これにより、高齢者の外出機会の創出や地域コミュニティの再生・自立を図るとともに、新しい公共として市民が中心となったコミュニティビジネスを創出する。
(3)地域特性を充分に活かした産業振興
①再生可能エネルギーを活用した農業活性化
全国でも一、二を争う高い包蔵水力を有し、稲作の適地として農業基盤整備が進み、全国トップクラスの充実した農業用水路網を有する地域特性を活かし、これをを活用した小水力発電設備を農業現場や農山村集落に導入する。
本取組では電力を農業生産過程や農山村集落の維持管理等で自給自足することで、農業及び農山村の活性化に資する自立型の農山村自給モデルの確立を目指す。
②牛岳温泉熱等を活用した農業の6 次産業化
高齢化や過疎化が進む農山村地域(山田地域)に温泉熱や太陽光などの再生可能エネルギーを活用した植物栽培工場を整備するとともに、薬用植物の一種で有用な機能成分を含む「エゴマ」の生産・加工・流通販売までを一体的に行い、環境と健康をテーマとした新たな地域特産品の創出を目指す。
また、将来的には露地栽培へ展開し、耕作放棄地の解消に繋げるとともに、植物工場では地元の高齢者を雇用し、高齢者の生きがい創出につなげる。さらに、植物工場で生産された有用な機能成分を含む「エゴマ」を市内の病院や学校給食等へ活用し、健康長寿都市を目指す。

22. 上記の課題を解決するさらなる展開(プロジェクト、フォローアップ)

①エネルギー循環型次世代農業システム(スマート農業のショールーム)
営農サポートセンター内に再生可能エネルギーを導入し、この電力を施設での農業生産過程に活用するとともに、IT技術を導入し、施設内のエネルギー需給や農業現場の『見える化』を図る。これにより「エネルギー循環型次世代農業システム」、いわゆる“スマートな農業”の未来像とその有用性を市内外に啓発する。同時に、地域の教育機関と連携し、先端農業技術や環境教育等の人材育成の場としても機能させ、環境分野、エネルギー分野、農業分野等の様々な知見を持った多様な人材が集合することで、農業・農山村活性化における新たなアイデアやイノベーションの創出が期待できる。
②集落営農等における再生可能エネルギーの利用と経営構造の転換
農業分野における再生可能エネルギーの利用促進を図るため、集落営農等を対象とした地域での導入モデル事業を実施する。現況の主穀作中心の経営構造において、再生可能エネルギーの導入を図ることで、園芸農業との複合経営へと転換を図るための実証事業を実施する。

23. 横展開を考えている人への助言、特に苦労した事

本市の取り組みは、人口減少や超高齢化、厳しい財政運営、環境問題など、全国の地方都市が共通して抱える課題に対するひとつの戦略的な解決モデルであり、OECD(経済協力開発機構)がとりまとめた『コンパクトシティ政策報告書』においても世界の先進5都市(人口減少都市としては唯一)として取り上げられるなど、人口減少局面におけるひとつの都市経営モデルとして世界的にも普及・展開が可能である。
また本取り組みは、各種のハード整備を中心としたまちづくりに止まるものではなく、精神的な豊かさや文化度の高さなど、質の高い魅力的な市民生活の実現をも志向するものであり、ソーシャルキャピタル(社会的絆)の醸成にもつながるものである。

24. その他関連情報、資料

また強い中心部だけでなく周辺の農村部においても、”再生エネルギーを活用した農業活性化プロジェクト”を推進している。

20130329再エネ農業PT報告書(Final).pdf

再生エネルギーを活用した農業活性化.pdf

再生エネルギーを活用した農業活性化.pdf

再生エネルギーの活用による農業活性化 まとめ.pdf